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1-16-2 日常の中の奇跡(2)

買い物が済むとファストフードのチェーン店に入った。 僕達はジュースを買って席に座る。 「さて、メインイベント! プレゼントの贈呈です!」 雅樹は手を広げて大袈裟な仕草をした。 あぁ、そうだ。 そういえば今日は僕の誕生日のお祝いだった。 「ありがとう。なんだろう、楽しみだな」 雅樹からのプレゼント。 嬉しい。 そして、楽しみ。 ドキドキしてくる。 どんなものでも嬉しいし、喜べる自信がある。 雅樹は、カバンの中に手をいれてゴソゴソとプレゼントを探している。 「あれ? ない。ない。ないよ」 「どうしたの?」 雅樹が困った顔をした。 「確かに、カバンに入れたはずなんだけど。もしかして家に忘れてきたのかも。ちょっと家に電話してくる」 雅樹はそう言うと、スマホを片手に店の外へ出て行った。 僕は心配気に雅樹を見送った。 しばらくして、雅樹が嬉しそうな顔で戻ってきた。 「いやー。あった。あったよ家に。玄関に落ちてたって。よかった」 ああ、本当によかった。 今もらえないのは残念だけど、見つかったのは幸運だ。 僕は、雅樹に言った。 「よかったね。じゃあ、また次のデートの時にでも」 「なぁ、今からうちに取りにいかないか?」 雅樹は間髪入れずに提案する。 「えっ。でも……」 「今日、渡したいんだよ!」 「雅樹のうち、今日はお休みだから、ご家族がいらっしゃるでしょ?」 そうなのだ。 さすがに、家の人がいる所にお邪魔するのは気が引ける。 というか、心の準備ができていない。 雅樹は、僕の反応はお見通しだと言わんばかりに言った。 「あぁ、大丈夫。今、兄貴だけだから」 「お兄さん……」 雅樹のお兄さん。 元バスケ部で大学生。 喧嘩をよくするっていうけど、雅樹が敬愛してやまない大好きなお兄さん。 すごく興味があるし、実は会ってみたい……。 「な? めぐむの喜ぶ顔を見たいんだよ。頼むよ」 雅樹は僕に拝む手をして懇願する。 ふぅ。 別に恋人としていくわけじゃないんだ。 友達としていく。 だから、別に普通のことなんだ。 それに、お兄さんに会ってみたいし……。 「分かった……いくよ……」 「やったね!」 雅樹は嬉しそうに指をパチリと鳴らした。 ショッピングモールを出て国道沿いのバス停に向かった。 僕と雅樹はバスに乗り込むと一番後ろの席に座る。 車窓から流れ行く景色。 見慣れない風景。 このシチュエーションは二回目だけど、前の時より断然緊張している。 あぁ、行く、なんて言わなければよかったかな。 「不安?」 「うん。すこし」 僕は素直に答えた。 「平気さ。兄貴は悪い奴じゃないから」 雅樹はそう言うと、僕の手の上にそっと手を重ねた。 「ただいま。帰ったよ」 雅樹は玄関の扉を開けて言った。 雅樹に続いて中に入る。 「こんにちは……」 「おっ、いらっしゃい!」 お兄さんとおぼしき人物が玄関で出迎えてくれた。 僕はすかさずお辞儀をして挨拶をする。 「はじめまして。僕は、青山 恵と言います!」 「おお、丁寧にわるいな。俺は、拓海(たくみ)、雅樹の兄だ。よろしく」 僕は顔を上げてお兄さん、拓海さんを見た。 雅樹と似ているような、似ていないような。 イケメンなのは間違いない。 背丈は同じくらい。 大学生だよね? なんだか大人の男の色香が漂う。 見た目は、どことなく野生的だ。 ウェーブの入った長めの髪と無精ひげがそうさせているのかもしれない。 シャツのボタンを止め忘れているのか、胸元がはだけている。 僕はちょっとだけ目を逸らした。 やばい……。 普通にカッコいい。 でも。 僕は、雅樹の方が好みだな。うん。 あれ、なんで僕は雅樹と比較なんかしているんだ。 「めぐむ、上がれよ」 はっ。 雅樹の声に我に返った。 「おっ、おじゃましまーす!」 玄関に上がると、目の前に拓海さんが立ちふさがっていた。 そして、僕の顔をじっと見る。 「あ、あの? どうかしましたか?」 「いや……」 拓海さんは、僕の目を見つめたまま顔を寄せてきた。 トクン……。 なに? 何がおこっているの? 拓海さんは、僕の顎をしゃくる。 顔が間近に迫る。 はぁ、はぁ。 ドキドキが止まらない。 やばい。 このままキスされてしまうのだろうか。 だめ……。 雅樹、ごめんなさい。 拓海さんを突き放すことはできないよ……。 拓海さんは口を開いた。 「ん? 君は、本当に男の子か?」 僕はしばらく、あっけに取られていた。 そして、力強く答えた。 「ぼっ、僕は、男です!」 「そうか、ごめん、ごめん。あまりに可愛いからついな」 拓海さんはにっこりと微笑む。 「兄貴、眼鏡かけろよ。コンタクト外しているんだろ?」 雅樹は拓海さんのメガネを手に戻ってきた。 「わるいな」 拓海さんは雅樹からメガネを受け取る。 「あぁ、よく見える」独り言が聞こえる。 ガクっ。 なんだ。 目が見えてなかっただけか……。 あれ。 なんで、僕は少しがっかりしているんだ。 僕のバカ! お兄さんは言った。 「ほぉ、こうしてみると、普通の女の子より可愛いな。まぁ、君が男の子でよかった、かな……」 えっ? どういう意味だろ。 男の子でよかった? 友達だったらいいけど、恋人はだめってこと? それにしても……。 拓海さんってとっつき難くいな。 ちょっと苦手かも。 僕はそう思って、雅樹の後を追った。 雅樹の部屋は久しぶり。 この前とあまり変わりない。 あまりキョロキョロするのも悪いと思って我慢する。 「適当に座って」 「うん」 あぁ。 ここで初エッチ、したんだよな。 初めてだったけど、感じちゃった。 雅樹のあそこ、おっきくて、固かった。 僕の中をかき回して、そして突き上げてくる感じ。 ああ。 思い出しただけで、体が熱くなってくる。 なんだか、恥ずかしい。 「めぐむ、めぐむ?」 「えっ?」 「めぐむ、またいやらしいこと考えていただろう?」 「まっ、まさか。そんなことないよ」 「だってさ、顔が真っ赤だぞ。ははは」 「うそ!」 僕は慌てて頬を両手で隠す。 「まぁ、いいや。それより」 雅樹は小さな包みを僕の前にだした。 「これ、誕生日プレゼント!」 「わぁ。ありがとう。雅樹!」 僕は、包みを受け取り、自分の胸の辺りでぎゅっと握る。 「嬉しい!」 「開けてみて」 「わかった。開けてみるね」 僕は包みを開ける。 薄い封筒大の大きさ。 中にはいっていたものを取り出した。 金属製の薄い板? なにかの文房具? 「栞(しおり)?」 「そう。ほら、めぐむ、読書好きだろ? だから、これしかないって思って」 雅樹は少し照れた顔をする。 あぁ。なんてことだ……。 嬉しさが込み上げてくる。 僕は思わず雅樹に抱き着いた。 「すごい! 嬉しい。ありがとう!」 「へへへ。よかった。めぐむが喜んでくれて!」 僕は改めて栞を確認する。 なんだろう? なにかのデザインで切り抜かれている。 分かった! 猫だ。 「かわいい。猫ちゃんなんだ」 「ほら。前にめぐむ、言っていただろ? 猫と親友になったって。だから猫にしたんだ」 「うん。猫大好き。うれしい」 涙で目の前がにじむ。 覚えていてくれたんだ。 シロの事。 僕のこと、ちゃんと見ていてくれた。 温かい。 雅樹の気持ち、確かに受け取ったよ。 僕は目じりに溜まった涙を手の甲で拭った。 「雅樹」 「なに? めぐむ」 「キスして。お願い」 「いいとも」 雅樹は僕を抱き寄せた。 そして唇を重ねる。 あぁ、幸せ……。 「おい、雅樹、入るぞ!」 突然、扉の前あたりから拓海さんの声が聞こえた。 「ひぃ」 僕と雅樹は慌てて離れる。 ガチャ。 拓海さんがお盆を手に部屋に入ってきた。 「雅樹、お前な、お客さんにお茶ぐらいだせよ。ほら」 お盆の上にはお茶とロールケーキがのっている。 「あっ、ありがとう兄貴……」 雅樹はお盆を受け取りながら言った。 動揺した声。 拓海さんは、やれやれといったリアクションをした。 「ごめんな、めぐむ君。こいつ気が利かないんだよ。ははは」 「あっ、ありがとうございます」 「じゃ、ゆっくりしていってな」 「はい」 拓海さんは片手を上げて部屋を出て行った。 僕と雅樹は目を合わせ、ホッと息をついた。 「いいお兄さんだね」 僕はロールケーキに手を付けた。 とっても美味しそうだ。 半分に切りとり、口に入れた。 「まぁな。でも、最近はよく俺のこと干渉してくるんだよ。面倒くさくて」 雅樹は、手づかみでロールケーキを口に放り込み、モグモグと口を動かす。 「ふふふ。それって、気にかけてもらっているってことでしょ。いいな、お兄さんがいて」 生クリームとフルーツの味が口に広がる。 「おいしい!」 「確かに、うまいな。これ」 雅樹は指先をペロリと舐めた。 そして、ケーキを食べる僕の顔をまじまじと見つめる。 「なぁ、めぐむ。生クリームがほっぺについているぞ」 そう言うと、雅樹は舌を出しながら、僕の顔に近づく。 「えっ?」 そして、ペロリと僕のほっぺを舐めた。 雅樹はそのまま、僕の口に舌を這わす。 「だめだよ。雅樹……」 僕の唇をこじ開けてくる。 「いいだろ」 「あん」 僕は抵抗するのをやめて、雅樹を受け入れる。 舌が入ってくる。 そして、雅樹は激しく、唇に吸い付いてきた。 んっ、んっ、んっ。 ぷはっ。 はぁ、はぁ。 涎が滴り落ちる。 「めぐむ。なんか、ケーキの甘い味がする」 「雅樹だって……」 ドサッ。 そのまま、雅樹に押し倒される。 雅樹は僕の両手を抑え、少し乱暴にのしかかる。 身動きが取れない。 目の前には雅樹の真剣な顔。 僕は恥ずかしくて顔を背けた。 「雅樹、だめ……」 「はぁ、はぁ、めぐむ」 雅樹の荒い息がかかる。 そして、再び濃厚なキス。 ああ、すごい。 雅樹は、こんなに興奮している。 「めぐむ、好きだよ。めぐむ。はぁ、はぁ」 雅樹はキスをしながら、僕のシャツを捲し上げようとしている。 このまま乳首を攻められて、そして、エッチ、しちゃうのかな。 「はぁ、はぁ、いいよ、雅樹の好きにして……」 僕は目を閉じた。 と、その時。 扉の向こうから拓海さんの声が聞こえた。 「おい、雅樹。ギター返してもらっていいか?」 「えっ?」 僕達は驚いて目を見開く。 すぐに扉が開く。 やばい! 雅樹は焦って僕の上から横に転がった。 でも、そこには僕達を見下ろす拓海さんの姿があった。

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