103 / 163
第103話 力哉
僕は………弱い
乗り越えなきゃ……
そう思うのに……
何かあると逆戻り
康太は何時も……
強いね
僕より……酷いことされたのに……
毅然と前を向いている
僕は君のようになりたいよ
僕は君の強さに憧れて止まない
血を吐こうとも……
撃ち抜かれようとも……
君は歩みを止めない
何で……
君はそんなに強いのか……
もう少し弱くてもいいと想う
君の強さが憧れで……
僕にないものばかり持ってる君が羨ましかった
僕は君の為に生きたい……
なのに……
君に返すモノが何もないんだ……
そんな考えに耽っていると……ドアがノックされた
「はい……どうぞ……」
ドアがガチャッと開かれ……
立っていたのは綺麗な……銀色の妖炎を垂れ流す桐生夏生だった
「力哉、君と康太は何も違わない……」
「………え?……」
「君は赤龍と魔界に還るんでしよ?
なら知っておくべきだと想う
飛鳥井康太……いや……炎帝の総てを知るべきだと想う」
「………知ったら……どうなるの?」
「それは貴方が識れば良い……
識って……どうするか?どうなるか?
識ってから決めれば良い……」
力哉は夏生を見た
夏生の澄んだ瞳に見つめられドキッとなった
深い……グレーの瞳が………力哉を見つめる……
力哉の意識はその瞳に囚われ……
意識を手放した
「夢を見るが良い
そして識るが良い力哉……」
夏生は力哉を抱き上げるとベッドに寝かせた
そして枕元の椅子に座った
炎帝……
貴方の想いを少しだけ力哉に与えます
力哉が何者にも囚われず生きて逝く為に……
炎帝……
貴方を視せてあげてください……
力哉は深い深い闇の中にいた
目を凝らしても何も映らない
だが……不思議と恐怖はなかった
暗闇にもわっとした灯りが灯ると当たりは明るくなった
まるでスクリーンを見てるみたいに……
康太?………が写った
真っ赤な瞳で
真っ赤な髪をした……
小さな子は何時も孤独だった
彼の周りには誰もいなかった
黒髪に黒い瞳になった康太?が一人でいた
周りには誰もいず孤独に一人でいた
「炎帝……」
顔を上げるとニコッと笑う
「兄者!」
そう言い兄と呼んだ人に抱き着いた
「………2000年……子供のままなのかよ?」
その日初めて炎帝の目の前に兄以外のモノを見た
「………あぁ……2000年……成長せぬ……」
黒龍は炎帝の前に屈むと目線を同じにした
「黒龍って言うんだ!
おめぇの兄貴とは友達だ!ヨロシクな!」
その日を境に炎帝に友が出来た
炎帝は3000年子供の姿で……
3000年を過ぎるとメキメキと成長した
破天荒で破壊神と謂われた
魔界のモノは皆……
炎帝を遠巻きに見て敬遠していた
黒龍が 四龍の兄弟を紹介した
その時、青龍を見た……
炎帝の初恋だった……
だが炎帝は青龍に嫌われていた
役務につく様になってから……
炎帝のやることなすこと……青龍が取り締まる事となった
恋した瞳で見る炎帝の姿があった……
炎帝を無視する青龍の姿があった……
冷たくあしらわれ……
炎帝は泣いた
それでも………嫌いになれない……と泣いた
そんな炎帝を支えたのは黒龍だった
閻魔と黒龍が炎帝を護った
優しい黒龍……
黒龍に恋したなら……
黒龍は受け入れてくれたかも知れない……
だが炎帝が恋したのは……青龍だった
青龍の姿を見るだけで胸が一杯になり
幸せで……
それでいて苦しい……
青龍の家を湖の反対側から見ている炎帝の姿があった
恋して……
焦がれて……
青龍だけ見つめていた
気紛れに抱かれる炎帝の姿があった
草むらの上に重なる炎帝と青龍の姿があった……
視線は……湖の中から見ている感じ……
炎帝が呼ぶ「スワン」と
すると炎帝の傍に近寄っていく
冷たい青龍を嘴で突っ突いた事もある
炎帝を泣かすな……と青龍を突っ突いた
力哉は……まるで映像を見ている様に……
流れる映像を見ていた
あぁ……これは夏生の見た……光景なのだ……
「……最後に……一度だけ……ベッドの上で抱いて欲しい……」
炎帝が言うと青龍は了承して……炎帝の家に向かった
スワンは炎帝の家を泣きながら見ていた
たった一度……青龍にベッドの上で抱かれて……
炎帝は人の世に堕ちるのだ……
炎帝……
炎帝……
僕の主……
僕は炎帝のスワン……
夜が明ける前に炎帝は幸せそうな顔で微笑むと……
「スワン……青龍の家の土地には呪いをかけた……
あの土地は……もう住めない……
オレのいない所で……青龍が幸せな家庭を送るのが耐えられなかった…
だから……お前は……閻魔の邸宅で暮らせ…」
「炎帝……一緒に……」
逝きたいよ……
「スワン……オレの綺麗な白鳥……」
ギュッと抱き締めると炎帝はスワンを離した
そして天馬に乗り……青龍の山へと向かった
天馬を青龍の山に眠らせ……
女神の泉へと向かう
スワンは炎帝を追った……
炎帝……
炎帝……
一人で……逝かないで……
苦しかった
悲しかった
孤独な魂を……
救って……神様……
スワンは祈っていた
女神の泉へ逝くと……
青龍がいた
炎帝は青龍に抱き締められて……キスしていた
炎帝は愛してる……と言い泣いていた
二人して湖へ消えてく姿を見送った
視界がユラユラ揺れていた
炎帝……
炎帝……
力哉は泣いていた……
「炎帝は強くなんかない……
炎帝だって……辛くて泣いた時だってある
神が集まり創った傀儡……
周りの瞳は何時も怪異に歪み……
炎帝を忌み嫌った……
何時の世に転生しても……
その瞳の持つ恐怖に人は忌み嫌った……
炎帝を支えたのは青龍の愛だ
でなくば……炎帝はこの世も……魔界も天界も…総て焼き尽くしていた
それ程に炎帝は……何時の世も殺されかけたり殺されたり……
何一つ悪い事をしてないのに……
炎帝は殺されて来たんだよ!
その記憶総て持って……炎帝は今を生きてる
それがどう言う事か解るよね?
強いんじゃない……
誰よりも弱いから……人の痛みや……恐怖が解るんだ
力哉……康太も……怖いんだ
それでも……進むのは……護りたいからだ
力哉……君も愛するモノを守りたいなら動かなきゃ……」
力哉は泣いていた
「………夏生……」
「…………炎帝に報いる為に僕は生きてる……
辛くても……
この辛さは生きてる証だと……
僕はそう思うんだ
力哉……」
夏生は力哉の胸に手を差しだした
「ここに……総ての想いを秘めて……
僕達は先に逝くしかないんだよ?」
力哉は夏生の手を握りしめた
心臓に置かれた手を握りしめて……泣いた
「………ありがとうスワン……」
「力哉……魔界に還ったら飲もうね
炎帝が置いて出た秘蔵のお酒、飲ませてあげる」
「そんなの飲んじゃって大丈夫なの?」
「炎帝は細かいことは謂わないよ」
夏生はそう言い笑った
「………弱いから……康太も……人の痛みが解るんだね……」
「そうだよ
強いだけの奴には痛みは解らない…」
「なら僕……弱くて良い……
痛みの解る奴でいたい」
「僕もそう思うよ
力哉……乗り越えなくて良いんだよ
受け入れてあげなよ
その苦しみも痛みも……君のモノだよ
その苦しみも痛みも……もう君を傷つけたりはしない……」
「………夏生……」
「力哉……眠ると良い……
起きたら……新しい朝が君を迎えてくれるよ」
「……夏生……」
夏生は何やら呟くと力哉の額に口吻けを落とした
力哉は意識を手放した
目が醒めると……
世界がキラキラ輝いて見えた
力哉は笑った
携帯を取り出すと力哉はメールを送った
「愛してる一生」
素直に愛してると心から思った
還ろう……
愛する人の傍に……
愛する人の傍にいられる幸せを……
炎帝から教えて貰った
夏生……いや………スワン……
それを僕に教えたかったんでしょ?
ありがとう……
力哉は愛する人を思い浮かべて……
瞳を閉じた
ともだちにシェアしよう!