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第102話 瑛智
………重いんだ……
だから僕は誰も抱っこしてくれないんだ……
父さんは僕を見ない
視線の先は何時も……
僕じゃない
………母さんは、沢山の子のお母さんしてるから……
甘えて良いのか解らない
ベッドの上で僕は何時も一人だったんだ
ハイハイしてゆける世界は少しだけ広がった
ハイハイして這って行く
淋しくなんてないんだもん
悲しくなんてないんだもん
慣れてるから大丈夫……
「……おい!何処逝くんだよ?」
康太が声をかけて来た
放っておいてよ
ハイハイして横を過ぎてゆく
「おい!瑛智!」
名前を呼ばれた
ペタンと座ると……泣けてきた
今世も……やはり愛されない……
前世も重かっただの……言われた
今世も重いとか木偶の棒とか言われるのか?
「んな事言わねぇよ」
瑛智は康太を見上げた
『………邪魔じゃない?……』
心の中で語り掛ける
「邪魔じゃねぇよ!
あんでおめぇが邪魔なんだよ!」
…………瑛智は泣いた
康太は瑛智を抱っこすると瑛太の膝の上に置いた
「………康太……」
ズシッと重い……瑛智に瑛太は康太を見た
「瑛兄の子供じゃねぇかよ?」
「ええ。瑛智は私の子供です
飛鳥井建設の社長になるのは瑛智です」
瑛太は笑っていた
「なら、もっと大切にしてやれよ」
「………してませんか?」
「瑛智は淋しがってる……」
「そうですか……瑛智、父は誰よりも君を愛してます
君が飛鳥井建設を継ぐのです
強い男になりなさい
皆を護れる男になりなさい」
瑛智はじーっと瑛太の顔を見ていた
「この子はやはり飛鳥井の子ですね
言葉が解ってるんですね……」
「そう転生し魂だかんな……」
「…………そうして飛鳥井は……
繋がって逝くのですね」
「古い血は澱む
澱んだ血は狂気と破滅を生み出す
新しい血に入れ替えねぇと逝けねぇ時期なんだ
飛鳥井はそうして何度も蘇り存在して来た」
「明日の飛鳥井を築く為……ですね」
「今回かなり無理言って転生させたかんな……源右衛門は瑛智の子供として生まれる
それで、源右衛門の転生は終わる
源右衛門を産み出すのは、より強い力持ちしか駄目だった」
「飛鳥井など滅べば良いと………
想っていました……
お前を苦しめるばかりの………飛鳥井など……
滅べば良い……
お前を総てのモノから開放して……
普通の存在として……
伊織と生きて欲しいと………
願った事はあります………
総てはお前が幸せであれば良い……」
瑛太は苦しそうに……
言葉にした
「瑛兄、オレも…………
飛鳥井など関係ない所で………
伊織と………
何も考えずに暮らしたいと……
思った時もある
でもな瑛兄………
オレは飛鳥井康太にしかなれねぇ……
だからオレは明日の飛鳥井の為に生きるしかねぇと想ってる……」
康太も苦しそうに言葉にした
「………康太………」
「瑛智は瑛兄の後を継ぐ
瑛智が継ぎの真贋 源右衛門をこの世に送り出す
飛鳥井は続く……
オレがいなくなっても……
瑛兄がいなくなっても……
何年も何十年も……
明日へと続くんだ」
瑛太は我が子を抱き締めた
翔が瑛智の傍に来ると、何も言わずに傍にいた
二人はよく似た容貌をしていたが……
より瑛太に似ているのは翔だった
瑛太のアルバムを出して見比べれば、翔?と言う程に翔は瑛太に似ていた
「えーち 」
翔は瑛智に手を伸ばした
瑛太が床に瑛智を置くと、翔が近寄って来た
流生も音弥も太陽や大空も瑛智の傍に行った
「えーち」
お兄さん風吹かせて構いたいお年頃なのか……
下の世話は自然とする様になっていた
和希や和真、北斗が自然と遊んであげてるように、翔達も自然と下の世話をする様になっていた
「翔達はもうお兄ちゃんですね」
「最近口が達者になったからな……」
「良く喋りますね
兄弟がいると、こんなに話せるのですか?
と榮倉や佐伯、女性社員に良く聞かれます」
康太は笑っていた
我が子と康太と過ごす何気ない日常が……
瑛太には大切な宝物だった
「瑛智、父は君の成長が楽しみです
お兄ちゃん達と仲良く成長して下さい」
瑛智は瑛太をじーっと見てニコッと笑った
我が子だった……
だが……亡くした我が子と……
手放した我が子を想えば……
素直に愛して良いのか……
躊躇した
そんな態度を見透かされているみたいで避けた……
今想えば……浅はかだったと想う……
二度と逢えなかろうが……
娘の意思や魂は音弥の中に在る
康太が還してくれた魂だった
淋しいままに逝かせなくて良かった……
我が子と名乗れなくとも……
その姿を見れば……我が子だった
そして瑛智……
引け目や負い目が君を見れなくさせてしまったけど……
僕の子です
僕と京香の子です
瑛太は瑛智の頭を撫でた
そして翔の頭を撫でて……
流生や音弥、太陽、大空の頭を撫でた
流生は「えーちゃ」と抱き着いて来た
瑛太は流生を抱き上げた
「流生、来年は幼稚舎に入園ですね」
「ちょう!りゅーちゃ ぎゃんびゃる」
瑛太は笑って流生を下ろした
「入園式は楽しみです」
「………悪ガキになりそうだけどな」
「康太の子ですからね……」
瑛太は、そう言い笑った
会社に教師から電話があると瑛太が謝りに出向いた
「………瑛兄には呼び出しばかりで悪かったよ……」
康太はバツの悪い顔をした
「お前がいて……明日に続くなら……
兄はこの命を賭しても護ると決めたのです」
「瑛兄、取り敢えず飯食おうぜ!」
康太はそう言い大空を抱き上げた
流生が泣きそうな顔で康太を見ていた
「流生、抱っこか?」
流生は頷いた
大空を榊原に渡して流生を抱っこすると、他の子も抱っこしてと泣いた
一人ずつ抱っこしてキッチンに連れて行くと、瑛智を抱き上げた
「瑛智も沢庵食いやがる……」
オレの沢庵を……
康太はボヤいた
瑛太は笑って瑛智を受け取った
京香がキッチンから顔を出すと
「珍しいのだ……」と呟いた
瑛太が我が子を抱っこするのは滅多となかったから……
「京香、私はそろそろジム通いした方が良くないかと思ってます」
「………鍛えるのか?
それ以上男前になってどうするのじゃ?」
「京香、私は浮気はしません!」
真顔で言われると恥ずかしいであろうが……
と京香は呟いた
「翔達が幼稚舎に通います
瑛智も直ぐに幼稚舎です
運動会に参加するなら鍛えないと……
弱っちい父親になってしまうではありませんか!」
瑛太の言葉に榊原も
「…………!僕もジム通いしましょうかね?
弱っちい父親……それだけは嫌です!
義兄さん……共に鍛えましょう!」
意気投合して……
ジム通いする算段をする
康太も一生も慎一もそれに乗り、皆でジム通いをしに逝くと盛り上がった
瑛智は……呆れて見ていた
親って大変だな
ポリポリ沢庵を食べながら、そう考えてた
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