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1-05-1 雅樹の誕生日(1)
無頓着にもほどがある!
確かに聞かなかった僕にも落ち度はある。
それにしたって……。
「悪い、悪い。そう言えば、言わなかったよな」
雅樹は、そう言って、頭を掻く。
「言ってないよ! もう! 誕生日プレゼント渡したかった!」
そうなのだ。
雅樹の誕生日の日にちの事だ。
4月だったのだ。
だから、とうに過ぎてしまっている事が判明した。
誕生日と言えば、恋人の大事なイベントの一つ。
それなのに!
「だってよ、めぐむと付き合う前だったからな……」
「そんなことはどうでもいいの! いい! 次の週末のデートは、雅樹の誕生日会だからね!」
「えっ? いいよ。来年で……」
「だめ! やるの! いいよね!」
僕は、腕組みをして雅樹を睨む。
雅樹のため息が聞こえる。
「うっ、うん。分かったよ……」
「分かればよろしい! でさ、何か欲しいプレゼントってある?」
「へっ? 特にないけど……」
次の日の放課後。
僕はさっそく、雅樹の誕生日プレゼントを買いに美映留中央駅に立ち寄った。
駅ビルには、食料品を扱うスーパーを始め、ファッション関連、クリニックや学習塾などが入っている。
僕はまずは、アクセサリーショップを覗いた。
メンズのネックレスはどうかな、と思ったからだ。
コインネックレスを見る。
どこの国の通貨か分からないけど、なかなかよさそう。
鎖は、細かいチェーン。
雅樹の首に掛かっていたら、きっとドキッとしちゃうだろうな……。
値札をチェック。
ギリギリ予算内。
手にとってみる。
どうかな?
雅樹、よろこんでくれるかな?
ふと、想像してみる。
「雅樹、これ誕生日プレゼント。ネックレスだよ」
「おぉ、めぐむ! ありがとう!」
「ううん」
雅樹は、ネックレスを大事そうに見る。
嬉しそう。
良かった、喜んでくれて。
「ところで、これ。どうやって付けるんだ?」
「僕が付けてあげるよ。ちょっとかがんで」
「わかった。これでどうだ?」
「うん。そう、じっとしていて」
僕は雅樹の背中に手を回し、ネックレスを取り付けようとする。
あれ?
おかしいな。
手間取っていると雅樹が笑い出す。
「めぐむ、くすぐったいよ」
「だめ、雅樹! うごかないで。うまくできないから」
「動くなって、言っても。めぐむの息が当たって……」
「もうちょっと、待ってね」
はぁ、はぁ、と雅樹の息。
どうしたのだろう。
興奮しているの?
「めぐむ……」
「何?」
「だめだ、俺、我慢できない!」
雅樹は、突然、僕の手首を掴む。
「痛いよ……雅樹、どうしたの?」
「はぁ、はぁ、めぐむがいけないんだからな!」
「だっ、だめ、雅樹! あん、こんなところで……」
「お客様、そちら試着されますか?」
はっ!
気がつくと目の前に店員さん。
「いっ、いいえ。大丈夫です」
僕は、慌ててネックレスをもとの位置に戻す。
はぁ、はぁ。
あー、恥ずかしい……。
でも、わかった。
ネックレスはダメだ。
雅樹は、ネックレスは欲しくないような気がする。
雅樹は、ファッションに詳しいし自分の好みをしっかりと持っている。
だけど、これをプレゼントしたら、僕のプレゼントという事で、それこそ嫌でも付けなくてはいけなくなってしまう。
そんなのは嫌。
よし次。
次に来たのはファンシーグッズのショップだ。
お目当てはキーホルダー。
僕は陳列棚を隈なく探し始める。
あっ、あった!
バスケットボールをモチーフにしたキーホルダー。
スマホのストラップにしてもいい。
これはどうかな。
また、想像してみる。
「雅樹、ほら、バスケットボールのキーホルダーだよ」
「おー! 嬉しいな」
雅樹は、大はしゃぎで喜ぶ。
「やった! 喜んでくれて」
「ちょうど、スマホに付けたかったんだ。こうやって、よいっしょ。ほらどう?」
雅樹はスマホを僕に見せる。
「うん、いいと思う」
「ありがとな、めぐむ」
「雅樹、実は僕の分も買ったんだ。ほら、こうやると、お揃い」
僕は自分のスマホを見せる。
「なぁ、めぐむ、それ貸してみろよ」
雅樹は僕のスマホを手にして、自分のスマホと合わせる。
「こうやってボール同士を合わせると」
「うん」
「なんか、いやらしくないか?」
雅樹は、二つのバスケットボールを手のひらで転がす。
その手つき。
ああ、柔らかい部分を優しく愛撫する仕草……。
あっ、だめ。
雅樹、やめてよ……。
その動きを見ているだけで、僕のが揉みくちゃにされている気分になってきちゃう……。
「はぁ、はぁ、雅樹。僕、変な気持ちになっちゃうよ……」
「ははは、さすが、めぐむ。エッチだな。目をうるうるさせて……」
「雅樹、お願い……雅樹のしゃぶらせて……」
「なんだ? 俺のをしゃぶりたいのか? じゃあ、『しゃぶらせてください、ご主人様』って言ってみな」
「しゃぶらせてください、ご主人様……」
「よし! 許す」
目の前には、既に大きくなったペニス。
僕は、思わず頬擦りする。
ああ、愛おしい。
「ほら、早く咥えろよ……」
雅樹は、僕の頭を抑えてペニスを咥え込ませようとする。
「うっ、苦しい……でも、嬉しい……」
「ねぇ、ねぇ、ストラップがお揃いのカップルとか痛くない?」
「ほんと、痛いよね!」
はっ。
僕の横にいた女子高生二人組の会話が耳に入る。
痛い? かな?
僕はそっと、バスケットボールのキーホルダーをもとに戻した。
痛いかどうかともかく……。
お揃いにすると、学校でバレちゃうのはまずい。
それに、すでに雅樹のスマホにはストラップが付いていたような気がする。
それにしても……。
あの展開はさすがにないな。と思って、苦笑した。
次だ。
次は、スポーツ専門店に来た。
バスケット関連で、何か手ごろなものはないかと思ってやって来たのだ。
売り場をうろうろしていると目に入った。
リストバンド。
値札を見てみる。
うん。手頃。
これなら、絶対に喜ばれるはず。
よし、こんどこそ。
想像してみよう。
「雅樹、今度大会だよね。この、リストバンド使ってね!」
「おお、めぐむ。これ、ちょうど欲しかったやつだよ」
「ほんと? 嬉しい……」
「開けてみていいか?」
「うん」
「手首に付けてっと。どうだ? 似合うか?」
「うん。とってもいい。カッコいいよ! 雅樹」
「汗を拭うときとか、めぐむの匂いを嗅げるんだ。元気でるよ」
「ふふふ。それ、新品だから。匂いなんてしないよ!」
「何、いっているんだ。今から、めぐむの匂いをしみこませるんだよ」
「えっ、何いってるの、雅樹。匂いって」
「いいだろ。ほら!」
雅樹は、僕を掴み服を脱がそうとする。
「ちょっと、だめ。やめて。だめだったら……あん」
「お客様、いかがされました?」
はっ。
「いいえ、大丈夫です……」
あぶない、あぶない。
店員さんは、不思議そうな目で僕を見る。
やだ。恥ずかしいな。
僕は目を逸らす。
それにしても、変な妄想をしてしまった。
そもそも、僕はリストバンドは何のために使うのかよく知らない。
だから、おかしな方向に行ってしまったんだと思う。
「あの……」
僕は店員さんに声をかける。
なるほど。
汗拭きというのは間違いじゃなかった。
汗で手が滑るのを防止する目的らしい。
うん。
これだ!
手が滑って雅樹に怪我して欲しくないもんね。
値段も手ごろ。
このリストバンドで決まり!
僕は、お会計を済ませて店を出る。
あとは、何処かでラッピングセットを買えば準備万端。
さぁ、プレゼントの準備はできた。
雅樹、喜んでくれるかな?
ふふふ。
今から楽しみ。
一方で、何だかどっと疲れが出た。
今日は、ちょっと妄想しすぎちゃったかな……。
時計を見る。
家に帰るには、まだ少し時間がある。
よし、少し休もう。
ということで、さっきからずっと目を付けていたドーナッツショップに足を向けた。
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