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第121話 入学式 狂想曲 ①

【序章】 神楽四季が佐野春彦と共に飛鳥井の家を訪ねて来たのは桜の花がちらほら咲き始める頃だった 佐野と神楽は一頻り康太に抱き着いて、淋しかったと甘えて……本題に入った 佐野が「今日来たのは頼みがあったらだ」と単刀直入に切り出した 神楽は「今 桜林の高等部は頭を欠いている……葛西はやっと通学を果たしましたが…… 君の弟の飛鳥井悠太は未だ……通学はされてない……」と苦悩した表情を康太に見せた 「悠太はまだ歩けねぇからな…… 一生、悠太を呼んで来てくれ」 康太は一生に頼んだ 佐野は「退院されたのか?」と問いかけた 「あぁ、退院した 傷も大分良くなったぜ?」 康太が言うと悠太が松葉杖をついて応接間に入ってきた 「どうだ?悠太だって解るだろ?」 佐野は「はい……良かったです」と胸を撫で下ろした 神楽も「半年かかるとお聞きしていたので……嘘のようです…… そろそろ通学始められますか?」と嬉しそうだった 康太は……暗い顔して……一生を見た…… 一生は「………悠太……連れて行こうか?」と気を回した それに対して悠太は 「俺は何を聞いても平気です……」と言った 一生が神楽達に説明を始めた 「………悠太……顔も元に戻ったろ? あと少しもすれば完璧に元の顔に戻る ………だけど……足は……元には戻らねぇんだ…… 学園に戻っても……体育は出来ないだろう…… 運動全般……出来ないだろうと言われてる…… そして一番のネックが‥‥‥今後粉砕された骨が成長に着いて行けなくなる現実が待っている」 悠太は静かに一生の言葉を聞いていた そして神楽と佐野に 「桜林高等部は生徒会の総選挙をやるべきです…… 次の選挙は俺は立候補しません…… 新しくなった生徒会で運営すべきだと想います」 潔く……身を引く決意を示した 佐野が「生徒会の総選挙なら……もう行った……」と現状を告げた 神楽も「葛西と悠太の名前は表記せず投票させたのですが……… 会長と執行部部長の立候補者の名前に……バツを付けて…… 会長 葛西繁樹 執行部部長 飛鳥井悠太 と学園全員が名前を書いて投票したのです このままでは……桜林は頭を欠いてしまう…」 と困った現状を告げた 「…………悠太……どうするよ?」 「………康兄……俺は……まだ学園生活は不安です…… しかも何時まで通えるか‥‥解らない現実では戻らない方が良いのかも知れない‥‥」 康太は悠太の頭を撫でた 「久遠と相談しねぇと勝手に出来ねぇかんな……」 「……それもありますが…… 俺は……本当に学園生活を送れるのか…… 不安です……」 「心的なモノも……あるかんな……」 今度ばかりは……どうして良いか…… 康太も解らなかった…… 悠太を厳しく追い立てるのは…… 傷を負いすぎている… 榊原は佐野と神楽に 「今日、お見えになったご用件は? まだお伺いしておりませんでしたね?」と尋ねた 「桜林の入学式……悠太を出して欲しい…… と言う事と……康太達に悠太のサポートをして戴きたいのです!」 「彦ちゃん……高等部2年に高坂海王と陸王っているやん?」 「はい!貴方が…連れて来られた子達ですね」 「その二人、生徒会に入れろ! 康太が言ってたと言い生徒会の仕事をさせろ!」 そう言うと……佐野は……困った顔をした 「………彼等は……常に二人で共にいて…… 他は受け付けません………」 「だからだよ? そろそろ……色んな奴と連むと言う事を知る必要があるかんな…… それが出来るのなら……悠太のサポートに当たる 悠太を護って家の中に閉じ込めておく訳にはいかねぇかんな…… 怖がっても……乗り越えさせねぇとな…… 良い機会だった……悠太も海王も陸王も……分岐点に来ているのかも知れねぇ……」 神楽が「では、引き受けてくれますか?」と康太に問い掛けた 「卒業式の様な人数は不要だからな……黙っておけよ!」 「解りました! 入学式まであまり余裕がありません……」 「明日から学園に向かう!」 神楽と佐野は「「ではお待ちしております」」と言い還って行った 康太は悠太に問い掛けた 「怖いか?悠太」 「………康兄……暗闇が怖いんだ……」 帰宅時に拉致られて閉じ込められた…… 恐怖から抜け出ていなかった…… 「………悠太……おめぇを護って……安全な所にいさせてやるのは容易い…… だけど……それだと……お前は一人で歩けなくなる…… それはさせたくねぇんだよ…… 恐いなら兄と一緒に学園に行こう…… 通学を始めたらお前にセキュリティガードを付けてもいい…… 取り敢えず……一歩踏み出そう……」 「………康兄……ごめん…… 俺……我が儘言いました……」 「我が儘なんて想っちゃいねぇよ…… オレはおめぇが引くビルを見てぇだ…… その為だけにオレはおめぇを育てて来たんだぜ?」 「………康兄……そうでした…… 俺はこんな所で留まってちゃダメなのに…… 恐怖で見えてませんでした……」 「悠太……オレも時々フラッシュバックする時がある…… 恐怖はそんなに簡単に乗り越えられはしねぇかも知れねぇ…… でも進まねぇと……な?」 「………康兄……あと少しだけ……甘えさせて下さい……」 「少しとかじゃなくて良い…… お前が歩けるまで……傍にいてやる…… ずっと傍にいてやる…… おめぇは飛鳥井を出る訳じゃねぇ…… ずっとオレの傍にいろ……」 「………康兄……」 康太は悠太を抱き締めた 悠太は体躯を離すと榊原に頭を下げた 「義兄さん……不甲斐ない弟ですみません」 「悠太……僕達に強がって見せなくていいです…… 学園に行くなら貴史のくれた制服に袖を通すといいでしょう 正式に通学を決めたら制服を作りに行きましょう!」 「義兄さん……後1年なので勿体ないです それも通い通せるか解らないのに‥‥」 「悠太、君が生きていてくれた…… 飛鳥井の家族や榊原の家族はそれだけで嬉しいのです 早めに制服を作っておかねば…… 我が母や義母さん辺りが躍起になります それでも良いなら……何も言いません」 「………義兄さん……お願いします」 「悠太、北斗と一緒にリハビリに通いなさい」 「はい!そうします」 「北斗は努力で日々の生活を手に入れました 君は北斗より体力がある…… その足も……ハンデもなく歩けるようになります! なぁにセックスするのに不便なら上に乗せて動いて貰えばいいのです!」 「………義兄さん……」 悠太は真っ赤な顔になった 聡一郎が「伊織……悠太をいじめないの」と取りなした 「虐めてはいません! 兄として悠太は可愛い! 悠太への愛です! 大切な事ですからね…… 今後の生活よりセックス出来るか…… そっちの方が重要でしょ?」 「………義兄さん……」 榊原は悠太の頭を撫でて 「一つずつ解決して行きましょう! 大丈夫です! 君には家族や康太がいます!」 「はい……」 悠太は一歩踏み出す決意をした 翌朝から桜林に通う事になった 学園まで榊原が車に乗せて送る事にした ベンツで桜林の来賓駐車場へ向かう 学園は春休みという事もあって静かだった 榊原は車を停めると、運転席から下りた 助手席のドアを開けて康太を下ろすと、悠太が車から下りるのを手伝った 「悠太、車椅子じゃなくて大丈夫なのですか?」 車から下りると松葉杖を使った 「大丈夫です義兄さん 松葉杖なら練習しました」 「疲れたら言いなさい 君に無理させたい訳ではないのですからね……」 「はい!」 悠太は上手に松葉杖を駆使して歩いていた 葛西繁樹が悠太の姿を見て近寄って来た 「悠太……大丈夫なのか? 学園長が悠太が来るって言ってたから待ってた」 「葛西……俺はこの通り……歩くのは困難だからな……迷惑掛けると想う……」 「大丈夫だ!悠太 俺は右耳の鼓膜が破れて難聴になった…」 互いに不自由だと言い葛西は笑った 玄関まで行き上靴に履き替えようとすると…… 兵藤が姿を現した 「俺を抜かしてやるなよ!」 と兵藤はご立腹だった 「誰に聞いたよ?」 「彦ちゃん!」 「………彦ちゃんか……言い触らすなって言ったのに…… 今回は本当にサポートだけだ…… それと……少し根性叩き直そうかな……って想ってな……」 「誰の?」 「悠太の」 「だから、誰の根性をだよ!」 兵藤は騙されてはくれなかった 「………見てれば解る……」 「ふ~ん!なら見てる事にする」 兵藤と共に一階の会議室に行くと佐野が康太達を待ち構えていた 康太は兵藤に「オレの名を呼ぶなよ」と小声で伝えた 兵藤は親指を立てて了承した 佐野は「OBの方がサポートについてくださる事になった!」と生徒会の役員に告げた 顔見知りもちらほらいる それらにも佐野に飛鳥井康太だと名を呼ばせるなと教えといた 生徒会役員の中に、やけに長身でふてぶてしい態度の男が二人 似たような顔をして立っていた 康太は悠太が歩く歩幅で付き添って歩いていた 兵藤は「これ、俺の制服だな」と嬉しそうに呟いた 悠太は「解りましたか?」と問い掛けた 「俺の制服は……少しだけ変えてあるんだよ」 兵藤の言いぐさに悠太は首をかしげた 兵藤は「そのうち解る」と言い種明かしはしてくれなかった 「さぁ、時間がねぇ! 打ち合わせに入るぞ!」 生徒会役員は佐野の号令と共に動き始めた 榊原は悠太を椅子に座らせた そして少し離れた所に座った 康太の瞳は一点に注がれていた 「入学式は5日後だ 4日で準備を終えてプログラムを刷らねぇとならねぇんだ!」 佐野は吠えていた 康太は懐かしいな……と笑っていた 双子が「OBの方にやって貰えば良いんじゃないんですか?」 「そうそう、慣れてんだし、いるならやって貰えば良いんじゃないんですか?」 と口々に述べた 鷹揚な態度は鼻につく 悪びれない物言いは堪に障る 何故……敵ばかり作るのか…… 彼等の後見人をやってる康太の耳には… 彼等の生活態度が逐一報告が入っていた 目に余る…… 教師はなまじ天才に手を口もだせなかった…… 康太は「生徒会役員は自己紹介しろよ!初めて目にした奴もいるんだろ?」と口を挟んだ すると葛西が「葛西繁樹です!今度3年になります」と皆を見て言った 悠太も「飛鳥井悠太です!俺も今度3年になります」と自己紹介した 「戸浪万里です!僕は今度3年になります!」 それを皮切りにそれぞれが自己紹介をした 康太はキツい瞳で…… 「高坂海王、今度2年になる」 「同じく高坂陸王 今度2年になる」 とふてぶてしい態度で言ってのけた 兵藤は「………あれは……自分が相当のクズだと気付いてねぇな」と聞こえる様に笑った 海王は顔色を変えて 「その言葉は俺らに言ってる?」と兵藤を睨み付けた 「クズをクズって言って何が悪い!」 兵藤は挑発する 「大学を留年なさった伝説の生徒会長から見たら、そう見えるのですかね?」 嫌味の応酬を繰り出そうとした時……… 悠太が海王を殴り飛ばし 「兵藤君を愚弄するのは俺が許さない!」 言い捨てた 陸王は「愚かな人だな」と皮肉に笑った 「愚弄されて怒ってるけど……この暴力沙汰を公表したら退学だぜ?」 何処までも高飛車な態度で挑発する陸王に…… 康太は立ち上がると…… 殴り飛ばした 「誰も見てねぇよな?」 康太が言うと佐野が 「誰も何もみちゃいねぇ!」と答えた 陸王は康太を睨み付けていた 康太は馬鹿にしたように鼻で嗤うと 「彦ちゃん……この二人、退学で良いわ……」 そう言い捨てた 海王は「貴方に何の権利があって……」と文句を言おうとして…… 気が付いた 彼が飛鳥井康太………だと…… 「…………飛鳥井康太………」 海王は呟いた 陸王は康太を驚いた瞳で見た 康太は陸王を蹴り上げた 陸王の唇から……鮮血が流れた 「こんなクソに金を使う気がしねぇんだよ!」 「僕達は両親の遺したお金で生活をしている! 後見人だか何だか知らないが……こんな事をして……どうなるか解ってるのか!」 陸王は怒鳴った 「伊織、東青を呼んでくれ!」 言われ榊原は携帯を取りだし天宮に電話を入れた 「直ぐ来てくださるそうです!」 「そうか!彦ちゃん、今日は終わりにしようぜ! 明日までには片付けとく…… そしたら倍速で動いてやんよ!」 そう言い康太は笑った 佐野は生徒会役員を総て帰して、会議室に鍵を掛けた 暫くして天宮東青が会議室に現れた 海王と陸王が世話になっている弁護士だった 両親が亡くなって途方に暮れている二人の前に天宮が現れて…… 総て片付けてくれた 天宮は「頼まれたので」と言った 両親が天宮に頼んだのだと想っていた だが………天宮は二人には見向きもせず…… 生徒会室に現れるなり、康太に深々と頭を下げた 「東青、忙しかったのに悪かったな」 康太は椅子に座り足を組んでいた 天宮は康太の前に立つと笑顔で 「貴方が呼ばれるなら地球の裏側にいたとしても駆け付けます……と何時も言っております!」 と言ってのけた 天宮が来れば……事態は変わると想っていた… 「東青、この二人の両親は……生命保険にも入ってなかった……よな? 今、生活している総てのお金は飛鳥井康太、オレが出してるのを知らねぇ……」 「そうですか……それで貴方に失礼な態度を取りましたか? この子達は……少し目に余る態度を取られるみたいですね…… あっちこっちから……悪い醜聞ばかりが入って来ます 今までは貴方の為だと想い動いて来ましたが……貴方を蔑ろにするのでしたら…… 捩り潰してやります!」 天宮はそう言い冷酷な笑みを浮かべた 海王と陸王は天宮のそんな顔は知らなかった 何か問題をおこせば天宮が出てなかった事にしてくれた…… それは生前両親が……天宮に頼んだのだと想っていた…… 海王と陸王は……… 足元が……崩れる恐怖に襲われた 物心着いたときから両親はいなかった…… 育ててくれた人が……両親だと想った…… だが……人は黙っててはくれない 今いる親は……本当の親じゃないのよ 親切な誰か知らない人達が口々に教えてくれる…… 非行に走ると…… 桜林に入れられた 体の良い厄介払いかと想った 育ててくれた人は言った 「………頼まれたので面倒を見てました」……と。 崩れてく世界は…… 誰も止めてはくれなかった……… 海王と陸王は中等部の時に桜林の寮に入った 育ててくれた人は……… その日を境に姿を現さなくなった…… 自分達の親は……すでに死んでいると…… 寮に入るとき天宮が現れて教えてくれた 「頼まれたので今後は君達の面倒は見ます」 天宮はそう言った 両親に頼まれたから…… 天宮は動いていて…… 両親が遺した金で贅沢させて貰っているのだと想っていた 天宮は海王と陸王の前に座ると 「君の両親は君達が生まれる時に死にました」 と告げた 海王は「………生まれた時に?」と唖然として呟いた 陸王も「………死んだのに……俺達が生まれたのか?」と訳が解らない風だった 「暴漢が君達の家に入ったのです 悲鳴を聞きつけた隣家の人が警察に通報し駆け付けると、君達の両親は息絶えていた だがお腹の中の子は動いていた お腹を切って君達を取り出した…… それが現実です 両親を亡くした君達を不憫に想った康太は部下の方に育ててくれと頼んだ 養子にさせなかったのは…… 君達は高坂春海の子供だから…… 高坂春海さんは飛鳥井康太の使用人でした 康太は5歳になるかならないかでしたが…… 既に先代の真贋の手伝いをしていました 私はそんな彼の手伝いをしたくて…… 彼のモノになりました 彼のモノになって初めての仕事が…… 高坂春海さんの忘れ形見の後見人です 康太が成人して後見人は康太になりました 君達が今まで生活していたお金は総て飛鳥井康太が出していたのです 君達の両親が遺したお金はありません! それどころか……多額の借金がありました 康太は君達のご両親の借金を返して…… 君達を身の立つ様に支援していたのです」 総て、聞かせた 兵藤は「康太、こんなクズ今すぐ放り出してやれよ!」と嘲笑った 海王と陸王は兵藤を睨み付けた だが……こんな金のかかる学校に…… 放り出されたら通えなくなるのは目に見えていた それどころか住む場所も…… 生活能力もない…… 与えられるのを当たり前に過ごしていた 両親が遺したんだと想って感謝もせず…… 当たり前の様に生きていた 突き付けられた現実だった 「貴史、オレから最大限のプレゼントだ! この二人をお前にやるよ!」 「…………それは何の冗談よ?」 「高坂海王、陸王は兵藤貴史の手足になるべく人間だ お前の意のままに動く手足になる! お前が政界に入るまでに使える男にしておかねぇと間に合わねぇぞ?」 「それを俺に言うのか! なら、もっと叩き上げてから寄越せよ!」 こんなクソじゃなく! 兵藤は腹を立てていた 「おめぇは………俺に渡す日のために…… コイツらを育てていたのかよ?」 「そうだ!本当なら高坂春海がお前の手足になる筈だった… 春海は兵藤丈一郎に心酔していたからな…… 兵藤丈一郎の孫に果てを賭けてみたい…… そう言ってた…… オレは春海の願いを叶えてやりてぇんだ だから二人を逝かせずこの世に誕生させた 本当なら……死んでた命だ それを無理言って誕生させた 不思議じゃねぇのかよ? 死んだ母親の腹から産まれるなんて…… 総ては春海の願いだ…… 春海が逝く前に自分の代わりに……子ども達を………と自分の命を擲って訴えたからな………叶えてやったんだよ! 高坂春海の名を穢すなら……オレが殲滅してやんよ! 春海の願いだから生かしている それも総ては兵藤貴史の為に生きるならば……だ! 今まで散々好き勝手させてやったんだ! これからは親父の夢のために生きやがれ! これがお前達に突き付ける最終通告だ!」 康太は言い捨てた そして慎一に「出してくれ」と頼んだ 慎一は胸ポケットから写真を一枚取り出すと……海王と陸王の前に置いた 海王は写真を見て「これは?」と問い掛けた 写真の中に自分達がいた 自分達によく似た顔が………美しい女性と映っていた…… 兵藤は写真を見て「美緒やん」と言った 陸王は「……美緒?誰だよ?」と問い掛けた 康太は笑って「兵藤貴史の母親だ」と告げた 「兵藤美緒は三木敦夫の政治秘書をしていた 兵藤丈一郎に気に入られて息子の嫁に貰い受けた女だ」 「………そんな人と何故父が?」 「春海は兵藤貴史のモノになりたかったからな! 美緒もそれは認めていた……… だが……食ってく為にオレの元で働いていた 身重の妻を楽にしてやる為に……金が必要だったんだよ 身重の妻は……借金を背負っていたからな…… その借金を返す為に…… 春海は無理して働いていた……」 陸王が「何故……母さんは借金を背負っていたんだよ?」と問い掛けた 「両親が会社を潰して死んだからな…… 払いきれねぇ借金が遺った それを美鈴は寝る間も惜しんで働いて返していた そんな美鈴に春海は惚れた 幸せな家庭を持とうと夢見ていたのに…… 二人は死んだ……」 「………父親は……誰からか恨みを買っていたのか?」 「…………政治家の汚職を暴く為に……アイツは動いていた…… 政治家になったばかりの繁雄が標的にされて潰されそうになったからな…… それで、その政治家の裏献金を探っていた それを勘付かせてしまった…… それで春海は消された そのせいで……他の奴も消された 証拠を撮る為に動いていた奴と…… 証拠をデーターで取ろうとした奴 が……消された……」 「………俺らの両親は……犬死にしたのか?」 そう吐き捨てた海王を兵藤は殴り飛ばした 「自分の親の死を犬死にとか言うな! お前の父親の為に………意志を継ごうとした康太を愚弄したも同然のことを言うな!」 海王は唇から溢れた鮮血を拭い…… 「ホモかよ?気持ち悪い!」と吐き捨てた 今度は康太が海王を殴り飛ばした 「兵藤貴史は次代の政治家となる 愚弄するのはオレが許さねぇ! 確かにオレの伴侶は男だからなホモなのは確かだ! でも貴史は違う……そこは間違うな! 政治家には一つの汚点もついてはならぬ! お前が貴史に汚点を遺す事は許さない! 貴史に何かするなら……お前達をこの世から消す! 元よりお前達の命を握っているのはオレだ お前達を生かしているのはオレだかんな…… オレは伴侶と仲間を護る為なら何だってやるぜ?」 康太は怒り狂っていた 紅い妖炎を立ち込めていた 兵藤は「んなに興奮すんなよ!」と言い、ポケットから飴を取り出し康太に放った 康太は飴を上手にキャッチして……食べた 康太のほっぺが……プクッと膨れあがったのを見て兵藤は笑った 「目くじら立てて怒るな!」 そう言いほっぺを押した 「………んとに……クソ生意気…… こんな奴になってるなんて……春海は悔しいだろうな……」 康太は嘆いた 天宮は康太に「どうします?」と問い掛けた 「東青、悪かったな 今日は還って良い…… 手続きして欲しい事があったら慎一が出向く」 「解りました!では失礼します」 そう言い天宮は還って行った 「桜林の荷物を纏めておけ! 今後一切の援助を断つ! お前達は好きに生きて行くと良い!」 康太はそう言い捨てると……生徒会室を出て行った 榊原が後を追って……出て行った 一生、聡一郎、隼人、慎一は残っていた 一生は「とうするよ?貴史?」と問い掛けた 「……どうするも……康太次第だな 知らねぇって奴を俺は貰い受ける気はねぇからな……」 兵藤はそう言い優しい顔して笑った 慎一は「君達はこの先の自分達を想像してますか?」と尋ねた 海王と陸王は……顔色をなくして首をふった 「俺は飛鳥井康太に仕える者です 俺は……康太に拾われるまでは……明日生きているか……保証のない生活をしていました 俺は……初等科の時に両親を亡くした…… 父親に引き取られるのを拒んだ俺は……施設に行くしかなかった…… 施設に入っていると解ると……壮絶なイジメをされた…… まるで施設に入っている者は人間ではない……とでも想っているのか…… 人間扱いされない毎日を生きていた 子供だった俺にはそれを受け入れるしかなかった…… そんな日々がいやで施設を抜け出した だが戸籍のない人間には……居場所はなかった…… 俺は生きて行く為に……犯罪に手を染めた…… 少年院を出てからもそうだ…… 俺は生きて行く為に犯罪スレスレの事をやって生きてきた…… 俺には母親の違う弟がいた…… たった数カ月違いの弟は幸せに暮らしてるのに……… そう思うと……俺は……この世が憎くて仕方がなかった… 母親は……俺の目の前で……血だらけになり死んでいたんだからな…… 誰を恨んでも……誰も手をさしのべてはくれなかった…… 君達は……無力だと言う事を知らない 今 桜林を出されて、どうやって生活して行くのですか? 犯罪に手を染める覚悟はあるのですか? 道路で寝る……惨めさも知らない…… 君達では……生きてく術など何も知らないだろう…… それで……どうやって生きて行く気ですか? 俺は……飛鳥井康太と知り合ったから…… 主に生かされている…… 死にそうなリンチにあった時…… 危険を顧みずに助けに来てくれた…… 君達には、そんな人がいますか? いないでしょ? そんな世間を人を舐めた態度では誰も君達の為には動かない……」 慎一は服を脱ぐと…… 未だに……生々しく遺る背中の傷を見せた 背中の傷だけではない…… 切り傷や火傷……生々しい傷が今も慎一の体躯には遺っていた 兵藤は慎一に服を着せた 「見てる方が痛ぇだろ?」 そう言い慎一を抱き締めた 隼人は立ち上がると 「オレ様は還るのだ! こんなクソ……見てる方が腹が立つのだ!」 と怒っていた 兵藤は笑いながら「よしよし!あと少し待て!そしたらファミレス奢ってやるからな! 康太も伊織も呼び出して皆で食いに行こうぜ!」 そう言い隼人を撫でた 隼人を膝の上に乗せて兵藤は笑っていた 「隼人、もう少し食わねぇと軽すぎる」 「貴史の奢りなら食べるのだ」 隼人はそう言い兵藤に甘えた 海王と陸王はそんな皆を見ていた 「海王、陸王、おめぇらは取り敢えず部屋に帰れ! 今後の事は入学式までは学園に来るからな 康太と話し合えよ!」 海王と陸王は何も言えなかった 慎一の言葉が…… あまりにも過酷で…… 総てをなくすと言う現実を突き付けられた…… 慎一は携帯を取り出すと 「貴史が奢ってくれるそうです」と笑っていった 『お!本当か?なら貴史に寿司が良いって言っとけよ!』 慎一は兵藤に「康太が寿司が良いって言ってます」と告げた 兵藤は慎一の携帯を奪うと…… 「寿司じゃねぇ!俺の小遣い知っててたかるな!」と怒った 康太は笑って「ならファミレスでいいや!」と憎まれ口を叩いた 「ファミレスで、いいや………このぉ……もう奢らねぇぞ!」 「貴史、ファミレスがいいや!」 そう言いチュッと受話器越しにキスを落とした 「ならファミレスで待っていやがれ!」 そう言い兵藤は携帯を慎一に返した 一生は海王と陸王に 「俺と慎一は母親違いの兄弟だ」 と言い慎一に並んだ 言われてみれば……同じDNAが伺えれた…… 「俺も慎一も父親似なんだよ クソ親父は……慎一の母親と結婚していたのに……俺の母親と生活を始めたんだ 母親は慎一の母親に詫びる想いから……俺を突き放した…… 俺も……何時殺されても良いと想ってロクでもない生活を送っていた…… そんな俺達を………分かち合えさせてくれたのは康太だ…… お前達が康太を傷付けるなら……… 俺達は間違いなくお前達にトドメを刺す それだけは忘れるな…… 彦ちゃん……後は頼めるか? 今日を潰した分、康太は必死に挽回する…… それでなくても……死にかけて本調子じゃねぇからな…… 俺達がサポートする!」 「あぁ、解ってる! 心配するな一生……」 「なら還るな!悠太還るぞ!」 「一生君、俺も行っても良いの?」 「辛くなかったら来い?」 「………辛くないから行く…」 「ほら、松葉杖だ!」 悠太を立たせて松葉杖を渡した 悠太は松葉杖を貰って歩き出した 一生達が部屋を出ると兵藤は双子を一瞥して部屋を出て行った 佐野は「………お前……この世の総てを敵に回しても……飛鳥井康太だけは敵に回すなよ……」と二人に告げた 海王は佐野に…… 「あの人は……そんなに偉いのですか?」と問い掛けた 「飛鳥井家真贋……彼に視て貰う為に何億も積んで頼みに来る 康太の顧客は日本の有数な著名人から政財界に至るまでいる…… 味方にすれば百人力で……敵に回せば…… 死しても尚取り立てられるだろう……恐怖を抱かせる 俺ら教師は飛鳥井康太の味方だ 彼の悪口を聞こえるように言えば……手痛い目に遭う……それだけは忘れるな 在校生もそうだ…… 飛鳥井康太は格別な思い入れがある あの奇跡の世代が揃うと…… 一目見ようと……OBも目の色を変える」 陸王は静かに聞いていた 佐野は二人を生徒会室から出すと施錠した 二人は……寮へ還った 二人はショックが強すぎた 食堂に行くと…… 昼間……康太に喧嘩を売った事が……広まっていて…… 皆遠巻きに……二人を見ていた 居心地悪い想いをしてると…… 誰かが……二人の前に座った 「お前達が海王と陸王か……」と笑って見ていた 「………誰?」 「長瀬匡哉、この学園の数学Ⅱの教師だ 教師の顔と名前くらいは覚えておきなさい!」 長瀬は嫌味臭く言った 「康太に喧嘩売ったんだって? 世間知らずをこじらせると……取り返しがつかない時もある……止めときなさい」 「………あの……」 陸王が口を開くと長瀬は席を立って還って行った…… 「………陸王……」 「言うな……海王……」 二人は早々に食べて……部屋へと引き上げた 疲れ果てて早めに眠りについた 【準備】 翌日から康太達は桜林に通い詰めた 在校生の口から康太達が来てる事が広まって…… 春休みだと言うのに、かなりの在校生が登校していた 高坂海王と陸王も言われる通りに登校していた 会議室に姿を現すと……二人は緊張したが……康太は意に介さず知らん顔を決めた 「入学式まで日にちがねぇかんな 手分けしようぜ! 構内を入学式色にする者と、校門にアーチを作りに行く者と手分けして作業を行う その前にプログラムを決めようぜ!」 康太が言うと兵藤が紙をテーブルの上に置いた 「これは?」 「プログラム」 「お!流石、伝説の生徒会長やん!」 抜かりない……と康太はプログラムを見た 榊原もプログラムを見て…… 「来賓の挨拶、抜かないのですか?」と問い掛けた 「………俺らがやる入学式じゃねぇからな…… 定番で無難な線を提示する その先はお前らが決めろ!」 兵藤はそう言いプログラムを葛西に渡した 話し合い決めていく 康太はリボンを榊原に切って貰って画鋲を刺していた 「康太……最初に画鋲を刺してはいけません うっかり触ると指を怪我します」 榊原が言ってる矢先に康太はリボンを触ろうとして……指を刺した 「……ぁち………」 「………言ってる矢先に……」 榊原は康太の手を取ると口に咥えて舐めた 「………もう触らないで……」 そう言うとポケットからバンドエイドを出して貼った 「なら、これから構内を練り歩く! ついて来いよ!生徒会役員! 悠太と聡一郎はお留守番だ!良いな?」 悠太と聡一郎は頷いた リボンの束を持つと校内のいたる所に刺して歩いた 在校生は「入学式色ですね!」と康太に声をかけた 「おー!校内が入学式色になる」 「僕達も明日、リボンを持ってきて協力します!」 と声をかけてきた 廊下を歩けば声がかかる 康太が歩けば生徒が連なって歩いて来た 教師も声をかける 「お!康太、茶を飲みに来い!」 副校長が康太に声をかけた 「良いお茶入ってるのかよ?」 「PTA役員を持て成したお茶がある!」 「入学式だからかよ?」 「…………そうだ……PTAのお偉い様を持て成しておる最中だ」 「なら明日にでもお茶を飲みに行くよ」 PTAのお偉い方とは……お茶は飲みたくないのが見え見えだった 副校長室からPTAの一人が顔を出すと…… 「康太逢いたかったです!」と抱き着かれた 「若旦那?……あぁ、そうかPTA会長だっけ?」 「そうです……煌星と海が……麻疹で妻が看病してるので私が出るしかないのです」 「大丈夫なのかよ?」 「二人仲良く麻疹やってます 煌星と海は本当に仲が良いです」 「若旦那、話していてぇのは山々だが、オレは悠太達が本調子じゃねぇからな入学式のサポート中だ!また遊びに来てくれ!」 康太はそう言い仕事に戻った 戸浪は「なら私も手伝います」と申し出た 「田代に怒られるぜ?」 「………う……田代……最近怖いです…… では入学式が終わったら遊びに行かさせて貰います!」 「お!待ってるかんな!」 戸浪と別れて、入学式の準備にかかる 日が暮れるまで……皆で協力して入学式の準備をした 「当日まで気が抜けねぇぜ! 明日も頑張ろうぜ!」 康太が言うと兵藤が 「明日はプログラム通りに行くか時間を計る! そしてアーチを完成させて、入学式に備える!」と言った 葛西は歩けるようになったが…左耳の鼓膜が破れる位殴られた後遺症で左目の視力も落としていた 康太は葛西に 「鼓膜、再生出来ねぇのかよ?」と問い掛けた 「………久遠先生が……再生手術の道もあると言われたのですが…… 今のうちの経済状態では無理なので……」 「再生手術出来るならやれよ葛西 費用は出世払いと言う事で見てやるかんな」 「………康太さん……それでなくても……前回の入院費……凄い金額でした…… そんなには返せません……」 「葛西、治せる可能性があるんだぜ? それに賭ねぇでどうするよ? そのまま不自由なまま生きてくのかよ? 出世払いしろとは言うけど…… お前はお前の好きに生きれば良いとオレは想っている 今まで支援して来た奴等もそうだ…… オレに返す必要なんてねぇ! だから何も心配するな 治せるのならちゃんと治せ!良いな? オレはお前の手助けをしてやる それでどうこうしろとは言ってねぇ!」 「康太さん……俺は貴方の役に立てるなら…… 死んでも良い……役に立ちたい…… でも貴方に負担をかけたくはない……」 「負担だなんて想ってねぇよ オレはな葛西、二度と送れねぇ高校生活を悔いなく送らせてぇだけだ…… 悠太と二人仲良く卒業させてぇだけだ 時には甘えろ…お前はんとに甘え下手だな」 「………康太さん……」 康太は葛西の頭を撫でた 「金は巡り巡って自分還る お前に使った金はただの金じゃねぇ お前の未来が変わる金だ 人を育てるというのは、そう言う事だ ちゃんと治療するな?」 「………はい!」 「うし!久遠には話しておくからな ちゃんと治して貰って来い さぁ、悠太オレ達は還るとするかんな!」 「康兄、疲れてませんか?」 悠太は康太を心配した 「あんでだよ?」 「顔色が……少し悪いです……」 康太は榊原を見た 「悠太と一緒に病院に行きますか? ついでに葛西も乗せて行けば良い」 「そうだな……貴史、後頼めるか?」 「一生達がいるんだ大丈夫だ! おめぇは病院に行きやがれ!」 兵藤は怒鳴った 榊原は康太と悠太と葛西を連れて病院へと向かった 一生は「………死にかけたのに…無理しすぎだよな?」とボヤいた 兵藤も「………銃創はどうなったよ?」と尋ねた 「……銃創は中々治らねぇよ 俺らの顔が良い例だろ?」 「………治らねぇのか?」 「これでも治った方だぜ……」 一生と慎一の頬を掠めた銃創は…… 今も痛々しく見えた…… 「なぁ貴史……」 「何だ?一生……」 「どうするのよ?」 「それは康太が決める! 俺は康太の果てにいる者 康太の視てる果てと寸分違わず逝くだけだ 俺がどうこう出来るもんじゃねぇ……」 「……だな……俺はさ貴史…… 明日なんて来なくて良い……って想ってた 誰に嫌われようとも…… この世の総てにそっぽ向かれようとも…… 俺は聡一郎がいたからな…… 二人なら何も怖くはなかった……」 「……あぁ、聡一郎を育てたのはお前だったな……」 「聡一郎もそうだ…… 死ねる理由があるなら…… 死んでいた…… 生きる理由が解らないから…… 死ぬ理由ばかり探していた……」 「嫌われ者の悪童……だったなお前らは……」 「そんな俺達に……康太は変わらなく接して来たんだ…… 俺達は康太を騙して万引きをやらせて切るつもりだった…… なのに……アイツ……鈍くさいからさ…… 瑛兄さんが呼ばれて来たんだよ 瑛兄さん有無を言わずに康太を殴るんだよ……何度も何度も……康太は倒れるんだけど…… 無理矢理立たせて殴り付けるんだ 何一つ弁解もせずに……… 俺と聡一郎は堪えきれず出て行った 頼むから康太を殴るなと……土下座した…… 瑛兄さんは俺らを許してくれた その日から俺と聡一郎は共に…… 生きてきた……」 兵藤は言葉もなかった 一生と康太の絶対の信頼は…… 前世以上に強硬なモノがあったから…… 一生は知っていた 赤いのとは……遥か昔から飲み仲間だったから…… だが人の世で見かけた赤いのは…… 魔界で見た欠片もない程に……荒れていた 兵藤も康太と距離を取り…… 一生達も距離を取って切り離そうとしていた…… 康太は…… どんな想いで過ごしていたんだろう…… 兵藤は胸を押さえた 「貴史……俺はあの日心に決めたんだ…… 康太を命に代えても護る……って…… 親父を亡くした時…… 全部康太がやってくれた…… 俺は親父が憎かったからな…… ゴミに捨ててたかも知れねぇ…… お袋が死んだ時も…… 康太が総て……やってくれた 突然兄がいると弁護士に言われてパニックになるしか出来なかった俺の代わりに…… 康太が慎一と出逢わせてくれた…… 返せねぇ程に……俺も聡一郎も貰うばかりで何も返せちゃいねぇ…… だから……命に代えても康太を護ると決めたんだ 康太に牙をむくなら……俺はアイツがなんと言おうと……この手で消す」 慎一は何も言わず一生を抱き締めた 聡一郎は……泣いていた 静かに涙して……隼人に抱き締められていた 「仕方がねぇな! 今夜も俺が奢ってやる」 兵藤はそう言い美緒に電話をかけた 「美緒、康太と一生達を奢りてぇんだけど……」 『そうか、何が食べたいのじゃ?』 「上手ぇのじゃねぇと納得しねぇでしょ?」 『解った!我の店に連れて行くが良い 築地の大将を向かわせておく!』 「お!貸し切りか?」 『貸し切りでよい! 飛鳥井の家族も榊原の家族も呼ぶがよい ついでに我も顔も出す』 「決まりだな!」 兵藤はご機嫌で電話を切ると瑛太に電話をかけた 「瑛兄さん、今夜は忙しいですか?」 『貴史、珍しいですね』 「康太が少し疲れてるみてぇだから美緒に言ったら美緒の店を貸し切りにしてやるから飛鳥井や榊原の家族を呼べと言ってるんです 今夜、美緒の店で皆で食事しませんか? 美緒が築地の大将を呼ぶと言ってます」 『貴史、それは楽しそうです! よいのですか?皆で押し掛けて?』 「美緒も喜ぶし、康太も皆で食べた方が喜びます 瑛兄さんが榊原の家族と、飛鳥井の家族を連れて美緒の店に来てください 連絡お願いします!」 『解りました 母さんも喜びます では榊原と飛鳥井の家族に連絡を入れておきます』 瑛太は嬉しそうに電話を切った 最近、兵藤からも『瑛兄さん』と呼ばれていた 皆が示し合わせたように『瑛兄さん』と呼んでくれるから…… 何だか嬉しかった 康太を取り巻く環境は優しい…… 優しさが伝染して…… 周りを優しく取り囲む…… 瑛太は会長室へ向かった 兵藤は電話を切ると榊原にラインを入れた 「今夜食事奢る!」 すると直ぐに榊原から返信があった 『貴史、大盤振る舞いしすぎです 君のお小遣いがなくなります』 と返ってきた 兵藤は一生達に見せて榊原らしさに笑った 一生は兵藤の携帯を取ると 「旦那、大丈夫だ! 今夜は美緒さんが奢ってくれる 飛鳥井や榊原の家族も誘って逝くんだぜ」 と返した 『一生ですか? 貴史と一緒ですか?』 「そうだよ!で康太はどうよ?」 『少し目を離すと無理しやがる!と怒られてます でもそれ以上に無理してる奴がいて…… 父さんなんですがね……無理しすぎだ!と怒られてました…… 二人並べて……久遠先生は激怒してます』 一生は文面をみて 「…………あらら……」 と呟いた 兵藤は「清四郎さんって無茶ブリする人だったか?」と今更ながらに呟いた 「………源右衛門の息子だからな…… 最近性格が源右衛門に似てるなぁって想う時ある 清隆さんには悪いけど…… 源右衛門に似てるのは清四郎さんだわ」 「………あぁ……あの二人は異母兄弟だったな…」 「そう!飛鳥井は数々の不幸を生み出してるからな……… 康太はそれらを軌道修正して大変だ…… アイツは許すんだよ…… 自分を殺そうとした奴まで…… 許すんだ…… あれには驚いた…… 押し入られ……犯されそうになった時……康太は死を考えた筈なのに……… そんな奴を許すんだ……」 「………ソイツの子供……引き取ってるんだろ?」 「………あぁ……身の立つ様に……面倒見てた……」 「康太の懐は……ブラックホール並みに太いからな…… 俺らの陣地を越えたことをやらかす…… 仕方がねぇよ……それが飛鳥井康太だからな……それでも逝くからなアイツは……」 兵藤の言葉に…… 一生は黙った 「さてと、逝くとするか? 病院まで康太達を迎えに行こうぜ」 そう言い立ち上がった 慎一が「バス、チャーターしときますか?」と尋ねた タクシーで何台も使って逝くならバスを頼んだ方が楽だった 「………だな……帰りは酔っぱらいばっかしたしな……」 「貴史、おめぇ、今夜雑魚寝決定やん」 「俺……飛鳥井の子になろうかな?」 「………どうしたよ?」 「………いやさ……面倒な事が多くてさ……」 「飛鳥井の子は大変だぞ…… 真贋が結婚相手も決めちまうからな……」 「……あぁ……瑛兄さん……」 「そうそう……瑛兄さんには恋人がいた」 「康太によく似た出来損ないだろ?」 「…………そこまで言うな……」 「どこの家も同じか……」 「そうそう……商売女ばっかし相手してるから……面倒だと想うんだよお前は……」 「だって楽じゃん」 「………男なら奉仕しろよ」 「………面倒くせぇな……」 聡一郎は兵藤を蹴飛ばした…… 「あんだよ?聡一郎」 「僕はすみれと友達なので……」 「……え?何時から?」 「最近…」 「お前は女だめだろ?」 「………一生……この人何言ってるんですか?」 聡一郎は呆れて言った 一生は笑って「聡一郎はバイだぜ?」と言った 「嘘……聡一郎が女を抱くって想像付かねぇわ……」 兵藤が言うと一生が 「聡一郎は男より女の方が好きだな でも自分のDNAを遺したくねぇんだよ」 「………NGって言われてるのか?」 「違う……聡一郎は親といろいろあってな……」 と口を濁した…… 聡一郎は苦笑して 「僕は……父親に鎖で繋がれて飼われてたんです……」と告げた 兵藤は固まった 「………聡一郎……言わなくて良い……」 兵藤は聡一郎を止めた 「僕は父親を憎んでた その父親から救ってくれたのは康太と一生です そして一生は康太を弾いて…… 僕を繋ぎ合わせてくれた 憎んでた父親を許せて逝かせたのは…… 康太がくれた愛があったから……と やはり一生がいてくれから……」 二人の強固な絆はそこにあったのか……と兵藤は思い知らされた 隼人が「康太が待ってるのだ!早く行くのだ」と焦れて言ったのをきっかけで…… 一生達は会議室を後にした 会議室にいた生徒は…… 一生達が帰った後……動けずにいた 壮絶過ぎる過去に…… 何も言えないでいた その中に……海王と陸王もいた…… 海王と陸王も………言葉を失っていた 昨夜、寮に帰ると……学園長である神楽四季が海王と陸王を待ち構えていた 『君達……康太を怒らせたとか…… 君達は誰に養われているか知るべきでしたね 親がいなくて康太の援助を受けているのは君だけではない 緑川一生、慎一兄弟を始め、四宮聡一郎も然りです 親はいても……育てられなかったのなら一条隼人がいます 皆……それぞれの事情を抱えて康太と共に生きてるのです …………もう亡くなってしまいましたが…… 弥勒東矢も……両親がいるのに……育てられなくて康太が引き取った 彼は康太の為に……死にました…… 康太は今も悔やんでいる…… 幸せにしてやりたい…… それだけの想いで……康太は引き取るのです 君達も……幸せにしてやりたいと言う想いで引き取ったと想います その康太に応えなかったのは君達だ この先……康太がどう言う処遇をするかは解りません だが……君達の父親の高坂春海を穢すのだけは……止めてくれませんか? 春海は……精一杯生きて……夢半ばで散った その夢を君達に継がせる為だけに康太は君達を引き取った…… 春海の夢を叶えられないのなら…… 君達は要らない…… 高坂春海の子なのに……残念な事です……」 海王が「学園長は父をご存じなのですか?」と問い掛けた 「学友です」 四季はそう言うと胸ポケットから写真を一枚取り出した 「………これは?」 「見れば解ります」 海王と陸王は写真を手にした 写真には………… 写真でしか見た事のない父親と……… 若くした神楽四季が映っていた…… 「道は違えど我等は夢に生きると決めていた…… 僕は次代を生きる者を育てるステージに立ち 春海は次代を闘う者と共に改革と言うステージに立つ……と、約束した」 陸王は「………俺らは……父親は知りません」と答えた 「父親は知らずとも君達は育った 大切に大切に育てられた筈だ…… 少なくとも……緑川慎一よりは…… 幸せな生活を送って来た筈だ…… それは康太が君達を護っていたからだという事を忘れないでくれ……」 海王と陸王は頷いた 「康太がどの様な決断を下すかは解りません これからは、ちゃんと現実を見据えて生きて下さい! 貴方達だけが特別なのではないのですから!」 そう言い神楽は帰って行った 海王は陸王に 「……俺達は……世間知らずの馬鹿だったね」と呟いた 「………両親が……遺して逝ってくれたんだと想っていたからな……… 親は借金しかなかった……なんて現実を突き付けられなきゃ…… 現実なんて知らなかったね」 「……あぁ……何か頭を鈍器なモノで殴られた心境だ……」 海王は呟いた… 「………俺も……現実は……何も持たない子供なんだって思い知らされた…… 俺らの持ってる携帯ですら……飛鳥井康太の世話になってると言う事だろ? 寮を出たら……生活費や家……この携帯すら作れるのか……解らねぇ…… どうやって生活費を稼ぐ? 稼ぐには家がないと使ってくれねぉよな? その家だって……保証人がいなきゃ……借りられねぇ…… ガキだと思い知らされた…… 何一つ自分で出来ないガキなんだな俺達って………」 陸王も……現実を噛み締めて……呟いた 「………俺達……どうなると想う陸王……」 「海王……放り出されない様に……頼むしかない…… せめて高校を出るまで……頼み込んで寮に住まわせて貰いたいって頼む…… この学校……授業料も……新入社員の一ヶ月分の給料より高いって聞いた事があるからな そこまで……無理なら……公立の学校へ変わってもいい…… あと少しだけ……面倒見てくださいと頼むしかない……」 「………陸王……俺ら……何を見てたんだろ?」 何を信じて…… 何を見ていたんだろ? 自分の進むべき道が…… 見えなくなった 海王は「取り敢えず生徒会頑張るか……」と笑った 陸王も「そうだな……あぁ言う皆で協力するとかっての嫌いだったんだけどな…… 今は…一つのモノを作るってのすげぇなって想う……」と笑った 「頑張ろう陸王」 「あぁ頑張ろう海王」 二人が初めて他人を認めて一緒にいるという事を受け入れた瞬間だった ずっと互いしか信じず…… 互いしか要らないと想ってきたから…… 翌日から海王と陸王は極力、皆と一緒にいるようにした すると今まで遠巻きに見ていた人間が声をかけて来た 「おはよう海王、陸王」 廊下を歩くと声をかけられた 初めての事だった 「海王、陸王、テープ持ってきた?」 声をかけられて二人は固まった 海王は「……何処で買って良いか解らないから……買ってきてない……」と答えた 生徒会の役員は「言ってくれれば一緒に行ったのに! 今日一緒に買いに行くかい?」と声をかけて来た 陸王は「お願いします」と言った すんなり言葉に出た この日も飛鳥井康太は忙しく動いていた 顔色はかなり悪かった 白いブラウスが……血が滲むと…… 榊原が康太を抱き上げて帰って逝った 兵藤は一生に 「血………出てたよな?」と問い掛けた 「あぁ……化膿した……」 「大丈夫なのかよ?」 「………康太は遣り遂げると言い張ってるからな……」 「………そうか……言ったら聞かねぇからな……」 兵藤がため息交じりに言うと…… 海王が兵藤に問い掛けた 「………康太さん……どうなさったのですか?」 敬語だった…… 兵藤は「康太は少し前まで……銃で撃たれて瀕死の重傷だったんだよ……」と経緯を教えてやった 「………治ってないのですか?」 陸王が兵藤に聞いた 「銃創は……治りが悪いんだよ…… 普通の傷と違うからな……」 兵藤はそう言い立ち上がった 「入学式本番まであと一日! 今日は在校生も巻き込んで歓迎の花を作るぜ!」と叫んだ 生徒会役員が放送室に走った そして放送室をかけると、会議室に沢山の生徒がやって来た 「あれ?康太さんと旦那様は?」 生徒は口々に問い掛けた 「康太は病院だ!明日には来る 明日までに歓迎用の花を全部作って 本番さながらのリハーサルをして、俺達の役目は終わりだ!」 兵藤が言うと生徒は寂しそうだった 康太が手当てをして貰い会議室に顔を出すと、兵藤は「大丈夫かよ?」と心配した 「大丈夫だかんな! 皆、一気にやるもんよー!」 【はい!】全員嬉しそうに返事をした 飛鳥井康太が来ると皆が活気ついて動き出す 海王と陸王は凄い人なんだな…… と、目にして思った この日、終わると海王と陸王は康太に声をかけた 「あの、この後、お時間少し戴けませんか?」と海王が康太に深々と頭を下げた 康太は優しく笑って 「入学式が終わった後、飛鳥井に来い! そこで話をしようぜ! 慎一がお前達を迎えに行くかんな!待ってるかんな!」 と、最終勧告を告げた 陸王は「はい!お願いします」と頭を下げた この日、康太達は帰って逝った 翌日のリハーサルを終え、当日を迎えた 康太は笑っていた 寝ても醒めても、入学式当日 入学式が終わると…… 海王と陸王の処遇が決まる 泣いても笑っても……本番当日 を、迎えた 【当日】  在るべき道へ逝け……    在るべき場所へ還れ    我等は闘って……    明日も笑っていよう…… 入学式 前日 壇上に立つのは誰かを決める事にした 悠太は「俺は……松葉杖がなくば立っていられません…… そんな生徒会役員は……表に立たない方が懸命です」と辞退した 葛西も「俺も耳が聞こえない状態で……表舞台に立つのは無理です」と言い辞退した 悠太は「高坂海王君と陸王君に任せたいと想います!意義がないのでしたら……可決したいと想います」と問い掛けた 満場一致で、高坂海王と陸王がステージ立つ事が決まった 戸浪万里は「僕達もサポートします!」と言った 「僕達は葛西繁樹、飛鳥井悠太が表舞台に立てる日まで……… サポートに徹すると決めた! 海王君、陸王君、君達もお二人をサポートする為に……協力して欲しいんだ……」 と万里は二人に声をかけた 海王と陸王は 「「俺達で良いのでしたら……やらさせて戴きます! 未熟者ですので、サポートお願いします」」と二人で声をそろえて言った 康太は「うし!決まったな!」と胸をなで下ろした そして迎えた入学式当日だった 入学式が始まる前に…… 胸に花をつけた生徒が走ってきた 「康太兄!俺!入学したんだよ!」 と康太に突進して来た 「お!トラ、おめぇ中等部じゃねぇのかよ?」 康太は笑って声をかけた 康太と同じ位に小さい身長の男の子だった 榊原は康太に「………誰ですか?」と問い掛けた 「コイツは飛鳥井虎彦! 綺麗の弟の子供だ」 「…………飛鳥井にしては……小さいですね」 榊原は思わず言ってしまった…… 虎彦は榊原を睨み付けた 一生は「トラ止めとけ……旦那に手を出せば返り討ちに遭うぞ……」と助言した 「………え?……この人……康太兄の伴侶さん?」 「盗るなよ!盗るなら息の根止めるぜ」 「盗らないよぉ! 俺には愛する莉々子ちゃんがいる!」 榊原は「莉々子って?」と問い掛けた 一生は「アイドルの松島莉々子って子だ」と説明した 「………あぁ……康太に結婚してって婚姻届押しつけた子ですね……」 「そう……その子にご執心みてぇだな」 一生が言うと虎彦は「何それ!」と怒った 「莉々子ちゃんに逢わせてよ!」 虎彦が言うと康太は「御免だ!」と怒った そして「早く行け!もうじき入場だ!」とあしらった 虎彦はトボトボと去って行った 榊原は「………康太よりも小さいですか?」と問い掛けた

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