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第108話 卒業式狂想曲 ②

朝起きたら体躯が怠かった 康太を起こし、歯磨きして顔を洗わせると、髪を整え桜林の制服を着せた 榊原も自分の支度をすると、康太をリビングのソファーに置いた そして掃除洗濯をする 家の中至る所をピカピカに磨き上げて、納得するとリビングに還る 榊原の何時もの日課だった リビングに顔を出すと一生が来ていた 「……お疲れのヨレヨレですがな……」 「………抜けなくてな……何回犯ったか覚えてねぇよ……」 聞きたくねぇよ………と一生は想い苦笑した 「卒業式当日ですがな……」 何故今日まで我慢出来ないかな……一生は想う 「大丈夫だ一生!」 康太はニカッと笑った 食事を取り、裏の兵藤を迎えに逝く チャイムを鳴らすと美緒が飛び出て康太を抱き締めた 「懐かしいな康太 留年した訳じゃないよな?」 桜林の制服に身を包み…… まるで当時に還ったみたいだった。 「悠太の代打で卒業式やってるんだよ 今日は本番!今日で制服は着れねぇ……」 「………当時に戻ったみたいだ…… 役得だった……」 兵藤は康太から美緒を引き剝がし 「逝くぜ康太! 今日は執事も連れてくからな!」 と言い兵藤家の執事を同行させた 学園に行くと生徒が校門の前に出て来ていた 「兵藤会長!おはようございます!」 「康太さん!おはようございます!」 「榊原部長!おはようございます!」 「一生さん、聡一郎さん!隼人さん!慎一さん!おはようございます!」 と方々から声がかかった 歩けば人の波が動き…… 大きなうねりとなり……時代を作り出していた 佐野春彦を始めとする教師が体育館前に整列していた そして康太達を見ると深々と頭を下げた 長瀬匡哉が一歩前に出て深々と頭を下げた 「今日卒業していく生徒は本当幸せだと想います 心に刻む卒業式……本当にありがとうございました!」 「悠太が出来なかった事をしただけだ 葛西や悠太の想いがオレを動かした……」 「………悠太の具合は? 個室に見舞いに行ったら退院されてましたね?」 「悠太は隠した…… 命を狙われていたからな…… お前もニュースは見ただろ?」 「…はい……今は……大丈夫なのですか?」 「………あんまし大丈夫じゃねぇかもな…… 悠太の病状じゃねぇぞ…… 飛鳥井が狙われてる事は変わりねぇという事の方だぞ……」 「一日も早く心穏やかな日々が訪れます様に教師一同願っております!」 「ありがとう」 康太はそう言いニコッと子供みたいな顔で笑った 現生徒会役員と共に体育館に入ると、皆スタンバイに入った 打ち合わせ通り皆動き出した 榊原はピアノの前に座った 生徒達の要望でどうしても……と頼まれてピアノ伴奏をする事になった 兵藤は舞台中央の壇上にいた 康太達もその横に並んでいた 体育館に入って来た在校生はカメラでその姿をパシャパシャ撮っていた 卒業式を見届けに来た戸浪海里PTA会長が康太を見付けて近寄ってきた 「康太!何故いるのですか?」 「オレは悠太の代打だ 悠太は魘される様に卒業式の事を言っていた 葛西もな……送り出す先輩達に想いを馳せていた だからオレ達は悠太と葛西の代打で卒業式を完遂する事に決めたんだよ それに賛同してくれた貴史や清家、藤森達がOBを集めてくれて迎えた日だ」 「………そうだったんですね…… 悠太……具合どうですか? お見舞いに行ったら退院した後でした」 「………飛鳥井はまだ狙われてるからな…… 悠太は表に出せねぇよ……」 「………そうなのですか…… 帰り……寄っても構いませんか?」 「あぁ、皆来るから五月蠅いだろうけどな それでも良いなら……」 「構いません……では後で…」 戸浪はPTA会長の席に座った 「卒業生、入場させて宜しいですか?」 扉の前で生徒が問い掛けた 兵藤は「開門!」と声を上げると…… 卒業生が整列していた 胸の造花は、前日生徒達が造ったモノだった 去り行く先輩の為に皆で力を合わせて造った花だった それを胸につけて、卒業生は胸を張っていた 清家静流が 「これより卒業式を執り行います! 来賓のお言葉は体育館入り口に公示してありますので皆さん目を通しておいてください! 卒業生入場!」 と声の限り叫んだ 卒業生は真剣な面持ちで入場を始めた 榊原の伴奏する曲が耳に優しく響いた 湖の前に立ち……青龍の家から聞こえるピアノを聞いていた…… 青龍の奏でる曲は何時も物悲しく…… 炎帝の胸に響いた 康太は……遥か昔を偲び……榊原を見ていた 卒業生が席に着くと学園長が壇上の机の前に立った 「卒業証書授与式」 戸浪万里が告げるとA組の教師がマイクの前に立った 一人ずつ名前を読み上げると「はい!」と元気よく立ち上がり壇上へと上がっていく 生徒数は少なく……A組 B組 C組と順調にいき、スケジュール通りの進み具合となった 送辞の言葉を戸浪万里が告げた 答辞の言葉は卒業生にやらせた 康太達はあくまでもサポートと言う事で裏方に徹した 卒業式も終盤に差し掛かった頃、佐野春彦が壇上にやって来た 予定外の事で……康太は兵藤と顔を見合わせた 「………こんなの予定にねぇよな?」 「………あぁ……おめぇが企んでねぇなら知らねぇよな……」 兵藤もそう答えた 佐野はマイクを持つと学園長に深々と頭を下げた そして会場を見渡して言葉にした 「今日の卒業式は桜林のOBである生徒達の協力があったからこそ、迎えられた日だと俺は想います 兵藤貴史、飛鳥井康太、榊原伊織、清家静流、藤森桐伍その他OB会の協力があればこそ、頓挫する事なく心に遺る卒業式が出来たと想っています 代表して兵藤貴史、飛鳥井康太、卒業生に言葉をお願いします」 康太は兵藤に「やるか?」と問い掛けた 兵藤は「やらなきゃ男が廃るだろ?」と笑った 佐野が渡すマイクを兵藤は康太に渡した 「言い出しっぺが先に言え」 康太はマイクを受け取り、深々と頭を下げた 「卒業生の諸君、卒業おめでとうございます 皆さんもご存知の様にオレは弟、飛鳥井悠太の代打で卒業式を出ています 飛鳥井悠太、葛西繁樹は卒業式を執り行えない事に卒業生の皆さんに本当に申し訳なく思います! 卒業生の皆は今日卒業してそれぞれの道を歩む事になるだろう 卒業して社会に出る者もいれば大学に上がる者もいる 君達の人生は無限に輝き希望に満ちている 今日がスタートであり始まりだと想ってください 辛い日々もあれば、楽しい日々もあるだろう 挫折も希望もこれから味わうかも知れない そんな時、思い出して下さい 共に学び共に生きた日々を! オレが今回弟の代打で卒業式をやる事になった時 友は何も言わず協力してくれました 共に生きる友を作って下さい そして永遠に色褪せない友情を大切にして下さい 桜林にはそんな繋がりがあるとオレは想います 桜林OBはそんな繋がりが存在していると想います 卒業生諸君、今日が始まりだ! 卒業 おめでとう!」 康太はマイクを兵藤に渡した 「兵藤貴史だ! 今回俺は友の為に卒業式の壇上に立っている 自分達の卒業式じゃねぇのに5日間必死に卒業式を作る事に終始した 共に生きてくれる友が、俺にはいる 俺が窮地に陥れば飛鳥井康太は俺の為に必死になってくれるだろう アイツが窮地に陥れば俺は何としても助けると決めている それが桜林に在ると実感したから俺は桜林へと進んだ 他の大学に行くより遺したい事を必死になってやり遂げる方を選んだ そんな俺を馬鹿だと想う奴は想えば良い 俺はかけがえのない絆を持ってるからな 誰が何を言おうが強ぇんだ! お前達もそんな友達を持て! 友達は財産だ! それが俺が言える最大限の言葉だ! 卒業 おめでとう お前達はスタートラインにたったばかりだ この先どんな困難に出くわしても、自分を信じて生きていけ! 辛くても……きっと出口は見えてくる! お前達の逝く道に光が差し込む事を祈っている!」 兵藤はそう言い優しく笑みを浮かべた 桜林時代には見られなかった顔だった 兵藤はマイクを佐野に返した 卒業生はアクリルパネルを手にして体育館を後にする 在校生は卒業生に見送る為に両サイドに分かれて、紙吹雪と花の入ったバケツを手にして卒業生に降り注いだ 「おめでとう!」 在校生は泣いていた 卒業生は胸を張り……揺れる視界の先を見ていた 忘れられない卒業式になった 卒業生は胸を押さえた 卒業しても…… あの人たちみたいに……仲良く過ごせる…… 夢みたいな話だった 卒業したら……仲間も増えるし知り合いも増える その中で……兵藤達は今も仲良く…… 友のピンチには駈け寄り助け合っていた 奇跡の世代がそこに在った やはり……現在も奇跡は継続中なんだと卒業生は思った 物凄いサプライズを貰い卒業生は…… 奇跡を夢見て…… 信じてみたいと想った 卒業式は幕を閉じた 清家は康太に抱き着いて泣いていた 藤森も泣いていた 佐野は誇らしげに康太達を見ていた 神楽が康太の傍にやって来た 「お疲れ様でした 素敵な卒業式をありがとう やはり……君達は特別な存在なのですね 奇跡の世代だと皆が口にした その奇跡の世代が……遜色なく姿を現した あの日の続きを見ているみたいに…… 本当に君達は素晴らしい… 卒業しても仲良く……集まれる君達は……生徒達の誇りです」 「んな良いもんじゃねぇよ!」 康太はそう言い笑った 「しかし……オレ、初めて藤森のフルネーム聞いた気がする……」 康太はボソッと呟いた 兵藤も「そう言えば俺も……初めて聞いたかな?」と酷い言い草に賛同した 「………高校時代……間違って……呼ばれてる時もありました……… でも藤森と呼んで貰えるので敢えて言いませんでしたが……」 藤森は苦笑して言った 兵藤は藤森の足を蹴飛ばした 「痛い!何するんですか兵藤会長!」 「留年しろよ藤森」 「嫌です!」 「あんでお前と同学年なんだよ!」 「それは兵藤会長が留年したからです!」 兵藤は思いっ切り藤森の足を踏んだ 「痛いっ!!!!」 藤森は叫んだ 榊原は大人気ない……とため息を着いた 卒業式は無事終わり、康太達は桜林を後にした 「腹減ったな……」 康太が言うと「食べに出ます?それとも家でデリバリ取ります?」と問い掛けた 康太は「何時ものファミレス行くか!」と言い歩き出した 学園を出た所で兵藤の執事が待ち構えていた 「坊ちゃま、これを!」 卒業式のフィムルを兵藤に渡した 兵藤はそのフィルムを康太に渡した 「………悪かったな……貴史……」 「気にするな!」 制服のまま康太達はファミレスに向かい、食事をした ワイワイ食事をしていると戸浪海里が万里を連れてやって来た 「康太、探しました」 「若旦那、PTA会長してるのか?」 「ええ。学園に寄付だけしてる情けない親父になりなくないので……顔を出したら会長になりました……」 「そっか……大変だな……」 「康太の子も学園入れば会長にさせられますよ?」 「それは嫌だな……」 「康太、素敵な卒業式でした 卒業していった子達は、あんな手作りの卒業式をして貰えて嬉しかったでしょうね」 「……悠太の代打だかんな……それなりの事はする! それも協力者なくしては成り得なかったかんな!」 「………君達の関係が物凄く羨ましいです 絶対の関係が妬ましくもあり羨ましいです」 「若旦那……その羨ましい関係だけどな…… オレは一度は貴史に切り捨てられたんだぜ? なのに切れないのはもぉ、腐れ縁しかねぇんだよ!」 康太が言うと兵藤は 「………人の古傷抉るな……」と情けなくボヤいた ファミレスでたわいもない話をして、飛鳥井の家に還った 戦闘準備に入った康太は…… 暫しの時間に……目を瞑った 【後日談】 康太は兵藤から貰ったテープを持って悠太の病室にいた 一生がハンディカムを持ってテープを入れた そして再生した 一生は悠太に 「そう言えばおめぇ視力はどうなってるよ?」と尋ねた 「久遠先生が計ってくれたら、変わらず1・0でした…… この先……後遺症が出る可能性は捨てれないけど……今は見れます」 「ならその目でちゃんと見ろ! 康太がお前の代わりに行った卒業式だ」 「………康兄……ありがとう……」 康太は悠太の頭を撫でた ドアがノックされて一生がドアを開けると兵藤が立っていた 一生は「………極秘になってるのに……何故解った?」と想わず呟いた 「俺か?康太の覇道を辿れば大概辿り着けねぇ所はねぇよ……」 兵藤はそう言い笑った 「わざわざ訪ねて来たのは悠太に制服をやる為だ 俺の制服と……不動 稜から預かった制服を持って来たんだよ」 「………え?あんで不動が悠太に制服を? 貴史、おめぇ不動と知り合いかよ?」 康太は不思議そうな顔して尋ねた 兵藤は嫌な顔して…… 「………いいや……不動 稜なんて知らねぇよ俺は…… でも家に帰ろうとしたら蒼太さんに呼び止められたんだよ 『悠太に制服をあげたいけど、悠太はガタイが良いから僕のだと入らないよね‥‥ だから友人に声をかけたんだ そしたら不動 稜が制服をくれるって言ってね これ悠太の所に持って行ってくれないかな?』って頼まれたんだよ」 と内情を明かした 「………不動 稜……か…… また選りに選って……不動の制服か……」 康太は呟いた 「おめぇ不動って奴知ってるのかよ?」 「経営コンサルタントをしてる不動 稜だ 何度か逢った事がある………」 「………お前が嫌いな奴なのか?」 「………いいや……蒼兄の友人だから嫌いではないが…… かなりやり手でな……気は抜けねぇな…」 康太は思案して……胸ポケットから携帯を取り出すと病室を出て行った 榊原が康太の後を追った 康太は病院の通用口から外に出ると電話をかけた 「不動 稜か?」 鷹揚に康太はそう問いかけた 『はい!貴方は誰ですか?』 「飛鳥井康太だ!」 『………飛鳥井家………真贋…… どうされました?何かご用ですか?』 「我が弟に桜林の制服を譲ってくれて本当にありどうと礼の電話だ だからそんなに警戒するな…… オレは牙を剥かない限り何もしねぇよ!」 康太は笑った 『弟の……悠太さんの具合は? お聞きしても宜しいですか?』 「………全治6ヶ月だかんな……良くはねぇよ…」 『………康太さん……俺は何があろうとも敵には回りません!』 「そうか………まぁ敵に回るなら息の根止めれば良いんだけだからな……」 不動は……背筋が寒くなる恐怖を感じていた 声だけでこれだけだから……逢って話せば…… 相当なのだろう…… 「不動、礼に蔵持善之助に声をかけいてやる! それで、今の難局は乗り切れねぇか?」 経団連の会長直々の声が掛かれば…… 意地を張ってる輩も引くしかない…… 全くもって……勿体ない言葉だった 『真贋、一度お目にかかってみたいと想っております……』 「そうか……なら時間を作ろう! お前の覇道は捉えた これからお前の処へ行ってやろう」 『………え?……宜しいのですか?』 「気にするな、ならな!」 康太はそう言い電話を切った 康太の背後から榊原が抱き締めた 「………不動 稜は我が兄 笙の友人です」 「みてぇだな。 蒼太、笙、脇坂と不動は仲良しみてぇだからな…」 康太は果てを見て嗤った 「…………すげぇな不動って男は……かなり良い運気持ってるやん……」 「逝くのですか?」 「おう!逝く」 康太は悠太の病室に顔を出すと 「悠太、兄は帰るな!慎一が面会終了まで来てくれる! また明日来るからな!良い子にしてろ!」 「康兄……ありがとう……」 「無茶すんじゃねぇぞ」 康太は悠太の頭を撫でて病室を出て行った 兵藤も一緒に病室から出て来て 「何処へ行くのよ?」と問いかけた 「Barに顔を出すかんな 家に帰り着替えてくるもんよー」 「俺も同席して良い?」 「良いぞ!貴史も着替えて来いよ!」 康太達は家へと帰り着替えて来る事にした 康太は果てを見て嗤っていた 「ご機嫌ですね?」 榊原は康太にスーツを着せて自分も支度した 支度が終わると康太に口吻けた 「伊織……逝くかんな!」 「タクシーで逝きますか?」 「だな」 康太と榊原は着替えて外へと向かった 一生と慎一は玄関で待っていた 「乗せてく」 一生が言うと康太は「同席しろよ!」と答えた 「何処へ向かいますか?」 「繁華街に逝くかんな……… 車は駐車出来るか解らねぇぞ?」 「大丈夫です! 電話を貰えば迎えに逝きますから!」 慎一はそう言った 駐車場から車を出すと兵藤が駐車場の横で待っていた 後部座席に乗り込むと、慎一は車を走らせた 繁華街に到着すると、康太は車を停めろと言った 慎一が車を停めると康太達は車から下りた 繁華街を突き抜けて逝くと高級クラブやスナックの並ぶ界隈に出た 康太は会員制のBarに向かった ドアを開け入ろうとすると止められた 会員制だから当たり前だが…… 店の店員は康太を未成年と見なし…… 「当店の会員の方ですか?」と尋ねた 「知り合いが来ている」 康太が言うと店員は 「幾ら知り合いがいようとも未成年の入店はご遠慮願います!」と鷹揚に言った 「オレは成人してるぜ? そもそも……知り合いがいると言ってるのに……客に対する接客態度かよ?」 康太が鼻で嗤うと店員はカッとして康太に掴み掛かろうとした 一生と榊原が前に出て「指一本触れるな!」と言い捨てた 偶然電話を掛けようと店内から出てきた堂嶋正義が康太を見付けると、堂嶋は康太の側へと近寄った 「この方に触れればお前はこの世から消し去られると想え!」と店員に言い捨てた 「………堂嶋様のお知り合いの方ですか?」 「彼は飛鳥井家真贋……手を下さずともお前など消すのは容易い……気を付けろ!」 「申し訳御座いませんでした!」 店員は平謝りした 堂嶋は康太に 「珍しいですね貴方がこの様な店に顔を出すなんて……」と問い掛けた 「覇道を掴んだからな……来ただけだ」 「………お聞きしても宜しいですか? 何方に逢いにいらっしゃったのですか?」 「不動 稜!」 「………経営コンサルタントの?」 「そう。正義、オレはそいつに会いに来た」 康太はそう言い店内を躊躇する事なく入って行った そしてボックス席に辿り着くと、不動の横にドカッと座った 「待たせたな不動!」 不動は驚いた顔をしていた 「…………飛鳥井家……真贋……ですか?」 「あぁ、飛鳥井康太だ!」 「………良く解りましたね?」 「覇道を掴めばお前が地球の裏側にいてもオレは解る!」 そう言い康太は不動を射抜いた 「……この店は会員制……ですよ?」 「そんなのは弊害にすらならねぇよ! ちょうど正義もいたしな! 何の困難もなく入って来られたぞ?」 不動が驚愕の瞳を康太に向けていると 「あれ?康太じゃないか!」と言う声がした 店の中に現れたのは榊原 笙と飛鳥井蒼太だった 「笙、蒼兄じゃねぇかよ?」 不動は……取り乱していたから 「知り合いなのか?」と問い掛けた 蒼太は「僕の弟です」と言った そして笙は「康太の伴侶が僕の弟なのです」と付け加えた 「………蒼太の弟……あぁ……飛鳥井か…… で、笙の弟が真贋の伴侶……? あぁ……男が伴侶だと公式に記者会見してたっけ……」 羨ましい限りだった 世間に自分の伴侶は男だと宣言したのだから…… 不動は康太の横にいる男に視線を向けた 榊 清四朗を若くした様な男前だった 彼らは臆する事なく手を繋ぎ……座っていた 脇坂がボックス席に現れて…… 「………康太さん……」と名を呼んだ 「脇坂、野坂元気か?」 野坂も顔を出して康太に抱き着いた 「康太君……村松監督に逢ったんだよ?」 「そうか?ならお前の意思を繋げれそうか見極めたか?」 「………うん!見極めたよ」 「ならラストまで突っ走れ!良いな?」 「康太君……ありがとう……」 野坂は泣きながら康太を離した 笙は「ところで……どうしたの?」と康太に問い掛けた 「蒼兄が悠太の制服を貴史に託したから礼を言いに来た 不動、お前が二番目に逢いたいだろう堂嶋正義だ! 正義、コンサルタントをしてる不動 稜だ!」 二人は立ち上がって挨拶をした 「不動」 「はい!」 「此処にいるのは笙だけ退かして皆……恋人が男だったりする……」 「………え?……」 「お前と正義は案外合うかもな 互いの欲しい情報を交換出来るだろうし…… 知り合って損はない!」 「………勿体ない言葉……です」 「明日、蔵持善之助の方から電話を入れさせる」 「………嘘みたいな話です」 「悠太に制服をありがとう 心から礼を言う!」 康太は立ち上がり深々と頭を下げた 「……真贋……頭を上げて下さい……」 「不動」 「はい!」 「この男は兵藤貴史 兵藤丈一郎の孫だ 兵藤の地盤は親父より貴史が持っていると言っても良い 兵藤の本家を解体して監視してるのは貴史だ! 東北の方の情報が欲しい時は聞くと良い 誰よりも的確な情報をくれるだろ 若造と侮ると痛い目を見る コイツは稀代の政治家となる男だからな!」 兵藤はニカッと嗤った その顔に……兵藤丈一郎を見た不動は…… 底知れぬ可能性を兵藤に見た 不動は名刺を兵藤に渡した 「なら帰るとするか! 正義はどうするよ?」 「俺は派閥の人間と飲んでる 少し抜けて来ただけだ……席に戻る」 「そうか……悪かったな 清家の事では……泉堂と逢わせてくれてありがとう……」 「坊主の役に立つなら俺は何でもやるさ! 貴史、お前残れよ! 逢っておいて損はない派閥の人間がいるからな!」 「貴史、残って顔を売っておけよ!」 「……ちぇっ……お前に言われたら聞くしかねぇじゃねぇかよ?」 康太は笑って兵藤の肩を叩いた 康太は立ち上がると野坂の所まで出向いた 野坂の顎を掴むと、顔を上げた 「幸せか?野坂?」 「幸せだよ!康太君」 野坂は嬉しそうに笑った 「なら良い お前の幸せを誰よりも願ってる」 康太はそう言い野坂に口吻けた そして脇坂の頬に口吻けると 「脇坂、発信機頼むな!」 「悠太さんの容態は?」 「………意識は戻った……」 「………そうですか……また電話します」 「脱走してる作家は榊原の家にいるぜ 清四朗さんが匿ってる! 笙に乗せて行って貰って踏み込めば、捕獲出来るぜ!」 「ありがとうございます! これより行って捕獲して来ます!」 「帰りに飛鳥井に寄れよ 今夜は飛鳥井に泊まっていけよ!」 「良いのですか?」 「我が父清隆と母玲香は野坂のファンなんだ! ついでに脱走中の作家は飛鳥井に来る事によって書く気になんぜ!」 「では後で伺います!」 「そのまま流れて飛鳥井に来れば良いかんな!」 そう言い康太は脇坂を離した そして笙に「飲み過ぎるなよ」とキスして 帰って行った 不動は康太を見送り……息を吐き出した 「……彼に逢うと何時も緊張する……」 「初対面じゃないんですか?」 「彼は真贋として関わってる時があって…… 経営コンサルタントとして俺とブッキングする時があるんだよ……」 「……そうか……会社の経営について真贋は果てを見て勝機を呼ぶからな……」 蒼太は納得して呟いた 「………どっちにしても……恐ろしい方だと……想ってた……」 笙は「今は?」と問い掛けた 「興味深い方だと想う 彼の果てを見てみたいと想う…… それに……世間に堂々と伴侶は男だと宣言された潔さは…… 羨ましいと想う時がある…… 社会的な信用や……世間の目を気にせず…… 公言した…… 本当に羨ましい……そう想った…… 片時も離れずにいる恋人同士を見て……やはり羨ましいな…… 俺は……世間に公言するなんて事は……出来ねぇからな……」 不動が言うと笙は 「好きで公言した訳じゃないんだよ? 飛鳥井が攻撃され集中砲火されてた時期があった 康太は……いや……飛鳥井家真贋は矢面に立たされた 康太は榊原を護る為に……伊織を切って護る事を選んだ それを止めたのは両親や相賀達……なんだよ 記者会見を設定して父や母……そしてその関係者が出た…… それでも飛鳥井への攻撃は止まらない…… 一生や伊織が怪我したのを皮切りに…… 飛鳥井の攻撃はエスカレートして康太が暴漢に襲われて入院した…… そんなに単純なものじゃないんだよ彼等は……」 「………それでも……二人は……」 「離れない……二人は幾度も転生してる恋人同士なんだ 幾度生まれ変わろうとも二人は出逢い……恋に落ちる…… そうして幾度も転生を繰り返して来た…… 康太は子供の頃から毒を飲んで体内に毒の耐久性を持つ為に……毒を飲み続けた そのせいで何度も死にそうになった…… 幾度生まれ変わろうとも……康太は短命だと言った…… 康太は自分の命を誘き出して……何時でも仕掛ける やられたら倍返し……今回も…… 康太は……倍返しするだろう…… だから一生は康太から離れない…… 伊織もそうだ……目を離せば……彼は逝ってしまうから……」 笙は悔しそうに……そう口にした 野坂は……珍しく口を開いた 「……不動君のお父さんを紹介してくれたのは……康太君なんだ 不動君のお父さんは康太君の下で動いていたらしくてね…… 息子との仲を取り持ってやってくれと頼まれた そして……その事は公言するな……と言われた 鞍馬の兄さんは……康太君のお知り合いを経由して知り合ったんだ 康太君は何も言わす……僕に動ける時に動いてやれと言ってくれた…… 『人のために動くんじゃねぇ おめぇが知りたかってた親子や肉親の愛を……その目で確認する為に動け』 康太君はそう言ったよ 僕は……バラバラのジクソーパズルを組み合わせるみたいに…… 繋ぎ止めて引き寄せる家族の愛を確信出来た だから……熱き想いを……書けたんだ そのために必要な想いだと康太君は教えてくれた…… 決して誰にも知られずとも…… 必要なれば動く 誰に認められずとも適材適所配置するがオレの務めだ……康太君はそう言ったよ 彼は誰も知らない所で血反吐を吐く苦悩や辛さを体験している 誰に知られずとも…… 彼は適材適所配置する…… 凄いと想う…… 誰でも見返りは求めるし……認められたいと想う それを康太君は誰に認められずとも………… 動くんだ それが強いては飛鳥井の為になると動くんだ…… そして康太君には自分の命を擲ってでも動いてくれる友がいる……仲間がいる…… 羨ましいと想うよ…… 伴侶もそうだけどね、彼の生き様すべてが……羨ましい でも彼はそんな羨望の先で命を懸けてる事を忘れてはいけないと想う」 不動は何も言えなかった 笙は立ち上がると 「我が家に逃走を図った作家様がいるそうですからね それを捕まえて飛鳥井に逝きますか?」 と言い笑った 店を出る時、笙は兵藤と目が合った 笙は立ち止まって「君も逝きますか?」と声をかけた 兵藤は口の端を吊り上げてニャッと嗤った そして立ち上がると「解ってるじゃん笙」と言い抱き着いた 「貴史……自分だけ康太に逢おうとするな!」と言い堂嶋も立ち上がった 笙は「宜しいのですか?」と問い掛けた 「良い!建設的な話はこれ以上無理だからな!」と言い席を後にした 店を出ようとすると、三木繁雄とバッタリ出くわした 三木は堂嶋を見た 「………私を呼んだ癖に……正義は還るのですか?」 「康太んちに雪崩れ込む! 建設的な話をしようなんて間違いだったかもな!」 「だから私が言ったでしょ?」 「そう言うな繁雄…… これでも俺は安曇の下と言う足枷があるんだ……」 「なら言いませんよ! でも君だけ康太に逢うのはムカつくので私も一緒に行きます! 正義さん奢りですよ?君の?」 「解った!何でも喰わせてやる」 「君は僕のパトロンですか?」 三木は笑った 「………俺にたかるな繁雄……」 「正義さん、大好きですよ! 僕の子供の一人を君に託したいと想います 康太も言いましたね」 「俺は子育て向きじゃねぇ……」 「大丈夫です!オムツは取れてます 5番目の息子は君に叩き込まれて政局に入ると…出ましたからね 幸哉君が子育てすれば良いのです!」 「………繁雄……お前って本当に康太命だな……」 「それは君もでしょ? それより正義さん早く行きましょう!」 三木はそう言い……同行者に目を向けた 「………全員タクシーですか?」 三木は笙に尋ねた 「……飲んでるのでタクシーで来ました」 「ならバス呼びます 少し待ってて下さい!」 三木はそう言い秘書にバスを寄越すように告げた 「十分で来ます!」 「………此処で立ってるのも何だし……」 堂嶋は店の出入り口を占拠してる現実を告げた 「なら外に出てましょう!」 三木はそう言い店の外に出た 三木は不動を見て 「不動、珍しい組み合わせですね?」 「……繁雄さんこそ……珍しいですね」 「私は飛鳥井康太の駒なので、笙や蒼太、正義さんといるのは珍しくはない この前は野坂さんとも会食しました」 三木が言うと不動は訝しんで 「………野坂とお知り合いか?」 「野坂さんは飛鳥井康太の特別なのです なので飛鳥井の関係者なら……彼を最優先するだろう……」 「………それは知らなかった……」 「不動、真贋に逢われたか?」 「………覇道を追って此処まで来られた……」 「元気だった?」 「……?……何でそんな事を聞く?」 「あ、バスが来た、話はそれからな!」 三木はそう言い皆をバスに乗せた 「貴史、お前来てたら声くらい掛けろ!」 「お前が正義とばかり離してるからだろ?」 「そうですが……康太……どんな状態てすか?」 「かなり無理してるのは否めねぇ…… 悠太が暴行されてアイツは倍返しする算段に忙しい…… 今週は悠太の代打の卒業式をやっていた 体重もかなり減ったが……言えねぇな」 「………やっぱり……悠太を狙って別荘に刺客が来たって言ってましたからね…… 栗田と陣内が……交通事故に遭いました…… 飛鳥井康太の駒は……狙われてる 僕も覚悟を決めて康太と共に逝くつもりです……」 三木が言うと堂嶋も 「………俺も……覚悟を決めた所だ 何処までも康太と逝く…… それしか考えてねぇからな…… 共に逝ければ本望だ……」 「なら……康太から目を離せないね」 「……あぁ、ヤバくなればなる程に康太は俺達を遠ざけるからな…… 押し掛けて行動を共にする!」 「………正義さん……共に……逝きましょう……」 「あぁ……共に逝こう……」 不動は覚悟を決めた男達を…… 黙ってみていた 兵藤は二人に「康太はそんなの望んでねぇぜ?」 笑って揶揄した 「貴史、お前も……覚悟なら決めてるんだろ?」 堂嶋は兵藤に問い掛けた 「覚悟ならとうの昔にしてる…… 遥か昔から………俺はアイツと共に逝く事しか想っちゃいねぇ……」 「なら……離れず見張れ! そして何をするか報告してくれ!」 「逐一報告してねぇかよ?」 「………してるが……時々改竄するのが玉に瑕だ!」 堂嶋が言うと兵藤は笑った 三木は不動に 「死ぬ覚悟をしてるんだよ……」と告げた 「………え?それは何故……」 「飛鳥井康太が動く時、時代も動く 私はそんな時必ず彼の側にいたいと願います 例え……この命がなくなろうとも…… 私は康太から離れる気はない! 彼は自分の命を囮に……誘き出す事ばかりする……それで何度も死にかけた…… 彼が死ねば……多くの死者が出る…… 彼のいない世界では生きられないからな…… 私もその一人です 彼と共に……死ねるなら本望です……」 三木は覚悟を決めた瞳をして話していた バスは榊 清四朗の家に着き、笙は 「皆おいでよ! そして飛鳥井に泊まりに行こう」と言いバスを降りた 全員引き連れてゾロゾロ家に帰ると…… 清四朗と真矢と…………瀬尾利輝が仲良くお酒を飲んでいた 脇坂は瀬尾の横に立つと 「瀬尾先生、行方をくらましやがって…… 僕から逃れられると想いましたか?」 ニヤッと嗤った 「うわぁぁぁ~脇坂……」 瀬尾は逃げようとしてソファーから落ちた 笙は「父さん、母さん、瀬尾先生、飛鳥井の家に行きませんか?」と尋ねた 清四朗は「………こんな遅くに迷惑ですよ」と笙を窘めた だが笙は「康太が待ってます!康太が来いと言ってくれたのです!」と言うと、清四朗は立ち上がった 「瀬尾君、飛鳥井に行きませんか? 康太が言うなら泊まって逝くと良い!」 清四朗はニコニコとそう言った 皆で飛鳥井の家に出向いた 飛鳥井のインターフォンを鳴らすと慎一が出た 遊びに来た事を告げると、慎一が出迎えてくれた 応接間に招き入れられると……… 康太は榊原の膝の上に跨がり眠っていた 榊原は優しい顔で康太を撫でていた 「父さん、母さん、兄さん、その他の方もいらっしゃい! 瑛義兄さん、何か取って下さい」 榊原に言われて瑛太は慎一を捕まえて、何やら算段していた 全員ソファーに座っても康太は寝ていた 榊原は康太を抱き締めて…… 「康太は薬を飲み寝かせてあります ですが康太は毒を飲んでいた経緯もあり薬はあまり効きません なので……も少ししたら起きます」 と説明した 笙は榊原に 「康太……体調悪いの?」 「………良くはないです…… ここ何年も……沢庵をセーブせねばならない程ですからね……」 蒼太は「……康太は大好きな沢庵も食べられなくなっちゃったんだ……」と呟き泣いた 「それでも……生きていてくれれば…… 僕は……生きて逝けます…… 一生達や瑛義兄さん達も……それしか望んでません……」 隼人は康太の手を握り締めていた 「康太は何かをしでかす気なんだ……」と呟いた 隼人が言うと聡一郎が隼人を抱き締めた 「隼人、お客様がいるのですよ! さぁお客様をもてなすので!」 そう言い隼人を引っ張ってキッチンに向かった 瑛太がケータリングを慎一に頼ませて運び込ませ宴会を始めた 瑛太は「蒼太、もっとこまめに還りなさい!」と苦言を呈した 「………兄さん……すみません」 「母さんを少し支えてやってくれませんか? 癌のオペした後体調を崩してます その傷も癒えないのに……悠太が……ですからね……自分を責めてます」 「解りました、少し母さんと食事したりします」 「そうしてください 康太はもう先を視てます…… この子はもう……止まりません 康太は弟を傷付けられて…… 黙ってる気は皆無です」 「………康太……痩せた?」 「………退院する前はもっと痩せてました これで少し大きくなったのです」 「………康太……入院してたの?」 「………康太は何度も入退院を繰り返してます…… 仕方ないです…… 許容範囲以上の力を……使うのですからね」 蒼太は言葉をなくした 「さぁ、蒼太、君の友人でしよ? 飛鳥井に連れて来た以上は持て成さねば康太に怒られますよ!」 野坂はコオとイオリの側に行き仲良く毛繕いしていた 不動は康太から目が離せなかった 隼人が鳴り響いた携帯に出て話をしていた 電話を切ると 「一人増えるけど良いか?」と尋ねた 笙は「構わないよ!」と陽気に言った 瀬尾利輝も飛鳥井康太を見ていた 数度しか逢った事はない 飛鳥井康太は何時も毅然としていた 満身創痍の姿など微塵も感じさせなかった 彼はそうして自分を奮い立たせて立っているのだと… 初めて意外な一面を目にした ケータリングが運び込まれ皆が飲み始めた頃、康太は目を醒ました 「……ゃ……離せ……離せ!……離せぇ!」 康太は魘された様に暴れて…… 慎一は水を汲みに走った 清四朗や笙、瑛太や仲間は良くある事なのか……何も言わず……見守っていた 脇坂や野坂、不動は何があったのか……解らずにいた 「………止めてくれ……オレを殺してくれ……」 泣きながら康太が訴える 一生は康太の涙を拭いた 慎一が榊原の手に薬を出すと、榊原は薬を口に含み、水を含んだ そして康太に口吻けると薬を飲ませた 榊原は康太に水を飲ませ……その後も口吻けていた 「………伊織……」 「そうです……僕です……」 「………伊織……伊織……」 榊原は康太をギュッと強く抱き締めた 隼人の携帯がブーブー鳴り響き隼人は電話に出た 『家の前にいるよ!』 「今開けるのだ!」と言うと慎一が玄関のロックを解除した そして隼人と共に客を出迎え応接間に戻ってきた 隼人と共に入って来たのは美杉鞍馬だった 鞍馬は応接間にいる不動を見つけ 「稜さん!」と叫んだ 慎一は鞍馬を不動の横に座らせ食器を用意した グラスを手渡すと笙が鞍馬のグラスにワインを注ぎ込んだ 辺りを見渡して康太を見た 「笙さん、弟さん紹介してくれませんか?」 笙はソファーを立つと榊原の後ろに立った 「僕の弟です」 と鞍馬に紹介した 康太は榊原の胸から顔を上げた 「大丈夫ですか?」 「大丈夫だ伊織」 康太はそう言い笑うと榊原に口吻けた そして榊原の膝の上から下りた 榊原の横に座ると野坂が康太の膝の前に来た 「康太君……」 「心配しなくて良い」 康太はそう言い野坂に口吻けた 「オレの子に逢いに来い!」 「うん!また逢いに来るよ」 「ほれ、慎一に美味しいケーキ貰ってこい!」 康太が言うと野坂は立ち上がり脇坂の横に座った 慎一がお手拭きを渡して、ケーキを置いた 清四朗は康太に「………大丈夫なのですか?」と尋ねた 「………オレも……悠太の暴行を見た直後から時間が当時に戻ってるんだよ…… 力哉は……混乱が激しくてな……遠くにやった」 「………悠太の傷は……酷かったですからね……」 「悠太を主犯格にして、矢面に立てて殺人者にさせたかった奴らが…… とうとう実力行使に出て来やがった…… 悠太をいるとされた別荘に……殺し屋を送り込みやがった…… 栗田と陣内の車に……突っ込んで栗田と陣内は意識不明の重体だ…… とことん飛鳥井を潰そうとしやがるからな……反撃に出るつもりだが…… 脳が……当時の記憶を忘れねぇからな…… フラッシュバックしやがった……」 清四朗は康太を優しい瞳で見つめ…… 「………それでも……君は逝くんですね……」と呟いた 「………清四朗さん……すまねぇ……」 「康太……還ってきてくれれば良いです さぁ、食べますよ! 食べねば体力が着きませんよ!」 清四朗はそう言い康太の前にケーキを置いた 飲んで騒いで…… 酔い潰れて倒れ込むまで…… 飛鳥井の家族も……仲間も……何も言わなかった 瀬尾利輝は……飛鳥井康太を書きたいと想った 彼の名は出さず……彼の生き様を書きたいと想った…… 飛鳥井家真贋 彼の目に何が映り…… 命を削ってそれでも何故進むのか…… 瀬尾は康太に 「君が書きたいです……」と告げた 康太は笑って 「飛鳥井康太と出さぬのなら書けば良い お前の瞳で映した真実を書けば良い 何かを聞きたいなら家族や仲間に聞けば良い」 そう答えた 「………君は……スーパーマンみたいに強いんだと想っていた……」 「んや奴なんかいねぇよ! 俺だって刺されれば血も流れるし…… 踏みにじられれば心も折れるさ……」 「……微塵も見えませんでした…… そうしてみれば……普通の二十歳の…… 年相応……いえ……もっと幼く見えます…」 康太は何も言わず笑った 玲香や清隆が出て来て、野坂を掴まえて話し始めると…… 後はもう……飲んだくれの集団は楽しく宴会へと突入した 居心地の良い空間だった 許された場所みたいに…… 心から落ち着ける場所だった 瀬尾は酔って眠ってしまった 玲香と清隆は部屋に戻り、清四郎と真矢も客間へも引き上げた 笙は蒼太や脇坂と飲んでいた 一生や慎一は兵藤と飲んでいた 三木は飲み潰れて……寝てしまっていた 慎一は潰れた奴にブランケットを掛けてやっていた 「正義さん、もう飲むのは止めなさい」 慎一は堂嶋の酒を取り上げた 「この前の肝臓の数値が良くなかったでしょ?」と言われて 「………おい……慎一、なぜ知ってる?」と尋ねた 「貴方の政策秘書は何故か命達を使わずに俺を指名して来るのです 俺はかなり貴方の仕事を手伝ってるんですが………」 「………嘘……」 「一生や聡一郎も扱き使われてます 知らなかったのですか? その時に健康診断の結果を見たのです」 「………慎一……やっぱお前は康太の執事だわ」 と正義は両手を上げた 「野坂さん、お布団敷いたので、そちらで寝ましょうね!」 「うん…ねむ……慎一君……ありゅけにゃい」 慎一は野坂を抱き上げた 一生はドアを開けに向かった そして慎一と共に応接間を出て行った そして野坂を寝かして戻って来ると 「皆さんも寝ますか?」と尋ねた 笙は「……だな、眠くなってきたよ」と立ち上がった 不動も鞍馬と共に立ち上がった 隼人が鞍馬の傍に来ると 「鞍馬、オレ様の部屋で寝るのだ」と声を掛けた 慎一は隼人に「それは駄目です隼人」と窘めた 「何故だ慎一?」 「不動さんと鞍馬君は恋人同士だからです 源右衛門の部屋に床を作らせましたので、そちらで休んで戴きます」 「………そうなのか……残念なのだ……」 「ほら、添い寝してあげますから待ってなさい!」 慎一はテキパキ動くと全員寝に行かせた そして隼人と共に部屋に向かうと添い寝してやった 慎一のお布団の横に布団を並べて寝ていると、和希と和馬と北斗も横に布団を敷いて添い寝していた 隼人は皆に囲まれて幸せそうに寝ていた 朝起きると康太は榊原に口吻けを落とした 「………昨日はすまなかった……」 「気にしなくて大丈夫です 今日の気分は?どうですか?」 「悪くない!」 客間に顔を出すと皆起きていた 「おはよう!食事をしてから帰って下さい!」とニコッと笑って話しかけた その顔に昨夜の弱さなんて微塵もなかった 「貴史、二日酔いかよ?」 「そこまで行ってない……眠い……」 「まだ寝るならオレの部屋の寝室の隣の部屋に行けよ」 「そうしたいが……大学に行かねぇと……」 「ならサクサク起きやがれ!」 康太はそう言い兵藤を踏み付けた 「やめ………こぉ……グエッ……」 兵藤は苦しんでいた そんなの気にせず清四郎に声を掛けた 「清四郎さん起きますか?」 「起きます」 それを確認して康太は笙の上に飛び乗った 「ぎゃぁー!」 悲鳴を執拗な接吻で封じて…… 康太は笙の唇をペロペロ舐めた 「………熱烈歓迎な起こし方……辞めてよ……」 「明日菜にこうして起こして貰わないのか?」 「………まさか……」 「朝はキスだろ?」 「………康太……僕には熱烈なキスは要りません……」 「いいやん!おめぇはオレのだろ?」 「………全部君のですから好きにして良いです」 「うし!起きろ笙!」 康太はニコニコ笑ってる蒼太に近付き口吻けた 「蒼兄おはよう!」 「康太、気分はどうです?」 「悪くないぜ! 当分……蒼兄に逢えなくなるかんな…… 少し甘えとこう!」 そう言い康太は蒼太に甘えた 蒼太は康太を抱き締めていた 「正義も起こして欲しいのか?」 「………体調は良いのか?」 堂嶋は心配して問いかけた 「んとに……おめぇは可愛いな」 康太はそう言い堂嶋の頭を押さえ込んで………接吻を送った 執拗な接吻に堂嶋は翻弄され………クラクラになった 「………康太……許して……」 根を上げると康太は堂嶋の頭を撫でた 「………これから少しの間はかなり苦しい政局が来る… おめぇは勝也を支えて矢面に立たねぇとならねぇな………」 「俺はどんな事でも堪えてみせる……」 「助け船を出してやりてぇけどな……オレは生きてねぇかも知れねぇし……」 「坊主!そんなことを言うな!」 堂嶋は怒って康太を抱き締めた 「…………そんな事を言うな………絶対に言うな……」 「正義……悪かった……もう言わねぇ」 康太は堂嶋を撫でて宥めた そんな堂嶋正義など目にした事などなかった…… まるで子供みたいに扱われ…… 頼りない子供みたいな顔をする人じゃないと思っていた 「繁雄、眠れたか?」 康太は三木に声を掛けた 三木は堂嶋を抱き締めた康太を抱き締めた 「康太、正義さんおはよう!」 「飯食って、動くぜ!」 右手は康太を離すと「了解!」と言った 寝ぼけた野坂を抱き締め 「起きねぇと犯すぜ野坂!」とキスした 「康太君……出来るの?」 「オレか?出来るぜ?どうするよ?野坂?」 「わぁ!ダメ……ダメってば!」 野坂は飛び起きた 「………嘘でしょう?康太君……」 「お前が死にそうな時……オレはお前を抱いてやれるぜ? ………と言う事だ」 「………康太君……やだ……」 康太は笑った 「おめぇは誰よりも幸せだって言ったろ? するかよ!んとにお前は忠犬だな ほら、起きるぞ!脇坂も毎日大変だな」 「慣れてるので……大丈夫です」 「脇坂……お前……自分ち護る気あるか?」 「……脇坂の家ですか?」 「そうだ!」 「あります」 「なら……近いうちに逢いに来い…… まぁ……それも……オレが生きてたら……だけどな……」 「……何故……そう言う事を言うんですか?」 「………飛鳥井は本当にヤバいんだ…… 潰す為なら容赦しない……… 繁華街のど真ん中で巻き込まれる奴がいても……仕掛けて来るだろうからな…… そしたら……オレも腹をくくるしかねぇんだよ! 真贋は自分の先は視えねぇかんな……」 「………どうか……ご無事で…… 知輝の映画を作ってないではないですか!」 「………だな……弱気になるのは早いな……」 「そうです!知輝は頑張って書いてます 貴方が映像になっても想いは伝わると言ったんじゃないですか!」 「………悪かった脇坂……」 「エッセイ、好評なのでシリーズ化したいのです! 瀬尾先生も書きたいのが見つかったみたいですし…… 東城社長にそんな事を言ったら…… あの人……金庫に監禁するかも知れませんよ?」 「金庫か……それは遠慮してぇな」 康太は笑って立ち上がった そして野坂の手を持って起こすと、客間を出て行った 不動は……笙達を起こしに来て……その様子を一部始終見ていた 鞍馬は隼人を見つけると飛んでいった 「隼人君!」 「鞍馬、眠れたか?」 「うん!眠れたよ!隼人君は?」 「慎一が添い寝してくれたからな眠れたのだ!」 隼人は康太の後を追ってキッチンへと向かった 皆で朝食を食べて、各々出かけて行った 不動は康太に別れ際 「俺が貴方の敵に回る日は未来永劫御座いません」と告げた 「不動、オレはんな心配してねぇよ 鞍馬と幸せにな! オレはおめぇの様な男は嫌いじゃねぇ また遊びに来い! これは社交辞令じゃねぇ! 飛鳥井には来たい時に来い 善之介には朝一番に連絡を入れておいた」 「………ありがとうございます……」 「不動……あの会社は早めに引き上げねぇと……お前に火の粉が降り掛かるぜ?」 「………解りました……早急に引き上げる算段を致します」 康太は笑うと不動の肩を叩いて横を通り過ぎて行った その後ろに榊原が影の様に控えていた 朝が始まり皆それぞれに動き出した 康太は果てを見て…… 「逝くか伊織?」と問い掛けた 「ええ。逝きましょう!何処までも一緒に!」 榊原はそう言い笑った 瀬尾はそれを見ていた 黙って見て……… 彼等を書く為に帰って行った 慎一は瀬尾に 「何時でも来て下さい! 来られる時は電話をして下さると助かります」 そう言い康太に作って貰った名刺を渡した 瀬尾はニコニコと清四郎と真矢と共に帰って行った 脇坂も野坂と共に帰宅し 笙や蒼太も慌てて仕事に向かった そんな彼等を送り出して慎一は康太の傍へ向かった

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