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第105話 らいちゅき ひょーろーきゅん

「………ひょーろーきゅん……」 兵藤は天宮綺麗の施設に出向いていた 天宮綺麗 飛鳥井の一族に生まれ、類い希な才能を持つ科学者 天宮東青と出来婚で結婚して天宮姓を名乗るが、未だに飛鳥井康太に心酔して 飛鳥井康太の為ならば…… どんな事でもしてしまう部類に入っていた 綺麗は兵藤を見て笑った 「腐れ縁は切れねぇのか貴史」 「切る気がねぇからな……」 「必死に切ろうと……してたのにな……」 「………諦めたんだよ…… 切っても地獄しかなかった……… 俺の知らない所で泣かせるなら……傍にいた方がマシだ」 兵藤がそう言うと綺麗は笑った 「貴史、子ども達に逢いに来たのであろう?」 「そうだ!」 「………貴史は知っているのか?」 「何を?」 「………あの子達の能力を……」 「翔は飛鳥井の次代の真贋だから力はあるだろ? 流生は……あれで……二度封印させた…… 音弥もそうだ……あれで封印させてある 音弥は瑛太さんの子の琴音が入っている…… 九曜の力と琴音の魂で……曲がらぬ存在にすると言っていた……」 「流生は……あれで二度封印させたと言うのか…… 音弥もあれで封印をしてあるというからな……驚きだ……」 「太陽と大空は……力はねぇだろ?」 「………あの二人は……力を持っている……」 「………え?双子だからじゃねぇのかよ?」 「………違う……和希と和馬の様な力が……あの二人にはある……」 「………康太は知ってるのかよ?」 「………知ってるだろ?康太だからな……」 「………そうか……でも康太の子だ……大丈夫だろ?」 「あぁ……康太の子だからな…… それより音弥……どうにかならないのか?」 「音弥?何があったのか?」 「………あの子……誰の趣味なのだ? 童謡より……Alexandrosの渡り鳥が好きだし……BUMP OF CHICKENなんか聞いてる…… UVERworld聞くんだぜ? 他にもMAN WITH A MISSION聞いて歌ってる……しかも英語らしき発音だ……」 「………それは隼人の趣味だな iPodに歌を入れて聴かせてるらしいからな」 「………iPod……子供に?」 「伊織が買って与えた」 「………言って良いか貴史……」 「………良いぞ……でも本人に言うのは止めとけ……康太が怒る」 「………どんだけ親バカじゃ!」 綺麗は怒っていた 「………どの子も愛してるんだ……許してやれよ綺麗……」 「……なら許すしかないではないか…… それより……翔……そのうち壊れないか…… 私は心配でならない……」 「………翔?何かあった?」 「あの子は……本当に瑛太の子だな…… 瑛太には康太がいたからな…… 壊れないで生きて来られた…… 翔はどうだ?……我はそれが不安でならない……」 「………翔……見て来ようかな……」 「来るが良い……子ども達を連れ去ろうとした職員がいたからな…… 今は……かなり警戒レベルを上げている」 「………康太に言ったか?」 綺麗は首をふった 「我は……命に代えても……あの子達を護ると決めている……」 「………綺麗……」 「さぁ、来るが良い」 綺麗は兵藤を連れて幾つかのゲートを潜って行った 厳重なセキュリティを通して入って行った先に流生達はいた 流生は兵藤の姿を見つけると 「ひょーろーきゅん!」と言い駆け寄って来た 兵藤は流生を抱き上げた 「元気にしたか?」 「ひょーろーきゅん……かぁちゃ……」 「あと少し待て……そしたらお迎えに来る…」 兵藤が言うと何度も流生は頷いた 音弥が兵藤の足に抱き着いた 兵藤は座り、音弥を膝の上に乗せた 「とぅちゃ……かぁちゃ……」 「あと少し……だからな……」 言ってる兵藤も胸が痛くなって来た 大空や太陽も兵藤に抱き着いて康太と榊原の事を聞いた なのに……翔は離れた所で兄弟を見ていた 「翔?」 兵藤が呼んでも翔は来る気配はなかった 「翔……おいで……」 兵藤が言うと流生が翔の手を引っ張って連れ来た 「翔、どうした?」 「かけゆ……ぎゃまん……れきりゅ!」 翔は必死に我慢していたのだ お兄ちゃんだから……と必死に自分を律していた 「翔……我慢なんかするな!」 兵藤はそう言い翔を抱き締めて泣いた 「我慢ばっかしてたら………壊れちまうだろうが!」 「……ひょーろーきゅん……」 翔は兵藤を呼んだ 「解ったな!翔我慢なんかするな!」 翔は頷いた 「今日はひょーろーきゅんはお使いに来たんだぜ!」 そう言い子ども達に康太の声と榊原の声が録音したレコーダーを手にした ポチッとスイッチを押すと 『元気か?翔、流生、音弥、太陽、大空 淋しい想いをさせたな あと少しで還るかんな! 良い子して待ってるんだぜ!』 康太の声に子ども達はレコーダーに飛び付いた 『翔、流生、音弥、太陽、大空、元気ですか? とぅちゃとかぁちゃはあと少ししたら還りますからね! 良い子して待ってて下さいね!』 流生は「とぅちゃ……かぁちゃ……」と泣き出した すると音弥も太陽も大空も泣き出していた 翔は泣いていなかった 泣いてる子達の世話をしていた 「………翔……世話なんてしなくて良い!」 そう言い兵藤は翔を抱き締めた 「泣け!泣け!翔!」 兵藤は翔に言った すると翔は 「らめ……かけゆ……にゃくちょ……みんにゃにゃく……」 と言った 「皆……泣いても良いじゃねぇかよ!」 「らめ……かけゆ……にいちゃ……」 「にいちゃでも……嬉しい時や悲しい時は泣いて良いんだって…… 兵藤君だって……泣くぜ…… おめぇらと逢えて嬉しいから泣くんだぞ? 離れてたら悲しいから泣くんだぞ? 解るな?翔?」 「………にゃいて……いいにょ?」 「良い!泣くのに年なんて関係ねぇんだよ! にいちゃだから我慢しなきゃ駄目なんて誰が決めてんだよ!」 「………ひょーろーきゅん……」 翔は泣き出した 兵藤は翔の頭を撫でた 「我慢なんてすんな! オムツしたのが……我慢するな!」 「ひょーろーきゅん」 「あんだよ?」 「かけゆ おむちゅ にゃいにゃい!」 翔はオムツは取れたと言った 兵藤は笑って 「オムツ取れてても泣いて良いんだよ! しかし偉いな翔! オムツ取れたのかよ?」 「かけゆ ぱんちゅ!」 翔はズボンを下ろして兵藤にパンツを見せた 「お!ジバにゃんじゃねぇかよ!」 「とぅちゃ 」 翔は榊原が用意してくれたと言った 『翔 オムツが取れたらパンツですよ』 そう言い用意してくれたパンツだった 兵藤は榊原の想いを想って…… 泣けて来た 本当は離れたくなんかないのに…… 誰よりも子ども達を愛して…… 康太と共に育ててるのに…… 子ども達は兵藤と別れる時…… 大泣きした 兵藤は後ろ髪引かれる想いで……綺麗の施設を後にした 施設を出る時、綺麗が紙を兵藤に渡した 「これは?」 「子ども達からだ! どうしても、と言われて教えたやつだ」 兵藤は紙を開いてみた 紙には…… 『らいちゅき ひょーろーきゅん』 と書いてあった 「………これを……あいつ等が?」 「らいちゅき ひょーろーきゅんって書きたいから教えろと言って来たんだ それを手紙に入れて送るつもりだった」 子ども達の想いが嬉しかった 「………綺麗……あと少し……頼むな……」 「解っておる!」 綺麗と別れて…… 家に帰る道すがら…… 兵藤は涙が止まらなかった 康太…… 伊織…… 早く還って来いよ 子ども達にとって…… 親はおめぇたちしかいねぇじゃねぇかよ 兵藤は家に還って自室に行くと、机の上のボードに紙を貼り付けた 兵藤の部屋の壁には子ども達に貰った康太のパネルが飾ってあった 「康太……早く還れ……」 そう言いパネルの康太に口吻けた

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