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1-10-1 雅樹の家で(1)

夏休みに入った。 僕は部屋のベッドに寝そべりながら本を読んでいた。 ふと窓の外を見ると、真っ白な雲が青空にぽっかりと浮かんでいる。 ああ、すっかり夏だなぁ。 僕はぽつりとつぶやいた。 そこへメールの着信。 本を傍らに置き、スマホを見る。 雅樹からだ。 『部活が早く終わったから、これから会えないか?』 今日はデートの約束はしてなかった。 夏休みはほとんど毎日部活がある。 だから、夏休みだからって頻繁に会うことができない。 なので、こういうお誘いはとっても嬉しい。 ベッドから飛び起き、すぐに 『いいよ』 と返信をした。 僕は、はやる気持ち抑えて支度をすると、家を飛び出した。 待ち合わせ場所はいつものショッピングモール。 美映留中央駅(みえるちゅうおうえき)を降りて少し歩く。 夏の日差しと照り返しで街全体が眩しい。 僕は日陰を探しながらショッピングモールへと向かった。 待ち合わせ場所に行くと、雅樹は先にきて待っていた。 「よう、ごめんな。呼び出して。家にいた?」 「うん。本を読んでいた」 「そっか。午後は、部活がなくなったから会いたいと思って」 「僕も会いたかったから。嬉しい!」 僕達は、フードコートに入った。 飲み物を買うと席に座る。 雅樹はしばらく無言でいたけど、よし、と言って話を切り出す。 「めぐむ、ちょっと提案があるんだけど……」 「うん。なに?」 「俺の家に遊びにこない? 今日は夜遅くまで親も兄貴も家にいないからさ」 「えっ! 行きたい! 行きたい!」 「よし。じゃ決まりだな!」 雅樹の家か。 これは楽しみ。 ウキウキしてくる。 雅樹の部屋ってどんなんだろう。 雅樹はどんな風に生活しているのだろう。 ショッピングモールからは国道に出て路線バスに乗る。 いつもは雅樹を見送るバス。 なのに、今日は一緒に乗り込む。 なんだか不思議な気分……。 バスに10分ほど揺られ、雅樹の家の最寄のバス停に到着した。 バス停からは住宅地の路地に入り、しばらく歩く。 閑静な住宅地。 小学校の時の記憶にも全く覚えがない。 きっと、この辺は僕は来たことがないのだ。 「もうすこし。ほらそこ」 雅樹が指をさす方向に一軒家がある。 『高坂』の表札が見えた。 僕は雅樹に誘われて玄関に入った。 「さぁ、上がって」 「お邪魔します!」 僕は靴を脱いで一歩踏み出した。 人の家の独特な匂い。 へぇ。これが、雅樹が育った家か。 僕はあまり失礼がない程度に見回しながら廊下を歩く。 「俺の部屋に行こう。散らかっているけどさ」 そのまま階段を上り雅樹の部屋に入った。 「あまりキョロキョロするなよ。恥ずかしいから。ちょっと飲み物とってくるよ。その辺に座っていて」 雅樹は部屋を出て階段を下りていく。 あぁ。 なんか緊張する……。 そういえば、小さいころから友達の家に遊びに行った記憶はほとんどない。 だから、他人の部屋に入ること自体が新鮮。 緊張と興奮が入り混じる。 僕は部屋を改めて見回した。 家具はあまりない。 机とベッド。 それにテレビにゲーム。 本棚には漫画がずらりと並んでいる。 壁の掛けてあるのはバスケのユニフォーム。 僕は雅樹がいつも座っているだろう椅子に座る。 そして机に向かう。 「こうやって勉強しているのかな……」 僕がニヤニヤ想像していると、雅樹が戻ってきた。 「めぐむ。あまりいじってないよな? そっちに座って」 「あれ、恥ずかしいものとかあるの?」 僕は意地悪そうに聞いた。 「そんなのないよ!」 雅樹はムキになる。 その姿をみて、僕はぷっと吹き出す。 雅樹もつられて笑いだした。 僕は差し出された座布団に座ると、ジュースに口を付けた。 「結構、片付いているんだね。意外」 「まぁな。さっき片づけたばっかりだけどな」 せっかく雅樹の家に来たんだ。 僕はちょっとしたお願いを思い立つ。 「ねぇ、雅樹。お願いがあるんだけど」 「なんだ? めぐむ」 「小さいころの写真。見せてよ」 「えっ。写真?」 「うん。小学校より小さいころがいいな」 「そんなのあったかな……ちょっと探してくるよ」 雅樹はそう言うと、「確かリビングにあったような」、と独り言をいいながら部屋を出ていった。 しばらくして、雅樹はアルバムをいくつかもって戻ってきた。 「これでどうだろ?」 僕は渡されたアルバムをめくる。 そこには小さくてやんちゃそうな男の子が写っている。 可愛い! 胸がときめく。 「これって幼稚園ぐらいだよね。可愛い!」 いまの面影がある。 楽しそうに笑っている。 僕はつられて頬が緩む。 自然と優しい気持ちになる。 僕の記憶にある小学生の雅樹はもっとたくましい。 だから、この後ぐらいから、男の子らしくたくましく育つのだろう。 僕は、雅樹の顔を見て、写真と見比べる。 「はずかしいな。小さいころの写真をみられるのは。ははは」 雅樹は顔を少し赤らめている。 「可愛い! 雅樹」 「そりゃ、小さいころはみんな可愛いだろ」 「ちがうよ。いまの雅樹!」 僕は意地悪くそう言うと、「やめろよ!」とソッポを向いた。 アルバムのページを更にめくる。 「お兄さんと一緒に写っているのが多いんだね」 「そうだな。でも、いつも喧嘩していたけどな」 でも、楽しいそうな写真ばかり。 「雅樹の可愛い頃を見られて、なんか、ほっこりしちゃった!」 僕は雅樹に微笑みかける。 雅樹はいつの間にか真面目な面持ちで、僕を見つめている。 僕もそれを受け止めるように見つめ返す。 雅樹以外の周りの景色が霞む。 時間が止まった二人だけの世界……。 しばらくして、雅樹の口が開いた。 「めぐむ。好きだ!」 雅樹は僕の手をとると、強引に自分に引き寄せ、ぎゅっと胸に抱いた。 僕は、ちょっとびっくりして言った。 「雅樹、ちょっと痛いよ……」 「ごめん……」 雅樹は少し力を緩めた。 そして、ちょっと困った顔をした。 僕はそんな雅樹の頬に両手を添える。 そして、自分の額を雅樹の額に付けた。 「僕も、大好き。雅樹……」 そのまま唇を重ねる。 そして、舌を絡ませる。 んっ、んっ、んっ。 ぷはっ。吐息が漏れる。 絡み合う舌、唾液が混ざり合い、いやらしく、甘美なキス。 あぁ。 力が抜ける……。 どざっ。 そのまま、キスをしながら僕は雅樹に押し倒される。 雅樹の体が覆いかぶさる。 抑えられて身動きがとれない。 でも嫌じゃない。 雅樹は僕の首筋を舐めはじめる。 だめ……感じちゃうよ……。 そして、軽く下唇を噛むようなキス。 あぁ、あん、あぁ。 気持ちいい……喘ぎ声がでる。 「めぐむ……」 雅樹が耳元でささやく。 「俺、我慢できない……」 雅樹は僕の目をまっすぐ見つめている。 澄んだ優しい瞳。 「お前と一つになりたいんだ……」 頭の中で雅樹の言葉がこだまする。 雅樹が僕を求めている。 求めてくれている。 嬉しい……。 雅樹のすべてを受け止めたい。 でも……。 僕はうつむく。 「僕、したことないんだ……」 雅樹はにっこりと微笑む。 「たぶん、大丈夫。俺にまかせて」 雅樹はそう言うと、僕を優しくそっと抱き寄せた。

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