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第109話 愛は深く……誰よりも強く
イオリは目を醒ますと横で眠ってるコオを舐めた
『コオ コオ もぉ朝だよ……
昨夜は少ししつこかったですか?』
愛し合った朝は少し気怠い
嬉しい気怠さだった
イオリが鼻で突っ突いてもコオは眠っていた
何時もなら起きるのに…
『コオ……コオ………目を醒ましてよ……』
イオリは鳴いた
『お願いだから……』
イオリは必死でコオを起こそうとした
だが……コオは目を醒まさなかった
ひょっとして……このままコオは………
そう考えてイオリは寒気に襲われた
嫌だ!
コオが死ぬなら……僕も死ぬ……
コオ……コオ…
僕も一緒に連れてってよ……
君を亡くす日なんて……
想いもしなかった
コオを亡くしてからの日々……
僕は……
生きるのを放棄します
コオとしかいたくない……
コオしか欲しくない……
君がヨボヨボのおじいちゃんになっても……
僕は君を愛すよ?
どんな姿になっても……
僕は君だけを愛すよ!
だから目を開けてよ……
コオ……コオ………コオ……
お願いだから……
イオリは鳴いた
ご主人伊織に……
ご主人康太に………
聞こえる様に鳴いた
榊原の胸の中で微睡んでいた康太は目を醒ました
「伊織……何かあったかな?」
「そうですね……イオリが鳴き叫んでます」
「見に行くか?」
「そうですね」
榊原は起き上がると康太に服を着せて自分も服を着た
そして階段を下りて応接間へと向かう
ガチャとドアを開ける音が響くとイオリはドアの方を見た
「イオリ、何があった?」
『………ご主人康太……コオが……』
「伊織、コオ……どうした?」
榊原はコオに近寄り様子を見た
くたぁーとしたコオを抱き上げた
「慎一、獣医さんに電話お願い出来ますか?」
榊原は応接間に顔を出した慎一に声を掛けた
慎一はこんな時やはり榊原も違うと想う
後ろを見なくても気配で誰か解るのだから……
慎一は携帯を取り出すと獣医に電話を入れた
「伊織、直ぐに連れて来いと言われました」
「康太、僕はコオを抱き上げて逝きます
君はイオリを連れて来て下さい
慎一、運転お願い出来ますか?」
榊原はブランケットを取り出すとコオを包んだ
応接間を出て地下駐車場へと向かう
慎一の車の後部座席へと乗り込むと慎一は車を走らせた
イオリは……ずっと泣いて……鼻水を垂らしていた
「………おめぇ……チャンピオン犬には見えねぇ汚さだな」
康太はそう言いハンカチで鼻水を拭いた
『ご主人康太……僕はコオが逝ったら……
後を追います……許してください……』
「………離れられねぇなら……来世も一緒に飼ってやるから……泣くな……」
『………ご主人康太……僕にはコオしかいません……』
「………んとに……おめぇは伊織だな……」
康太が言うと榊原が
「………唯一無二の存在を手にしてしまった……宿命なのです」と苦笑して言った
慎一は動物病院へ急いだ
動物病院へ到着すると獣医が外に出ていた
一ノ瀬動物病院の院長はご近所でも評判の美人だった
一ノ瀬聡哉と言う獣医に似付かわしくない容貌だが……
腕はぴか一だった
「またチョコでも食べたの?」
聡哉は笑ってコオを受け取った
診察台に乗せると色々と検査して
一ノ瀬は飼い主を呼んだ
康太は泣きそうな顔で
「………コオはどうしたんだよ?」と問い掛けた
一ノ瀬は神妙な顔をして……
何かを言おうとした
康太は榊原に抱き着いた
榊原は康太を強く抱き締めた
イオリはキュンキュン鳴いていた
慎一はイオリを抱き締めた
聡哉は飼い主二人を見た
惜しみもなく抱き合う二人はどこから見ても恋人同士だった
「誤飲かなと思ってエコーも掛けたし
CTも通した………でもね原因が解らないんだ」
一ノ瀬が告げると康太はフラッと倒れそうになった
「………コオを亡くしてイオリは生きられねぇじゃねぇかよ……」
康太は呟いた
榊原は康太を強く抱き締めた
「………愛してます奥さん……
だから……そんな事を言わないで……」
榊原は康太に口吻けた
目の前で繰り広げられる熱い光景に一ノ瀬は苦笑しつつ……
「だから、寝てるだけだってば!」と叫んだ
康太は榊原の胸の中から顔を上げた
「………寝てるだけ?……」
康太は呟いた
榊原も「……揺すっても起きませんでしたよ?」と呟いた
一ノ瀬は「この二匹……何処でも交尾するでしょ?
だから犯り過ぎて疲れ果てて寝てるんだってば!」と真実を告げた
康太のこめかみはヒクッと引き攣った
「………犯り過ぎ?……」
榊原の顔も引き攣った
「起きられない?」
榊原と康太はイオリを睨み付けた
イオリはキュンッとあまりの怖さに鳴いた
慎一は「寝てるなら良かったです」と無事だった事に安堵した
「一ノ瀬先生 本当に申し訳なかったです」
と慎一は謝って診察代を精算した
一ノ瀬は「コオも年だからね……起こしても、起きないなら、起きるのを待っててみて下さい
それでも起きなかったら体温を測って様子を教えてください」と説明した
慎一はメモして「解りました!お手数掛けました」と謝った
一ノ瀬は「ご主人様と同じで仲良いね、この二匹」と康太に声を掛けた
「一ノ瀬先生も隣のシェフと仲良いじゃないですか!」と切り返した
一ノ瀬は真っ赤になった
康太は笑って動物病院を後にした
車の中で康太はイオリに
「あんまし無理させるな……コオは年だからな……」と諭した
イオリはずっと鳴いていた
榊原はイオリを撫でた
「亡くしたくなくば大切にしなさい」
イオリはキュンキュン鳴いて応えた
愛は深く……誰よりも強く
コオとイオリを繋いでいた
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