34 / 163
第34話 静流 飛鳥井に来る
ある日の日曜日 榊原の携帯が突然鳴り響いた
着信を見ると意外な人からの電話だった
「もしもし…」
「伊織、飛鳥井に遊びに行きます!」
「………え?何時ですか?」
「これから!じゃあね!」
清家はそう言い電話を切った
榊原は苦笑して康太に
「静流が来ます」と告げた
「………静流?あんだろ?」
康太は応接間で子供達と遊んでいた
流生の脇をこそばかしていた
「流生、ギブは?」
「……やら!キャッキャ……」
中々頑固な流生は根を上げない
まるで一生みたいに限界超えてもギブは言わない
康太は流生を抱き上げてお腹をしまった
「お客さん来るぜ
お行儀よくしてろよ!」
流生は片手をあげて「あい!」と返事をした
「翔、ポンポン出てるぜ」
無頓着な翔はお腹が出てても気にしない
康太はお腹をしまってあげた
音弥はクレヨンでお絵描きしていた
太陽は音弥のお絵描きを見ていた
大空は寝転がって空を見を見ていた
康太は大空を抱き上げると
「かな、おめぇはじじいかよ?
緑茶いるか?」
ほっぺにチュッとすると大空は嬉しそうに笑った
清家がインターフォンを鳴らすと慎一はカメラを作動した
「静流、今開けます」
そう言い応接間を出て行く慎一の後を追って流生も応接間を出た
最近、流生は慎一の後を追うのがお気に入りだった
慎一がドアを開けて清家を迎え入れる
清家は慎一の足にへばり付く存在に気付いた
「……流生、こんにちは!」
清家が挨拶すると流生は
「ちわ!」と頭を下げた
「可愛いな流生は」
清家は流生を抱き上げた
応接間に入って行くと、康太が我が子と犬と遊んでいた
「………そのシュナウザー、チャンピオン犬?」
清家が言うと康太は驚いた顔をした
「すげぇな……あんで解るんだよ」
「………首輪、その首輪はチャンピオンしかはめられない首輪だよ?」
清家が言うと康太は
「……えぇぇ!そうなのよかよ…」と仰け反った
「チャンピオン犬……とは……美緒から聞いてる…」
「美緒って?誰?」
「貴史の母ちゃん」
「………仲良いんですか?」
「仲良いと言うか、母ちゃんと親友だから、よく家で飲んでるぜ!」
驚きだった
「………貴史……すぐに来る?」
「あんだよ?貴史に用があったのかよ?」
「いや、用は伊織にあるんです!
脚本を頼もうかも想っています」
「………静流、僕は今脚本は書いてません…」
「歌舞伎の脚本です!
駄目ですか?」
康太は清家をソファーに座らせた
そして応接間を出て行った
飛鳥井の家を出ると裏の兵藤家へと行く
兵藤の家のインターフォンを押すと、美緒が飛び出した
「康太ではないか!」
熱烈歓迎で抱き着かれる
康太は「貴史!」と叫んだ
兵藤が階段から下りて来ると美緒に抱き着かれた康太がいた
「……美緒、俺の客に抱き着かない様に……」
「康太、うちの子にならぬか?」
「貴史がいじけるからヤだ!」
「誠……憎いよな……その台詞」
幼稚舎の頃から、その台詞で逃げられ続けてる
美緒は笑っていた
兵藤は康太を回収すると外に出た
「静流がうちに来てる
おめぇに逢いたそうだったぞ」
「静流………俺、昨日も逢ってたぜ…」
「……え?あんでだよ?」
「………同窓会の幹事、おめぇ成人式の日に俺と静流に押し付けたじゃねぇかよ!」
あ………やぶ蛇ってこんなことを言うんだろうな……
康太は苦笑した
「んなに早く同窓会開くのかよ?」
「違う、OB会の方々がおめぇに逢いたいとうるせぇんだよ
でなOB会顔見せやるんだよ」
「………OB会 なら……オレは……」
出ねぇ……と言いかけて兵藤が
「おめぇを待ってる重鎮いるからな!バックれるなよ!」
「………う!………」
康太を黙らせて兵藤は飛鳥井の家と向かった
応接間に行くと清家が榊原を睨み付けていた
兵藤は険悪な雰囲気に
「おいおい、どうしたんだよ?」
と割入った
清家が「…… 伊織がケチだから…」とボヤいた
榊原が「……静流が横暴なんですよ……ドSですからね……」と言い一歩も引かなかった
康太はニコッと笑うと
「伊織…」
「何ですか?」
「近い将来、映画撮りたいんだろ?清四郎さんの……
ならリハビリはしてかねぇとな、腕が鈍るぞ?」
と言った
「………康太……」
康太は子供を榊原の前に立たせると
「皆でとぅちゃ頑張れ言うぞ」
と言った
子供達は榊原を見て
「「「「「とぅちゃ、ぎゃんびゃれ!」」」」」
とエールを贈った
「………奥さん……ズルい……」
榊原は翔を膝の上に乗せた
流生が榊原の膝の上のよじ登った
「流生、おいで!」
榊原が抱き上げて膝に乗せた
清家は「………伊織が父親だなんてな……嘘みたいだな…」と呟いた
「静流、僕はこの子達の親として生きていたいのです
愛して育てて行く……
何時か……本当の事を知って……
恨まれる日まで……僕は親で居続けようと……妻と決めたのです…」
榊原はそう言い康太を抱き締めた
一生は涙をこらえて見ていた
聡一郎も隼人も……慎一も……
そんな二人を支えていた
清家は「今度玩具を買って来よう!」と言った
「僕もお前達の子を見守らせてくれ……」
「仕方ないですね……
脚本は書きます……」
「ありがとう康太」
「静流……礼を言うのは僕じゃないんですか?」
「妻の助言がなきゃ断る気だったんだろ?」
「…………そうです。
僕の大切なのは妻と家族と仲間だけです」
「腐れ縁をそんなに簡単に切れると想うな」
清家は笑った
兵藤も笑っていた
学友と語り合い笑える自分がいた……
まだ歩いていける……
清家は見失いそうな自分を見つけ出した
その夜は飲み明かし、騒ぎまくり過ごした
楽しい日だった……
ともだちにシェアしよう!