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第41話 翔(かける)
翔は寡黙な男だった
瑛太によく似て、寡黙な不器用な男だった
だが、兄弟の中で信頼が一番厚いのは翔だった
困った時
悲しい時
兄弟は何時も「かけゆ」と頼る
翔は誰よりも兄弟を愛して護っていた
まるで瑛太の様に…
寡黙な男は静かに兄弟を護っていた
「違う!翔!」
修行に入ると……かぁちゃは厳しい鬼になる
「目で見るな!
心で感じて見るんだ!」
ちよれ……わからにゃい……と言って……止めちゃいたい
でも翔は必死で…かぁちゃに応えようとする
泣きながら……泣き声は上げない
「出来ねぇのかよ?」
翔は頷いた
すると康太は背を向けた
こっち向いて……かぁちゃ……
翔は祈るような気持ちで……
かぁちゃに応える
目で見たのは脳が映した映像に過ぎない……とかぁちゃは言う
目に見えない先を見ろ
かぁちゃは言う
翔には目に見える世界しか見えなかった
日々の修行で研ぎ澄まし……本来の力を解放する
それまでは……母は厳しい鬼になる
「……かぁちゃ……」
翔は泣いていた
康太は振り向かない
翔には見えていた
源右衛門が死に逝く様が見えていた
それ以来……見るのは怖くなった
「見たんだろ?翔」
翔は首をふる
「見えてる先が真実だとしても……
オレ等はそれを受け止めねぇとならねぇんだ
目を背けるんじゃねぇ!
受け止めるんだ」
流生、音弥、太陽、大空も修行は一緒にしていた
その中で一番辛く翔に当たっていた
翔が一番辛い修行をさせられていた
和希が翔の傍に行く
「翔君 大丈夫、君はちゃんと見えてるんだよ
心の目を閉ざしたらダメだよ」
と翔を慰めた
和馬も翔に声をかける
「お兄ちゃん達も修行したんだよ
僕達も力を持って生まれたからね…」
優しく和希と和馬が翔を抱き締める
翔は立ち上がって康太の前に立った
「………かけゆ……ぎゃんびゃる」
「翔……辛くても修行して行かねぇと……
おめぇは飛鳥井家 真贋になるんだからよぉ!」
明日の飛鳥井は翔が継いで行く
その為に日々の鍛錬は必要だった
子供全員に合気道を教える
ダメな時は叩いて教える
「ダメ、カタチからなってない!」
ダメ出しされて、堪えて頑張る
弱音を吐く子はいなかった
飛鳥井の道場で日々鍛錬に励む
康太は師範代として他の生徒にも教えていた
厳しい鬼と化して師範代を務める
そんな時のかぁちゃは……
少しだけ怖かった
優しいかぁちゃ……じゃなかった
でもバサバサ人を薙ぎ倒して訓練するかぁちゃは格好良かった
修行が終わると、かぁちゃは優しくなる
翔の怪我した手を撫でてくれた
「辛いか?翔……」
傷付いた哀しそうな瞳で……かぁちゃが聞く
翔は首をふった
「ちゅらきゅにゃい!」
「翔は偉いな」
「かぁちゃ…」
翔はかぁちゃが大好きだった
修行が終わると、とぅちゃがやって来る
榊原は翔を抱き上げて
「今日も頑張りましたね」
と頭を撫でてくれる
怪我した処を撫でてくれる
「……とぅちゃ……」
「どうしました?翔」
「……かけゆ……ぎゃんびゃる」
「そんなに頑張らなくて良いです
とぅちゃがいる時は頑張らず甘えなさい」
優しく甘やかしてくれる……とぅちゃの腕にいると安心した
かぁちゃも笑っていてくれるから……
家まで手を繋いで帰る
兄弟やとぅちゃとかぁちゃと帰る
翔はそんな時間が大好きだった
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