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1-17-1 同好会のすすめ(1)

今日は、図書委員の当番の日。 僕は、本を沢山載せたカートをゴロゴロと押して本棚を巡る。 返却された本を棚に戻す作業だ。 作業手順は、カウンターに一時保管された本をジャンルに仕分けをして、カートに詰め込み本棚に戻す。 秋の読書週間で貸し出された本が続々と返ってきているし、新刊もそこそこ入荷されている。 だから、なかなかのボリュームがある。 とは言っても、この作業はちょっとしたコツがある。 カートに本を入れる時、本棚の周り順を意識すると効率がいい。 僕は、本の分野と棚の配置はしっかりと頭に入っているので、最短ルートで回れるように工夫出来る。 上手く回れると達成感があるし、僕の密かな楽しみでもある。 「あとは、地域の歴史書かな」 今日は、ちょうどうまい具合に一筆書きで回れて、鼻歌まじり。 僕は、最後の一冊を手にして、棚に手を伸ばす。 「えっと、確かこの辺。あった、あった」 ちょうど、僕の目線あたりに本が1冊入る隙間が空いている。 ここだよ、って教えてくれているようだ。 本を挿し込もうとした時、ふと本棚の隙間から向こう側にいる人の姿が目に入った。 こんな奥に人がいるなんて珍しい。 誰だろう。 僕はそっと覗き込む。 あれ? 2人いる? えっ、嘘でしょ! 事もあろうか、2人はそこでキスをしているではないか。 あぁ、すごい……。 キスはキスでも濃厚なキス。 舌を絡めて唇を吸い合っている。 ちゅっぱ、ちゅっぱと音が漏れる。 でも、一番驚いたのは、2人とも男子生徒だったという事。 ひとりは、大柄でガッチリとした体格で短髪、日焼けだろうか、浅黒い肌の色。 きっと運動部の人だ。 もうひとりは、細身ですらっとしたシルエット。 一瞬見えた横顔に、ハッとする。 綺麗な顔。 髪型は、ショートマッシュ。 切り揃えられた眉毛、くりっとした瞳に二重まぶた、通った鼻筋、肉厚の唇。 アイドルみたい……。 その2人は、キスするたびに体を寄せ合い、擦り合っている。 上履きの色からして2人とも3年生。 ああ、それにしても……。 何て、激しく、魅惑的なキスなんだろう。 僕まで引き込まれてしまう。 はぁ、はぁ。 自分が興奮してくるのが分かる。 雅樹とのキスもこんな風にしたい……。 そう思って、はっとする。 やだ。 はしたない。 人のキスを見て、雅樹とのキスを思い浮かべるなんて……。 細身の人は、大柄の人の首に腕を回し激しく舌を突っ込む。 いやらしい。 もしかして、細身の人が、大柄の人をリードしているのかも。 それって、僕が雅樹にキスをねだるっているシチュエーションと同じ。 はぁ、はぁ。 体の芯がジンジンと疼いてくる。 キスしたい。 雅樹、僕もキスしたいよ……。 僕が釘付けになっていると、細身の人が一瞬、こちらを見る。 えっ? 目が合う。 妖艶な瞳。 クスっと笑ったように見えた。 僕は、慌てて本棚の影に隠れる。 見つかった! 僕は、火照った自分の顔を手でパタパタと扇ぎながらカウンターへ引き返した。 結局、最後の一冊は、手にしたまま。 さっきの人達がいなくなってから、戻せばいいか。 そう思って、しばらく間、時間を置くことにした。 時計を見た。 さすがに、キスは終わっているよね? しかも、僕に見られたと感づいたなら尚更、そそくさと立ち去って行くに違いない。 僕は、改めて本を戻しに向かった。 さっき、キスしていた場所。 本の隙間からそっと覗く。 よし、いない。 僕は、ホッとして、本を隙間に差し込んだ。 「へぇ、そうやって覗いていたのか?」 僕は、びっくりして声のした方に向いた。 声の主は、先ほどの細身の人。 その人は、僕に近づき、僕の顔を覗き込む。 近い。 キスでもするような距離。 ああ、こうやって間近見ると化粧でもしているのではないかと見紛うほど綺麗。 さっきのキスシーンが脳裏の甦る。 柔らかそうな唇。 口が開く。 「覗きはいけないなぁ」 えっ! 覗き? 別に覗きじゃない! それに、どうして僕がいけないの! 驚きから怒りに変わる。 僕だって、見たくて見たわけじゃない。 みんなが利用する図書室で、かってにイチャイチャしてたのは、そっちだ! 僕は、言い返す。 「覗きなんかじゃ有りません! ここに来たらたまたま見えたんです。いいですか、図書室では、あんな行為は慎んでください!」 「あんな行為って?」 へ? 何をとぼけているんだ。 上級生だからって、僕の大事な特別な場所で好き勝手は許さない! 怒りが増す。 「キスですよ、キス!」 「ははは。なんだ、やっぱりしっかりと見ていたんだな」 恥ずかしがる様子も無い。 肩透かしをされたような感覚。 「僕だって、見たくて見たわけじゃ無いですから!」 「ははは。分かったよ。覗きじゃない。うん、分かった。ところで、どう思った? 俺のキス」 「へっ? どうって……べつに……」 僕が口ごもっていると、その人は言った。 「べつに……か。君はすごいな、よっぽど凄いキスを知っているんだな」 えっ? なんか、調子が狂う。 「ところで、この事、秘密にしてくれるって事でいいよね?」 何という身勝手な提案。 でも、確かに大ごとすると面倒そうだ。 この人の言いなりでは癪だけど、しょうがないかぁ。 「分かりました。秘密にします。でも、もうやめてください。他の人に見られたら大変ですからね」 「了解! 了解! ははは。良かったよ。理解のある人で」 何という軽いノリ。 全く懲りていない様子。 僕は、溜息をついた。 「では。失礼します」 まぁ、いいや。 もう、会うこともないのだろうから。 僕は、振り返りもせずにカウンターへ向かった。 次の図書委員の当番の日。 僕は、デジャヴに遭遇する。 えっ! どうして! また、同じように一番奥の棚の所で、あの美形の人がキスをしている。 もう、あんなに言い聞かせたのに! あれ? 何だろう。 何か違和感が……。 分かった! よく見ると、相手が別の人なんだ。 今度も体が大きいのは変わらない。 短髪で浅黒いのも同じ。 ただ、同じ筋肉質の体でも筋肉の付き方は違う。 肩幅が異様に広く、首から肩、背中の筋肉が盛り上がっている。 この前の人は、どちらかと言うと下半身がガッチリしていた気がする。 このマッチョな人に絡みつくように、例の細身の人は体を押し付けている。 ちゅっぱ、ちゅっぱ。 半開きの口から舌と舌が弾き合い、絡め合っている。 はっ! 今度もまた、美形の人と目が合う。 「どう? 俺のキス」 とでも言いたそうに僕を見る。 きーっ! 本当に、頭に来た! 僕は、唇を噛みしめながら、一旦その場を去った。

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