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第89話 夏休み

康太は中庭の池の水を抜いた 「じゃぁ、初めっか!」 康太は海水パンツをはいて池の中へと入った 普段は池として使ってるが夏はプールとして使う為に鯉を水槽に移して 掃除を始めた 海水パンツで池の中に入るのは 飛鳥井康太 緑川一生 兵藤貴史 堂嶋正義……だった 堂嶋は「………何で俺が……」と呟いた 「気にすんな!正義」 康太は飛鳥井の家を尋ねた堂嶋に、当然の顔をして海水パンツを渡した 「………え?……何ですか?これは?」 「海水パンツだよ!」 「………海水パンツ……はけというのですか?」 「おう!着替えたら中庭に来い」 康太が言うと慎一は堂嶋を客間へと案内した ハンガーを手渡して 「スーツは此処に掛けておいて下さい」 と言い……出て行った 堂嶋は訳が解らず……海水パンツになった 着替えて中庭に行くと兵藤がタモで鯉を掬い上げていた 慎一は鯉を受け取り水槽へと向かった 「おし!ガシガシやんぜ!」 康太の気合いの入った声が響き渡った 聡一郎は海水パンツになるのが嫌で応援に回った 隼人は今にも死ぬ青年の役だから……日焼けは出来なかった 堂嶋はデッキブラシを手にしてゴシゴシやっていた 兵藤も額に汗してゴシゴシしていた 堂嶋は兵藤に声をかけた 「貴史……君もかり出されたのですか?」 「俺の場合……康太のスイカ食わねぇかの誘いに乗ったら……こうなった」 「………スイカ……」 堂嶋は何とも容易く釣れるんだ……と唖然とした 「………美緒はスイカ嫌いなんだよ 親父もスイカ食わねぇからな…… 兵藤の家ではスイカは出ないんだよ だから毎年康太がスイカの誘いをしてくれるんだ 今年は池の掃除させられるとはな……」 兵藤がボヤくと康太は兵藤にホースを向けた 水が兵藤目がけて飛ばされる 「……おい!止め!」 兵藤は吠えた 当然、傍にいた堂嶋も一生も水浸しだった 「………貴史……」 一生は兵藤の名を呼んだ 「………すまねぇ……」 兵藤は理不尽だが謝った 「正義、後で幸哉呼べよ スイカ、沢山用意したかんな! 夕方には皆集まるかんな!」 「………皆?」 「勝也と若旦那が来るんだ」 「……では幸哉を呼んで夜までお邪魔します」 「泊まって行けよ! どうせお盆だし週末だかんな用事がなきゃ……だけどな!」 「宜しいのですか?」 「池の掃除が出来たら、子ども達を水遊びさせるつもりなんだ 相手してくれと助かる」 慎一が海水パンツをはかせた子ども達を連れて来た 皆 ワクワクした瞳で、生まれて初めての水遊びを待っていた 池の掃除を終わらせて、水を張ると子ども達が体操をして、水の中に来た 和希と和馬も海水パンツでやって来た 北斗はバスタオルを何枚も持って、やって来た 「うし!水ん中に入れ!」 康太は流生を小脇に抱えて池の中に来ると、流生を下ろした 「……かぁちゃ……らめ!」 流生は生まれて初めての水遊びに……泣いた 兵藤が流生を水の中に立たせると 「もう少し大きくなったら俺んちのプールで泳ごうぜ!」 と流生と将来の約束をした 「ひょーろーきゅんち?」 「そう!俺んち!」 「りゅーちゃ ぎゃんびゃる!」 俄然やる気を出した流生が水に勝った 水を怖がらない流生を見て、翔が池の中に入った 「お!翔、バシャバシャやるか?」 康太が翔に声をかけた それを皮切りに、音弥も太陽も大空も池の中に入った 和希と和馬が相手をして遊んでやっていた 「和希、和馬、おめぇ達泳げるのかよ?」 康太が二人に問い掛けた 北斗は体育全般は休ませていた オペから半年はリハビリの日々だった 和希は「泳げるよ康太ちゃん」と答えた 和馬も「泳ぐのは楽しいよ」と楽しそうだった 康太は慎一に 「プールにでも連れて行ってやれよ」 と言った 康太の事ばかりで… 淋しい想いしているのは…可愛そうだったから…… 「今度プールに行きます」 「仕方ねぇな……ネズミの国行くか?」 「………貴方の乗れるのないのに?」 「オレは良いんだよ 皆といられるだけで幸せなんだからよぉ」 「一生が富士急に行きたいそうですよ?」 慎一が言うと一生は慌てた 「止め!慎一!」 「富士急?」 「お化け屋敷みたいそうですよ?」 康太に白い目で見られた 「………一人で行けよ……」 恐怖系はダメな康太から言われて…… 一生は「………だから行かねぇってば!」と叫んだ 子ども達は、すっかり水の中に慣れて楽しそうだった 流生は一生にバシャバシャ水を飛ばした 「………このぉ!」 一生も流生に水を飛ばした 兄弟が流生の応援に行って、5人が一生に水を飛ばした 「おい!卑怯だぞ!」 一生は流生達から逃げ回っていた 「かじゅ ちゅめちゃい?」 「お!冷てぇな!」 翔は一生に 「なちゅは きょれにかぎりゅ!」 と渋いことを言った 「お!粋だな!」 一生は渋いことを言う翔の言葉に笑った 音弥は堂嶋の手を取りバシャバシャやって貰っていた 大空は兵藤とアヒルの口から水を飛ばして遊んでいた 太陽は座って涼んでいた 皆それぞれ遊んで、暑い夏を涼める方法で涼しくなろうとしていた 一頻り水遊びを楽しむと、怠くなり眠くなった 池から上がると、子ども達は風呂へと向かった 堂嶋はバスタオルを貰うと、客室の風呂を使った 兵藤は海水パンツのまま家へと帰り、風呂に入って、着替えて飛鳥井の家へと向かった 康太と一生も部屋に戻り風呂に入り、着替えた 風呂から出ると子ども達は、応接間に敷かれたお昼寝用の子供布団の上で眠りについていた 堂嶋の着替えは浴衣だった 浴衣に着替えて、幸哉へ電話を掛けて呼び出した 戸浪も安曇も飛鳥井の家にやって来た 慎一は戸浪と安曇に浴衣を手渡した 「お風呂に入って浴衣に着替えて来られては如何ですか? 安曇さんは客間のお風呂を使われて、若旦那は隼人の部屋の風呂を使われると良い」 慎一が言うと隼人は慎一に 「鍵は開いているのだ」と告げた 安曇と戸浪が風呂に入り浴衣に着替えた頃、堂嶋幸哉もやって来た 幸哉は康太に抱き着いて、甘えていた 「康太君、逢いたかったよ」 「元気だったか?」 「うん!」 「おめぇも風呂に入って浴衣に着替えて来いよ! 慎一、頼むな」 慎一は幸哉を連れて行った 皆そろう頃、飛鳥井の家族も応接間へと姿を現した 清四郎と真矢は源右衛門の部屋に泊まりに来ていたから一緒に顔を出した 全員、浴衣を着ていた 皆 浴衣に着替えて応接間に来ると、康太は立ち上がった 「上手ぇスイカを慎一が買ってきてくれたんだ! 慎一は3日間、スイカを買い付ける旅に出て、今日帰って来た だから皆でスイカ食おうと想ってな呼んだんだ」 慎一はテーブルの上に新聞紙を敷いた その上にまな板と包丁を用意してた 「貴史と一生と聡一郎、隼人もスイカを持って来るのを手伝って下さい!」 言われて兵藤と一生、聡一郎、隼人は立ち上がった 暫くすると………物凄く大きな西瓜を5個 持って来た 人間が両手で抱え切れそうもない大きさだった その西瓜をまな板の上に置くと、慎一はスパーンとスイカを切った サクサク切り分けて大きな御盆の上に乗せて行く 一生はそのスイカをお皿の上に置いて、皆に手渡した 「好きなだけ食ってくれ! スイカを食った後は酒もあるからな!」 康太が言うと榊原も 「つまみは慎一が新鮮な魚を買ってきてくれてます!」 兵藤は日頃食べられないスイカに食い付いていた 「上手ぇか?貴史」 「おー!これは凄い美味しいぞ!」 「そうか!それは良かった」 康太もスイカに齧り付いた 「子供たちの分はとってあるのかよ?」 兵藤は心配になって問い掛けた 「一つまるまる取ってある 夏休みだからな…… 日頃保育園で構ってやれねぇ分 一緒にいて、遊んで、旨めぇもんを食べさせてやりてぇんだよ」 「もっと早く声掛けろよ! 俺んちの庭でバーベキューやれる様に手配したのによぉ」 「それは楽しそうだな でもお前んち庭園になってるかんな そこでバーベキューは……流石に駄目やろ?」 「構わねぇよ!」 兵藤は笑っていた 榊原は皆に 「今着てる浴衣は持って帰って下さって構いません!」 と告げた 戸浪は「この浴衣、高いんでしょ?」と驚いた顔をした 「我が父、清四郎の知り合いの方から大量に買ったので構いません! この機会に皆さんに着て戴きたくて声をかけさせて貰いました」 榊原が言うと清四郎も 「この浴衣は外国産と違い生地も国産で綿100パーセントの素材を使ってます ですが……海外の商品が市場を占めてて…… モノが良い素材の浴衣は敬遠される様になりました この機会に良いモノを着て戴いて…… 量販モノとは違う事を知って戴きたかったのです」 と、皆に浴衣を手渡した理由を告げた 堂嶋は「本来浴衣とは夏の風物詩ばかりではなく、汗を吸い取り、涼をもたらすモノとして着ていた筈だ」と着心地の良さに思い出した 戸浪は清四郎に 「清四郎さん、何処の浴衣か教えて戴けませんか?」と問い掛けた 「……え?どうしてですか?」 「トナミ海運は あまり知られてはおりませんが、通販も手掛けているんです 運輸を手掛けてる我が社だからこそ吟味の目でもって商品を見極める この浴衣は日本人の古来より愛した良さが 詰まってます 我が社から世界に発信していけたらと想ってます」 「……若旦那……後で会社の連絡先を教えます ありがとうございます…… これで……危機だけは回避できるかも知れません……」 清四郎は目頭を押さえた 榊原は戸浪に 「………父さんは……その会社の危機に……黙っていられなくて…… 大量に浴衣を買ったんです…… その半分を康太が父さんから買い取って、皆に着て戴いたのです」 と裏事情も話した 「では清四郎さんはかなりの浴衣を持っているのですね?」 「…………ええ……母さんが怒って飛鳥井で生活する程には……」 「………え?………それって……」 別居………ですか? とは聞けなかった 「お盆と言う事もあって、父さんも呼んで飛鳥井で泊まって貰ってます でなきゃ……また母さんは父さんと口も聞かなくなります……」 榊原は困った顔をしていた 戸浪は榊原に 「………清四郎さんは幾ら位使ったんですか?」と問い掛けた 「………三千万……母さんに内緒で……事務所の社長に借金したのです……」 「………で、康太は幾ら支払ったのですか?」 「………1500万円……僕達の部屋のリビングは浴衣の段ボールで……埋め尽くされてます……」 榊原の声は暗かった 真矢は清四郎を睨み付けていた 「解りました! 取り敢えず、清四郎の家の浴衣と、康太の家の浴衣の分、買い取らさせて戴きます」 戸浪が言うと康太は 「若旦那、海外を視野に入れて売った方が採算以上の利益を上げるぜ」 と助言した 「海外……ですか?」 「日本の夏の風物詩は、浴衣だからな プリントした浴衣じゃなく手書きだったり、珍しい紋様織りだったら、目の肥えた外人は対価を払っても買うさ」 「解りました! 国内と国外、同時に発信して行きます」 「頼むな若旦那…… 清四郎さんが真矢さんに三行半下されねぇ様に手助けしてやってくれ……」 戸浪は笑った 「康太、自分で着れば、その良さは誰よりも実感出来ます! 私を呼んだのは……そのせいですか?」 「違ぇよ!皆で上手ぇスイカを食いたかっただけだ! 慎一に上手ぇスイカを食いてぇって言ったから、慎一は3日間旅に出て買ってきてくれたんだ 皆で食いてぇって思うだろ?」 「スイカも絶品でした そして酒のつまみも絶品です そして商売の話も貰いました! 康太、君から無償の愛を貰うばかりで、何も返せてませんね! 田代を呼んで三千万、用意させるので待ってて下さい!」 「若旦那」 「何ですか?」 「今は楽しく飲もうぜ! 源右衛門も草葉の陰から見てるからな 皆で楽しく飲み明かそうぜ!」 「………はい!」 戸浪は源右衛門の新盆だったと思い出した 明日……自分も祖父の墓参りに行こうと決めた 飛鳥井の家は笑いに包まれた 夜が更け…… 夜中になっても、声は途絶えず 飲み明かしていた 源右衛門を偲んで……宗玄を偲んで…… 御盆の夜更けは……暮れていった

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