91 / 163

第91話 夏は過ぎ‥

一生は花火の後の静けさが嫌いだった 遊びに行った帰り道が嫌いだった プールに行った帰り道が嫌いだった 汗だくで遊んだ帰り道が嫌いだった 何故か…… 物悲しくて…… 世界で自分だけ…… と言う孤独に陥るから…… 嫌いだった お盆を過ぎても飛鳥井の家は賑やかだった 三木繁雄が子供達の為に花火を持って訪れた 「後援会の方が花火工場の方で、花火を貰ったのですが、私の家は花火を楽しむ子供はおりませんからね」 と言う理由で三木は花火を飛鳥井の家に持ってきた 三木の子はいっそ大きいか、いっそ小さいかしかいなかった しかも一番上の子は修行に出ていなかった 二番目の子も勉強に出ていなかった だから飛鳥井の家に持って来たのだった 段ボール三箱分は流石と家でやるには多すぎた しかも打ち上げ花火の筒とかあって…… 家庭で楽しむ花火ではなかった 康太は「桜林でぶっ放すか?」と呟いた 榊原は「………貴史を使えば実用的な構想を出してくれますよ?」と提案した 一生は立ち上がると 「呼んでくるわ!」と応接間を出て行った 暫くして一生は貴史を連れて応接間に帰って来た …………何故か……佐野春彦、清家静流や藤森、悠太、葛西繁樹を伴ってやって来た 「貴史は今桜林にいるんだよ」 一生は説明した なる程……康太は納得した 佐野は康太に抱き着いていた 「彦ちゃん、花火上げる場所、貸して貰えねぇか?」 「どーぞ!どーぞ!学長に代わり許可を出します」 「なら今夜、打ち上げ花火、あげに行くわ」 「待ってます!」 佐野は康太から離れた 兵藤は三木と話していた 「貴史、盛大にやりたいなら私の家に後2箱花火があります 康太の家にあんまり持って行ったら迷惑になると想って3箱にしたのです」 本当は5箱貰っていたが、迷惑になるから3箱にしたというのだ 兵藤は「取りに行くわ!」と言った 「秘書に持って来させます!」 繁雄は秘書に電話をかけて、飛鳥井の家に残りの花火の箱を持って来るように告げた 秘書が花火の箱を飛鳥井に持って来ると、兵藤は腰を上げた 三木は兵藤に「乗せて行きますか?」と尋ねた 「彦ちゃんや清家達も乗るが良いか?」 「構いません! 秘書の車に荷物を乗せれば乗れます」 「じゃぁ頼むな!」 兵藤は三木と共に清家や藤森、悠太、葛西を伴って出て行った 「………何か……花火が大事になってねぇか?」 「………言い出しっぺは君ですよ?」 「………オレは……場所を貸せと言っただけだ…」 「それだけでは済まないのが飛鳥井康太でしょ?」 「あんだよ?それは??」 康太がボヤくと榊原は笑った 一生の携帯に兵藤からメールが入った 『暗くなる前に学園の校庭に来い!』 一生は康太にメールを見せた 康太は携帯を取り出すと電話をかけた 「瑛兄、桜林に行きてぇんだ」 『康太、今ですか?』 「夕方、日が暮れる前に父ちゃんや母ちゃんを連れて来てくれよ」 『解りました!夕方までに仕事を片付けます! それより……副社長は、そこにいますか?』 「おー!いるぞ!」 『では会社に顔を出して仕事を手伝う様に言って下さい!』 瑛太はそう言い電話を切った 榊原は「……やぶ蛇と言うのはこう言う事を言うのですね……」と残念そうな顔をした 聡一郎は立ち上がると榊原の手を掴んだ 「夕方までに片付けますよ!」 そう言い榊原を引き摺って飛鳥井建設へと向かった 康太は笑いながら次の電話をかけた 「清四郎さん? 桜林で花火をやるんだ 暇なら見に行かねぇか?」 『康太!今から暇になります!』 清四郎が言うと後ろから『えー!冗談は……』と叫ぶ声が聞こえた 『真矢も連れて行くので待ってて下さい』 そう言い電話が切れた まっ、良いか…と康太は次に行った 「正義、夕方暇になる?」 『康太、夕方は後援会の方と食事会だけだ! 当然暇になるさ!』 「………なら花火見ねぇか?」 『何処へ行ったら見れます?』 「桜林学園の校庭で、見れるぞ」 『では見に行きます!』 そう言い電話は切れた 康太は戸浪にも電話を入れた 「若旦那、夕方暇?」 『康太!私はこれから倒れるので暇になります!』 「………なら桜林学園の校庭に来いよ 花火を一緒に見ねぇか?」 『解りました! では、夕方桜林で!』 電話は切れた 康太は携帯を慎一に渡して笑った 「皆で……忘れられねぇワンシーンを創りてぇな…」 「忘れられない夏になりますよ」 「和希、和馬、北斗を連れて行ってくれ」 「解ってます 子ども達も早めにご飯を食べさせて連れて行きましょう」 心に刻んで欲しい 一緒に見た花火を…… オレがいなくなっても…… 花火を見れば思い出して欲しい…… 脳裏に刻む一ページになれば良い 康太は天を仰いだ いなくなる時を考えない訳じゃない いなくなった後を考えない訳じゃない 自分の時は…… そんなに長くはない 遺して逝かねばならないのだから…… だからこそ…… 沢山の思い出を遺そう 花火を見上げるたびに…… 思い出して欲しい 母はお前達を愛していたと…… 思い出して欲しい 昼寝から起こし、早めに夕飯を食べさせた 子ども達は康太に 「どきょこ ゆくにょ?」と尋ねた 「花火、見るんだよ」 「はにゃび?」 「あぁ……花火だ! 夏の終わりに見る花火だ」 子ども達はキャッキャと嬉しそうに飛び上がった 夕飯を食べてると榊原が聡一郎と瑛太や清隆、玲香達と共に帰って来た 「奥さん、ただいま」 唇にキスを落として、榊原はネクタイを緩めた 「飯食う?」 「食べます! 食べ終わったら着替えて来ますので待ってて下さい」 「おう!慌てなくても良いかんな!」 榊原と瑛太と聡一郎は夕飯を取った 康太は子ども達とデザートを食べていた 「かぁちゃ おいちぃね!」 流生がニコッと笑って、そう言った 「おー!美味しいな!」 デザートを食い終わる頃、榊原達も食事を終えた 食事を終える頃、清四郎が真矢と共にやって来た そして全員で桜林学園へと向かった 桜林学園へ着くと、堂嶋正義が安曇勝也と三木繁雄と共に待っていた 「お!揃ってんな!」 嬉しそうに声をかけると、戸浪が駐車場に車を停めた 「康太!間に合いました!」 戸浪は車から降りるなり康太に抱き着いた 流生が戸浪のズボンを掴むと、戸浪は康太を離した 「流生!また大きくなりましたね!」 戸浪は流生を抱き上げた 「んじゃ、校庭に行くとするか!」 皆で揃って校庭へと移動した すると……… 多くないかい? と問い掛けたくなる程の人だかりだった 康太は兵藤を探して、傍に行くと…… 「あんだよ?この人だかりは?」 と問い掛けた 「花火の準備してたから寄って来たんだよ」 「………お前に頼んだのが間違いだったか……」 康太はボヤいた 兵藤はボスっと康太を殴った 「遅ぇんだよ!やるぜ!」 「任せる」 康太がその場を離れようとすると悠太が声をかけた 「康兄……久しぶりです」 「悠太、同じ家にいて顔も逢わせねぇってどんだけお前忙しいんだよ?」 「………康兄が忙しすぎるんです ………逢いたかった…」 悠太はそう言い康太に抱き着いた 康太は悠太の背中を撫でた 「おめぇは本当に甘えん坊だかんな!」 在校生は……それはないでしょ……と想った それは爪を隠した狼でしょうが…… 悠太は一頻り康太にスリスリして離れた 兵藤が現生徒会役員に檄を飛ばしていた 5箱分の花火は順番を打たれ並べられていた 箱から出されている花火は見るからに家庭で遊ぶ向けではなかった 辺りが暗くなると花火は打ち上げられた 筒の花火は勢いよく飛び出し、夜空に花を描いた 康太は子供達の傍に行った 「翔、流生、音弥、太陽、大空 綺麗か?」 翔は瞳を輝かせ「ちれい!」と叫んだ 流生はポカーンと口を開けてみていた 音弥も太陽も大空も手を繋いで見ていた 在校生は総出で校庭に出ていた 憧れの先輩を見る為に…… 伝説と謂われた先輩達を見る為に…… 清四郎は「綺麗ですね」と康太に言った 真矢も「本当に綺麗…」と夏の終わりに見る花火を見届けていた 一生は一人離れて空を見上げていた 康太は一生の傍へ近寄った 「どうしたよ?」 「………俺は……花火が終わった後の静けさが……嫌いなんだよ……」 「物悲しい想いしかないからな……」 「………終わるのが……哀しい……」 「一生、オレは子供達と想い出を沢山作ろうと想うんだ オレが……いなくなった後…… 花火を見れば思い出せる程に…… 想い出を作りてぇんだ」 「言うな! ………そんな事言うな……」 一生は叫んだ 「オレの時間は長くはねぇ…… それは変わらぬ事実だかんな…」 「…………それでも……言うな…… んな事……言うんじゃねぇ……」 一生は康太を抱き締めた 「一生」 康太は一生の背中を撫でながら声をかけた 「駄々っ子だな……おめぇは…」 「うるせぇ!おめぇが泣かせるんじゃねぇかよ!」 「大好きだ赤龍…… 昔も……今も……お前は変わらぬ愛をくれる…」 「………おめぇは無茶せず、子供達の傍に一分一秒長くいられる様にしろ!」 「あぁ……そうする……」 康太は傍にいた力哉の手を掴むと、引き寄せた 力哉に一生を託して、康太はその場を後にした 榊原が康太を引き寄せた抱き締めた 「ちゅぎぇお!ちゅごい!」 翔は三木に抱っこされて花火を見ていた 三木は笑っていた 「翔、もう修行……始まったか?」 「かけゆ ちゅうぎょう ちてる!」 「………そうか……次代の真贋はお前だからな……康太は厳しいけど、お前の為を想ってるの……忘れるな」 「わちゅれにゃい」 「良い子だ翔」 三木は翔の頭を撫でた 悠太は大空を抱き上げていた 「かなた、見えるか?」 「ゆーちゃ!みえゆ」 「康兄と見る花火だぞ 忘れるんじゃないぞ」 「きゃな わちゅれにゃい」 「良い子だ……お前は本当に父さん似だな」 榊原と同じ顔をしていた 悠太は大空の頭を撫でた 流生は兵藤と見ていた 兵藤は生徒会役員の所に流生を連れて行った 「兵藤会長!その子は?」 「俺の子だ!」 兵藤は笑ってそう答えた 清家は兵藤の腕の中から流生を取り上げて 「流生はもっと男前ですよ!」と答えた 「静流……お前…… 」 静流は流生に 「君達が築く桜林学園はどんな風になるのですかね? 5人で力を合わせて、桜林学園の明日を作りなさい」 流生は清家の言葉に頷いた 瑛太は音弥を抱き上げ、戸浪の秘書の田代と佐野と共にいた 佐野は太陽を抱き上げさせて貰い、笑顔だった 花火が終わると、惜しまれつつ桜林学園を去った 飛鳥井の家に戻り宴会に突入した 清家や藤森、悠太と葛西も入れて宴会は始まった 子供たちははしゃぎすぎて疲れたのか帰宅途中で眠っていた 子供部屋に連れて行き、寝かせた 夜更けまで飛鳥井の家は宴会に突入し笑い声が応接間に響いた 一生は…… こんな風に皆で過ごせるなら…… 哀しくない…… そう思った 横を向けば康太がいる 康太が笑っていてくれる この一時が何も大切だった 康太…… お前のいる場所が好きだ お前へと続く場所にいたいんだ お前へ還る場所へ行きたい…… お前との明日は…… 続く お前の傍に行く為に…… だから淋しくない 一生はそう思い瞳を瞑った その頬に…… 一滴の涙が零れた

ともだちにシェアしよう!