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第87話 なちゅまちゅり!

流生はキッズ浴衣を着せられて、気合いを入れていた 「うち!なちゅまちゅりら!」 と叫んだ 康太は流生を見て 「………気合い、入ってんなぁ…」と呟いた 翔も音弥も太陽も大空もキッズ浴衣を着せられていた 翔は「いかやきゅ!」とうっとり 流生は「うち!いくじょ!」と気合い入りまくり 音弥は「ばにゃにゃちょきょ!」とよどを垂らし…… 太陽は「きんちょ ちゅくい!」と思いを馳せ 大空は「ちゅーぴゃーびょうる!」と何時になく気合いに満ちてた 康太は「うし!支度できたな!皆で行くぞ!」と言った この日、康太も浴衣を着ていた 榊原はブスッとしていた 「………伊織……笑えよ」 「………はかないでって……言ったのに……」 「子供を追っかけて走るんだぜ? ノーパンじゃ走れねぇよ!」 「………そうなんですが……」 「家に帰ったら脱ぎゃ良いだろ?」 パァーッと榊原の顔が明るくなった 一生は……浴衣の下……ノーパンじゃないのが気に入らなかったのか…… と、榊原が不機嫌な理由を知った 夏祭りに行って直ぐ、イカ焼きの匂いに翔がつられて走り出した 「いかやきゅ!」 慎一は「………子供にイカ焼き……大丈夫ですか?」と榊原に尋ねた 「………翔の歯は相当丈夫なんです…… イカ焼きは自分の歯で噛み切って食べれます……買っても構いません」 翔は慎一を連れてイカ焼きを買いに行った 大空は康太に「ちゅーぴゃーびょうる!」と訴えた 康太は大空の手を引いてスーパボール釣りへと行った 音弥は隼人に「ばにゃにゃちょきょ!」と言いバナナチョコ売り場へと走った 太陽は榊原と共に「きんちょ ちゅくい」へと向かった 気合いは十分 流生は盆踊りの輪の中に入って踊っていた 一生は「おい!流生、食い物は良いのかよ?」と問い掛けた 「りゅーちゃ らいじょうび!」 一生懸命、盆踊りを踊っていた 「かじゅ!」 流生が一緒に踊ろうと誘った 一生は流生と共に盆踊りを踊っていた 康太はそれを見て写真を撮った 「かぁちゃ……とれにゃい……」 スーパーボールが取れないと大空は泣きそうになった…… 「……オレ……不器用だかんな……」 辺りを見渡した 丁度目の前を一生が盆踊りを踊っていた 「一生、スーパーボール頼む」 「おお!助かった……流生の奴あんで盆踊りなんだよ」 と一生はボヤいた 「………源右衛門が夏になったら盆踊りしような……って子ども達に教えてたからだ…」 一生は言葉をなくした 源右衛門が…… それで納得いった 一生は康太とチェンジしてスーパーボール掬いをした 大空の目の前でサクサクとスーパーボールを掬う一生が大人に見えた 「かじゅ!ちゅごい!」 大空はすっかり尊敬の眼差しだった 康太は流生と盆踊りを踊っていた じぃちゃん…… 今年の夏……一緒に盆踊りしようなって約束したのに…… 康太は涙が出そうになった 誰よりも曾孫を愛して育てていた 穏やかな顔で…… 曾孫を愛でる姿は…… 本当に誰よりも優しかった じぃちゃん……流生達大きくなったろ? あの日……じぃちゃんが逝ってから…… 家族は口には出さねぇが…… じぃちゃんの不在を寂しがってる 不意に帰ってくるんじゃないかって…… ガタッと音がするがすると…… 玄関まで見に行ってた 形見分けして……モノがなくなった部屋も手付かずで…… 誰も処分出来ずにいた じぃちゃん……お盆だから……いるんだろ? 流生は康太の手を握り 「じぃじ……りゅーちゃ いいきょいいきょちた」 「………え?……じぃじ?」 「ちょう!じぃじ!」 「………どこにいた……」 「あっち…」 流生は指差した すると……そこには暗闇に立つ源右衛門がいた 「………じぃちゃん! あんで……オレの前に来ねぇんだよ!」 康太は泣いていた 『達者でな 家族仲良く元気に! それだけが我の望みじゃ』 康太の頭の中に源右衛門の声が響いた 康太は立ち尽くして泣いていた…… 榊原が康太の異変に気付いて傍へとやって来た 「康太……どうしました?」 「………じぃちゃんがいた」 康太の言葉に榊原はキョロキョロと辺りを見渡した 何処にも源右衛門の姿はなかった 榊原は康太を強く抱き締めた 「……お盆ですから…… 帰って来たのですね」 康太は頷いた 流生は榊原の服の裾を引っ張って 「じぃじ いちゃにょ!」 と訴えた 「……流生が見付けたのですか?」 流生は手の中のモノを榊原に渡した 「じぃじ きょれ!」 流生から受け取って見てみると鍵だった 「………何処の鍵……ですかね?」 「………帰ったら……」 後はもう言葉は続かなかった 一生が康太の異変に気付いてやって来た 「どうしたよ?」 「………源右衛門が……」 榊原は……口にした 「あぁ、流生が源右衛門がいるって言ってたな…… 急に走って行ったからびっくりした」 「…君は源右衛門を見たのですか?」 「……俺は見えなかった でも流生が見上げて…喋ってた」 「……そうですか…… 流生が源右衛門から鍵を預かりました」 「……そうか……源右衛門の新盆か……」 一生は空を見上げた 誰よりも飛鳥井の明日を心配して…… 誰よりも飛鳥井の家を……家族を愛した 夏祭りを楽しんで家に帰ると、康太は源右衛門の部屋へと入って行った 清隆と玲香、そして瑛太は源右衛門の部屋で線香を上げに仏壇の前に座っていた 康太は何も言わず、鍵のありそうなモノを探した 流生はトコトコあるいて行って、押し入れを開けろ……と、一生を見上げた 「………俺に押し入れを開けろと言ってる?」 「ちょう!」 一生は押し入れを開けた 流生は綺麗な小箱を指差した 「きょれ!じぃじ おちえてくりぇた」 一生は小箱を康太に渡した 小箱には鍵が掛かっていた 康太は一生に鍵を渡した 一生は小箱の鍵穴に鍵を差し入れた するとガチャッ斗音を立てて小箱が開いた 小箱の中には…… 封筒が入っていた 一生は封筒を取り出した 清隆 玲香と書かれた封筒は清隆に渡した 瑛太 京香と書かれた封筒は瑛太に渡した 康太 伊織と書かれた封筒は榊原に渡した 一生 聡一郎 隼人 慎一 斗書かれた封筒は慎一に渡した 子ども達に と言う封筒は康太に渡した 清隆は封筒を開けた 『清隆、お前に我と清香の結婚指輪を残そうぞ! 玲香と共に……幸せに父はそれしか願っておらぬ 清四朗と真矢には我と清香の和服を渡しておくれ! 引き出しを開ければ……解る様になっておる 清四朗と真矢  幸せに……と伝えておいてくれ』 清隆と玲香は静かに泣いていた 瑛太も封筒を開けた 飛鳥井建設の源右衛門の所持する株が入っていた 『瑛太、お前には苦しい道を逝かせた だが、お前に飛鳥井の明日を託す 京香には清香の留袖を渡しておいてくれ 瑛太……お前には辛い思いをさせるが…… 我はお前の幸せだけを願っておる』 瑛太も手紙を抱き締めて……静かに泣いた 榊原も封筒を開けて手紙を見た 『康太、伊織、お前達には我の非公開の財産を総て与える 権利書は簞笥の引き出しを総て出した後、からくりの引き出しの中にある 伊織……お前には辛い選択をさせるであろう……飛鳥井の真贋と生きるのは…… 並大抵の想いでは乗り切れぬ 康太を支えて……共に生きておくれ 二人の幸せを誰よりも願っておる 幸せには康太、伊織』 康太は榊原に抱き着いて……泣いていた 榊原も康太を抱き締め……静かに泣いた 慎一も封筒を開けた 『一生 聡一郎 隼人 慎一 お前達は康太と共に生きる者 辛く険しい道をお前達に逝かせてしまうのは忍びない…… 共に生きる若き戦士達よ…… お前達には我の着物を遺しておこう! 我が生きた軌跡をお前達が受け継いで着てくれたら……と想う 幸せには……無理をするでないぞ』 源右衛門の愛だった 康太と共に生きて逝く…… 若き戦士達へ想いを馳せた愛だった 四人は静かに泣いていた 慎一は子ども達にと言う封筒を清隆に渡した 「慎一、お前が見なさい」 清隆はそう言った 「………良いのですか?」 「お前が見て子ども達にしてあげなさい」 慎一は頷いた そして封筒を破いて見た 『我が愛する飛鳥井の子供達よ 和希 和馬 北斗 翔 流生 音弥 太陽 大空 瑛智 永遠  お前達の行く末が穏やかな日々である様に… じぃじは祈っておる お前達には遺せるモノはない…… 遺してやれるモノはない……大きく育て 真っ直ぐに育て…… お前達の幸せを我は願っておる』 慎一は声に出して読み上げた 玲香は「………お父様の愛だ……」と呟いた 清隆も「………父さん……」と言い泣いた 慎一が押し入れを開けると、整頓された荷物があった 「………葬儀の後……何もなかったのに……」 康太は「源右衛門だからな……」と言った 自分の亡き後…… メッセージを添えて現れる様にしたとしたら……? 源右衛門なら可能だった 着物にはちゃんと名前が書かれていた 源右衛門らしい達筆で名前が書かれていた 慎一は名前の通り、着物を手渡した 『清隆 玲香』 『瑛太 京香』 『伊織 康太』 『一生』『聡一郎』『隼人』『慎一』 『清四朗』『真矢』の着物を手にして慎一は 「………この着物は……?」 「伊織に渡しておきなさい」 と玲香が言った 慎一は榊原に清四朗と真矢の着物を渡した 康太は源右衛門の仏壇に線香をあげた 源右衛門の存在を…… 確認できる去り行く夏のお土産だった

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