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サイドストーリー1 チェリーフレンズ(2)
時は5月。
ついに。ついに、僕は雅樹と付き合うことができた。
ちょっとした試練のようなことはあった。
でも、それも雅樹は僕を傷つけまいとしたこと。
いまなら、それがよくわかる。
クスクス。
僕はよく無理難題をこなしたな……。
今、思い出しても、恥ずかしいし、でもやっぱり嬉しい。
誰かと付き合う。
生まれて初めての体験なんだ。
あぁ。
毎日、いろんなことを考えてしまう。
雅樹に何をしてあげようか。
どんなことをしたら、喜んでもらえるだろうか。
ウキウキした日常が始まっていた。
そんな、ある日……。
僕は、チェリー公園にやってきた。
桜の木はすっかり葉桜になって、新緑の青葉が生い茂っている。
こんな時期の桜も僕は大好き。
ところで、あの時のこと……。
そう、レオのことを思い出さないといえばウソになる。
あの目を思い出すと、いまでも怖くてぞっとする。
でも、ユキが言っていたように、この近辺に来るのは珍しいのかもしれない。
あれ以来、レオを見かけることはない。
もし、出くわしたらどうしよう。
ユキがいないときに出会ったら……。
怖い。
でも、レオが怖いからといって、それを理由に大好きなこの公園を避けることはしたくない。
会うときは会うし、会わないときは会わない。
それは、公園でも道端でも同じ。
ビクビクしていてもしようがないんだ。
だから、僕は何事もなかったかのようにここに足を運んだ。
その日は、別の驚きがあった。
公園に入ると、目に入ったのはユキの姿。
「ユキ、ひさしぶり!」
と声をかけようとして口をつぐんだ。
もう一人、別の人がいたからだ。
「へぇ、ユキのお友達かな?」
僕は遠目でユキを見る。
えっ!?
僕は目をまんまるにした。
ユキとそのお友達がキスを始めたのだ。
なぜか恥ずかしくなって僕は植え込みの陰に隠れた。
「あれは、ユキの恋人? すごいところを見ちゃったな」
僕はなおも覗き見る。
そして、ある事に気が付いた。
「あれ、お相手の人。もしかして男の子?」
目を凝らしてじっと見る。
可愛らしい。
背丈は僕よりも小さい。
中学生ぐらい、もしかしたら小学生かも。
半ズボンに短い髪型。
目がクリッとしていて可愛い。
服装からいっても、男の子に間違いない。
はぁ、はぁ。
僕は胸がドキドキしてきた。
男の子同士のキスって、なんかすごい。
きっと、このドキドキって、雅樹とのキスをいやがおうにもイメージしてしまっているからだ。
目を離せないで、凝視する。
軽いキスから、激しいキスになる。
ここまで、キスの音が聞こえてきそうだ。
ユキは相手の男の子を抱き寄せながら、リードしている。
男の子は気持ちよさそうに体をしならせている。
あぁ、二人とも気持ちよさそう。
雅樹とキスすると、あんな感じなのかな。
やばい。
あぁ……。
羨ましい。
僕は自分のペニスがいつの間にか勃起していることに気が付いた。
はぁ……。
しかたないよね。
僕は繁みのなかにそっと入った。
そして、左右を見回してひと気が無いのを確認すると、こっそりとチャックを開けてペニスを取り出した。
こんなにおっきくなっちゃった……。
おもむろにしごき始めた。
その間にも、ユキと相手の男の子の様子からは目を離すことができない。
ユキは、熱いキスを続けながら、その子の胸の辺りを触り始めた。
そして、シャツを捲ると、手をスッとシャツの中に忍ばせる。
きっと乳首を触っているんだ。
相手の男の子は、口を半開きにして声を上げているようだ。
そして、気持ちよいのか、足をガクッとさせる。
そっ、そんなにいいの?
僕は思わず、自分のシャツの下に手を入れ、自分の乳首を触った。
ちょっと固くなっている。
僕は乳首を指でちょん、ちょん撫でながら、尚もペニスをしごき続ける。
あぁ、気持ちいい……。
雅樹、だめだよ、そんな風に乳首をいじっちゃ。
だめ、だめ、ああん……。
はぁ、はぁ、もう出ちゃうよ。
あっ。
どぴゅ、どぴゅ。
ペニスの先から精子が飛び散る。
体がビクン、ビクンと痙攣した。
あぁ、気持ちがいい。
いってしまった。
いった後も、どろどろと白い液体がペニスの先から垂れていた。
あぁ……。
つい、オナニーをしてしまった。
しかも、こんなところで……。
僕はペニスをしまいながら、身なりを整えた。
さてと、ユキの様子は?
僕はユキの方をみると、もういなくなっている。
あれ?
そう思ったとき、後ろから声が聞こえた。
「おい、めぐむ。そこで何やっているんだ?」
仁王立ちしたユキの姿がそこにあった。
僕はベンチまで引っ張り出された。
そして、小さくちょっこんと座った。
ユキは腕組みをしながら、僕を睨む。
「ごめん、ユキ。覗き見するつもりはなかったんだ」
僕はユキに、ごめんなさいの手をして謝る。
「ふぅ」
ユキの溜息。
「いや、分かっているよ。で、どう思う?」
僕はユキを見た。
ユキは目をつぶっている。
そして、落ち着かなそうに指を小刻みに動かしている。
僕はユキが何を聞きたがっているのかわからず聞き返した。
「どう思うって?」
ユキは片目を開けて僕を見る。
「ほら、男同士のキスだよ」
沈黙。
なるほど、そういうことか。
「うん。いいと思うよ」
僕は素直に答えた。
「ほんとうか? 正直に言っていいぞ」
「本当にいいと思う。だって、僕だって……」
そこまで言って、ごにょごにょと誤魔化した。
「めぐむ、お前……もしかして」
ユキは目を見開いていた。
「めぐむの付き合っている奴って男なのか?」
「うん。そうだけど」
僕は、堂々と答える。
ユキにだったら隠すことはない。
別にいいや。
ところで、僕が誰かと付き合っている事、どうしてユキが知っているんだろう?
ユキに言ったかな?
まぁ、ユキは感が鋭いから、僕の言葉の端々でわかってしまったのかもしれない。
ユキは僕の言葉を聞いて、急に笑顔になった。
「ははは。なんだ、じゃ、俺たち同じだな」
「うん。そうだね」
よかった。
ユキは怒ってたわけじゃないんだ。
不安だっただけなんだ。
かわいい。
僕もつられて微笑む。
ユキは続けた。
「あいつ、俺とキスしてたのリクっていうんだ。ちょっと人見知りでな。今度紹介するよ」
先ほどの光景を思い出す。
気持ちよさそうな顔していた男の子。
リク君か。
そういえば、前にレオが言っていた言葉を思い出す。
リクがどうのこうの、って言っていた。
ということは、レオもリク君を気に入っているってことか。
うーん。
たしかに、リク君は可愛いと思う。
でも、リク君のことで、ユキはレオと対峙しているとしたら、罪な子だな。
「うん。可愛い感じの子だったね」
僕は率直に感想を述べた。
「へへへ。そう思うか?」
ユキはだらしない顔になった。
ぷっ。
僕から見ると、ユキのほうが可愛くてしょうがない。
抱きしめたくなる。
でも、そんなことはおくびにもださず、微笑みながら「うん」と答えた。
ユキは冗談交じりに続ける。
「あっ、めぐむ。お前、リクに手をだすなよ」
「ださないよ!」
もしろ、ユキ。
君とだったら考えるところだよ……。
「そうだったな。めぐむは、彼氏がいるんだもんな」
「う、うん」
そう答えて、そうだ。雅樹のことを相談しよう、と思い立った。
「そっか、めぐむはまだ、彼氏とはキスしてないのか」
「なかなか、難しくて」
雅樹とキスしたい。
いつも考えている。
家でも、授業中でも、放課後でも。
でも、そんなシチュエーションはなかなか訪れそうもない。
「だよな。男同士だとな。で、手は握ったのか?」
「実は、まだ……」
「ははは。そりゃ、まずは手を握らないとな」
「うん、そうなんだ。どうしたらいいかな」
ユキは、うーん。と腕組みをすると、「俺は、」と話し出す。
「俺は、ちょっと触れて、嫌がってないと感じたから、そのままスッと握ったな」
「へぇ。どうして嫌がってないってわかるの? 男同士だと嫌がるかもって不安でしょ?」
そう、僕の不安はこれ。
雅樹は、硬派なところがあるから、いちゃいちゃするのを嫌がるかもしれない。
僕も男だ。
そういう気持ちはよくわかる。
「そりゃ、触れてみればわかるよ。そいつを好きなんだろ? 雰囲気を感じてさ」
「なんだ。それじゃ、ちっとも分からないよ」
「まぁ、出たとこ勝負ってことだよ。ははは」
僕もつられて笑った。
結局は、勇気を出して一歩踏み出してみないと分からないってことなんだ。
ユキだって頑張っているんだ。
僕も頑張らなきゃ。
「ところで、」
僕は別の話題をユキに振った。
「ところで、ユキはいいよね。リク君とは、ラブラブなんでしょ?」
「ははは。まぁな。リクと出会ったのはさ……」
ユキが楽しそうに話し始めた。
リク君と付き合い始めたのは、リク君がレオに絡まれていたのを救ったのがきっかけらしい。
ずいぶんロマンチックな馴れ初めだ。
数々の因縁の対決を経て、今に至る。
話は誇張され、大いに着色されている気もするけど、ユキの自慢げに話す姿は微笑ましい。
僕は、手を叩いて「すごい、すごい」と、ユキを褒めたたえた。
ユキは、まんざらでもなさそうな顔をしている。
「そっか。ユキがこないだのレオって人から守ったんだね」
「あぁ、それでリクは、俺に惚れたってわけ」
「えっ? そうなの、僕はてっきりユキがリク君に首ったけなのかと思ったよ」
「まっ、まさか。へんなこと言うなよ、めぐむ」
ユキは心外だな、という表情をした。
でも、無理に作った顔ってすぐにわかる。
図星なんだ。
クスっ。
変な見栄を張っちゃって、かわいい。
僕はしらじらしく、分かったふりをして言った。
「へぇー。ごめんね。リク君に惚れられちゃったんだね」
「ああ、そういうこと。リクにはこのこと言うなよ。あいつにも男のプライドがあると思うからさ」
ぷっ。
僕は笑いをこらえて、うん。と頷いた。
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