37 / 52
1-16-2 日常の中の奇跡(2)
買い物が済むとファストフードのチェーン店に入った。
僕達はジュースを買って席に座る。
「さて、メインイベント! プレゼントの贈呈です!」
雅樹は手を広げて大袈裟な仕草をした。
あぁ、そうだ。
そういえば今日は僕の誕生日のお祝いだった。
「ありがとう。なんだろう、楽しみだな」
雅樹からのプレゼント。
嬉しい。
そして、楽しみ。
ドキドキしてくる。
どんなものでも嬉しいし、喜べる自信がある。
雅樹は、カバンの中に手をいれてゴソゴソとプレゼントを探している。
「あれ? ない。ない。ないよ」
「どうしたの?」
雅樹が困った顔をした。
「確かに、カバンに入れたはずなんだけど。もしかして家に忘れてきたのかも。ちょっと家に電話してくる」
雅樹はそう言うと、スマホを片手に店の外へ出て行った。
僕は心配気に雅樹を見送った。
しばらくして、雅樹が嬉しそうな顔で戻ってきた。
「いやー。あった。あったよ家に。玄関に落ちてたって。よかった」
ああ、本当によかった。
今もらえないのは残念だけど、見つかったのは幸運だ。
僕は、雅樹に言った。
「よかったね。じゃあ、また次のデートの時にでも」
「なぁ、今からうちに取りにいかないか?」
雅樹は間髪入れずに提案する。
「えっ。でも……」
「今日、渡したいんだよ!」
「雅樹のうち、今日はお休みだから、ご家族がいらっしゃるでしょ?」
そうなのだ。
さすがに、家の人がいる所にお邪魔するのは気が引ける。
というか、心の準備ができていない。
雅樹は、僕の反応はお見通しだと言わんばかりに言った。
「あぁ、大丈夫。今、兄貴だけだから」
「お兄さん……」
雅樹のお兄さん。
元バスケ部で大学生。
喧嘩をよくするっていうけど、雅樹が敬愛してやまない大好きなお兄さん。
すごく興味があるし、実は会ってみたい……。
「な? めぐむの喜ぶ顔を見たいんだよ。頼むよ」
雅樹は僕に拝む手をして懇願する。
ふぅ。
別に恋人としていくわけじゃないんだ。
友達としていく。
だから、別に普通のことなんだ。
それに、お兄さんに会ってみたいし……。
「分かった……いくよ……」
「やったね!」
雅樹は嬉しそうに指をパチリと鳴らした。
ショッピングモールを出て国道沿いのバス停に向かった。
僕と雅樹はバスに乗り込むと一番後ろの席に座る。
車窓から流れ行く景色。
見慣れない風景。
このシチュエーションは二回目だけど、前の時より断然緊張している。
あぁ、行く、なんて言わなければよかったかな。
「不安?」
「うん。すこし」
僕は素直に答えた。
「平気さ。兄貴は悪い奴じゃないから」
雅樹はそう言うと、僕の手の上にそっと手を重ねた。
「ただいま。帰ったよ」
雅樹は玄関の扉を開けて言った。
雅樹に続いて中に入る。
「こんにちは……」
「おっ、いらっしゃい!」
お兄さんとおぼしき人物が玄関で出迎えてくれた。
僕はすかさずお辞儀をして挨拶をする。
「はじめまして。僕は、青山 恵と言います!」
「おお、丁寧にわるいな。俺は、拓海 、雅樹の兄だ。よろしく」
僕は顔を上げてお兄さん、拓海さんを見た。
雅樹と似ているような、似ていないような。
イケメンなのは間違いない。
背丈は同じくらい。
大学生だよね?
なんだか大人の男の色香が漂う。
見た目は、どことなく野生的だ。
ウェーブの入った長めの髪と無精ひげがそうさせているのかもしれない。
シャツのボタンを止め忘れているのか、胸元がはだけている。
僕はちょっとだけ目を逸らした。
やばい……。
普通にカッコいい。
でも。
僕は、雅樹の方が好みだな。うん。
あれ、なんで僕は雅樹と比較なんかしているんだ。
「めぐむ、上がれよ」
はっ。
雅樹の声に我に返った。
「おっ、おじゃましまーす!」
玄関に上がると、目の前に拓海さんが立ちふさがっていた。
そして、僕の顔をじっと見る。
「あ、あの? どうかしましたか?」
「いや……」
拓海さんは、僕の目を見つめたまま顔を寄せてきた。
トクン……。
なに?
何がおこっているの?
拓海さんは、僕の顎をしゃくる。
顔が間近に迫る。
はぁ、はぁ。
ドキドキが止まらない。
やばい。
このままキスされてしまうのだろうか。
だめ……。
雅樹、ごめんなさい。
拓海さんを突き放すことはできないよ……。
拓海さんは口を開いた。
「ん? 君は、本当に男の子か?」
僕はしばらく、あっけに取られていた。
そして、力強く答えた。
「ぼっ、僕は、男です!」
「そうか、ごめん、ごめん。あまりに可愛いからついな」
拓海さんはにっこりと微笑む。
「兄貴、眼鏡かけろよ。コンタクト外しているんだろ?」
雅樹は拓海さんのメガネを手に戻ってきた。
「わるいな」
拓海さんは雅樹からメガネを受け取る。
「あぁ、よく見える」独り言が聞こえる。
ガクっ。
なんだ。
目が見えてなかっただけか……。
あれ。
なんで、僕は少しがっかりしているんだ。
僕のバカ!
お兄さんは言った。
「ほぉ、こうしてみると、普通の女の子より可愛いな。まぁ、君が男の子でよかった、かな……」
えっ?
どういう意味だろ。
男の子でよかった?
友達だったらいいけど、恋人はだめってこと?
それにしても……。
拓海さんってとっつき難くいな。
ちょっと苦手かも。
僕はそう思って、雅樹の後を追った。
雅樹の部屋は久しぶり。
この前とあまり変わりない。
あまりキョロキョロするのも悪いと思って我慢する。
「適当に座って」
「うん」
あぁ。
ここで初エッチ、したんだよな。
初めてだったけど、感じちゃった。
雅樹のあそこ、おっきくて、固かった。
僕の中をかき回して、そして突き上げてくる感じ。
ああ。
思い出しただけで、体が熱くなってくる。
なんだか、恥ずかしい。
「めぐむ、めぐむ?」
「えっ?」
「めぐむ、またいやらしいこと考えていただろう?」
「まっ、まさか。そんなことないよ」
「だってさ、顔が真っ赤だぞ。ははは」
「うそ!」
僕は慌てて頬を両手で隠す。
「まぁ、いいや。それより」
雅樹は小さな包みを僕の前にだした。
「これ、誕生日プレゼント!」
「わぁ。ありがとう。雅樹!」
僕は、包みを受け取り、自分の胸の辺りでぎゅっと握る。
「嬉しい!」
「開けてみて」
「わかった。開けてみるね」
僕は包みを開ける。
薄い封筒大の大きさ。
中にはいっていたものを取り出した。
金属製の薄い板?
なにかの文房具?
「栞(しおり)?」
「そう。ほら、めぐむ、読書好きだろ? だから、これしかないって思って」
雅樹は少し照れた顔をする。
あぁ。なんてことだ……。
嬉しさが込み上げてくる。
僕は思わず雅樹に抱き着いた。
「すごい! 嬉しい。ありがとう!」
「へへへ。よかった。めぐむが喜んでくれて!」
僕は改めて栞を確認する。
なんだろう?
なにかのデザインで切り抜かれている。
分かった!
猫だ。
「かわいい。猫ちゃんなんだ」
「ほら。前にめぐむ、言っていただろ? 猫と親友になったって。だから猫にしたんだ」
「うん。猫大好き。うれしい」
涙で目の前がにじむ。
覚えていてくれたんだ。
シロの事。
僕のこと、ちゃんと見ていてくれた。
温かい。
雅樹の気持ち、確かに受け取ったよ。
僕は目じりに溜まった涙を手の甲で拭った。
「雅樹」
「なに? めぐむ」
「キスして。お願い」
「いいとも」
雅樹は僕を抱き寄せた。
そして唇を重ねる。
あぁ、幸せ……。
「おい、雅樹、入るぞ!」
突然、扉の前あたりから拓海さんの声が聞こえた。
「ひぃ」
僕と雅樹は慌てて離れる。
ガチャ。
拓海さんがお盆を手に部屋に入ってきた。
「雅樹、お前な、お客さんにお茶ぐらいだせよ。ほら」
お盆の上にはお茶とロールケーキがのっている。
「あっ、ありがとう兄貴……」
雅樹はお盆を受け取りながら言った。
動揺した声。
拓海さんは、やれやれといったリアクションをした。
「ごめんな、めぐむ君。こいつ気が利かないんだよ。ははは」
「あっ、ありがとうございます」
「じゃ、ゆっくりしていってな」
「はい」
拓海さんは片手を上げて部屋を出て行った。
僕と雅樹は目を合わせ、ホッと息をついた。
「いいお兄さんだね」
僕はロールケーキに手を付けた。
とっても美味しそうだ。
半分に切りとり、口に入れた。
「まぁな。でも、最近はよく俺のこと干渉してくるんだよ。面倒くさくて」
雅樹は、手づかみでロールケーキを口に放り込み、モグモグと口を動かす。
「ふふふ。それって、気にかけてもらっているってことでしょ。いいな、お兄さんがいて」
生クリームとフルーツの味が口に広がる。
「おいしい!」
「確かに、うまいな。これ」
雅樹は指先をペロリと舐めた。
そして、ケーキを食べる僕の顔をまじまじと見つめる。
「なぁ、めぐむ。生クリームがほっぺについているぞ」
そう言うと、雅樹は舌を出しながら、僕の顔に近づく。
「えっ?」
そして、ペロリと僕のほっぺを舐めた。
雅樹はそのまま、僕の口に舌を這わす。
「だめだよ。雅樹……」
僕の唇をこじ開けてくる。
「いいだろ」
「あん」
僕は抵抗するのをやめて、雅樹を受け入れる。
舌が入ってくる。
そして、雅樹は激しく、唇に吸い付いてきた。
んっ、んっ、んっ。
ぷはっ。
はぁ、はぁ。
涎が滴り落ちる。
「めぐむ。なんか、ケーキの甘い味がする」
「雅樹だって……」
ドサッ。
そのまま、雅樹に押し倒される。
雅樹は僕の両手を抑え、少し乱暴にのしかかる。
身動きが取れない。
目の前には雅樹の真剣な顔。
僕は恥ずかしくて顔を背けた。
「雅樹、だめ……」
「はぁ、はぁ、めぐむ」
雅樹の荒い息がかかる。
そして、再び濃厚なキス。
ああ、すごい。
雅樹は、こんなに興奮している。
「めぐむ、好きだよ。めぐむ。はぁ、はぁ」
雅樹はキスをしながら、僕のシャツを捲し上げようとしている。
このまま乳首を攻められて、そして、エッチ、しちゃうのかな。
「はぁ、はぁ、いいよ、雅樹の好きにして……」
僕は目を閉じた。
と、その時。
扉の向こうから拓海さんの声が聞こえた。
「おい、雅樹。ギター返してもらっていいか?」
「えっ?」
僕達は驚いて目を見開く。
すぐに扉が開く。
やばい!
雅樹は焦って僕の上から横に転がった。
でも、そこには僕達を見下ろす拓海さんの姿があった。
ともだちにシェアしよう!