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第81話 翔(かける)

飛鳥井翔 3歳8か月 翔は違いの解る男だった その日 慎一は毎朝出す沢庵のストックがなくなったので、スーパーで売ってる沢庵を出した 翔は一口食べるなり 「………いぢゅちゅや じゃにゃい!」 と言い当てた 慎一は背中に冷や汗を感じた 誤魔化す様に井筒屋のわさび漬けを翔に小分けして出した 「翔、昨日は売り切れだったんです 東栄社の方が買い占めて行ったみたいで買えなかったのです……」 と事情を話した 「ちょれは ちかたない!」 翔はそう言いわさび漬けに手を伸ばした ピリッと来る刺激に…… 翔は眉間のしわを凄くさせた キッチンに来た一生が翔を見て 「おい!翔……今朝も眉間にしわ寄せやがって!」 と言いしわを伸ばした 「かじゅ……らめ!」 翔は抵抗するが……一生は止めなかった 「かじゅ かいらん きをちゅける」 翔は一生を見て言った 康太はそれを見て笑っていた 翔は修業の甲斐あって、少しは視えるようになってきた 血反吐を吐いて、泣いて、倒れて…… それでも耐えた 3歳8か月で……やる事じゃない だが瑛太は「……康太はもっと酷かったです…兄弟や親とも口さえ聞けなかったのです」と言い慰めてくれた かぁちゃが耐えたのなら…… 翔も耐える そう決めた 「………かじゅは……」 翔はそう言い……止めた それは口に出したらダメだから…… 翔には視えていた 一生の想いを…… 「あんだよ?翔 言い掛けて止めるなよ」 一生は翔の眉間を伸ばしてキスした 「ちゅぎょうが たらにゃい!」 「おぉ!翔言うやんけ!」 「あち、いたい ちゅる!」 「なら気をつけねぇとな! ありがとうよ!翔 翔は優しい子だな……」 一生は翔には視えたのだと想った なんたって康太の子で、次代の真贋なのだから…… 自分が瑛太の子供だと言う事も解っているのだろう…… 瑛太がキッチンにやって来て、一生に声をかけた 「一生、前を向いて食べなさい」 翔の眉間のしわを伸ばしてると、瑛太に顔を挟まれた そして前を向かされた 「えいちゃ!」 翔は瑛太の名を呼んだ 瑛太は翔を抱き上げた 「何ですか?翔」 「かじゅ おちちゅきにゃい」 瑛太は吹き出した 「………君はまたわさび漬け食べてるんですか……」 瑛太の好物ではなかった…… 京香も……食べないのに…… 康太はわさび漬けをガツガツ食べていた 「……君は康太の子ですね」 好みも一緒だ… 瑛太はそう言い笑った 翔を椅子に座らせると、慎一は瑛太の前に食事を置いた 慎一は瑛太に 「翔は井筒屋の沢庵じゃないと一発で当てました」 と説明した 「………流石……翔ですね!」 瑛太は感心した 我が子だとは想わない様に…… 翔には接していた 我が子より大切なのは康太だけだったから…… 康太から与えられた罰を受け入れた 「えいちゃ かけゆ ちゅごい ちんがんに にゃる!」 翔はそう言った 瑛太は胸が痛んだ 3歳8か月の子供が口にする事じゃない だが康太はもっと辛い修業をして来ていたのだ…… 雪の寒い中……裸足で泣きながら立っていた康太が忘れられない…… 瑛太は翔を撫でた 「凄い真贋になって下さいね!」 瑛太が言うと翔は親指を立てた 食後 翔は康太と同じお茶を飲む 今の流行は玄米茶 玉露は子供に合わないと康太はお茶を変えた 「かぁちゃ おいちぃね」 ズズッと玄米茶をすすって、かぁちゃに言う 「翔 落ち着くな」 翔は頷いた 二人しか解らない世界だった 渋い食べ物が好みの翔は大人顔負けのモノが多い 兄弟の後ろで寡黙に控えてる翔は、誰よりも兄弟が大好きだった

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