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第37話 音弥
音弥はお歌が大好きだった
じぃじに覚え立ての歌を聴かせると、じぃじは嬉しそうに頭を撫でてくれる
音弥はそれが嬉しくて、お歌を歌っていた
なのに……じぃじがいなくなった
かぁちゃに「じぃじは?」と聞くと……
かぁちゃは何時も辛い顔をする
そして代わりに一生が答えるのだった
「じぃじは遠くに逝ったんだ
でも、ちゃんと音弥を見てる……だから写真に向かってお歌を歌ってあげな」
「……かじゅ……いちゅかえりゅの?」
「………大きくなったら解る…」
一生はそう言い音弥の頭を撫でた
「………かじゅは……」
音弥は俯いて……一生に話し掛けた
「何だ?」
「……りゅーちゃ……ちか……ちゅき……にゃにゃい…」
ショックだった
どの子も変わりなく接しているのに………
まさか……音弥はそう感じていたのか……
一生は音弥を抱き上げた
「俺は音弥が大好きだぞ」
「………おとたん……ちらわれてりゅ……」
何処で覚えたんだよ…
一生は頭を抱えたくなった
「音弥、俺はどの子も大好きだぞ?」
音弥は下を向いて……黙った
康太は音弥を一生から貰い抱き上げた
「皆 音弥が大好きだぞ」
「……ちらうもん…」
「かぁちゃは音弥が大好きだぞ」
音弥は康太に抱き付いて泣いた
一生は………
「………俺って……あからさまな態度してる?」
と……康太に問い掛けた
「………この前、地震あった時、おめぇは流生を真っ先に抱き上げて避難させた
あの時……音弥は最後だった
だからイジケてるんだよ」
………あ………そう言えば……
隼人は音弥を抱き上げた
「こんなに康太に愛されてて文句を言わないのだ」
「ひゃやと……」
「音弥は皆に愛されてるのだ」
「………ちらうもん……」
「なら今度はオレ様が音弥を一番に抱き上げて避難させるのだ」
「……ひゃやと…」
「………お前を愛してるのだ……」
菜々子も……
抱きしめられないけど……
愛して止まないのだ
それを忘れないで……欲しい……
隼人はそんな想いを込めて音弥を抱き締めた
康太は青い顔して……子供達を優しく見つめていた
音弥は、かぁちゃに手を伸ばした
「かぁちゃ……」
康太は音弥を貰い受け、抱き締めた
「かぁちゃ……ちゅらい?」
「辛くねぇ…大丈夫だ音弥」
「かぁちゃ…」
かぁちゃととぅちゃがいてくれれば……それで良い
音弥はそう思った
流生は音弥の側に行こうと、康太の膝をよじ登っていた
「流生、どうしたよ?」
「おとたん……ないちぇる…」
流生は泣きながら……そう言った
「流生、おめぇが泣いてるじゃねぇかよ?」
かぁちゃの腕に抱かれ……流生は音弥に抱き着いて泣いた
「……おとたん……りゅーちゃいる」
翔も太陽も大空もソファーによじ登った
そして音弥を抱き締めた
康太は抱き合う兄弟を見て
「おめぇらは本当に仲が良いな……
大人になっても仲良しでいろ!
生きてる限り……
兄弟助け合って生きて行け……」
康太は5人の我が子を抱き締めた
一生は己の不甲斐なさに泣いた
流生は我が子だった……
だけど……5人の子供達を差を付けた想いはない
自分の知らない所で……
それが出てた?
地震の時……
かなり大きくて一生は流生を抱き上げた
泣いて怖がる子供の中から……流生を抱き上げて……慰めた
音弥は一番最後だった
怖かったろうに……
音弥に差し出される手はなかった……
ごめん音弥……
ごめん……
嫌われても当たり前だった
我が子を優先してしまった……
一生は自分のした事の大きさに…悔やんだ
どの子も愛す……
どの子も変わりなく愛す……
そう心に誓ったのに……
隼人は子供達の前に跪くと
5人の子供達を抱き締めた
「……音弥…泣き止むのだ…
でないと……オレ様も泣くのだ…」
「ひゃやと……にゃくのらめ…」
音弥は隼人を撫で撫でした
そして一生も撫で撫でした
「かじゅ……にゃくのらめ…」
「音弥……」
「おとたん…わりゅいこ……」
一生は音弥の頭を撫でた
「音弥は良い子だ」
「かじゅ……」
「音弥は良い子だ
俺は大好きだぞ」
「かじゅ…」
「優しい手を忘れるな音弥…
抱き締められない想いも……忘れるな音弥……」
隼人も音弥を撫でた
菜々子の分も……
お前に愛を伝える……
オレ様はお前を見守ると決めたのだ
「……ひゃやと……」
「何だ?」
「ちゅき……にゃのら」
音弥の言いぐさに……
隼人は泣きながら音弥に抱き着いた
康太は隼人の頭を優しく撫でた
「………想いは………伝わってるさ……」
「……康太……」
「菜々子の愛を……お前が教えてやれ……
何時か……教えてやれ……」
「……康太……」
「……オレは……それまで生きれるか解らねぇからな……」
康太がそう言うと隼人は泣き出した
「……康太……そんな事は言うな……
康太がそんな事を言うと……オレ様は死にたくなるのだ……」
「オレの長男だろ?」
「………そうなのだ……」
「ちょうにゃのら」
隼人が言うと音弥も真似して言った
隼人は笑いながら音弥を抱き締めた
「一生、笑ってろ」
「………康太……」
「強い父の背を見せてやれ…」
「解ってんよ
俺は………康太……」
「変わりなくオレの側にいろ
辛くてもな……おめぇの逃げ道はねぇんだよ……」
「……っ……お前の側は辛くなんかねぇよ!」
一生は康太を抱き締めた
「………辛いのは……おめぇの側に逝けれねぇ事だ!」
一生は叫んだ
康太は笑っていた
涙を笑顔に隠し……
生きて行く
背負った荷物の重みに潰されそうになっても……
這い上がり……笑顔を絶やさない
それが…自分が選んだ道だ
「かぁちゃ……」
「どうした音弥」
音弥は何も言わずに康太に甘えた
「音弥、後で好き嫌いの克服やんぜ!」
音弥はプルプル首をふった
隼人が音弥を抱き上げると
「オレ様付き合ってやるのだ…」
「……おとたん ちゅきやっちぇ…やりゅのら」
音弥は隼人の口癖を真似て偉そうに言った
康太は笑っていた
音弥も笑っていた
こんにゃ ちも わりゅくにゃいのら
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