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第26話 お出掛け
朝、一番良いスーツを着せられた
ネクタイをしてブレザーを着て、半ズボンをはいた
着せてくれたのは、とぅちゃだった
かぁちゃは笑って
「流生、男前だぞ!」と言ってくれた
他の兄弟はお留守番
流生は……
少しだけ悲しかった
かぁちゃがチャイルドシートに座らせてくれた
チャイルドシートの横にかぁちゃは座ってくれた
榊原は笑顔で運転していた
「流生、良い子してろよ」
康太が言うと流生はお手々を上げた
「あい!」
良いお返事だった
「かぁちゃ……かけゆは?
ちな、きゃな…おとたんは?」
流生は不安な瞳を康太に向けて兄妹の心配をした
「今日は流生だけ、お出掛けだ!嫌か?」
流生は首をふった
かぁちゃと手を繋いで車に乗っていた
何処へ行くか不安で……堪らなかった
康太は携帯電話を取り出すと電話を掛けた
「若旦那、お久し振りです」
『康太!久しぶりです』
「今日時間が合えば、少しお会いしたいのですが?」
『時間はあります!
少しと言わなくても、時間は取ります!』
「トナミ運輸に伺っても宜しいですか?」
『はい、構いません!
では、お待ちしております』
電話を切ると康太は笑った
「伊織、トナミ運輸に行ってくれ」
「そう来ると想って向かってます」
康太は流生の頭を撫でた
「流生はとぅちゃとかぁちゃが好きか?」
「ちゅき!とぅちゃもかぁちゃもらいちゅき!」
「とぅちゃもかぁちゃも流生が大好きだぞ!」
「ちょれ、うれちぃ」
流生はニコッと笑った
笑った顔は一生にソックリだった
頑固な眉毛と目元は一生にソックリで鼻と口は母さん似だった
「康太、トナミ海運です」
「うし!行くとするか!」
榊原が駐車場に車を停めると、康太は車を下りた
そして反対側のドアを開け、チャイルドシートから流生を抱き上げた
康太は流生を抱っこしたままトナミ運輸の社内へ入って行った
榊原は受け付けに到着を告げると、事前に連絡が入っていて
「どうぞ!社長がお待ちになっております」
康太は笑って「ありがとう」と言った
流生も「とう!」と頭を下げた
受付嬢は流生の可愛さに
「可愛いお子さんですね」と賛辞を述べた
「ありがとう!」
康太は笑って榊原と共に最上階へと向かうエレベーターに乗り込んだ
最上階へと行くと、田代が康太を待っていた
「康太さん」
声を掛けると康太は笑って手を上げた
「田代、久しぶりだな」
「康太さん……流生……ですか?」
「田代、流生君と呼んでくれ」
田代は、え?と想いながらも
「流生君!」と呼んだ
すると流生は手を上げて
「あい!」とお返事をした
田代は「……可愛い……」と呟いた
康太は流生を床に下ろすと手を繋いだ
そして社長室へと入って行った
戸浪は康太が入って来ると喜んで出迎えた
「康太!………ぁ……」
戸浪は流生の姿に息をのんだ
田代が康太と流生と榊原をソファーに座らせた
「流生、ご挨拶は?」
康太が言うと流生は立ち上がって
「ちわ!」とペコッとお辞儀をした
「……うわっ……可愛い……」
戸浪は呟いた
康太は「飛鳥井流生!」と名を呼ぶと
流生は手を上げて「あい!」とお返事をした
戸浪はハンカチを出して目頭を押さえた
康太は流生を抱き上げて、ソファーに座らせた
「若旦那……亜沙美が……帰って来てるだろ?
顔を見せてやれよ!」
「………え?……」
「流生はオレの子供だ……
だがな……年に一回……顔を見る位……しても良いと想う…」
「………康太……本当に……」
後はもう……言葉にはならなかった……
「オレは……ここにいる
だから流生を連れて……顔を見せて……行って構わねぇ…」
「………本当に……良いのですか?」
「……流生はやれねぇけどな…」
「流生は君の子供です…
それは変わる事がありません」
「若旦那、流生を連れて行け…」
康太は戸浪にそう言うと
流生に「流生、おじちゃんと少し散歩に行って来い!」と言った
「とぅちゃとかぁちゃは?」
「とぅちゃとかぁちゃは此処にいるかんな!大丈夫だ!」
流生は頷いた
戸浪が流生に手を差し出すと…
流生は戸浪の手を握り締めた
戸浪は流生の歩幅に合わせて……部屋を出て行った
部屋を出ると戸浪は流生を抱き上げた
そして副社長室のドアをノックした
部屋がガチッと開いて亜沙美が顔を出した
「兄さん、どうなさ……」
亜沙美は言葉を失った
戸浪は流生を亜沙美に渡した
「……康太が……ほんの少しだけ……時間をくれました……」
「………流生……なのですか?」
亜沙美は泣いていた
亜沙美は流生に問い掛けた
「……流生?」
そう問い掛けると流生は
「あい!」と返事して手を上げた
「………可愛い……目元が……あの人に……ソックリ……」
亜沙美は流生を強く抱き締めた
「りゅーちゃ、かぁちゃらいちゅき」
ニコニコ笑って流生が答える
亜沙美は泣きながら……
「……かぁちゃが大好きなのね…」と答えた
「りゅーちゃ、とぅちゃもらいちゅき!
かけゆもおとたんもちなもきゃにゃも、らいちゅきにゃの」
迷うことなく口にする
「……兄弟?」
亜沙美は戸浪に問い掛けた
「翔、音弥、太陽、大空、と言う兄弟が流生にはいるんです」
「……そうなの……流生には沢山兄弟がいるのね」
「じぃじもばぁちゃもじぃちゃもばぁちゃも、らいちゅきにゃの」
流生は楽しそうに家族の事を話す
「大切にされてるのね……」
亜沙美は流生の頬に触れた
柔らかい頬は……亜沙美の子供の時に似ていた
流生はポッケの宝物を亜沙美に見せた
真っ青なまん丸の玉を亜沙美に見せた
「りゅーちゃのたいちぇちゅにゃの!」
ポッケの膨らみはそれなのか……と納得した
手にしてみれば……子供が持てる様な…ものじゃないと解る品物だった
「これ、どうしたの?」
亜沙美は優しく問い掛けた
「きょれにぇ、とぅちゃがきゃってくれちゃの!」
嬉しそうにそう言い流生は笑った
「そう……良かったわね」
「にゃまえ?」
流生は亜沙美に名前を問い掛けた
「………亜沙美……よ」
「あちゃみ……りゅーちゃちゅき?」
「大好きよ流生……誰よりも愛してる……
貴方の幸せを願ってるわ」
「あちゃみ……まちゃあえりゅ?」
「…………ええ……また逢いましょう……」
亜沙美は笑った
聖母の様な笑みは……母であると……実感させた
戸浪は胸が痛んだ……
自分の作った罪だった………
亜沙美は流生を戸浪に返した
「………兄さん……この子を……連れ去ってしまいたい……」
「亜沙美……」
「………私の子よ……あの人の……血が流れた……私の子よ……」
「……許してくれ……亜沙美……」
「兄さん……ありがとうございます
康太さんにもお礼を言っておいて下さい……」
「………亜沙美……一緒の写真を撮ってやろうか?」
「………え?……」
「離れていても……お前は流生の母親だ
康太はだから敢えて……お前が帰国してる時に……流生を連れて来てくれた……」
「………兄さん……」
「ほら、流生を抱き上げて…」
亜沙美に流生を渡した
戸浪はカメラを構えて
「流生、笑って
亜沙美も笑って……」
と声を掛けた
流生は笑った
亜沙美も笑っていた
頬を涙で濡らしていても……笑顔を向けていた
写真を撮ると……亜沙美は流生を戸浪に渡した
「……兄さん……本当にありがとうございました
康太さんにもお礼を言っておいて下さい……」
「解った……」
流生は無邪気に笑っていた
亜沙美はその姿を見て…泣いていた
戸浪は流生を抱き上げて……社長室へと戻った
流生を康太に返して……深々と頭を下げた
「………本当にありがとうございました……」
「若旦那、頭を上げてくれよ!」
榊原は康太の手から流生を抱き上げると、ケーキを流生に食べさせた
「とぅちゃも!」
「とぅちゃも食べますよ」
食べたフリ……して流生にケーキを食べていた
お口をケーキのクリームでベタベタにして流生はご機嫌だった
榊原がウェットティッシュでお口を拭った
そしてハンカチで綺麗に拭いてやった
「りゅーちゃ、とぅちゃらいちゅき!」
「とぅちゃも流生大好きですよ」
榊原は笑って言った
「流生、ポッケのありますか?」
榊原が聞くと、流生はポッケから青い玉を榊原に見せた
「落としてませんね」
「らいじょうぶ!」
榊原は流生の手から青い玉を取ると、ポッケに入れてあげた
戸浪は「……ラピス……ですよね?」と問い掛けた
「流生がほちぃ……と言うので買ってあげたのですよ」
「……かなりの金額……しますよね?」
榊原は笑った
「親バカなので……強請られると……ついつい……」
「流生は幸せですね……」
戸浪は呟いた
康太が「オレの大切な子供だかんな!」と答えると、流生は康太に抱き着いた
「さてと流生、帰るか?」
「うち!いくじょ!」
流生は気合いを入れた
「本当に……可愛いです」
「オレの子だかんな!」
「……ええ…解ってます」
「若旦那、今日は本当にありがとう」
「……いいえ……私の方こそお礼を言わねばなりません……」
「……時々逢ってやってくれ…」
「……良いのですか?」
「……オレは母親にはなれねぇかんな……」
康太は哀しそうに笑った
戸浪は言葉もなく……康太と榊原と流生を見送った
社長室の外に出て、エレベーターに乗り込む
康太は流生を抱き上げて
「バイバイして!」って言った
流生はバイバイと手をふっていた
副社長室のドアから亜沙美が、そっと流生を見送っていた……
エレベーターのドアが閉まる瞬間まで……流生は手をふっていた
亜沙美はそれを泣きながら……見送っていた
帰りの車で流生は眠ってしまっていた
康太は「………母親には勝てねぇよな」と呟いた
榊原は「この子たちの母親は君ですよ」と言った
「………何時か……本当の事を知ったら……恨まれるのかな…」
覚悟なら出来ていた…
だが……そんな日が来るのは……怖かった
「康太、僕達の子供です」
「……うん……伊織……愛してる」
「僕も愛してます……奥さん
僕も一緒に恨まれます……
だから哀しまないで……」
「……ごめん……伊織…」
「家に帰りましょうか」
康太は頷いた
とぅちゃとかぁちゃとお出かけした日
何だか疲れて眠くなった
お出掛け【後日談】
流生がかぁちゃととぅちゃとお出掛けに行った晩
3階の子供部屋の前の広間で遊んでいた
子ども達は今、子供部屋一部屋にベッドを5個入れて寝ている
まだ一人ずつ個室で寝かすのは…無理だから
ぐっすり眠れる様に、3階の廊下には子ども達が遊べる空間が作ってあった
流生は一生と遊んでいた
ついつい夢中で遊ぶ流生のポッケから……
青い玉が転がり落ちた
一生は青い玉を取ってやると、流生が
「あいがと!」とペコッとお辞儀した
一生は青い玉を流生に渡すと
「どーいたしまして」と笑っていった
「きょれね」
「うん」
「あちゃみにもみちぇたの」
「…!!!……流生……
お前今………何て言った?」
「……??あちゃみ?」
亜沙美!!
何で………流生が知ってる??
一生は驚愕の瞳で……流生を見た
慎一が3階に来て子ども達を見る
「眠くなりそうですか?」
「ちなね、ねむゅくにゃい」
「きゃにゃもね、ねむゅくにゃい!」
慎一は困った
音弥は歌を歌いながら、サイコロと格闘していた
「音弥、その歌は初めてですね?」
「ひゃやとが、おちえてくりぇたの」
「隼人が……良かったですね」
慎一は音弥の頭を撫でた
そして唖然としている一生に声をかけた
「……一生、どうしたのですか?」
「………流生……亜沙美に逢ってるのか?」
「それは俺は知りません
康太に聞けば良いでしょう?」
「………聞くのが怖い……」
一生が呟くと……3階に康太が上がって来た
「こら!オムツしたのは寝る時間だろうが!」
康太が怒ると子ども達は嬉しそうに、かぁちゃに抱き着いた
「かぁちゃ」翔が甘える
「かぁちゃ」流生も甘えた
音弥も「かぁちゃ」と足に抱き着き
太陽も「かぁちゃ」と甘えた
大空は「らっこ」と抜け駆けして抱っこして貰った
榊原が現れると「とぅちゃ!」喜んだ
子ども達はとぅちゃとかぁちゃが大好きだった
「流生、お出掛けしたのに眠くねぇのかよ?」
「りゅーちゃ、ねむゅくにゃい」
「でも寝る時間だぞ!」
「りゅーちゃ、ぎゃんばる」
「うし!それでこそ、かぁちゃの子供だぞ」
「りゅーちゃ、かぁちゃのころも!」
キャッキャッと嬉しそうにはしゃいで康太に抱き着いていた
康太はしゃがんで5人の子供を抱き締めた
キャッキャッと嬉しそうにはしゃいで康太に抱き着いていた
康太はしゃがんで5人の子供を抱き締めた
「とぅちゃとかぁちゃの大切な息子達だ!大好きだぞ」
子供達は嬉しそうに康太にチュッとした
康太は5人からチュッとされて嬉しそうだった
榊原は翔と音弥を抱き上げた
慎一は太陽と大空を抱き上げた
康太は流生を抱き上げた
「さぁ、ねんねの時間だ!」
北斗が絵本を抱えてやって来た
「ほきゅと!」
子供達は絵本を読んでくれる北斗が大好きだった
一緒に遊んでくれる和希と和馬も大好きだった
子供部屋のベッドに寝かされて、ご本を読んで貰う
子供達はスヤスヤ寝息を立てるまで、北斗は本を読んでやっていた
子供達が眠ると北斗は自分の部屋へと行った
「一生、何か言いたい事でもあるのかよ?」
康太はスタスタと自分の部屋へと行って、リビングのソファーに座った
一生もソファーに座って……
「………流生が……あちゃみ……って言ってた…」
「おう!今日、亜沙美に逢ってるかんな!」
「何で!流生はおめぇの子供だ!」
「産みの親には叶わねぇよ…」
康太は悲しそうに……そう言った
「……そんな事言うなよ……
流生は飛鳥井康太の子供じゃねぇかよ……」
「流生はオレの子供だが……
おめぇと亜沙美の子供でもあるんだ……
オレは……逝く前に……それを本人に伝えるつもりだ……
流生だけじゃねぇ……翔、音弥、太陽、大空……全員に……親との時間を作る
自然に……脳にインプットする様に自然に逢わせる
その方が全部知った時に…知らない人間じゃねぇかんな
子供達も受け入れやすいかも知れねぇかんな……」
一生は康太を抱き締めた
「………こいつらは……とぅちゃとかぁちゃが大好きだ……
この先も……それは変わらねぇ…
こいつらの両親はおめぇらだけだ!
真実を知っても……お前を母だと言う隼人の様に……
それは変わらねぇと俺は想う……」
「………全く知らずに……子供の成長を知らずに……
それは流生も望んでねぇよ…」
「………康太……頼むから……」
流生からかぁちゃを取り上げないでくれ!
兄弟を取り上げないでくれ……
一生は泣いて頼んだ
「こんなに仲の良い兄弟もいねぇよ……
羨ましい程に……あいつらは兄弟じゃねぇかよ……」
「飛鳥井流生
流生の行く道は変わらねぇ…
育てるのはオレらだ
だが……父や母を全く知らずに過ごすよりは良い……」
「……本当におめぇは……」
後は言葉にはならなかった
一生は泣いて……泣いて……
眠った
榊原は一生に毛布をかけて
一生の横に座った
康太は榊原の膝の上に乗った
2人して一生の頭を撫でてやった
「……こいつの……こんな姿は見たくねぇな……」
誰よりも傷付いてるのは康太だった…
一生が目覚めるまで……
2人は……一生を優しく撫でていた
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