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第104話 始まりの序章
僕は由緒正しきトランシルバニア家のヴァンパイアなんだ……
だから……
ダンピールなんかに……
狩られる訳にはいかない……
ダンピールは吸血鬼たるヴァンパイア一族が、人間との間に設けた混血の種族だった
ヴァンパイア一族からは半端と軽蔑され
人族からは忌避され……
ひっそりと人間に紛れて生きてきた
彼等は虐げられた日々に別れを告げ……
ヴァンパイアを狩る様になった
ダンピールだけが……
ヴァンパイアを見つけ出し狩る能力があった
血液への欲求や太陽に対する弱点は緩和されダンピールは人に紛れて生きてきた
狩るべき存在を見つけ出し……
トドメを刺す……
ダンピールとヴァンパイアは相容れない存在
そんな彼等が……出会ってしまった……
はぁ……
はぁ……
逃げなきゃ……
狩られる……
僕を狩るのは……
アイツだけ………
ほかの奴になんか狩らせる訳にはいかない……
闇に融けて…
逃げる……
逃げなきゃ……
「伊織、車を止めてくれ……
血の臭いがする……」
榊原は路肩に車を停めた
「………手負い……ですかね?」
「………あんだろ?……」
康太は細い路地を入って行った
榊原が康太の横を歩いた
細い路地は行き止まりになっていた
街灯もないそこは………暗闇に包まれていた
「………気配……はあるんですがね?」
榊原は呟いた
康太の瞳が赤く光ると……
暗闇に潜む存在を映し出していた
康太は……闇に蹲る者の手を掴んだ
「…………ダンピールか?……」
闇に潜む者は……呟いた
「オレはダンピールじゃねぇよ!」
「………なら……何故……僕が視える?」
「トランシルバニア家の血統か……
ダンピールにでも狩られそうになったか?」
闇に潜む者は……康太を睨み付けた
ジャリッ……と他の者の足音を耳にして……
康太は立ち上がり……
背中に隠した
「その者を……寄越せ……」
康太に躙り寄る存在に……
榊原は康太の前に出た
「ダンピール……ですか?」
「だろ?」
「背中の奴を出せ!」
ダンピールは康太に告げた
「嫌だと……言ったら?」
「お前達も……同属とみなして……狩る!」
ダンピールは康太に剣を向けた
「伊織……ダンピールの苦手なものって、あんだよ?」
「………吸血鬼と人間の混血でしたね……
にんにくも……朝日も平気なんですよね?」
「………だな……困ったな……」
「………ガタガタ煩い!」
ダンピールは康太に剣を突き刺そうとした
榊原は剣を……素手で……掴んだ
「………オレの青龍に傷をつけやがって……」
康太の体躯が……赤く燃え上がった
「………お前は……何もんだよ!」
「オレか?オレは飛鳥井康太だ!」
「………人じゃねぇだろ?……」
「さぁな……ダンピール協会とは知らない仲じゃねぇ……
でも……殲滅(せんめつ)理由も述べず狩るってぇのは……許せねぇんだよ?」
「殲滅理由は第一級ヴァンパイアだからだ!」
「殲滅に値する殺戮は……
出てねぇのに第一級ヴァンパイアだって言うのか?」
康太はダンピールの前に立った
「オレの昇華は、お前らダンピールでも消すぜ!
こいつに手を出すなら、オレはお前を昇華するしかねぇ!」
「………上からの命令だ……お前の言う事なんて聞けない!」
「カリウス・アマーリエ・フォン・ヘッセン=トランシルバニア公爵を狩れなんて……
聞いた事がねぇぞ?」
「…………お前は一体………」
何ものだ?
聞こうとしたダンピールが動きを止めた
闇からスーッと姿を現した男は
「私は……命令など出してはおりませんよ?
だとしたら……その命令は何処から出たのですか?」と断言した
その声にダンピールは何も言えなくなった
「…………目(さがん)恭輔……」
康太は闇に融ける様に立っている男の名前を呼んだ
「炎帝様……お久しぶりに御座います」
「………あぁ……1000年ぶりか?」
「…………何故……貴方様が……ダンピールの狩りに……関与されてるのですか?」
「街を血で染める強引なダンピールのやり方に腹が立ってんだよ
人を死に追いやるウァンパィアはいねぇのに?
殲滅してる理由を聞こうとしてな
ダンピール協会は無害なウァンパィアの殲滅に乗り出したのか……
と思っただけだ……他意はねぇよ!」
「………ダンピール協会は代替わりを致しました……」
「代替わりをしたら殲滅レベルに達してねぇのまで狩れとお達しがあったのかよ?
しかも日本は目、おめぇが仕切ってるじゃねぇのかよ?」
「………我の力も……薄れました……」
「目、おめぇの力が薄れるのは勝手だ
だが、オレの目の前で好き勝手やるなら話は別だ!
オレはウァンパィアの方に手を貸すぜ?
そしたらダンピール協会はオレを敵に回すって事だな!」
康太はそう言い嗤った
目は……何も言えなかった
「………貴方が出たら………ダンピールは全部殲滅してしまいます……」
「知るかよ!
ウァンパィアとダンピールは暗黙の協定がある筈だ
全部は殲滅しねぇと言う約束事があった筈だ
なのに……オレの住む街を血で汚しやがって………無差別に殲滅してるのはどっちだか解らねぇなら……
解らしてやるしかねぇじゃねぇかよ?」
「………ダンピール協会は……貴方様を敵に回したという事ですか?」
「だと言う事だな!」
康太は唇の端を皮肉に吊り上げて嗤った
「カリウス・アマーリエ・フォン・ヘッセン=トランシルバニア公爵は貰っていく
欲しければ、正式に申し立てをしろ!
後、この先オレの住む街を血で染めやがったら……それなりの報復を覚悟しろと……伝えておけ!」
「………伝えておきます……」
「ダンピール協会は今一度、見直しが必要だな……
殲滅レベルに達しねぇウァンパィアを狩る以上は………
それなりの理由を聞かして貰わねぇとな…
日本の地で、体内の血を一滴残らず吸い尽くされて死んだ遺体はねぇ筈だぜ?
なのに何故殲滅されまくってるのか……
罪もねぇウァンパィアを殲滅する以上は……
そっちも覚悟を決めねぇとな……」
「…………炎帝様……我の力も薄れました……
このまま……消えてなくなる前に…貴方と出逢えて良かった……
ダンピール協会の行く末を不安視しておりました……」
「軌道修正はオレの務めだ
曲がって逝くならば……正さねぇとな……」
目は深々と頭を下げた
康太はヴァンパイアを掴んで歩き出した
榊原は康太を護る様に歩き出した
「オレの青龍を傷付けたんだからな……
オレは怒り心頭だって事を忘れるな!」
「しかと……伝えておきます……」
「オレと逢った時点で始めまりの序章は幕は切って落とされた
始まりの序章は……始まったと思え」
そう言い捨てて……
康太は榊原と共に……去っていった
目は……ダンピールの男を殴り付けた
「………しくじったな……
殲滅に値せぬヴァンパイアに手をかけたと言う事は………どう言う事なのか聞かせて貰おうか?」
「貴方の指示になど従うつもりはない……
老兵は去ると良い!
我等ダンピール協会は生まれ変わったのだ」
「………お前達は……一番敵に回してはならぬ者を……敵に回した……」
「どの程度の人間か知らないが……
我等ダンピールの敵になどなりはせぬ」
ダンピールの男はそう言い闇に消えた
目は……
滅び行く……
ダンピール協会を想った……
あの方が出て来るなら……
…………多くのダンピールが消えて……逝くしかないだろう……
この世で一番敵に回してはならぬ存在を……
敵に回したのだから……
これは始まりの序章の幕が上がったに過ぎない………
一人のヴァンパイアが………
ダンピールと契った……
ダンピールとヴァンパイアは決して契ってはならぬ存在
その均衡を崩した……
ダンピールの威厳と尊厳を護る為に……
ヴァンパイアの殲滅の強化をした
狂い逝くダンピール協会に為す術もなく…
見ているしか出来なかった………
炎帝様……
トランシルバニア公爵を連れ去れば……
貴方に……降り注ぐ災難を……
自らの手で懐に入れたも同然になってしまわれますよ?
目は………自分に出来る事をしようと動いた……
ヴァンパイアを連れて車に乗せた康太は……
「………始まりの序章の幕が上がった……
これから……トランシルバニア公爵を消さんとダンピール協会は躍起になって来るな……」
「道理に添わないのは……あちらの方です
来るなら……叩き潰すだけです……」
「………伊織……手は?
手の傷は……どうなった?」
「………病院に行きます」
「………無茶……しやがって!」
「君を傷付ける者は……何人たりとも許してはおきません!」
康太は榊原に抱き着いた……
「康太、この者は……どうします?」
「このヴァンパイアはダンピールと契って血は飲めねぇからな……
スワンに預けようと想う……」
「………血が飲めないのですか?
ヴァンパイアなのに?」
「由緒正しきトランシルバニア家のヴァンパイアは元は龍だったのを……知ってるか?」
「…………知りません……」
「ドラキュラはルーマニア語で「竜の息子」って意味がある
龍の血が受け継がれていなければ……
何千年も生きちゃいねぇだろ?」
「………では龍である我等一族と遠からず関係があると言う事ですね?」
「だな?トランシルバニア家はその最たる血脈を受け継いでる一族だ」
「………では……ダンピールと全面戦争……しかありませんね?」
「………このヴァンパイアとダンピールは……
惹かれ合い……愛し合った……
それ故に……互いの体躯に……支障をきたしている……
ダンピールは……吸血鬼と交わったせいで本来の力を失い……
ヴァンパイアの方は……交えた者以外の血は飲めなくなった……
カリウスは愛するダンピール……廉に狩られる事を望んでる
廉は……カリウスを狩らないで良い方法を模索して……ダンピール協会から護ろうとしてる……」
「………恋人を護ろうとして……
互いを思い遣ってるのですね……」
榊原は哀しそうに……呟いた
カリウスは「………何故……それを……」と呟いた
「カリウス……お前の親父に逢いに行った事がある
覚えてねぇか?」
「…………人間なら……死んでるよね?」
「オレは幾度となく転生してる存在だ……
………愛してるのか?ダンピールを?」
「………僕は……誇り高きヴァンパイアだ……
ダンピールなど愛してはおらぬ……」
「誇り高きヴァンパイアの癖に……血を吸えねぇんだよな?」
カリウスはそっぽを向いた……
「……僕は……廉に狩られたいだけだ……
他のダンピールになど……狩られたくなどない……」
「……種族は違っても……愛する心は止められねぇ……」
「………君には……解らないよ……」
「そうでもねぇぜ?
青龍に惚れて……種族を超えたかんな……」
「………炎帝……僕は……廉の手にかかれるなら……喜んで狩られるつもりなんだ……」
「少し眠れ……」
康太は振り返り……カリウスの瞳を貫いた
カリウスは……突然……睡魔に襲われて……眠りに落ちた
「……伊織……逝くしかねぇな……」
「……ええ……僕の奥さんは愛し合う恋人同士には寛容ですからね……」
「………種族を……超えたら……愛せねぇなんて……誰が決めたんだよ?」
「……愛する心は……誰にも止められません……」
「青龍……愛してる
オレの蒼い龍……」
「炎帝、愛してます
未来永劫、愛するのは君だけです」
康太は……榊原の怪我した掌に口吻けた
闇に熔ける……
闇に生きる蠢き……
虎視眈々と狙ってる
始まりの序章は幕を開けたばかりだった
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