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第116話 源右衛門

我 人生に一片の悔いは遺さず! 我の半生に悔いはない ないが……心残りなればある せんのない事だが…… 我が子よ 康太、伊織よ…… 康太の子ども達よ 一生 聡一郎 隼人 慎一 お前達の逝く道が光に護られてる様に…… 我は祈る 飛鳥井源右衛門は飛鳥井家の真贋に生まれた だが生まれた時は未熟児で、体躯は弱かった こんなに弱い真贋など要らぬ…… と本家から疎まれて過ごした 家からは……いない者とされた 白馬に家を与えられて……源右衛門は一人過ごした 尋常小学校を卒業して、桜ヶ林師範学校に通う頃 一人の女の人と出逢った 榊原悦子 彼女は尋常小学校の時の同級生だった 淡い初恋を抱いた人だった 口など気安く聞けない時代だった 好いた女性(ひと)だった だが……野暮ったい自分には告白さえ出来なかった 体の弱い源右衛門は寝込む日の方が多かった その世話を悦子は嫌な顔一つせず面倒見てくれた 源右衛門は悦子に 「………一緒になってくれぬか? 飛鳥井を捨てる……… 生活は楽ではないが我と一緒になってくれぬか?」と告白した 悦子は頬を染めて……「はい…」と返事した 源右衛門と悦子は駆け落ちした 駆け落ちして辿り着いた場所は…… 横浜だった 二人して……我武者羅に働いて子を設けた 「一葉(いちよう)」と言う名を付けた その頃になると源右衛門の体躯も段々強くなって来て……一端の男と変わりなく働ける様になっていた 横浜の高台に家を買った 一葉と悦子と三人 幸せに暮らしていた 源右衛門は悦子に 「次に子を授かったら清四郎と言う名がよいな」 「清四郎にございますか?」 「あぁ潔く続く名に思えないか?」 「でも……二人目に付ける名では御座いませんよ?」 「よいではないか 名は人を現す 挫折を乗り越えて逝く強い男になると想う」 「女の子は……考えてはおりませんの?」 「考えてはおらぬ 次に産まれるのは男だ……」 源右衛門は先を詠む力を持っていた その源右衛門が言うのなら…… それは……そうなのだろう…… 源右衛門は悦子と駆け落ちするまでは…… 桜ヶ林師範学校に通って行く行くは学士様になる筈だったのに…… 源右衛門の未来を歪めたのは自分だと悔やんでいた 優しい文句一つない夫だった 飛鳥井家本家には…… 真贋は産まれなかった 本家は……同じ世代に真贋は一人しか出ぬ事を知らなかったのだ…… だから源右衛門など要らぬと言った 飛鳥井の菩提寺の僧侶から真贋は一人しかおらぬと聞き慌てた アレしかおらぬなら… 使うしかない 自分達に利用出来る様に使うしかない そう思い源右衛門を探し出した 源右衛門の飛鳥井家真贋としての地位も妻も用意した 源右衛門の妻には久家清香と言う文句なしの身分の女を用意した 清香は「源右衛門殿は既に妻も子もおられる方……なのでは?」と何度言っても…… 「構わぬ!源右衛門の妻はお主と決まっておる!」 の一点張りだった 本家は悦子と一葉を……源右衛門から引き離した 輩から闇に葬り去ろうとした 悦子達親子を追って……追って…… 闇から闇に葬り去ろうとした 悦子は闇から闇に葬り去ろうとする輩から逃げた 子供を護る為に…… 源右衛門との愛の証を護る為に…… 逃げて逃げて…… 逃げ切るつもりだった 悦子は逃げて逃げて…… 子を産んだ 源右衛門と約束した「清四郎」と言う名を……次男に付けた 悦子は我が子を腕に抱き…… 果てを見て笑った 「源右衛門……貴方の言う通り…… 男の子でした 清四郎と貴方との約束通りの名前にしました」 悦子は誰よりも幸せな顔で笑った 一葉はそんな母の顔を…… 一生忘れないと誓った 母さん…… 僕は……清四郎に父さんを見せてやるよ! 何時か……清四郎に父さんを見せてやるために…… 父さんの事を一杯お話しするよ! 小さな一葉は心に決めた 源右衛門は……そんな親子のことを知らずに…… 飛鳥井家真贋として飛鳥井の頂点に君臨した 飛鳥井家真贋として本家に入れられ 用意された妻 清香と婚姻した 婚姻した晩 源右衛門は清香に総てを話した 「清香……我には妻と子がいた…… 一葉と言う子がいた…… そして一目も見れぬ子が……この世に産まれていると想う…… 我は……親子を探して……詫びようと想う」 清香は源右衛門に 「そうなさいまし! 貴方の妻と子……迎え入れなさいまし!」 「………清香……」 「貴方には……そうする義務がある…… 源右衛門……この悪習を……終わらせましょう! 本家に謂いようにされる時代など終わらせるべきです! 我々は心を持った人間なんですから!」 清香という女性は芯の強い……女性だった 「貴方にないのは力です 我は貴方について参ります 貴方が妻を見つけたなら…… 我は身を引く所存です!」 そう言い清香は笑った 清香とは…… 夫婦の契りはしなかった 夫婦とは名ばかりの日々を過ごした 源右衛門は悦子と家族と過ごした家に還った その家で……清香と二人で過ごしていた 本家は…清香との間に子を作れ!と煩く迫った 清香は源右衛門に 「我は一人しか子は産みません 我がこの世に生み出す子は一人 名は貴方が決めないで下さい 貴方が妻を見付けた時に…… 苦しまない様に……子は愛さずともよい」 清香はそう言った 源右衛門は清香を抱いた そして自然な流れで子が生まれた それが飛鳥井清隆だった 清香は源右衛門に言った通り…… 子は一人しか産まなかった 本家に何を言われようとも…… 清香は「我の子は一人でよい!」と言った 清隆はそんな母の強い背中を見て育った 凜として美しい女性…… 母みたいな女性を……理想にしていた 源右衛門は……見つからぬ…… 我が子と悦子を想いつつも…… 清香の想いに……感謝していた 激しい愛ではない だが……清香との間に……確かに愛はあった 「………清香……我は……お主を好いとる…」 「そうで御座いますか?」 「我が先に黄泉に逝ったら…… 我はお主を待っていよう」 清香は驚いた瞳を源右衛門に向けた 「………妻と子は……宜しいのですか?」 「………こんなに放っておいたら……責任の一つも取れはせぬ…… 許されぬ存在にしかならぬ…… 我と……人生を共にしてくれ清香……」 「誠……そなたは狡い…… では我が先に黄泉に逝く事になったら…… お主が来るまで待ちとう御座います…」 「………清香……」 「源右衛門……我達は家に翻弄されたな 後の子に……同じような想いはさせてはならぬ……解っておるであろう?」 「解っておる 我等と同じ悲しみは二度と…あってはならぬ お主は……この様な我と共に生きてくれた… 本当に感謝する……」 「我も貴方と出逢えて良かったのですよ だから貴方と共に生きて来た…… 貴方が狡いだけの男なら……捨ておいた お主は十分に苦しんだ……そして過去を捨てなんだ…… そんな不器用な男を……我も好いておったのじゃ……」 源右衛門は清香を強く抱きしめた 共に生きてくれた強い妻だった 泣いた顔など見た事もない…… いつも気丈に笑っていた こんなに……儚くて……壊れそうな肩なのに…… お主は誰よりも強い…… 清隆が妻にと連れて来た女は…… 何処か清香に似ていた 清隆には既に許嫁がいた だが我が儘を一つも言わなかった息子が…… 誰が反対しても結婚すると言って来た女性は…… 清香に似て…… 強い女だった 誰よりも誇り高く…… 気丈で美しい……大輪の花だった…… 源右衛門は結婚に賛成した 清香は一族の盾になり結婚させた源右衛門に…… 自分が結ばれない思いをしたからだと思った そしたら源右衛門は 「玲香は……お主に似ているな お主の背中を見ている様であった 清隆はお主の背中を見て育ったんだな… 我は誰が何を言おうとも結婚させるつもりだ…… 清香……お主に似た玲香を…… 悲しませてはならぬと想うのじゃ……」 清香は泣きながら笑った 「清隆はマザコンですか?」 「そうであろう! 玲香は飛鳥井の女になるべくして生まれた女であろう お主と同じ……総てを黙って背負う……」 「……源右衛門……」 「お主は飛鳥井の女として……生きてくれた お主程に……飛鳥井の女だった女性はおらぬ 清隆は……やはりマザコンなのであろう!」 源右衛門はそう言い笑った 「我は清隆が可愛い… 我が子じゃ当たり前じゃ だが……我は厳しいからな…… 距離を置かれておるのは解っておる 何一つ我が儘も言わぬ我が子がたった一つ言った我が儘じゃ…… 我は嬉しくて堪らぬ……」 源右衛門はそう言い清香を抱き締めた 飛鳥井清隆は一族の反対を押し切って 玲香と挙式を挙げた 清香は玲香に飛鳥井の家の事を総て教えて叩き込んだ 玲香は辛くても泣き言一つ言わず耐えた 瑛太と蒼太を出産して……大変になっても玲香はひたすら飛鳥井の女として清香を立てた そんな頃清香は病に倒れた 癌だった 発見されて………半年と持たず…… 清香は寝たきりになった 医者は……余命一ヶ月を告げた 源右衛門は清香の傍につき着っきりで看病した 飛鳥井義恭が「倒れるぞ」と怒ろうとも…… 清香との時間を大切にした 「源右衛門……」 「なんじゃ?」 「我は飛鳥井源右衛門の妻として生きられて良かった……と心から想います」 「………清香……」 「お主の心の中には常に一緒に暮らせなかった……家族がいたのは知っておる 我は……本当に……お主の家族が見つかったのなら……身を引いてもよいと想っておった 源右衛門……お主が幸せになるのなら……… 我は……それで良かった……」 「清香……我は……来世もお主と夫婦になりたい… 失った家族の事は……お主が言うとおり忘れてはおらぬ…… 一度も幸せにしてやれなかった……悔いが遺って……おるのじゃ……」 「そんなこと解っておる ………お主は知らぬだろうが……我は生まれた時から飛鳥井源右衛門の妻になる様に育てられたのじゃ……」 「………清香……」 「お主が狡いだけの奴なら……好きになりはしなかった…… いや……憎んだかも知れぬな…… だがお主は苦しみ……のたうち回っても……忘れはしない…… 忘れない……それが……お主だと想う気持ちと…… 我等を見てと言う気持ちが常に同居しておった…… 我は……それでもお主を愛したから……子が欲しかった お主との間の子が……… その子は我だけの子になる…… そう言う想いと…… 清隆を見て欲しい気持ちが………何時も我を支配しておった…… それでもな……そんな想い以上に…… 我は飛鳥井の女でありたかった……」 「お主はまごうことなく……飛鳥井の女じゃ……」 「源右衛門……我は先に逝く……… この身が………口惜しい……」 清香は泣いた… 源右衛門は流れる涙を拭った 「待っておれ!我もすくに逝く…… そしたら来世は……夫婦になろうではないか…… 我はもう……お主以外のモノなど要らぬ……」 「では……待ってて差し上げよう… そんなに早く来ずともよいぞ! お主は次代の真贋を育てねばならぬ…… 玲香は……まだ真贋は産む気配ないのであろう?」 「……ないな…… 次に産まれるのは……100年に一度飛鳥井に産まれる稀代の真贋……」 「…………稀代の真贋……ですか?」 「稀代の真贋は……妻を娶らぬ……ときく…… 我は……そんな難しい子を…… お主抜きで育てられるのか?」 「源右衛門、その子は……妻は要らすとも……誰がいるかも知れません そしたら反対は絶対になさらないで下さい 約束ですよ! 絶対に反対は……なさらないで!」 「……妻……以外の存在…… 衆道……なのか?」 「例え……そうでも……その子はその方しか愛せないのでしょう! 飛鳥井の女の勘です! 次代の真贋が転生される時……その方も転生されるのでしょう! そしたら貴方はお二人の味方であって下さい! 何よりも辛い恋を体験なさった貴方が…… お二人を反対などなさらぬ様に……ね」 「解った清香…… お主と約束しよう! 絶対に反対などせぬ! 我は二人の味方であると約束する」 「………それでこそ……飛鳥井源右衛門です」 清香は微笑み源右衛門の手を握った そして………そのまま…… 眠るように……黄泉へと渡った…… 享年 67歳だった 早すぎる死を……誰よりも源右衛門は悼んだ 清隆は恵太を作り、次も作った 次の妊娠で……真贋だと解った それを玲香に告げた 「お主の………腹の中にいるのは次代の真贋じゃ……」 そう告げた時……玲香は泣いた 玲香は清香によく似ていて…… 涙した姿など……見た事もなかった 「………この腹の子は飛鳥井家の次代の真贋だと申すのか………」 「………そうだ……お主も知っておろう 次代の真贋は現真贋が育てる……と言う事を……」 「………この子を……我は抱き締めるのも……出来ぬと言うのか?」 「触れてはならぬ…… 真贋は絶対的存在……飛鳥井の一族の象徴 酷なことを言っておるのは解っておる」 その日から…… 清隆と玲香は寝室を別にした 可愛がって育てて来た子供達と距離を取った この子達は可愛がるけど…… 真贋は近くにも寄れぬ…… そんな事は絶対にしたくなかったから…… 源右衛門は一人で康太を育てた 厳しく修行させた 康太を支えるのは…… 本来……清香の役目だった 飴と鞭 厳しい源右衛門と優しい清香の筈だった だが源右衛門には清香を失っていた その代わり……康太が求めたのは兄だった 瑛太は康太を溺愛した 康太しか見ていないのは解っていた 踏み外さねば良いが…… と危惧していた時だった 康太のパジャマの中へ手を忍ばせる瑛太を応接間で見て…… 玲香は釘を刺した 「康太のこれからの人生を背負えるのであれば……我は何も言わぬ……」 その言葉の重さに…… 瑛太は……康太を諦めた きっと瑛太が求めれば康太は受け入れただろう…… 康太の世界には瑛太しかいなかったから…… 瑛太が……康太によく似た男の子と…… 恋人になったのは……その後位だった 飛鳥井家の裏にある真壁の家の三人姉妹と康太が仲良くなったのは…… そんな頃だった 真壁の父親は娘達を商品として、嗜好家に売っていた まだ毛の生えそろわぬ生娘を大人の男に抱かせて… 見返りをもらって繁栄していた 真壁の三姉妹は父親の欲望のままに商品となり…… 玩具になった 高校を卒業する頃には総てを諦めて……死ぬことしか考えていなかった 今生きてるのは……何時も傷だらけで何時も飢えて寒がっている飛鳥井康太の為だけ…… 康太の瞳には…… 真壁の三姉妹の総てが映っていた 総てを知っていた 知っていて……三姉妹を大切にしていた 「康太……我の体躯は……汚れきっておるのだ……」 京香が言う 「京香、汚くなんてねぇよ! なぁ、京香、オレの兄を紹介してやる! 桃香には菩提寺の上に住む紫雲を紹介してやる 澄香には弥勒を紹介してやる! お前達は……その人と結婚する お前達の未来は決して無理強いされ蹂躙された日々を忘れさせてくれる奴がでて来るんだ!」 「………康太……ならぬ…… 我は……女として機能せぬ…… 女である事を諦めて……人形になったのじゃ……」 「京香!お前は幸せにならねぇとならねぇ! 桃香も澄香もそうだ! オレが誰よりも幸せにしてやる!」 そう言った康太が動いた どんな手を使ったのかは京香達……三姉妹には解らぬ でも康太が動いたから……真壁の父親は…… 三姉妹を諦めた そして真壁の土地を捨てて引っ越して逝った 三姉妹は飛鳥井の菩提寺に預けられた 京香は瑛太と知り合い……恋に落ちた 瑛太は源右衛門の反対を押し切って婚姻した 源右衛門の瞳には……破綻が見えていた 康太は源右衛門に 「…………結婚させてやれよ……じぃちゃん」 と言った 「………破綻すると解っててか?」 「それでも結婚させてやれよ 京香は飛鳥井の女に相応しい だから真壁の親父から救って瑛兄の妻に据えた あの二人は離婚しても……復縁する 瑛兄の妻は京香しかいねぇ……」 「康太……瑛太は……お前を……」 「じぃちゃん……オレは瑛兄が求めれば受け入れると想ってるだろ?」 「違うのか?」 「………じぃちゃん……オレには伴侶がいる 未来永劫……オレは……その男しか愛せねぇ…… 瑛兄を受け入れたとしても… オレは瑛兄は愛せねぇ…… それに焦れて瑛兄はオレを殺すしかねぇな……そんな果てなんて用意しなくても良いだろ? 京香と結婚するなら……それで良い…… たとえ……破綻したとしても………瑛兄は自分を保っていられる……」 「………康太…… なれば瑛太の結婚を許す それで良いのか?」 「それで良い…… 瑛兄は逃げたがってる……逃がしてやってくれ…… オレも瑛兄に掴まえられるつもりはねぇんだよ だから……母ちゃんを呼んで……瑛兄がしようとしてるのを止めさせた……」 「………康太……」 「オレは破滅に向かう飛鳥井を止めねぇとならねぇんだ! 稀代の真贋と言われるのは伊達じゃねぇんだって事を見せねぇとな!」 そう言って笑った康太は…… 子供には見えなかった 源右衛門は心底……康太を恐れた 恵太が結婚して康太は飛鳥井を出て逝った 源右衛門は「……恵太の結婚も……破綻が見えてて何故許す?」と問い掛けた 「恵兄の愛してるのは……オレの駒の栗田一夫……栗田には妻がいたんだよ……」 「………それでも恵太は栗田を選ぶ……」 「一度別れた方が互いの為なんだよ 振り出しに戻って互いの存在を考え直せる時間が必要なんだよ」 …………康太の言葉に源右衛門は何も言わないことにした 玲香は源右衛門が何も言わない事を良い事に……二人の結婚を許した そんな頃……京香が家を出て逝った 康太は伴侶と共に飛鳥井の家に来る様になった そして……来るべき時が来た…… 家を出た京香は妊娠していた 次代の真贋を腹に入れたまま……京香は家を出て逝った 康太が何も言わぬのなら…… 源右衛門は何も言わなかった 一度別れた京香を再びリセットした状態で瑛太に与えた 狂った歯車を直す様に軌道修正をかける 飛鳥井は榊原伊織を康太の伴侶として家に入れた そして京香が子供を産んだ 源右衛門は次代の真贋が生まれた時に……真贋としての力は失った 力をなくした源右衛門に康太は 「飛鳥井源右衛門の仕事は終わった 清香の所へ逝くまで…… 家族と過ごしてください」 そう言い深々と頭を下げた 「オレは清香と約束した 源右衛門を堅物な偏屈な真贋のまま逝かせない……と。 じぃちゃんは甘いじぃちゃんになり孫と過ごせば良い 父ちゃんに……デレデレのじぃちゃんを見せてやれよ 怖いばかりの父じゃなく…… 父ちゃんの傍に下りて……生きてやれよ それが清香の願いだ 清隆に父親を感じさせてやってくれ そして誰よりも甘い祖父にしてやってくれ 清香の願いを総て叶えてやると約束したからな! だからじぃちゃんは清香を待たせてるんだから悔いなく生きねぇとな!」 源右衛門は涙が止まらなかった…… 清香…… お主は死しても…… 我の事を愛して…… 康太に託したのか? 清香…… 我はお主の愛を感じる…… 死してもなお我を愛すお主の愛を感じずにはいられない 『清四郎』と言う…… あの日……悦子は……約束した名を付けてくれていた 清四郎が持っていた兄と母の写真を見せて貰った時に…… 源右衛門は気が付いた 何処か……一葉に似た容姿を……懐かしく想っていた 康太の伴侶の父親…… それだけでない繋がりを……感じていた 康太は清四郎が見せてくれた兄の写真に…… 源右衛門を視た そして源右衛門の想いの先を視た 康太は源右衛門になくした家族を与えてくれた 諦めていた……わが子を…… 一葉は既に鬼籍の人になっていた が……瑛太の中に生きていると教えてくれた 康太が…… 源右衛門のなくした家族を…… 与えてくれた 夢にまで見た我が子を…… 与えてくれた 許される筈などないと想っていた なのに…… 清四郎は許して…… 康太や飛鳥井の家族を大切にしてくれる…… 遺す事なんてないと想った 家族を護る そう心に誓った 星が………自分の終焉を………告げた時 源右衛門は覚悟した 何があっても家族を護る! この命にかえても家族を護る そう決めた 星が告げる 終焉の日を…… だから……覚悟が出来た 家族を護れて本当に良かったと想う…… 我は悔いなど遺してはおらぬ 消えゆく意識の中で…… 悠太の異変を感じ取った時…… 源右衛門は迷う事なく…… 輪廻の輪から外れた 二度と転生出来ぬともよい 悠太が死ねば…… 康太は仇を討ちにいくであろう…… それはさせたくはなかった そんな事をしたら…… 飛鳥井は…… 終焉に向かうしかない…… 悠太を生かす その為だけに源右衛門は悠太の所へ飛んで逝った 悠太を護って… それだけに日々を費やした 元気な家族も見られた 我が息子……清隆にも逢えた…… このまま……消え去ろう…… そう思っていた だが康太に怒られ 弥勒に怒鳴られ 厳正に笑われた 腹立つ…… 厳正はお前の代わりに飛鳥井を見届けてやろう と言い……来ない…… そして再び…… 長い眠りにつくとしようか…… 今度目が醒めたら…… 清香、お主と大恋愛しようぞ! 愛してる……と康太と伊織みたいに 言おうではないか…… そうして源右衛門は眠りに落ちた 再び目醒める日まで………

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