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1-08-1 スポーツ大会(1)
美映留高校では、ちょうど梅雨が明けた頃、スポーツ大会が開催される。
学年別で、クラスの対抗戦だ。
今年の種目は、フットサル、バスケットボール、バレーボールの3競技。
生徒達はどこかの種目に一度は出なくてはならない決まりがある。
僕は、迷わずバレーボールを選んだ。
別にバレーボールが得意ってわけじゃない。
他の二つの競技に比べたら、いくらかマシという程度だ。
ジュンも同じくバレーボールを選んだ。
「めぐむと一緒だと安心するよ。頑張ろう!」
「僕もだよ、ジュン。頑張ろうね」
雅樹は、当然のことながらバスケットボール。
たまたま二人になったとき、そっと雅樹に言った。
「よかったじゃない、得意な種目に出れて」
「でも、本気だすのも気が引けるよな。大人げないっていうか」
雅樹は頭をかく。
「きっと、森田君も出てくるんじゃない? となりのクラス」
「おぉ、そうだな。翔馬と対戦できるなら楽しみだな。サンキューめぐむ」
「いいえ、どういたしまして」
僕は気のない返事をする。
あーあ、森田君の名前を出すんじゃなかった。
まったく、雅樹の森田君好きにも困ったもんだ。
「で、めぐむはバレーボールか。頑張れよ」
「うん。足を引っ張らないように頑張る」
「うんうん。その意気だ! じゃ、俺、こっちだから」
「じゃ、また」
僕は雅樹と別れ、体育館へ歩き出す。
体育館では生徒たちはクラスごとに集まっていた。
すごい熱気。
圧倒される。
準備体操の後、整列させられた。
先生方から試合の進め方や注意事項の説明がある。
周りの空気が徐々に張り詰めてくるのが感じられる。
嵐の前の静けさのような。
僕は緊張を紛らわすために拳をギュッと握りしめた。
ダメだ。
思わずジュンに話しかける。
「ジュン、ダメだ。緊張して来たよ」
「ボクもだよ。さっきから、ほら足が震えが止まらない」
僕達のクラスはすぐに試合が始まる。
体に無理に力が入って動きがぎこちない。
そんなチームの様子を感じてか、バレー部の人が声を掛けてくれる。
「みんな、失敗してもいいから、思いっきりいこう!」
「おう!」
さすが、バレー部。
その一言でチームの硬さがほぐれていく。
皆に安堵の笑みがこぼれる。
チームの雰囲気はグッと良くなり、士気も上がってくるのがわかる。
審判のホイッスルで試合が始まった
「そーれ!」
チームメンバーの動きはいい。
しょっぱなからいい試合。
僕は思ったより体が動く自分に気がついた。
いける!
久しぶりの球技で正直緊張していた。
昨日もよく寝れなかった。
でも、これなら足を引っ張らない程度には出来そうだ。
サーブも入るし、レシーブもそこそこ取れる。
よし。
まずまずの出来だったんじゃないかな?
最初の試合が終わりベンチに戻った。
「めぐむ! 裏切りもの! 結構、上手じゃない!」
ジュンは汗を拭きながら声を掛けてきた。
「そっかな、へへへ」
僕がスポーツで褒められる事なんて初めて。
僕は嬉しくて得意になった。
それから、数試合をこなし、順位は平均より上ぐらい。
僕とジュンは、壁に張り出された星取り表を眺める。
「僕達にしては上出来じゃない? ジュン」
「うんうん、すごいよ。全敗のダントツビリを心配したけど」
「やっぱり勝つと楽しいよね」
「次は最後の試合だね。勝てば準優勝はあるかも」
ジュンは頭の中で計算しているようだ。
「よし、頑張ろう!」
僕は、ジュンの肩をポンと叩いた。
「声出して行こう!」
「おー!」
チームの士気は高い。
「よし! 決めていくぞ」
誰とも無く、声が上がる。
その時、遠くから僕達を応援する声が聞こえた。
「頑張れ!」
応援席からだ。
他の種目で終わったクラスメイト達が応援に駆けつけてくれたんだ。
僕のサーブから。
今日は、ほとんどミス無し。
チラッと応援席の方を見た。
えっ。雅樹?
遠くにいても雅樹はすぐに見つけられる。
雅樹は、僕を真っ直ぐに見つめている。
やばい。
雅樹を意識して急に緊張してきた。
今日一番の緊張。
体がこわばるのがわかる。
でも、雅樹にいいところを見せたい。
すーはー。
僕は深呼吸をした。
よし。
僕も僕なりに強い自分になるために努力してきたんだ。
あの時みたいな無様な失敗はしない。
見てて雅樹。
僕はボールを高く上げた。
そして打つ。
バシッ!
「ソーレー!」
声が上がる。
ボールは低くネットに近い。
引っかからないで!
ギリギリのところを越える。
そして、そのまま敵陣へ。
相手チームはレシーブの構え。
でも、いい位置。
バン。
床に落ちる音。
相手チームはお見合い。そして、なじりあう声。
よし、エースだ。
僕は心の中でガッツポーズをする。
「いいぞー! 青山」
応援席から声が上がった
その声の中に確かに雅樹の声が有った。
僕は聞き逃さない。
僕は雅樹の方を見た。
雅樹も僕の方を見ている。
「いいぞ、めぐむ」
そう言っているように感じた。
こんなに離れていてもなぜかわかる。
僕も、声に出さずに、
「うん、ありがとう雅樹」
と答えた。
雅樹にも聞こえているはず。
僕は目をつぶった。
どう? 雅樹。僕、強くなったでしょ?
今の雅樹は覚えてない。
だから、記憶の中の雅樹に問いかけた。
まだまだ行くよ。
僕は目を見開いた。
「それ!」
僕は思いっきりボールを打った。
結局のところ試合は無事に勝利することができた。
チームメンバー全員で勝ち取った勝利といえる。
僕もチームに貢献出来たと思う。
もちろんジュンも精一杯頑張った。
試合終了のホイッスルがなると、僕達は抱き合ってお互いの健闘を称えあった。
ただ、順位は同立が乱立する結果となった。
「でもさ、2位は2位じゃない?」
「うん、そうだよ。堂々として良いんだよ」
「あとは、他の競技との集計だけど……」
また、ジュンの頭の中の計算機がパチパチと動き出す。
「あれ? もしかして、優勝? えっと、バスケ、フットサル。バレーは2位でしょ。それに女子の成績も足すと……間違いないよ!」
「ほんと? やった!」
応援席のクラスメイトも声を上げて喜んでる。
結果が判明したようだ。
「よくやったぞー!」
そんな声が聞こえた。
閉会式は校庭で行われる。
その中で表彰式がある。
だけど、その前に僕は無性に雅樹に会いたくなった。
「ジュン、ちょっとごめん」
「トイレ? 行ってらっしゃい。先に校庭に行っているよ」
「うん、わかった」
体育館での試合はすべて終わった。
観客席も含め生徒達は一斉に校庭へ向かう。
僕は、体育館から校庭へ向かう人混みを掻き分けた。
体育館の出口。
ここで待っていれば落ち合えるはず。
そこへ、雅樹の姿を見つけた。
雅樹もこちらに気づいたようだ。
手を上げた。
雅樹も、僕に会いたい、と思っていてくれたようだ。
僕はにっこりしながら、手を振った。
人の流れから外れ、ようやく落ち合えた。
「お疲れ様、めぐむ。よくやったな」
「うん。雅樹達もね」
手を繋ぎたい。
グッと堪える。
「こっちへ来いよ」
雅樹は体育館の裏に僕を連れ出した。
あらかたの生徒は校庭に向かっている。
だから大丈夫。
雅樹は人目を気にする事もなく僕を抱くとチュッとキスをした。
「めぐむの頑張る姿見てたら、なんか感動しちゃってさ。居ても立っても居られなくなっちゃったよ」
「大袈裟だよ。ふふふ」
「でも、本当にカッコよかったよ。めぐむ」
「ありがとう。ちょっと照れる。僕は雅樹の勇姿が見れなかったのは残念だったけど」
「俺はカッコいいところなんて一切なかったぞ」
「またまた。クラスの女子達が『高坂君、カッコよかった』って話していたのを聞いたよ」
「本当か?」
「本当だよ」
僕は無意識に雅樹の靴を踏んでいた。
「痛いって! なんだ、めぐむジェラシーか? めぐむも女子にキャッキャッされたかったとか?」
「違うよ!」
「ごめん、ごめん。分かっているって。俺は、他の女子なんて眼中にないから。俺はめぐむしか目に入らない。お前だけだ」
「ちょ、ちょっと、いきなり何を言い出すの? 恥ずかしいじゃん」
僕は顔がカーッっと熱くなるのが分かった。
手で頬を隠す。
「何言っているんだ、めぐむ。それを聞きたかったんだろ?」
「意地悪!」
雅樹は、僕の腰に手をやると、ぎゅっと自分の体に引きつけた。
そして、僕のあごをしゃくる。
「好きだ、めぐむ……」
雅樹の真剣なまなざし。
なんて綺麗な瞳なの……。
吸い込まれそうで目を離せない。
「雅樹……だめ」
僕は、やっとの事で声をだす。
雅樹は、それを合図にそのまま唇を寄せる。
ああ、雅樹とのキス。
最高……。
体が溶けてしまいそう……。
でも、ここは学校。
誰かに見られてしまうかもしれない……。
もうちょっと唇を重ねていたいけど、ここは我慢。
雅樹に目配せをして唇を離す。
えっ。
嘘でしょ?
雅樹は予想に反して、僕を余計にギュッと抱きしめる。
まだ、離さないぞ!
そう言っているかのよう。
もう、雅樹はキスが好きなんだから。
そう思ったのも束の間。
いつのまにか、僕は壁に押し付けられ、雅樹が僕に覆い被さる。
そして、両手首を掴まれ、股の間に脚を入れられて自由を奪われる。
「ちょ、ちょっと雅樹……ここ学校だよ」
「めぐむ、俺、我慢出来ないよ……」
雅樹は、そう言うと半ば強引に舌を入れてきた。
そして、僕の舌を探り当てると、激しく絡み合わせてくる。
「んっ、んっ、ちょっと、こんなところで……だめ、だめったら、んっ」
「静かにしろよ。めぐむ。誰か来ちゃうだろ」
「雅樹は、エッチだ、はぁ、はぁ」
「めぐむもな……」
そこへ、校内放送が流れてきた。
「閉会式を始めます。全校生徒は校庭に急いで集合してください!」
ああ、もう少しキスしていたかったのに……。
僕は、快楽に溺れながら校内放送を恨めしく思っていた。
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