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第88話 来訪者
飛鳥井の家に客が来た
…………やけにキラキラした客だった……
「………康太……貴方に逢いたいと訪ねて来た人がいます……」
慎一は来客を康太に告げた
「誰?」
「…………逢えば解ると一点張りで……」
「なら逢うしかねぇやんか!」
「……名乗らぬ者を……逢わせたくはない……」
「大丈夫だ慎一!」
康太は玄関へと向かった
「…………なっ!……」
訪問客を見るなり康太は慌てた
キラキラの訪問客は康太を見てニコッと笑った
「逢いに来ました」
意図も簡単に言われて……
康太は「……んな…簡単に言うな……」と呟いた
慎一は警戒していた
「知り合いだ……オレの部屋に通してくれ…」
「………お知り合いなのですか?」
こんなキラキラした存在が?
慎一は聞き返した
「………あぁ……知り合いだ……」
「………そうですか?
どうぞ、此方へ」
慎一はキラキラした存在にスリッパを用意してリビングへと連れて行った
康太は応接間のドアを開けて……
「伊織……」と名前を呼んだ
「訪問客は誰だったのですか?」
「………キラキラ光る奴……」
「………キラキラ光る奴……ですか?」
榊原はキラキラ光りそうな奴を想像した
「………僕には頼斗しか想像出来ませんが…」
「………アイツもキラキラ光ってるがな……
んなの比でもねぇ輝きなんだよ!」
康太は榊原と共にリビングへと向かった
リビングのドアを開けて部屋の中へ入ると…
眩いばかりの光りを身に纏った存在が嬉しそうに笑っていた
「………炎帝……」
「………ガブリエル……あんで人の世にいるんだよ?」
「私は休日を天使になってから一日たりとも休んでいませんでした
神から休みを取れと言われたので、条件を出したのです」
「………条件?何を出したんだよ?」
「人の世にいる友に逢いたいと申し出ました
神はお盆の間なら……と、了解してくれました
3日間……私は人の世で暮らします
なので、私をスワンの処へ連れて行って下さい!」
「………解った……だから……その光り……
少しは抑えろよ……」
「これでも大分抑えて来てるんですか?」
「…………そうか……」
目に痛い光に…
康太は、これで抑えてるのか……とは言えなかった
「………解った、スワンの処へ連れて行く」
「その前に、私に人の世の御飯を食べさせて下さい!」
「何が食べたいんだよ?」
「井筒屋の沢庵……とやらを!」
一生は……おい冗談だろ?……と想った
天使が井筒屋の沢庵を食わせろと言うとは想ってもいなかった
「慎一、井筒屋の沢庵……
用意してガブリエルに食わせてやってくれ…」
「はい!…………でも、大天使に沢庵なんか……
食べさせて良いんですか?」
「………井筒屋の沢庵は天使をも唸らせる…」
何を言ってるのか……良くは解らない……
が、慎一は用意して持ってきた
「井筒屋の沢庵とご飯に御座います」
慎一はガブリエルの前に用意した
康太はガブリエルに
「ぬくぬくのうちに食うと上手ぇんだ」
と、何か解らぬ説明をした
ガブリエルは井筒屋の沢庵をポリッと食べた
「……おぉ!これが天界で炎帝が食べたがってた井筒屋の沢庵ですね!」
ガブリエルは感激していた
天使が……沢庵食うなよ…
一生は想った
ガブリエルは「天使だからこそ、食べたいのです」とニコッと笑った
一頻り沢庵を食べて満足すると……
「慎一、一生、ガブリエルを白馬のスワンの所まで送ってやってくれ!」
と、康太は頼んだ
そこへ、聡一郎がリビングへやって来た
「康太、貴史が来てるんですが………うっ……眩しい……」
聡一郎は言い掛けて眩しさに……顔を覆った
兵藤もやって来て
「………何だよ……この眩い光は……
何時から此処が天界になったんだよ…」
とボヤいた
康太は笑って
「そんなにオレが天使のようだと言うなよ」
と言った
兵藤は「………誰も言ってねぇし……」と呆れた
「貴史、お前、白馬に行きてぇってか?」
「………誰も言ってねぇよ……」
「ガブリエル、朱雀は知ってるよな?」
「天界で逢ったな」
「この男がスワンに逢わせてくれる」
「おい康太!!」
慌てて止めようとしたが、それよりも早くガブリエルは兵藤の手を取った
「朱雀、私をスワンの元へ連れて行ってくれ!」
「………うっ… 眩しい……」
「頼むな貴史!」
「何で俺が!」
兵藤は食って掛かった
「貴史……聞いてくれねぇのかよ?」
康太は悲しそうに……呟いた
「……貴史……慎一に頼むから良いよ……」
「………おい……誰も……」
「慎一、頼むな……」
「解った!連れて行けば良いんだろ?」
兵藤はうっかり……康太に乗せられた
「ありがとう貴史!
お前の車で白馬まで頼むな
一生が付いて行くかんな!」
康太が言うと慎一は
「俺は康太の食事がありますので、不在にはなりたくはないのです」
しれっと答えた
不意の来訪者は……
兵藤と一生が白馬の目的地まで、連れて行った
白馬では連絡をもらったスワンが、ガブリエルを待ち構えていた
3日間、スワンと飲み明かし、ガブリエルは兵藤と一生に乗せて貰って白馬から帰宅した
再び飛鳥井の家に来た来訪者は
「ありがとう、楽しい一時だった」と礼を述べた
「魂の休日の日位はおめぇも休みに来いよ」
康太はガブリエルに労いの言葉をかけた
「………また……遊びに来ます」
「あぁ、大切な友なんだろ?」
「ええ。……大切な友です」
「なれば、たまには会いに来い
人の世の命は短ぇぞ……」
「……はい!」
「天使の役目を終えたら崑崙山に行くと良い!
八仙の所で暮らすと良い……」
「スワンに逢いに行ける所へ行きたい……
そうします!」
「ならな、ガブリエル」
「はい!炎帝……ありがとう」
眩い光は……
天空に呑み込まれて……消えていった
康太はソファーに座った
「………目が痛ぇな……」
榊原は康太を抱き締めた
兵藤は康太の前に………
ガブリエルの羽根を差し出した
「………あんだよ?これは?」
「お前の命が危うい時、ガブリエルは天界から来ると約束した
その約束の羽根らしい……」
「………オレはガブリエルの羽根なんて欲しがってねぇぞ?」
「………兎に角受け取りやがれ!」
「………伊織……やるよ」
「………僕は鱗を持ってます……
慎一、どうですか?」
鱗を持ってます……それが何なんだ?
と、全員想ったが口にはしなかった
慎一は「恐れ多くて……貰えません」と断った
「………オレ……こんなのあったら……
清らか過ぎて……性欲なくなる……」
康太は呟いた
榊原は大変だと……羽根を一生に押しつけた
「………旦那……」
「………性欲がなくなるのは駄目です!」
「だからって何で俺にだよ!」
「一生は地蔵の様に干からびてるでしょ?」
「……旦那……俺にだって性欲はある…」
「………もうなくなっても構わないんですよね?
なら君が持ってて下さい!」
何という言い分……
ギャーギャー収集が付かないと踏むと聡一郎は
「この羽根でタペストリーを作れば良いだけです!」
と提案した
「そっか!」
一件落着したが、榊原と一生は睨み合っていた
兵藤は「兄弟仲の良い事だな」と暢気に呟いた
「そうだな!」康太も答えた
「何かケータリング取るか?」
兵藤は腹が減ったから康太に問い掛けた
「お!良いな!」
康太が言うと慎一が「何を頼みます?」と問い掛け
聡一郎が「お肉が良いです」と答えた
康太と慎一と聡一郎と兵藤は、さっさとリビングを出て応接間へと向かった
置いてきぼりにされた榊原と一生は顔を見合わせた
「………空しい……」一生は呟いた
「………そうですね!休戦です」
「だな……」
二人して康太達を追った
突然の来訪者があった
彼はきっとこの諍いすら笑って天界へと上って行っただろう…
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