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初めての…(2)
次に目を覚ましたのは自室のベッドの上だった。
「皐月様。目が覚めましたか」
使用人─名をすみれという─の声が聞こえる。
「あ…すみれ…」
すみれは、倹約家である父親の意向で、立花家に唯一仕えている1人だけの使用人だ。女性のような綺麗な名前に加え、体つきも細く、所作や言葉遣いも丁寧だが男性である。
母親を早くに亡くし、海外出張の多い父親に代わって皐月の面倒を見てくれている。
「おはようございます。ご気分はいかがですか」
皐月の起き上がろうとする身体を支えながら問う。
「…少し気持ち悪い…あと身体に力が入らない…」
「貧血でしょうか…ですが今まで貧血で倒れられたことはありませんでしたし、薬も適量を服用されておりますよね?」
薬とは抑制剤のことだ。皐月は自分がSubである事が分かってから毎日欠かさず、医者に言いつけられた適量を飲んでいる。
すみれの問いかけに頷きながら、入れてもらった水を飲み下し、今日あったことを話す。
「今まで感じたことが無いような感覚だった…身体が言うことを聞かなくて、手も足も震えて、でもあの時だけはそこまで気分も悪くなかったんだけど…」
もしかして、とすみれが顎に手を当てて少し考える素振りをする。
視線を上の方でちらちらさせた後、うーんと唸ったすみれは何かを決心したように皐月に向き直って、
「皐月様、お仕置きしましょうか」
とてつもなく突拍子もないことを言った。
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