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1-09-1 プールの授業(1)
7月になると、プールの授業が始まる。
僕はとっても憂鬱だ。
泳げない生徒は、プールの隅に集められ、水かきやバタ足など特別レッスンをさせられる。
僕はその中にいる。
僕が体育の授業を嫌いな理由は、ただ泳げないから、だけではない。
体育教師の佐久原 先生だ。
例によって、男子生徒の体を触ってくる。
普通の授業なら、体操着を着ている。
だけど、プールとなると、直接の地肌。
体操着の上から触れられただけでもゾッとするのに、直接触られると思うと、想像しただけで気を失いかける。
その日は、運が悪い。
まず、ジュンが休みだった。
そして、泳げない生徒が僕しかいなかった。
「おや、今日は青山。お前だけか。よし、先生がみっちり指導してやるからな」
佐久原先生がにやにやしながら近づいてくる。
僕は蒼白になって立ちすくむ。
周りからは、ご愁傷様、といった同情の目が集まった。
どうにかして逃れたい。
あぁ、早く泳げるようになっていれば、こんなことにはならなかったのに……。
「まずは、ビート板だな」
佐久原先生は手にしたビート板を僕に手渡した。
僕は、無言で受け取る。
おとなしく従うしかない。
ビート版を抱えて一生懸命に足を動かす。
バシャバシャ。
水しぶきが上がる。
その割に進まない。
「うーん。膝が曲がっているな。よし、いったん上がれ」
「はい……」
僕はプールサイドに上がる。
「よし、ちょっとうつ伏せになってみろ」
僕は、恐る恐るうつ伏せになった。
「いいか、ここが曲がっているから進まないんだ。わかるか?」
佐久原先生は、僕の膝の後ろをいやらしい手つきで触る。
ゾッとして、体がビクっとなる。
「おや、感じているのか? だめだぞ、青山。いま授業中だからな。ふふふ」
「ちっ、違います!」
「そうか、そうか、青山は感じやすいんだな。先生は好きだな、青山のそういうところ」
佐久原先生はそう言いながら、マッサージのように僕の両足を撫で始める。
佐久原先生の手は少しづつ太ももに移動する。
やだ、やめて……。
「あとな、太ももの筋肉。もう少し付けたほうがいいな」
あっ、と思わず声が出かかった。
あぶない。
声を出すと、またいいように解釈される。
それは、悔しいから絶対に嫌だ。
唇を噛んで必至に我慢をする。
そして、佐久原先生の手はさらに上に移動し、ついにはお尻まで到達した……。
「やっぱり、尻の筋肉が弱いんだな。うん」
お尻のお肉を両手でわしづかみに、揉み始めた。
緩急をつけたいやらしい揉み方。
やめて……。
僕は、体をよじらせる。
「なんだ、青山の尻は、女の子みたいに柔らかいな。先生はもっと張りがあるほうが好きだな」
何を勝手な!
人のお尻をかってに触って!
怒りが込み上げる。
でも、叫びたくても叫べない。
早く、この状況から逃げたい。
僕は、必死の思いで先生に提案する。
「もう、いいですか? プールに入って」
「ん? そうだな」
佐久原先生は周りをキョロキョロした。
自分の行為がセクハラだって自覚があるのか、一応、周りの目を気にする。
「そうだな、いったんプールに入っていいぞ」
僕は素早くプールに逃れる。
早く体を浄めなきゃ!
ふくらはぎから、お尻にかけて、素早く手でこする。
これで塩素消毒できたよね……。
バシャ!
それも束の間、佐久原先生も僕を追うようにプールに入ってくる。
「じゃあ、青山。クロールしてみろ」
僕は、佐久原先生の声にビクッとして、言われるがままにクロールを始めた。
そうだ!
いいことを思いついた。
このまま、泳いで先生から離れよう!
遠くまで。
そう思い必死に前へ進む。
「ぷはっ、はぁ、はぁ」
僕は、息継ぎができず立ち止まった。
でも、プールの半分ぐらいの距離は進んだはずだ。
よし、これで同じ空気を吸わなくて済む。
ふぅ。
僕が安堵のため息をついていると、佐久原先生は、僕の方へスッと泳ぎ出した。
えっ、そんな……。
あっという間に僕の横に来た。
「まぁまぁだな。息継ぎはキスをする様にするんだ。ふふふ。後で、先生が教えてやろう」
にやりと笑顔を見せる。
僕は、すぐに顔を背けた。
けっ、汚らわしい。
それにしても……せっかく離れられたというのに。
「まずは、ストロークだな。よし、教えてやろう」
佐久原先生は僕の背後に回り体をぴったりと付けた。
先生の肌の感触。
生温かい。
うぅ、気色悪い……。
僕は少し距離を取って隙間を開ける。
「ほら、青山、じっとしてないと、うまくいかないぞ!」
さらに一歩近づいて体を密着させる。
そして、僕の片腕の手首掴み、ピンと腕を真上に持ち上げる。
「いいか、こうやって腕を耳につけるように伸ばすんだ」
反対の手では、僕の体を支える振りをして、僕の乳首の当たりをさり気無く触る。
わざとだ。
「青山は体に力が入りすぎだ。マッサージして力を抜いてやろう。そのままで」
佐久原先生は僕の首筋辺りをペロリと舐めた。
ゾクっと、悪寒が走る。
佐久原先生は僕の腕から手を離し、脇から腕を中に入れて、僕の両乳首の先をこねくり回す。
僕は、やめてほしくて、体をよじらせる。
「こっ、これのどこが、まっ、マッサージなんですか!」
「こうするとな、体から力が抜けて、リラックスできるんだ」
やっ、やめて……。
僕は佐久原先生の手をはがそうとするけど、すぐに阻まれる。
ああ、僕はもう囚われの身なんだ……。
佐久原先生の手は、蛇のように僕の体中を這い回る。
僕は、体をこわばらせて耐える。
「ん? まだ力が入っているな。力を抜いてごらん。先生に体を委ねてみて」
耳元に佐久原先生の息がかかる。
はぁ、はぁ、と息が荒い。
耳たぶを甘噛みしてくる。
あっ、だめ。
佐久原先生はその声に反応する。
背中に、硬いものが、ちょん、ちょんと当たる感触。
きっと、佐久原先生の勃起した股間だ。
気持ち悪くて体が震えてくる……。
ああ、耐えていた体が……力が抜けていく。
「そら、青山、気持ちがよくなってきただろう?」
今度は、手を僕の乳首から、スッと下に移動させ僕の股間に置いた。
そっ、そこは、やめて……。
雅樹以外には触られたくない。
お願い……。
佐久原先生は、そんな事はお構いないなしに、むぎゅっと握った。
「やっ、やめて!」
「ん? こっちもリラックスできているな。でも、ここだけは力を入れていいんだぞ、ふふふ」
そう言うと、僕のあそこを水着越しに擦りはじめる。
「ほら、我慢せずに。自然な気持ちで」
いやだ、やめて!
僕が、かたくなに拒んでいると、佐久原先生は水着のヒモを緩める仕草。
そっ、そんな……。
水着の中に手を突っ込もうとしているんだ……。
「ほら、元気になっていいんだぞ。青山も気持ちいいだろ?」
だめ、嫌! 絶対に、嫌だ!
僕は、佐久原先生から逃れようともがく。
でも、先生にガッチリと抑えられてなす術が無い。
あぁ、このまま、佐久原先生にもてあそばれて、汚されてしまう。
だれか、助けて。
雅樹、たすけて……。
その時、佐久原先生とは別の声が聞こえた。
「ちょっと、先生! それセクハラですよね?」
僕は声のする方に目を向ける。
雅樹!
雅樹が助けに来てくれたんだ……。
目頭が熱くなる。
雅樹は、プールサイドで仁王立ちになり、こちらを見下ろしている。
佐久原先生は、はっ、として雅樹の顔をみた。
動揺しているようだ。
「いっ、いやなに……クロールの練習だよ。なぁ、青山」
佐久原先生はそう言うと、僕から手を離し、両手を挙げて、ほら、何もしていないだろ、という仕草をした。
してたじゃないか!
「それじゃ、今日は少し早いけど、授業はお開きにするかな。青山も、よく頑張ったな。ははは」
佐久原先生はそそくさと僕達から離れた。
そして、足早にプールから立ち去って行く。
雅樹は、その姿を凄い形相で睨み続ける。
「ありがとう……雅樹」
僕の泣きそうな声に雅樹はハッとして我を取り戻した様だった。
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