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1-11 アキさんとの出会い
ついに雅樹とエッチをしてしまった。
雅樹の家から自分の家に帰るまで、いったいどうやって帰ってきたんだっけ。
ふあふあした気持ちでよく覚えていな……。
でも、どうでもいいか。
ふふふ。
雅樹とのエッチを思い出すと恥ずかしいけど、思わず笑みが漏れてしまう。
「先にお風呂にはいって!」
キッチンからお母さんの声がする。
「はい!」
僕は返事をして、脱衣所に入る。
服を脱ぎ、お風呂に入った。
シャワーを浴びる。
もしかして、実は夢だった?
自分のアナルを触ってみる。ちょっとヒリっとした感じ。
うん。
これは、さっきまで雅樹のペニスが入っていた証拠。
僕のアナルで雅樹をペニスを受け入れたんだ。
そして、雅樹は気持ちよくなってくれた。
ふふふ。
嬉しい。また、にやけてしまう。
僕は身体を洗い、湯舟につかった。
それにしても……。
男同士のエッチはあんな風にするんだ。
男女のエッチとあまり変わりがないのかもしれない。
四つん這いにさせられて、なすすべがなく、一方的に犯される感じ。
でも、嫌な感じは全然しなかった。
むしろ、愛されているって感じがしたし、僕自身もとても感じた。
そんなことを思い出したら、またペニスが勃起しているのに気が付いた。
まいったな。ふふふ。
天井を見上げる。
「雅樹って、優しいな……」
ぽつりつぶやく。
でも、なぜだろう。不意に不安になってきた。
漠然とした不安。
雅樹の僕に対する態度はとても優しい。
優しすぎる。
それが不安なのかも……。
「あんな風に接してくれたら、どんな人だって雅樹を好きになっちゃうだろうな……」
ふと、頭をよぎる。
あまり考えないようにしていた。
雅樹が中学の時に付き合っていた彼女のこと。
きっとその子も雅樹に同じように接してもらい、僕と同じように好きになっていったにちがいない。
「どうな風な付き合い方だったんだろう……」
雅樹の方から告白したのだろうか。
それとも彼女の方からなのか。
高校に入る前に別れたようだけど、どうして別れたのだろうか。
どのような理由があったのか。
そして、その、中学生とはいえ、体の関係はどうだったのだろう。
雅樹はこれまで、僕に対して積極的にスキンシップを図ってきている。
そして、その態度はとても自然だし慣れている。
経験者のそれだと思う。
だからきっと、彼女ともそうゆう関係だったのだろう。
今日の僕みたいに可愛がってもらっていた……。
胸がキュッとする。
ああ、また、僕の悪い癖。
嫉妬だ。
まったく……別れた彼女に嫉妬してどうするんだ。
でも……。
僕は両手を胸に置いた。
なんの膨らみもないぺったんこな胸。
「雅樹は、おっぱいが無い僕の体をどう思っているのだろう……」
やっぱり、物足りなく思っているだろうか。
ふぅ。
ため息をつく。
「僕にもし、おっぱいがあったら、雅樹はもっと喜んでくれるだろうか……」
そう考えて僕は首を振る。
「いやいや、そうなったら、きっと、それは本当の僕じゃない。違う僕だ。雅樹に愛されたいのは、この僕」
そう、ぺったんこの胸の、男の僕。
ありのままの僕。
「あぁ、でも……」
湯けむりでくもった天井を見る。
目を閉じて雅樹の顔を想像する。
「もし、雅樹がもっと喜んでくれるのなら……」
僕は数日間、答えの出ないこの自問自答を繰り返していた。
そんなモヤモヤのせいだろう。
僕は美映留中央駅に本を買いに行った帰りに、いつもは行かない路地に足を運んだ。
いわゆる歓楽街だ。
中央駅の歓楽街はこの辺では一番大きいらしい。
実際に来たのは初めてだ。
いかがわしそうな飲食店、風俗店などが入った商業ビルやラブホテルなどが立ち並ぶ。
ただ、意外だったのは、ラーメン屋や牛丼屋などのチェーン店や、コンビニもあったりする。
「へぇ。昼間来るのはまったく平気なんだなぁ」
僕は伏目がちにキョロキョロして歩く。
しばらく進むと、
『ニューハーフバー・ムーランルージュ』
という看板が見えた。
そこに、所属ホステスの紹介写真が貼ってあった。
僕は興味本位ですこし見てみようと近寄る。
どの人も、女性よりも女性らしく、本当に美しい。
こんなに本物みたいになるのか。
僕は足と止めてしげしげと眺めていた。
と、その時、僕は肩をたたかれたことに気付く。
振り返ると、そこには美しい女性の姿があった。
「ねぇ、あなた。それに興味あるの?」
僕は、驚いて立ち尽くす。
女性は、僕の姿を上から下まで眺めた。
「うん。とりあえず、こっちへいらっしゃい」
いえ、大丈夫です。
と断ろうとしたけど、既に言うタイミングを逃してしまっていた。
僕は、その女性に腕を引かれ建物の中へ入っていった。
おそらく従業員用のエレベータなのだろう。
エレベータを降りると、すぐに入り口があった。
先ほど見た看板の店名ムーランルージュのラベルと、『関係者以外立ち入り禁止』の文字。
その女性はバッグからカードキーを取り出し扉を開く。
「どうぞ」
僕は中に通された。
スタッフルームのようだ。
ちょっとした応接セットがあり、奥の方は、曇りガラスでよく見えないが、ロッカールームになっているようだ。
「じゃあ、そこに座って」
女性は、ソファを指さし、僕に座るように促す。
女性は、コーヒーポッドからコーヒーをカップに注いでいる。
僕は、その女性の姿をまじまじと見つめていた。
もしかして、彼女もニューハーフなのだろうか。
そうは見えない。
容姿だけではない。
仕草も女性そのものだ。声だって完全に女声だ。
その女性は、コーヒーカップを僕の前に置いた。
そして向かいに座った。
「私は、アキっていいます。この『ムーランルージュ』の店長をしています」
アキと名乗る女性は、そうにっこりと微笑む。
ドキッとするほど魅力的。
「キャスト希望かしら?」
「いっ、いいえ…….違います」
「あら。もしかして、私の勘違いだったかしら?」
アキさんは手を顎におき、困ったポーズをとった。
「でも、あなたからはなにか、そう、同じ雰囲気を感じたのだけど……」
「ごめんなさい」
「なんで、謝るの? 謝るのは私の方だから。そっか、ごめんなさいね。早とちりしちゃって。時間を取らせちゃったわね」
そう言うとアキさんは席を立とうとした。
「あの……」
僕は声に出していた。
アキさんは席に座りなおす。
「なに? どうしたの?」
「すみません。質問していいですか?」
「いいわよ。どうぞ」
「あの、アキさんは、その、えっと……」
僕は勇気を振り絞って続ける。
「男性なんですか?」
すこし間があった。
ふふふ。とちょっと笑うと、「そりゃ、そうよ。ニューハーフだもん」と答えた。
「ごめんなさい。失礼な質問をして。その、女性にしか見えなかったもので……」
「そっか。そう言ってもらえると嬉しいわ」
僕はアキさんの胸に目をやる。
大きい胸。
そうだ。僕はダメ元でアキさんに悩みを聞いてもらおうと思いつく。
「アキさん、僕の名前は青山 恵と言います。ちょっとだけでいいんです。僕の話を聞いてもらえないでしょうか?」
僕は深々とお辞儀をする。
アキさんは時計を見たようだ。
「いいわよ、私が無理矢理、連れてきてしまったのだもの。話を聞くぐらいなら。めぐむ君ね」
「ありがとうございます」
僕はどこから話したらいいのか、目を閉じて考えをまとめた。
そして、目を開け話し始める。
「僕には彼がいるんです」
アキさんはすこし驚いたように目を見開く。
「でも、彼は。その、男が好き、ってわけではないんです」
アキさんは真面目な顔で話を聞いている。
やっぱりだ。
アキさんなら真剣に話を聞いてもらえるような気がしていた。
「たぶん、本当は女性の体が好きなんだと思います」
僕は、自分の胸を触る。
「だから、胸があったら、もっと彼を喜ばせられるかと思って……」
僕は、改めてアキさんと向き合う。
「その、胸があるってどんな気持ちなんでしょうか?」
そこまで話すと、アキさんは席をゆっくりと立ち僕の横に座った。
そして、僕を自分の胸に抱き寄せる。
「めぐむ君。そんなに彼のことを思って。可愛い。わたしも昔、同じこと考えたなぁ」
アキさんは独り言のようにそう言うと、微笑みを浮かべる。
「私も身近に好きな人ができて、その人に好きになってもらいたくて女の体になる決心をしたのよ。ずいぶん昔の話だけどね」
僕は黙って聞いていた。
「だから、めぐむ君の気持ちよくわかるの。ねぇ、めぐむ君、質問させて」
「はい」
「彼は、めぐむ君のことを愛してくれている?」
「たぶん。そう思います」
「めぐむ君に、キスしてくれる?」
「はい」
アキさんは「なるほど」と言うと、にこやかにうんうんと頷いた。
「じゃあ、めぐむ君は、女性の体になりたい? 胸がほしい?」
「もし、彼が喜んでくれるなら、そうなってもいいと思っています。今は無理ですが、いずれは……」
アキさんは首を横にふる。
「そうじゃなくて、めぐむ君が。彼が望むとか望まないとかじゃなくて」
僕自身?
それは決まっている。
「僕は、このままがいいんです。男の体が僕なのだから。これが本当の僕だから」
そう答えると、アキさんは、嬉しそうに「うふふふ」と声を出して笑った。
僕は、どうして笑われたのかわからず、アキさんを見つめる。
「ごめんなさい。笑ったりして」
アキさんは優しい顔をして僕に問いかける。
「何も問題ないわよ。めぐむ君。きっと、彼はいまの君を愛しているから。だから、そのままで大丈夫」
「ほんとうに?」
どうして、大丈夫なのだろう。
アキさんは僕が腑に落ちない顔をしているのを察したようだ。
「そうだ。彼に直接聞いてみるといいわ。胸があった方がいいか?って」
「直接ですか?」
「そう直接。怖い?」
「怖いです」
「でも聞いみて。きっと、悪いようにはならないと思うから。もしもだけど、もし彼が、めぐむ君に胸が欲しいというのであれば、その時は私が相談にのるから」
それから、すこし雅樹のことを話した。
アキさんが聞きたがったからだ。
ふーん。とかうらやましい、とか興味深々に聞いてくれた。
アキさんはふと時計をみる。
「いけない。そろそろ時間。ごめんね。また今度ゆっくり遊びにきて」
僕は来た時と同じようにアキさんに引きつられてエレベータに乗り出口へ向かった。
僕はお辞儀をして、今日のお礼をいい駅に向かおうとすると、アキさんはちょっと待ってと言い、僕を呼び止めた。
アキさんはカバンから、名刺を取り出すと僕に手渡した。
そして僕の手を握る。
「なんでも相談して。力になりたいから」
「アキさんに相談できてよかった」
僕は駅に向かって歩く。
アキさんは、何も問題はない、っと言った。
うん。
そうだよね。
「大丈夫! 自信を持とう。男の僕を好きになってくれたって」
なんか吹っ切れた。
来た時とは景色が違うように見える。
きっと、心の中のモヤモヤが晴れたのが、そうさせている。
そんな気がした。
「それにしても、アキさんは、綺麗な人だったな……」
そしてなによりも、優しく、親切だ。
僕は一人っ子だから兄弟というものに憧れていた。
そうアキさんみたいなお姉さん、いやお兄さんが欲しかったんだ、僕は。
アキさんにもらった名刺を見る。
「アキさんと知り合いになれて本当によかった」
僕はそうつぶやき、名刺を大事そうにポケットの奥へしまった。
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