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第117話 コオ イオリ 時々桃太郎

飛鳥井の家は静まり返っていた 笑い声が聞こえない 人の話し声が響かない 朝 何時もの散歩の時間にドアが開く ご主人様かと尻尾を振る だが……ご主人様じゃなかった クシュン……とすると優しい手がコオとイオリを撫でた 「散歩に行きますよ」 そう言いリードを首輪に付けた コオとイオリは家の中ではリードは付けてなかった 応接間のゲージの前で一日過ごし 寝る前にゲージの中へ入れられる その間、好きなところへ行っても良かったが、二匹はゲージの前に大人しく座っていた リードを付けられると散歩が始まる 玲香と清隆が、康太と榊原の不在を埋めるべく、散歩に連れて行っていた 玲香がイオリのリード持って 清隆がコオのリードを持って散歩に向かう 途中、兵藤夫妻に逢う 昭一郎が桃太郎のリードを持って 美緒がイオリの母親のリードを持っていた 美緒は玲香を見て 「玲香……子供の不在が案外寂しいのじゃ…」と告げた 「我も……子供達も康太達もおらぬからな…… 淋しい………って思うのじゃ」 「やはり……そうであろう…… 早く……帰らぬかな……」 美緒は淋しそうに呟いた 「………多分……連絡できぬ所へ行ったのじゃ… 我等は待つしかなかろうて……」 玲香は淋しそうにそう言った 「………やはり……そうであろうな……」 「我等は知らぬで良い 生きて還ってきてくれれば…… それで良いのじゃ……」 玲香の言葉は重かった 「………そうであったな それよりも……やはりイオリは艶々で…… 毛艶はチャンピオン犬であるな……」 「取り分け手入れなどしておらぬけどな…… 慎一がおれば慎一が手入れを怠らぬからな」 慎一は見よう見まねでトリミングしてカットまでする様になっていた 全く器用な男である! 桃太郎が『コオ イオリどうしたんだよ?』と元気のない二匹に声を掛けた コオはどよーんとなり桃太郎を見た 『………桃ちゃんは何時も元気だね……』 『ねぇコオ……隠してある骨を持って来るからさ……元気出してよ ボクのお気に入りのぬいぐるみ……あげてもいいよ……』 桃太郎はコオを舐めながら……そう言った 『………要らない……』 『………コオ……』 放っておいて……とコオは小走りで家へと走って帰った 残された桃太郎は泣いていた 嫌われた…… お気に入りのぬいぐるみや…… 隠してある骨をあげると言ってるのに…… コオは要らないと言い走り去って行った 美緒は鼻水を垂らして泣くシュナウザーを引き摺って家に帰った 翌日から……桃太郎はご飯も食べなくなった 美緒は桃太郎に 「………お主まで……飛鳥井に行きたいから食べぬと言うのか?」 と問い掛けた 桃太郎はブルンブルン首をふった 『………嫌われたんだよぉ……』 桃太郎は悲しそうにキュンキュン鳴いた 美緒はお手上げになった 玲香は美緒と昭一郎を飛鳥井に招いた 桃太郎は美緒の傍に座って………コオとイオリの方へは行かなかった コオが『桃太郎…』とキュンと鳴いた 『ボクなんて嫌いなんだろ……』 桃太郎は鳴きながら言った 『嫌いじゃないよ桃ちゃん!』 『………だって……コオ……走って帰っちゃったもん……』 『……ゴメンね桃ちゃん…… オレ……飼い主が還らないから淋しくて……』 『コオ……元気出してよ ボクのお気に入りのぬいぐるみあげるから…』 『そんな事したら桃ちゃんが淋しくなるよ?』 『ボク……コオとイオリが元気じゃないと…… 悲しくなるもん……』 イオリは桃太郎を舐めた 『桃太郎……隠してある骨もお気に入りのぬいぐるみも要らないから、桃ちゃんが遊びに来てよ……』 『イオリ……』 『桃ちゃん、ご飯食べないなと毛艶が悪くなってるよ?』 『……え?嘘……毛艶……悪くなってる?』 『ほら、食べて』 イオリは鼻で餌の容器を桃太郎の前に差し出した するも桃太郎は餌を食べ始めた 餌の匂いを嗅ぐと……… お腹がグゥ~と鳴った 『食べなよ桃ちゃん』 コオが言った 『お腹一杯食べると毛艶も良くなりますよ』 とイオリも言った 桃太郎は餌をガツガツ食べ始めた 美緒はそれを見て…… 笑っていた まるで兄弟みたいに仲がいい 桃太郎はコオとイオリが大好きだった 『桃ちゃん 大好きだよ』 コオはそう言い桃太郎を舐めた 『桃ちゃん 元気じゃないと……困る』 イオリは兄弟への想いを口にした 『イオリ、今度母さんが必死に隠してる骨をあげるよ!』 桃太郎は元気になった 何時もの朝の散歩 桃太郎は走って逃げて来た 『コオ イオリ!約束の骨!』 そう言い桃太郎はコオとイオリの前に骨を置いた 桃太郎の母犬タカシが鬼の形相で駈けてくる コオは………その怖さに思わず…… じょーっと……チビった イオリはコオの前に来て…… チビったのを隠した 『我の骨を!』 タカシは桃太郎の体躯に乗って……怒っていた イオリは母犬のタカシに 『母さん……桃太郎を怒らないで……』と訴えた 『………イオリ……』 『桃ちゃんは僕達が元気なかったから…… 心配してくれたんだよ……』 『………イオリ……今回は……お前に免じて許してやる!』と引いた コオは『桃ちゃん!』と心配した イオリも『大丈夫?』と桃太郎を心配した 三匹で仲良く駈け行く 美緒と玲香はそれを見て笑っていた 清隆も昭一郎も暖かく見守っていた 『コオ イオリ! ボクさ二人が大好きだよ!』

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