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第113話 違いの解る男 翔
飛鳥井 翔
彼の一日は井筒屋の沢庵から始まる
井筒屋の沢庵を好んで食べる翔は
…………違いの解る男だった
この日京香は気が付いた
冷蔵庫の中に井筒屋の沢庵がない事に……
井筒屋の沢庵しか食べない現実に……
「井筒屋の沢庵がないのだ……」
京香は近くのコンビニに走った
今は康太は沢庵を食べない
沢庵を食べるのは……翔だけだ!
よし!翔なら誤魔化せる
そんな想いで沢庵を買って帰って来た
帰宅した京香を慎一は見つけて声を掛けた
「京香、朝早くから何処へ行って来たのですか?」
「慎一!井筒屋の沢庵がないのじゃ!」
「………え?……沢庵がない?
買い込んで来てますよ?」
「だから安心しておったらないのじゃ!」
「…………夜のうちに誰かが食べたのですかね?」
「だからコンビニで沢庵を買って来たのじゃ!」
慎一は京香の手のビニール袋を見た
沢庵が一本……袋から少しだけ出ていた
「俺に言ってくれれば買いに行ったのに……」
「コンビニなら歩いても行ける距離だ
でも井筒屋の沢庵はコンビニにはないのだ……どうやって切り抜けようか……」
「………今……沢庵を食べるのは……翔ですね」
なら誤魔化せないか……
ずっこい心が……わいてきた
「……取り敢えず京香……
平静を装いましょう!」
相手は小さくとも飛鳥井家真贋
……オムツが取れたばかりとは言え……
侮れない
「………そうであったな……
あやつは……小さくとも真贋だからの…」
動揺が見て取れたら用心するに違いない……
「………やはり翔は真贋だと想う時があるんですよね?
………じーっと見られると……冷や汗出て来る時あります!」
慎一は……ボソッと呟いた
「慎一!お主もか!
我も……あの目で見られると……たらーんとなる時がある
流石……康太の育てし真贋じゃ……」
慎一は……貴方が産んだんじゃないんですか……と想ったが言えない言葉だった
「康太程ではないと康太は言いますが……
翔は飛鳥井家の真贋を背負って立てる子ですね!」
「あやつは……不器用な男だからな……
自分の感情すら殺している時がある……
我はそれを見るたびに……可哀相になるが……手は出せぬからな……」
「京香……それは俺も想います……」
「康太の子はどの子も可愛い
烈もあの兄弟に構われて育つのだからな……
それなりの覚悟は必要だと想うのじゃ」
京香はそう言い烈を抱き上げた
「………京香、瑛智は?」
「………まだ寝ておった」
「瑛智、連れて来ましょうか?」
「瑛太がまだ寝ておる
ついでに起こして来てたもれ!」
「解りました」
慎一はそう言い瑛太達の寝室を目指した
ノックしたが……ドアを開ける気配はない
なのでドアを開けて部屋に入った
瑛太達の部屋は3LDKはある部屋だった
子供部屋を覗くと瑛智は既に起きていた
「瑛智」
呼ぶと瑛智は慎一を見てニコッと笑って両手を上げた
慎一は瑛智は抱き上げて、寝室の瑛太を起こしに行った
寝室は綺麗に整頓されて……几帳面の瑛太の好みに整えられていた
慎一はベッドの上の瑛太を見た
瑛太は…………
一糸乱れず直立不動で寝ていた
寝方も折り目正しく……
慎一は『よくも……疲れませんね』と想ったが瑛太を起こした
「瑛兄さん、起きて下さい!」
慎一が起こすと瑛太はパチッと目を開けた
「………慎一?」
「朝です起きて下さい」
「………慎一に起こされるのは不思議な気分です」
瑛太は呟いた
瑛太は全裸で寝ていた
慎一は瑛智をベッドに置くと瑛太に服を着せる事にした
京香が用意した服を手に取り
下着から渡してやる
瑛太を起こすのは初めてでない慎一は慣れた風だった
瑛太は慎一から手渡される下着を身につけベッドから起きた
部屋着を着せてキッチンへと連れて行く
慎一が瑛智を椅子に座らせると、一生と隼人と聡一郎が子ども達を連れて来て椅子に座らせる所だった
「「「おはよう瑛兄さん」」」
一生、隼人、聡一郎から言われてやっとこさ覚醒しはじめた
瑛太はポーカーフェイスだから、あんまり解らないが………
寝起きが悪かった
寝ぼけてても気付かないが……
寝ぼけてると無口に磨きがかかった
「おはよう……みんな」
瑛太はそう言い座って朝食を食べ始めた
翔は和食を食べながら……
眉間にシワを刻んでいた
一生は「………翔……食う時は……悩むのよせ……」と眉間のシワを引き伸ばした
康太は笑っていた
翔は「きょれ!ちらう!」と不機嫌な顔で言った
慎一はギョッとなった
康太は「あにが違うんだよ?」と問い掛けた
「きょれ いじゅちゅや ちらう!」
「流石やん翔!
凄いぞ!おめぇは本当に違いが解る男だな!」
康太は翔の頭を撫でた
「慎一、井筒屋に沢庵を忘れて来てるんだよ!
急いでたろ?
で、お金を払って商品は忘れて来てるんだよ!」
「そうでしたか………では今日取りに行きます!」
「そうしてやってくれ!
翔はオレの子だかんな!
井筒屋に目がねぇんだよ!」
康太はそう言い笑った
翔も「ちょう!かけゆ かぁちゃにょきょ!」と宣言した
榊原は笑っていた
「翔 とぅちゃの子でもあるのですよ?」
翔は片手を上げて「あい!」と返事した
「かけゆ とぅちゃ にちぇる!」
翔は胸を張って言った
一生が「保母さんが翔君はお父さん似ですね!って言ってるんだ!
翔はお父さん似
流生は母さん似
音弥もお母さん似
太陽と大空はお父さん似
そう子ども達に言ってたんだよ」と説明した
翔は嬉しそうだった
康太は少しだけ哀しそうな顔をした
榊原は康太を引き寄せて……
「笑ってなさい」と言った
この子達の親になると決めた日
榊原は康太に言った
君は……お母さんになるのです
ですから何時も笑ってて下さい
君の笑顔が子ども達を照らすのです
そう言われた
その日から子ども達の前では何時も笑顔を絶やしていない
「しかし……翔は違いが解る男だな
井筒屋じゃねぇの当てちまうか…」
「かけゆ いじゅちゅや らいちゅき!」
翔はニコニコ笑っていた
「そっか!かぁちゃも井筒屋大好きだぞ
そして翔も大好きだぞ!」
康太が言うと流生が「じゅるい!」と怒った
「かぁちゃ りゅーちゃ!」
「大好きだぞ流生」
「じゅるい!かぁちゃ ちなは?」
「太陽、大好きだかんな!」
「………きゃな……ちらい?」
大空は……どよーんとして問い掛けた
「どうしたよ?大空?」
「きゃな……もらちた……」
おねしょしたと……落ち込んで言った
「大空、気にするな!
かぁちゃも良くもらしたんだぜ!」
康太が言うと瑛太が当時を思い浮かべ
「………ええ……本当に君はよく漏らしましたね……
寒いから瑛兄……って潜り込んでは…ショーってしてましたね……」
瑛太が言うと康太は真っ赤な顔になった
一生も「初等部の四年の林間学校で……俺の布団で……やっちまったよな?」と続けた
大空は「かぁちゃ もらちたにょ?」
と問い掛けた
康太は真っ赤な顔して「そうだよ!だから気にするな!」と励ました
「かけゆ もらちゃにゃい!」
ブリザードが吹き荒れ……
康太が怒り狂った
寝てる間に……イタズラしてやる!
康太は大人げなく心に誓った
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