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第43話 苦悩
一生は飛鳥井の主治医の病院
飛鳥井記念病院の待合室で座っていた
外来の時間も終わり、人気のなくなった待合室で、長身の男は目立った
慎一は康太の食事の打ち合わせに来ていて……
そんな光景を目にした
一生は項垂れて座っていた
慎一は一生に近寄った
「一生、どうしたんだ?」
慎一の声に一生は顔を上げた
「久遠に……北斗の病状を聞きに行ったんだ…」
「……で、どうだったんだ?」
「北斗……オペの経過は順調だけどな……リハビリがまだ始められねぇらしいんだ…」
「リハビリは急がなくても良いだろ?」
「………北斗の夏休みを……ベッドの上で過ごせって言うのか?」
「………仕方ないだろ?
無理させて悪化でもしたら……その方が長引く」
「………夏休みなんだぜ?
他の子は……遊んで過ごしてる夏休みを……
北斗はベッドの上で過ごせって言えるのかよ!」
一生は涙ながらに訴えた
「……一生……言いたい事は解る……だがな夏休みが終わろうが……冬休みが終わろうが……
今治しておけば……これからはちゃんと休みが迎えられる」
「小学一年の夏休みは……2度と来ねぇよ……」
一生は悔しそうに言った
慎一の言ってることは解る……
正論だ
だが一生は悔しくて仕方がなかった
今まで散々苦しんで来たんだ
夏休み位は……少しでも迎えさせてやりたかった
それがいけないと言うのか?
「………慎一 おめぇの言う事は正論だ……」
「………一生……」
「だけど、アイツの父親は俺だ
この世でたった一人の父親なんだ……」
「北斗の父親は君しかなれません……
康太が許さないでしょ?」
「……遊びたい盛りだぜ?
それをベッドの上で過ごせって……過酷すぎねぇかよ?
北斗は散々頑張った……
なのに……これからも 頑張れなんて……俺は言えねぇ……」
「……一生……笑ってなさい!
康太ならそう言いますよ」
「………笑えねぇから……此処にいるんだよ
…解ってんよ……あと少ししたら……俺は誰よりも強い父ちゃんとして……笑ってる…」
慎一は一生を抱き締めた
「……康太……子供達の前では何時も笑ってるよな……
どんなに苦しくても子供達の前では……笑ってる……
強いよな……
俺はあんな風にはなれねぇよ…」
「康太が好きで笑ってると想ってるのですか?」
「……想ってねぇよ……
源右衛門を亡くして誰よりも哀しんでるのは康太だ……
なのに……子供達の前では……笑ってる
俺は……真似できねぇ……」
「君も北斗の前では強い父さんですよ」
「………慎一……」
「泣いても良いですよ…」
「………甘やかすな……」
「……主が甘やかして来いと……言ったので今日は特別です」
「……康太には叶わねぇな…」
一生は慎一の胸に顔を埋めた
「北斗を俺が引き取りましょうか?
と、申し出た事があるんだよ…
お前は一杯一杯だったから……
康太は一生が育てねぇと意味がねぇんだよ
北斗が一生の背中を見て育たねぇと意味がねぇんだよ
………って……あの人は言いました」
「……え?……」
一生は慎一の顔を見た
「一生が育てなければ、北斗は牧場の跡継ぎにはなれねぇ…
だから一生、辛くても苦しくても……君は逝くしかないのです」
「………北斗は俺の子だ……
俺の子が牧場を継ぐのは当たり前じゃねぇかよ?」
一生は笑った
辛くても……
哀しくても……
逝くしかない
北斗はもっと苦しいんだ
俺が弱音を吐いてどうする……
一生はそう心に決めた
北斗は……車椅子で待合室に来ていた
父さんだ……と、ビックリさせようと近寄った
父さんの泣いた姿なんて……
見たことない
父さんは何時だって笑顔で……
安心できた
父さんがいてくれれば……
心強かった
父さんを苦しめてるのは……
自分なんだ……
父さん……
父さんが傍にいてくれれば……
夏休みなんか要らない……
父さん……
父さん……
ごめんね……
北斗は泣いていた
一生は辺りを見回した
すると北斗の姿を見つけた
北斗は泣いていた
一生は慌てて立ち上がった
「北斗、どうした?」
「………父さん……ゴメンね……」
北斗は謝った
「北斗……あに謝ってんだよ!」
一生は北斗の傍に行き抱き締めた
「北斗、無理すんなよ
今年は白馬にも行けねぇけど、来年白馬に行ったら、馬に乗せてやる
乗馬出来る様に教えてやんよ」
「……父さん……」
「北斗……夏休みは……病院から出られねぇと想う……」
「父さん……苦しまないで……
ボク……リハビリ頑張るから……」
「頑張らなくて良い……
北斗は散々頑張った……
当分頑張らなくて良い……」
「父さん……」
「父さんに甘えてろ!
今しか甘やかしてやらねぇぞ!」
一生は笑った
この笑顔が大好きだよ父さん……
北斗は一生に甘えだ
「なら今だけ……
父さん……ボク、パフェ食べたい」
「良いぞ!病院の中のレストランに行くか?」
一生は北斗の車椅子を押して行った
慎一はそれを見送った
一生と北斗
何処から見ても仲の良い親子にしか見えなかった
慎一はずっと……仲の良い親子を見送っていた
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