13 / 52
1-04-2 ジェラシー(2)
「ねぇ、雅樹。キスしてよ」
「ああ、いいとも」
僕は、雅樹の首に腕を回しキスをする。
雅樹の唇の感触。
柔らかい。
名残惜しそうに唇を離して、お互いに見つめ合って微笑む。
「雅樹。僕、幸せ……」
その時。
突然、誰かが、雅樹の肩を掴む。
「おい、雅樹! 俺と話をしようぜ!」
「翔馬か、いいぜ!」
森田君?
二人肩を組んで僕から離れる。
「ちょっと、まってよ! 雅樹!」
雅樹は、もう、僕の事なんて目に入っていない。
森田君とのお話に夢中だ。
「どうしたの! なんとか言ってよ!」
僕は、泣きそうな声で叫び続ける。
「そう言えば、雅樹。俺、お前と肩組んでて思ったんだけど、結構筋肉あるよな?」
「そっか? そういう翔馬も、結構、鍛えているよな?」
「なあ。ちょっと、比べてみないか?」
「いいぜ!」
雅樹と森田君は、上半身裸になる。
「へぇ、いい筋肉してるぜ。翔馬」
「ははは、雅樹もな」
二人して、互いの体を触りまくる。
時には、優しく指先を滑らせ、時には、手のひらで激しく揉む。
次第に、二人の呼吸が荒くなる。
「はぁ、はぁ、なぁ、翔馬。お前の体触っていたら、ゾクゾクしてきたよ……」
「はぁ、はぁ、俺もなんだか変な気分になってきた……」
「まじか? はぁ、はぁ、なぁ、翔馬。ちょっと、舐めていいか?」
「いいぜ。うぅ、乳首はよせって……雅樹……」
森田君は、乳首を執拗に攻める雅樹に、顔を赤らめて、あらがおうとする。
「うるせぇ。ちゅっぱ、ちゅっぱ。翔馬の乳首、綺麗だな、れろれろ……」
「あっ、舐めるなって、やめろって……雅樹……あっ、あっ」
「二人とも! やめて!」
僕は、溜まりかねて大声を上げる。
雅樹と森田君は、僕の顔を不思議そうに見る。
「雅樹! 森田君は友達でしょ! どうして、そんな事をするの!」
「ん? めぐむ。友達ならこのくらいするの当たりまえだろ? 変なやつ」
森田君も、何が悪いのか、首をかしげている。
雅樹は、もう僕への興味をなくして森田君に言った。
「翔馬、そんな事より、ほら、俺のペニス舐めろよ」
雅樹は、いつの間にかズボンもパンツも脱ぎ捨てている。
そして、勃起したペニスを森田君に突き出す。
「ああ、いいぜ。うはっ。もう、そんなに固くしてるのかよ!」
「ははは。まぁな。お前のフェラ最高だからさ、想像したらもうこれよ。へへへ。さあ、頼むぜ」
「おう!」
「やめて! 雅樹! 雅樹を気持ちよくさせるのは僕なんだから! 他の人に舐めさせないで!」
僕は、必死で叫ぶ。
「お願い、お願いだから! 雅樹! 雅樹!」
はっ!
夢?
周りを見回す。
僕の部屋。いつもの朝だ。
はぁ、はぁ。
汗でびっしょり。
こんな夢をみちゃうなんて……。
やっぱり、心のどこかでは、心配なんだ。
ふぅ。
でも、夢でよかった……。
今日の授業は、全然身が入らない。
ぼぉっと考え事をしてしまう。
はぁ。
今日見た夢のせいだ。
実際には、どうなんだろう?
友達から恋心って生まれたりするのかな?
そうだとしたら……。
はぁ……。
休み時間になった。
雅樹は、いつも通りフラッと廊下へ出ていく。
森田君と話をしに行くんだよね……。
胸がキュッと締め付けられる。
だめだ。
しっかりしろ、めぐむ!
森田君は、ただの仲のいい友達、だけなんだ。
それに加え、僕は恋人。
だから、嫉妬することなんてないんだ!
とは、いっても……。
よし!
じゃあ、こうしよう!
そう、これは嫉妬とかじゃないんだ。
雅樹は、一体どんな話題で、そんなキュンとするいい笑顔になるのか、知りたい。
だから、何の話をしているのかを聞きに行く!
これでどうだろう?
うん。
これなら、嫉妬じゃない! はず……。
僕は、自分に言い聞かせて、雅樹を追うように廊下に出る。
ああ、やっぱり、森田君と話し込んでいる。
気付かれないように、うつむきながら、二人とすれ違う。
そして、聞き耳を立てる。
森田君の声が耳に入った。
「雅樹、お前噂になっているぞ! マネージャー達がキャーキャー言っていたぞ!」
「何だよ、噂って?」
えっ?
雅樹が噂に?
気になる……。
でも、通りすぎちゃった。
肝心なところが聞けてない。
僕は、「あっ、忘れ物……」っと、わざとらしいセリフを吐いて、引き返す。
「て、いうわけなんだよ……」
ああ、ちょうど、森田君の話が終わってしまっている……。
「まじか! 恥ずかしいけど嬉しいな!」
「雅樹、俺にも紹介しろよな!」
「ははは、どうしようかな」
「この野郎! ケチケチするなよな。ははは」
二人は肩を組んで大笑いした。
嫉妬しないっていっても……。
ああ、なんていい笑顔をするんだ。雅樹は。
胸がキュンキュンしちゃうよ。
本当に、森田君と話す雅樹は楽しそう。
ん?
ちょっと待って……。
そう言えば何の話をしていたんだろう。
マネージャー達がキャーキャーと噂。
恥ずかしいけど嬉しい。
森田君に紹介する。
うーん。
もしかして……これは。
恋バナでは!?
話をまとめると……。
雅樹に彼女がいるのを部のマネージャー達にバレて、森田君に彼女を紹介する、ってこと??
筋は通っている。
僕の他に彼女がいるってことなの?
心臓の鼓動が早くなる。
ちょっと、待って……。
落ち着こう。
そんな事ってある?
でも……もしかして中学の時付き合っていた彼女とか……。
別れたって噂は嘘?
考えてみると、雅樹の口から直接聞いたわけではない。
だから、可能性はある。
もし、これが本当なら、森田君に嫉妬どころではない。
僕の嫉妬の矛先は、一気に、中学時代の謎の彼女にスイッチした。
僕は悶々としながら一日を過ごした。
夕ご飯を食べている時も、お風呂に入っているときも、頭の中をぐるぐると駆け巡る。
ベッドに入って天井を見る。
ふぅ。
大きなため息。
こうやって、あれこれ考えても結論はでない。
「よし! 明日のデートでは思い切って聞いてみよう!」
ショッピングモールのフードコート。
今日は、雅樹の部活が遅くまであった。
だから、話せる時間があまり無い。
でも、絶対に今日聞くんだ。
僕の決心は固い。
ドリンクを買って、ポテトも買った。
よし!
僕は、腕まくりをする。
「なぁ、めぐむ。今日はどうしたんだ?」
「うん。ちょっとね……」
雅樹は、ポテトを食べ始める。
「うまっ!」
幸せそうな顔。
ああ、いいなぁ。ほんわかする。
はっ。
いけない、いけない。
僕は、自分のほっぺを両手でパチッと叩いた。
雅樹は、どうしたんだ? と僕の顔を見る。
よし。
戦闘準備完了。
僕は、話し出す。
「雅樹、正直に言って!」
雅樹はポテトを食べる手を止めた。
「どうしたんだ? めぐむ」
「僕の他に付き合っている人いる? 女の子……」
僕は、練習してきた言葉を一気に吐き出す。
雅樹は、口をポカンと開けた。
「へっ? いきなりどうしたんだ。そんなのいるわけないだろ?」
「本当に?」
「本当」
雅樹は、不思議そうに小首を傾げた。
「一体どうして、そんなことを聞くんだ?」
「だって……僕、聞いちゃったんだ。森田君と話しているところ……」
雅樹は、ちょっと怒ったような口調。
僕は、しゅんとする。
「翔馬と? どんな話だ?」
「雅樹が付き合っている子がいて、その子を森田君に紹介するって話」
恐る恐る上目遣いに雅樹を見る。
「へっ?」
「ぼっ、僕だって、聞きたくて聞いたんじゃないんだ……耳に入っただけ。ねぇ、雅樹。正直に言ってよ!」
必死に訴えかける。
雅樹は、急に吹き出した。
「ぷっ! ははは。何だそれ? 初耳だな」
「えっ、でも、確かに……」
「うーん。最近、翔馬と話した事ね……」
雅樹は、目を閉じて考え込んだ。
「なんだか、部のマネージャーにもバレているって……」
「バスケね、ああ、もしかして……」
「もしかして?」
「兄貴のことだな?」
「お兄さん??」
今度は、僕が口をポカンと開けた。
「ああ、うちの兄貴はさ……」
雅樹の話は、こうだ。
今のバスケ部は弱い。
でも、数年前、すごく強かった時期があった。
そのとき、美映留高校バスケ部を率いていたのが、雅樹のお兄さん。
いまや、伝説のポイントガードとして語り継がれている。
それが、雅樹の苗字、『高坂』で、もしかしてと噂が立った。
雅樹としても、お兄さんがそんなに有名人だとは露知らず、嬉しかったとこぼす。
「まぁ、そんな訳さ。翔馬のやつも俺の兄貴にアドバイス欲しいとか言っててさ……ははは」
「おっ、お兄さん……そうなんだ……」
ホッとした、というか、僕は全身の力が抜けてテーブルに突っ伏した。
雅樹は僕の頭を撫でる。
「ははは。めぐむはまた変な心配したんだな? 俺にめぐむ以外で付き合っている奴なんていないから」
「うっ、うん。そうだよね? 疑ってごめん」
僕は顔を上げる。
そこには雅樹の優しい顔。
「いいさ。さぁ、食べようぜ! ポテト!」
「うん!」
雅樹は、屈託のない笑顔で、今日の出来事を面白おかしく話す。
僕は、相槌を打ちながら、一緒になって笑う。
ああ、本当に幸せな時間……。
そっか。
わかった。
どうして、雅樹の事を疑っちゃうのか。
今、すごく幸せ。
だからなんだ。
幸せすぎて変な心配をしちゃう。
だって、今までこんなことなかったのだから……。
ともだちにシェアしよう!