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第114話 黒龍

「アンタは私の事なんか愛してないじゃない!」 女はそう言い黒龍の頬をぶん殴った 黒龍の唇の端から鮮血が流れた 黒龍はその鮮血を拭く事なく… 「………済まなかった……」と謝った 女は黒龍に背を向けると…… 走り去った 貴方は私を愛してないじゃない! この言葉は効いた…… 愛せると想っても…… 愛せない自分がいた この世で一番愛してるのは…… 自分の手には入らないのに…… 解ってるのに…… 誰も愛せないでいた 黒龍はモテた 容姿の良さに加えて血統の良さもあり 閻魔大魔王の友人という立場も魅力的だった 夜会に出れば黒龍目当ての子が…… 虎視眈々と黒龍を狙っていた 龍族なのは……少しネックだが…… 龍になりさえしなきゃ血統の良さと魔界での地位は魅力的な男だった 魔界の四大勢力者の息子で次代の龍族の長と言うのも結婚したい女を刺激していた だが……付き合っても…… 自分は愛されない…… 大切に思われてない そして一番の原因は…… 黒龍には愛すべき存在がいる ……だった 幾ら上手く隠しても女は…… その影を嗅ぎ取るのが上手かった 愛してるのは……未来永劫……唯一人…… 振り向いて貰おうなんて想ってはいない 傍にいられれば良いのだ お前が幸せそうに笑っていればそれで良い…… 黒龍は殴られた頬を撫でて…… 自分の家へと還った 龍は成人を持って独立する この掟通り黒龍は実家を出て家を建てた 玄関を開けようと想うと…… ドアは開いていた 「………え?……泥棒??」 黒龍は恐る恐る……家に入った 応接間を覗くと…… 炎帝がソファーに座って黒龍に手をふっていた その横には青龍と赤龍が座っていた よく見れば……金龍と銀龍……閻魔に弥勒もいた 朱雀がせっせと鍋の準備をしていた 朱雀は赤龍を蹴飛ばした 「手伝え!」 赤龍は立ち上がると手伝いに行った 奥から司命と司禄が顔を出した 「やっと還って来ました 君の家は荷物が多すぎです 別れた女の荷物はこまめに捨てましょう! でなくば……片付きませんよ?」 司命がぶつくさ言うと 「黒龍、手を洗って来いよ 司命が勝手に……女の荷物……処分したけど構わねぇよな?」と炎帝が言った 奥からと司禄も顔を出した 黒龍は手を洗って応接間に行くと、スッキリ片付いていた 「………炎帝……なんでお前……いるの?」 「おめぇ……殴られたのかよ?」 炎帝はタオルを手に取ると、濡らしに行って黒龍の鮮血を拭ってやった 「………炎帝……」 「女に殴り飛ばされて来た日に…… 一人だなんて……落ち込むだろ? しかも同棲してた相手なら……尚更……だろ? だから慰めに来てやった」 「………炎帝……」 「ほら、飲んで泣くぞ!」 家に帰ったら暖かい灯りと…… 料理の臭いがした 女と暮らしてる時は息が詰まる想いだった なのに……今は暖かいと想った 皆が用意してくれた御飯を食べた 「司命、おめぇの作る飯は美味しいな」 「幾らでも貴方の為ならば作りますとも!」 司命はそう言い炎帝のお皿に山盛りにおかずを盛った 「ほれ、飲め黒龍」 「………応接間……掃除したのか?」 「そう!皆で片付けたんだよ! おめぇの部屋は別れた女の荷物が多すぎる で、全部処分してやった! どうだ?これでスッキリしたろ?」 炎帝はニコニコ笑っていた 青龍は「バラして燃やすのは結構大変でした」と口にした 「青龍……悪かったな…」 「兄さん……女が家に荷物を増やすのは…… その場に自分の居場所を作る為…… 曖昧に部屋に招いて住まわせるのは止しなさい!」 「……手厳しくない?」 「手厳しくなんかありません!」 青龍に言われてトホホとなっていると 弥勒が黒龍の唇に薬を塗ってくれた 「お前が怪我して還るから八仙の処へ薬を貰いに行くしかなかった……」 弥勒はボヤいた そして黒龍の傷に薬をグシュグシュ塗り付けた 「………痛えってば弥勒……」 「あんな可愛い子に拳を振り上げさせるな……」 「………殴り飛ばされた俺に言うな……」 朱雀が黒龍の横にドカッと座ると 「いっそ、結婚しちまえ!」と揶揄した 「………いっそ結婚しちまおうと想ってた女に殴り飛ばされた……」 「………それは……同情する気もおきねぇわ」 「……同情してくれとは言ってねぇよ!」 黒龍が言うと弥勒が 「まぁ飲め」と言った 「お主も我も……赤いのも朱雀も…… 司命 司禄も……一番は未来永劫決まっておるからな…… 二番に甘んずる輩は少ないのだ…… なれば……遊びにしておけ…… 遊びなれば……傷付く事もない……」 「………結婚……すれば埋められるかと…… 想ったんだ……」 黒龍が言うと司命が 「足掻いても何も変わらぬ諦めよ」と言った 黒龍を撫でて抱き着いて、それぞれに慰める 同情でなく 慰める 同情は必要ないから…… 明日も立っていられるように…… 想いを支える 炎帝は黒龍に 「黒龍、八仙の所に子供が預けられている その子達の親父になれよ黒龍」 と頼んだ 黒龍は「………子供?四龍のか?」と尋ねた 「そうだ、アイツ等は龍族の非常事態って事で蛇で生まれる事なく龍になったからな」 「………蛇は通り越して生まれたのか?」 それこそが異常だと黒龍は想った 「非常事態だと謂ったろ? 蛇で成長するには時間が足らねぇんだよ! こんな不摂生な生活するなら…… 世話を焼ける存在が必要かもな……」 炎帝が言うと弥勒が 「それは良い! やもめ暮らしに幕を引き 父親になるのも良いな」 と賛同した 金龍も「黒龍なら立派な次代の四龍を育ててくれると想います」と炎帝に言っていた 引くに引けない時って…… こんな感じ? 黒龍は苦笑していた 飲んで騒いで…… ドンチャン騒ぎに突入して…… 黒龍は飲みまくった そして翌朝…… 冷静になった黒龍の手には…… 次代の赤龍だけのかした四龍が抱かされて今 黒龍の子育てが……始まった 夏海と銘は何かにつけて黒龍の子の世話を焼く様になった その話はまた別の話で! 結婚しようかな…… と言う女を失って…… 変わりに子供がこの手に遺された

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