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第97話 烈

   お前は眠れ    再び 目醒めるその日まで             お前は眠るがいい そんな声を眠りに落ちる時に聞いた 次に意識が戻ったのは…… 産まれ落ちる瞬間      お帰り そんな声を聞いた 「はぁ……はぁ……うっ……ぅ……うぅ……」 車の中に苦しげな声が響いた 妊娠7ヶ月だった 急に痛んだお腹の痛みに、真矢は清四郎に頼み病院へと向かった 休みで家にいる笙を捕まえて清四郎と病院まで乗せてくれと頼んだ 笙は慌てて真矢を車に乗せた 笙が運転する車で村瀬の産科病院へと向かう 車の中で清四郎は真矢の状態を医者に伝えた 主治医は「康太さんから伺っています!準備万端!何時でも大丈夫です」と言ってくれた 清四郎は「康太……病院に知らせてくれてたみたいです」と笙に伝えた 清四郎は真矢を抱き締めた 清四郎の電話が鳴り響いた 清四郎は携帯を取り出すと電話に出た 『清四郎さん 破水する前に病院に着かせてぇ…… 押さえとくから一刻も早く病院へ走ってくれ』 康太はそう言い電話を切った こんな所で破水してしまったら……ただでさえ早産なのに…… 命が……消え失せてしまうのは解っていた 清四郎は真矢を強く抱き締めた 真矢は「康太……ありがとう……」と魘された様に言葉にした 「真矢……康太の存在……解るのですか?」 「康太が産まれない様に……産道を押さえてくれてます……」 「笙……急いでくれ……」 笙はアクセルを踏み込んだ 笙の耳に『その速度で止まらずに走れ』と声が聞こえた 「………信号……どうするの?」 想わず笙は問い掛けた 『信号は総て青で通してやる』 そう聞こえ笙はアクセルを踏み続けた 信号も総て青で通って村瀬の病院へと到着した 『正面玄関へ行け』 言われて正面玄関へと向かい車を停めた すると病院のスタッフが飛び出して真矢をストレッチャーの上に乗せて分娩室に向かった 清四郎はスタッフに連れられてオペ室の前へと向かった するとオペ室の前には榊原伊織が立っていた 「………伊織……」 「康太は立ち会えません…… ですので僕が康太に頼まれて此処に来ました」 「………康太が護ってくれました……」 「康太は絶対に産ませると言ってます その為に康太は此処にはいないのです」 「………伊織……ありがとう…… お前がいてくれるだけで……心強い……」 清四郎はそう言い……堪えきれずに泣いた 榊原は清四郎を抱き締めた 「烈と言います」 「………え?………」 「ですからこれより産まれる子の名前です どんな逆境にも負けない強い心を持った子になる様に康太が星詠みした名前です」 「烈……良い名前ですね」 「烈は康太が転生させた子供です 絶対にこの世に産まれて来ます 今度は父さん達が……育てたらどうですか?」 清四郎は首をふった 「流生達の弟を産みたい…… 真矢はそう言ってました 兄弟仲の良いのは良い でも弟……と言う兄弟を持たせてやりたい 真矢はずっとそう言ってました」 「………父さんは納得してますか?」 「納得してます 私は太陽と大空を康太の子に出来て良かった 本当に兄弟仲良く育ってる あの中にいなきゃ……あんなに良い子にはならなかった 喧嘩もするけど……あの5人は欠かせない存在になってます あぁして助け合って成長してくれる姿を見ると、託して良かったと想います」 「…………父さん……」 「流生達は弟を大切にしてくれます 大切に育った烈は、兄を追いかけて成長するでしょう 物凄く楽しみです」 清四郎はそう言い息子を抱き締めた 「私は役者馬鹿で君達、子供を蔑ろにして来てしまいましたね 康太がいてくれねば、私は未だに気付いていても、どうして良いか解らなかったと想います 康太と出逢って色んなモノを康太に貰いました 私の心の師匠は今も飛鳥井康太です こうして君と話せる日をくれたのは康太です…… 私は康太と伊織が育てて逝く子を見守りたいのです」 「………父さん……」 「烈は飛鳥井康太の子供です 伊織が父さんになり、我が子を護って下さい」 「はい!何に変えても我が子を護ります 流生達は……自分達より小さい子が大好きなので喜びます 美智留や瑛智の傍によく行きますからね…」 「笙の所も生まれました 康太に名前を決めて貰わねばなりません」 「二人目ですね……少し早くないですか?」 「………言ってはなりません…… 夫婦円満の秘訣だと想えば良いのです」 「解りました……」 「伊織……今回は母さん…… かなり無理を強いた妊娠となりました 昔なら早産として流れてしまっていたかも知れない……」 「烈は産まれて来ます 康太が烈を目醒めさせました 烈は何としてでもこの世に生まれ落ちるでしょう!」 「………烈を生んだ後の真矢は……」 体力的に、年齢的に、キツい出産になるのは覚悟はしていた 烈を生んだ後…… 真矢は……女優を続けられるのか…… 清四郎はそれが心配だった 「母さんは産後体調を崩しますけど、 体調を戻せば女優に復帰できます 産後に飲む薬も……少し苦いですが八仙の所へ行って作らせてます なので母さんは元気になれます」 「………伊織……母さんを亡くしたら私は……」 生きていられない…… と清四郎は泣いた 笙は泣く父親を黙って見ていた…… 一緒に暮らしていても…… 清四郎は常に康太を頼りにしている 伊織を頼りにしている 美智留が愛されてない訳じゃない…… だが……両親は楽しそうに飛鳥井へ行く 一緒に暮らしていてるのに…… そんな想いは多かった…… 笙の携帯が震えて、笙は電話を取った 『匡(たすく)だ!』 いきなり名前を呼ばれて笙は焦った 「何ですか?何がたすくなんですか?」 『おめぇの子供の名前だ 清四郎さんや真矢さんは何時もお前や明日菜、そして美智留の事を気にかけてる! 一緒に暮らす美智留が可愛いに決まってるやん! だけど、太陽と大空は我が子だ オレにくれたけど我が子だ 気になるのはあたりめぇじゃねぇかよ? だけどあの二人は我が子だけ可愛がってはいけないと自重している 翔、流生、音弥、太陽、大空、この五人を可愛がろうとしてくれてる オレの子供は清四郎さんや真矢さんが大好きだ そして美智留や瑛智も大好きだ どの子も可愛い どの子も同じだけ可愛がる それが証拠に二人は永遠、和希、和馬、北斗も可愛がってくれてる 北斗や和希、和馬にランドセル買ってくれたりしてるのを忘れるな』 「………康太……ごめん…… 僕は父さんに頼りにされてないと想ってました……」 『笙、お前も頼りにしてるに決まってるだろ? お前には迷惑かけたくねぇんだよ』 「………迷惑だなんて……」 想ってない…… 『お前は明日菜と仲良くやっててくれれば良いんだろ? 伊織は父親似だ 何かと頼ろうと言う算段だろ? 解ってやれよ』 康太は笑いながら言った 「………康太……ごめんね…… 僕はまだ君に甘えてしまいます」 『おめぇの魂を持ってるのはオレだ どんだけでも甘えろよ! お前が前を向ける様にしてやるからな』 「…………康太……僕の子は匡と言う名前なんですね」 『飛鳥井に命名の紙があるかんな 後で飛鳥井に寄れよ』 「今夜は泊まって行きます」 『どんだけ甘えん坊なんだよ!』 「たまには良いでしょ? それより康太も榊原の家に泊まって下さいよ 康太が来ればみんな来るので賑やかで楽しいのに……」 『近いうちに泊まりに行くよ お披露目、あんだろ?』 「はい!楽しみにしてます!」 『ならな!清四郎さんに着いててやれよ』 「はい!」 笙は電話を切った すると……… じとーっと視線を感じた 横を向くと……榊原と清四郎が笙を見ていた 「………奥さんからの電話なら変わって下さい!」 榊原は少し怒って笙に言った 「そうです!康太からの電話なら変わって下さい!」 同じような顔して清四郎も言った 時々駄々っ子なのは遺伝なのですね……康太 笙はよく似た親子を見た 自分と真矢はよく似た親子だった 「兄さん、僕の子供の太陽は兄さんの子供よりも似て成長するそうです…… タラシにならなきゃ良いのに……と今から心配してます……」 なんという言い草!!! 笙は「僕はタラシではありません!」と叫んだ 「伊織、言ってはなりません この年になれば妻にメロメロになります」 「………この年になれば……ですよね? 学生時代の兄さんは……下半身は緩かったです……」 「こらこら伊織……太陽には兄弟がいるじゃないですか! ユルユルな事をしてたら翔からどやされます! なので、お前の子供達は大丈夫です」 「………そうですか?」 「そうです!翔は融通が利きません 大きくなっても融通は利きません そんな兄弟の中で育つと大変ですよ」 「僕の子供が兄さんに似るなんて……」 「笙は真矢に似てるのです 笙ではなく、真矢に似てると想えば良いのです!」 「そうでしたね!」 榊原は納得した 笙は黙ってられずに…… 「僕は一途な男です!」と訴えた すると二人に真剣に見つめられドキッとした 「明日菜の所へ行きなさい笙!」 清四郎は妻に着いてろと言った 「一途な男なら妻に尽くしなさい!」 似た顔で言われては降参するしかない 笙はトボトボ歩き出した 「父さん、匡と言うんですよ」 「どんな漢字ですか?」 榊原は携帯に打って清四郎に見せた 「あぁ、満ちる……だったから匡なのですね」 「美智留は暴走型なので枠に嵌める為だそうです 兄弟、なくてはならぬ存在になるそうですよ?」 それを聞いて笙の足はピタッと止まった 振り返り……見ると優しい瞳と出くわした 「………父さん……伊織……貴方達は良く似てる……って言うか似すぎです」 笙が言うと榊原は笑って 「匡はより兄さんに似ているそうですよ? 太陽と並べば双子?と言われる程に似た存在になるそうです」 「………伊織……たまには泊まってよ」 笙は榊原に訴えた 「僕達が泊まると、一生達が着いて来ますよ? 最近は翔達も着いて来たがります すると結構大変ですよ?」 「構わない! 美智留は飛鳥井に毎日行ってるそうじゃないか!」 「瑛智が大きすぎるので明日菜は京香を助けてくれているのです」 「明日菜と京香、姉妹の様に仲良いですよね?」 「ええ、昔は社長夫人として扱ってたみたいですがね、今は本当に姉妹みたいに仲良いですね!」 「だから皆で来て下さい! そしたら明日菜も喜びます」 清四郎と榊原は顔を見合わせた 「………父さん……」 「解ってます伊織……」 雑談してると看護師が迎えに来た 「男の子が誕生しました 超未熟児でしたので保育器に入れました」 「………妻は……無事ですか?」 清四郎は問い掛けた 「帝王切開で出しました なのでまだ眠ってらっしゃいますが、オペは成功しました 目が醒めたら普通に話は出来ます」 清四郎は深々と頭を下げた 「………ありがとう……」 榊原は清四郎を支えて、顔を上げさせた 「子供に逢えますか?」 清四郎は問い掛けた 「保育器の中に入りましたので見るだけですが……」 「それで良いです」 清四郎と榊原は真矢の子供の所へ向かい 笙は明日菜の所へ向かった 看護師に案内されて保育器の所まで向かう 保育器の中に眠る小さな子供が横たわっていた 「………父さん……」 「………伊織……」 「良かったです……」 榊原は呟いて……目頭を覆った 「伊織……母さんに逢ってから康太の所へ行きなさい」 「はい!そうします」 清四郎と榊原は真矢の個室へと向かった まだ個室には真矢は戻って来てはいなかった 榊原は康太に電話をかけた 「康太、生まれました」 『そうか……良かった』 「父さんに代わりますね」 榊原は携帯を清四郎に渡した 「………康太……ありがとう……」 『清四郎さん……真矢さんが頑張ったんだよ』 「それでも……康太がいてくれねば……産まれなかった命です……」 『聞いたか?烈と言う名前…』 「聞きました 烈ですね!良い名前です 強い男の子になりますね」 『オレは……烈が小さすぎるから見舞いに行けねぇ……』 「解ってます! 君に渡せる様になるまで、私と真矢が護って育てます」 『………清四郎さん達が育てねぇのか?』 榊原と同じ事を康太も言った 「………康太……真矢は流生達に弟を作ってあげたい その想いだけで……烈を産みました なので烈は飛鳥井康太の子供にして下さい」 『………我が子を……貰っちまっている…… 太陽と大空は……五人兄弟として飛鳥井の明日に組み込まれた… もう返せねぇかんな…… 烈まで……貰う訳にはいかねぇって想ってた』 「翔達の兄弟です!弟です! あの5人はちゃんと弟の面倒を見ます 真矢はあの子達に弟を授けたかった きっと可愛がります、あの子達は…… それを見守って行こうと想っています」 『真矢さんは少し無理しすぎた 産後の肥立ちに効く薬を伊織に持たす それを飲ませてくれ お世辞にも味は良くないが……… 飲めば確実に良くなるかんな』 「康太……ありがとう……」 『明日菜の子のお披露目は清四郎さんちに泊まる 烈のお披露目の日は飛鳥井に泊まって下さい!』 「はい!楽しみです」 『清四郎さん、もう大丈夫だな?』 「はい!大丈夫です」 『真矢さんが来る 労ってらってくれ! では、またな!』 康太はそう言い電話を切った すると真矢が病室に運ばれて来た 真矢は眠っていた 榊原はベッドで眠る母親の頬に触れた 「母さん……窶れた?」 「妊娠が少し負担だったみたいです 今回の出産で真矢は子供を作れなくしました これ以上は命に関わるそうです……」 「………本当なら……母さんを………」 榊原は悔しそうに言った 清四郎は榊原を抱き締めて 「母さんは康太を見た日に決めたのです 康太が伊織の子を欲しがったら産んであげる………と。 その日から真矢は妊娠できる体躯か……検査して、まだ妊娠できると解った時、泣きました 康太に我が子を託す 康太と伊織の子供を変わりに産んであげる 真矢は……その想いだけで十月十日…… 幸せそうに過ごしていました 康太の子を…… 流生達の兄弟を…… 真矢は我が子に飛鳥井の未来を託したのです 我が子の中に確実に流れる飛鳥井の血を…… 飛鳥井に返す…… そんなつもりだったのです」 「………母さんは強いな……」 「お前の奥さんも強いでしょ? 母となる人間は強いのですよ」 清四郎はそう言い真矢の額に口吻けを落とした 「烈は強い心を持ってます きっと兄弟仲良く行ってくれると想います」 「………そうですね……」 「烈もやはり飛鳥井に組み込まれし存在なんです…… 僕達は……我が子の果てまでは見えない…… それでも適材適所配置して逝くのです」 「……伊織……そんな悲しい事は言わないで下さい……」 清四郎は息子を抱き締めた 真矢が目を開けると、清四郎と榊原が目に入った 「真矢……まだ寝ていなさい……」 清四郎が言うと真矢は瞳を瞑った 「飛鳥井の義母さんが僕と代わりに来ます 飛鳥井の義母さんは、付き添ってくれるそうです 京香は明日菜の方に付き添うそうです」 「………それは心強いです…… 母さんは玲香といると楽しそうです 本当の姉妹みたいに仲が良い その玲香が付き添ってくれるなら安心です」 「では、僕は玲香さんと代わります」 「伊織……ありがとう 康太にもお礼を言っていたと伝えてください」 「解りました!では代わります」 榊原はそう言い個室を出て行った 暫くすると玲香が個室にやって来た 「清四郎、お主は飛鳥井の家に帰って休むが良い! 源右衛門の部屋でも客間でも好きな所で休んで来るが良い」 「お願い出来ますか?」 「大丈夫だ! 夜に来るが良い 泊まり込むのは我がやる 真矢を心細いまま泊まらせはせぬ!」 心強い言葉だった 飛鳥井康太の存在は大きい 彼のもたらす優しさは増殖する 清四郎は笙と榊原と康太に声をかけた 「ファミレス行きませんか? 一生達も誘って行きましょう!」 笙は飛び付き、榊原は皆を誘ってファミレスに向かった 途中、清四郎は榊原に拾って貰った 榊原の横には康太がいた 笑って幸せそうにいた 「清四郎さん、流生達も一生と慎一の車にいんだよ」 と康太は楽しそうに言った 「皆、まとめて私が奢ります!」 幸せな日だから…… 皆といたい 康太といたい 康太が教えてくれた愛だった 皆でファミレスへと行き食事をした そのノリで飛鳥井に行き、その日は泊まった とても幸せな一日だった 清四郎は幸せを噛みしめて…… 笑った

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