3 / 9

初めての…(2)

次に目を覚ましたのは自室のベッドの上だった。 「皐月様。目が覚めましたか」 使用人─名をすみれという─の声が聞こえる。 「あ…すみれ…」 すみれは、倹約家である父親の意向で、立花家に唯一仕えている1人だけの使用人だ。女性のような綺麗な名前に加え、体つきも細く、所作や言葉遣いも丁寧だが男性である。 母親を早くに亡くし、海外出張の多い父親に代わって皐月の面倒を見てくれている。 「おはようございます。ご気分はいかがですか」 皐月の起き上がろうとする身体を支えながら問う。 「…少し気持ち悪い…あと身体に力が入らない…」 「貧血でしょうか…ですが今まで貧血で倒れられたことはありませんでしたし、薬も適量を服用されておりますよね?」 薬とは抑制剤のことだ。皐月は自分がSubである事が分かってから毎日欠かさず、医者に言いつけられた適量を飲んでいる。 すみれの問いかけに頷きながら、入れてもらった水を飲み下し、今日あったことを話す。 「今まで感じたことが無いような感覚だった…身体が言うことを聞かなくて、手も足も震えて、でもあの時だけはそこまで気分も悪くなかったんだけど…」 もしかして、とすみれが顎に手を当てて少し考える素振りをする。 視線を上の方でちらちらさせた後、うーんと唸ったすみれは何かを決心したように皐月に向き直って、 「皐月様、お仕置きしましょうか」 とてつもなく突拍子もないことを言った。

ともだちにシェアしよう!