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1-08-2 スポーツ大会(2)

閉会式へはギリギリ間に合った。 「遅いよ! めぐむ」 ジュンが言った。 「ごめん」 そそくさと列に並ぶ。 表彰式では優勝クラスの名が呼び上げられると、僕達のクラスは歓喜の渦に包まれた。 そして、溢れ出た興奮の行先は、担任の胴上げという形になった。 「おい、おい、いいって」 片桐先生の悲鳴にも似た声。 それでは止るはずもなく、胴上げが始まる。 「ちょっと! ボクもボクも!」 ジュンは目の色を変えて、人込みの中を突入していく。 クスクス。 ジュン頑張れ。 胴上げの輪に入っている雅樹をみる。 楽しそう。 みんな、おめでとう。 僕はうっとりと、その光景を眺めた。 胴上げが終わり、ジュンが頬を紅潮させ戻ってきた。 「へへへ。めぐむ、たくさん触っちゃった。お尻とか」 「えっ?」 「わっ、わざとじゃないよ。偶然、偶然」 「ぷっ。よかったね、ジュン」 「うん。優勝して本当によかったよ。ご褒美があって」 「あはは」 ジュンの単純な思考が羨ましい。 触るといえば。 そう、僕はしばらく前から、ちょっと気になることがある。 閉会式が終わると片づけをして解散になる。 僕はクラスを代表して体育館の片づけをかって出た。 たいした理由があるわけではない。 ただ、歓喜の輪から外れて、すこし一人で考え事をしたい気持ちになっていたからだ。 体育館に入ると、他のクラスの人達が先に片づけを開始していた。 「すみません、遅くなりました」 大物のポールやネットはもう片付けたあと。 あとは、ボール籠と、スコアボードの片づけぐらい。 「残りは、僕がやっておきます。皆さんは先に上がってください」 僕は提案した。 「ほんと? じゃあ、お願いしていいかな?」 「はい」 「じゃあ、お疲れー!」 他のクラスの人達は、口々にさよならをいって体育館を出て行った。 よし、片づけるか。 僕は、スコアボードをごろごろ押しながら倉庫へと押し込んでいく。 こういう単純作業をしながらだと、考え事をしやすい。 そうなのだ、僕は雅樹のことでずっと引っかかっていることがあった。 それは、さっき、ジュンが先生を触って大喜びをしていたことに関係すること。 僕だって、雅樹のことを触りたいんだ。 でも、雅樹は手を繋ぐこと以外、体をあまり触れさせようとしない。 距離を置かれている。 そんな風に感じる。 なぜだろう。 僕はこのことについて、考えを巡らせる。 でも、これだ、という回答にめぐりあえてはいない。 やっぱり、直接雅樹に聞くしかないのかなぁ。 そんなことを考えているうちに、もうすぐ片づけは終わりそうなところまで来ていた。 スコアボードはすべて片付いた。 あとは、ボール籠をしまえば終わりだ。 ふぅ。 僕は額の汗を拭く。 その時、ガラガラガラと音がした。 体育館の扉を開く音だ。 誰か、忘れ物でもしたのかな? と、思ったら、雅樹だった。 あぁ、これはまたとない機会だな。僕はそう思った。 「あれ? めぐむ、一人?」 「うん。あっ、そうだ。雅樹、手伝ってよ」 「いいよ」 そう言うと、雅樹もボール籠の端を掴み、一緒に押していく。 ごろごろごろ。 ボール籠を倉庫の奥にドンと押し込める。 「これで終わりかな?」 「うん」 「よし、帰ろう。クラスのみんなで打ち上げでカラオケ行かないか? って」 「へぇ、そうなんだ」 僕は倉庫から出るふりをして逆に鍵を閉めた。 「どうしたんだ、めぐむ。帰らないのか?」 雅樹が驚いて質問した。 「うん」 僕は雅樹のところに詰め寄る。 「キス、したいのか?」 「ちがうよ」 「じゃあなんだ?」 「真面目な話」 「真面目な話って?」 雅樹は、何でも言ってみろ。そんな態度で腕組みをした。 僕は深呼吸をした。 そして、姿勢を改める。 「雅樹、正直に答えて」 「ああ」 「雅樹って、僕に気を遣っているでしょ?」 雅樹は驚いた顔をした。想像もしてなかった質問のようだ。 「えっ? 何を藪から棒に。気なんて遣ってないよ」 「うそ!」 「うそなものか」 「じゃあ、どうして……」 「どうして?」 僕は思い切って口に出す。 「僕にフェラをさせようとしないの?」 沈黙。 「そっ、それは……」 雅樹はうろたえている。 その沈黙と、うろたえ方。 やっぱり、雅樹は意図してフェラのことを避けていたんだ。 「僕がしゃぶるのって気持ちわるい?」 「そんなことあるものか」 「じゃあ、気持ちよくない?」 「気持ちいい」 「なのに、どうして? 僕にフェラをさせようとしないの?」 「だって、めぐむ。それは……」 雅樹は言葉に詰まる。 僕はずっと考えていたんだ。 手を繋いだ。 キスをした。 つぎは、そういうことをしたくなるはず。 雅樹だって、最初そのようなことを言っていた。 なのに、ちっとも、したいと言ってこない。 そんな雰囲気にもならない。 むしろ、距離を保って、僕を踏み込ませないようにしている。 そんな感じさえする。 おかしいと思っていた。 でも、今日の雅樹の返事を聞いて分かった。 僕のことを好きだ、といってもそこまでなんだ。 それ以上は踏み込ませたくない。 自分の大切なものを触らせたくない。 それだけのこと。 あぁ、最初に僕がフェラをしたのも、嫌だったのかな。 そう思うと無性に悲しくなってくる。 目頭が熱くなる。 黙りこくっている雅樹に僕は尋ねた。 「もしかして、僕に触れられるのいや?」 「いや、そんなことない。触ってほしい」 「じゃ、どうして。本当は、僕のこと嫌いなの?」 「そんなことない。好きだ」 「それじゃ、わからないよ……」 僕はそこまで言うと、涙が溢れてきた。 大粒の涙が頬を伝って流れる。 そうなのだ。 ずっと、ずっと心配だったことが、その通りになってしまった。 嫌な予感は、大抵当たるんだ。 本当に、いやになるよ。 「めぐむ、泣くなよ。理由を言うよ」 雅樹が僕の頭を優しく撫でた。

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