122 / 163

第122話 入学式 狂想曲 ②

「伊織……アイツは今は小さいけど…… 卒業するまでには……悠太位にはなる…」 とボソッと零した 「………康太……還ったらプリン食べますか? 君が大好きな井筒屋の羊羹も買いました」 「………飛鳥井はやっぱし……ウザい程のデカさだよな……… 小さいのは……オレだけだよな……… 解ってるよ……伊織……… どうせ……オレは小さいよ………」 康太の言葉に榊原は一生を見た 一生は「………トラの身長が止まる様に……弥勒に頼みに行くわ!」と苦肉の策に出た 聡一郎も「それが良いです!トラは小さいままで……彼氏でも見つけてやりましょう」と哀れな事を言ってのけた 何も知らないトラは…… 毎日牛乳を飲んで……長身になる日を夢見ていた…… 隼人も「仕方がないのだ……オレ様が呪いをかけてやるのだ!」と乗り気で言ってのけた 兵藤は隼人を止めた 「止めとけ……お前が言うと冗談に聞こえない……」 「すこぶる本気なのだ貴史!」 「止めとけ隼人……寿司食わせてやっただろ?」 「あれは美味しかったのだ!」 「それは良かった……」 【新入生、体育館に入場して下さい】 放送がかかると、皆持ち場に散らばった 康太と兵藤と榊原はステージの裏側に立っていた 会場の中央には高坂海王と陸王が立っていた 榊原は康太に「君は小さくても可愛いです」と囁いた 康太は嬉しそうに笑った 海王も陸王が司会進行役をする 生徒会役員が寸分違わずに動いていた 悠太は悔しそうに……それを見ていた 「………悠太……半年掛かると言われたのに、おめぇはこの数カ月で見違える程に回復した 足だってお前の努力である程度治る…… 生徒会……身を引かなくても良いとオレは想うぞ?」 「……康兄……引き際は……弁えてます…… 俺は……伊織君がやってた執行部部長でいられた……事を誇りに思います」 「……悠太……お前は……何も変わっちゃいねぇ……オレの可愛い弟だ……そうだろ?」 「………康兄……悔しい……… 俺は……二度と送れない高校生活を…… 精一杯生きるつもりでした…… 伊織君のくれた制服に恥じない…日々を送りたかった……」 悠太は……涙ぐんだ 「悠太、まだ一年ある お前の高校生活は終わった訳じゃねぇ 続けられるうちは通って‥‥忘れられない日々を刻めば良い」 「………はい!後一年……ありますが、俺は…… もう表舞台に立つ気はありません……」 悠太が言うと兵藤が 「今から、んな事を決めるな!」と言った 兵藤は悠太の頭を撫でて 「おめぇが俺を愚弄したとアイツを殴った時……俺はビックリした お前はちゃんと俺を護ろうとしてくれた 昔なら……お前はそんな事はしなかったろ? 日々成長してるんだな それと同じでお前は日々努力している その持ち前の努力で絶対に良くなるさ だから今は何も決めるな」 「兵藤君……ありがとう」 「壇上に上がる人間は全生徒の想いを背負って上がるんだ お前は全校生徒の想いを受け止める義務がある」 「……兵藤君……」 兵藤は後はもう何も言わなかった 悠太は……あの壇上に上がると決めた…… 自分の足で…… 誇り高き執行部部長になる 榊原の様に偉大にはなれなくても…… 自分らしい執行部部長を続ける…… そう決意をした 兵藤はその顔つきを見て……笑った 式は滞りなく終わりを告げた 新入生は葛西繁樹が書いた草稿を読み上げられると…… 神妙に聞き入った 『新入生の皆さんご入学おめでとう御座います 桜林学園 生徒会長 葛西繁樹です 今、訳あって皆様の前には立てないので、代理となりましたが…… 新入生の皆に言いたいことがあります 二度とない高校生活を悔いなく送って下さい この言葉は僕の大好きな方が僕に贈ってくれた言葉です 今新入生の皆さんに贈ります 友を大切に大切に 人の痛みの解る大人に生長して下さい 我々は君達の成長を期待しております ご入学、本当におめでとう御座います』 代理に読み上げたのは高坂海王だった 学園長でもある神楽四季は、顔つきの変わった海王と陸王を見ていた 楽しみな人材が加わって…… 桜林学園は明日へと続く…… 感無量だった 卒業式は別れの悲しみがあり 入学式は出逢いの喜びがある その繰り返し……だけど…… この学舎から巣立つ生徒を見送り… 春には新しい生徒を迎え入れる…… 春海…… 今僕は…… 君と約束した果てにいます 君の息子が……… 君の代わりに……君の願った果てへと向かう 春海…… あの日約束した約束は…… 君の息子が果たしてくれるよ 神楽は空を見上げ…… 思い出を抱き締めた 入学式は無事に終わった 式が終わると康太達は帰って逝った 卒業式の片付けをして、寮に戻って来ると寮監に呼ばれた 寮監室に向かうと、緑川慎一が立っていた 「飛鳥井の家は歩いても逝けるので、一緒に歩いて来てください」 と慎一は告げた 海王と陸王は頷いた そして慎一と共に歩き始めた 海王は「………慎一さん……ごめんなさい」と謝った 慎一は「何故謝るのですか?」と問い掛けた 陸王が「………言わなくても良い事を……言わせてしまいました……」と頭を下げた 「………過去は変わりません…… でも未来は変わります あの頃の俺には想像すら付かなかった 君達にも想像すら付かない未来が待ち受けているのです ですからどうぞ、可能性を潰さずに生きて欲しい…… そう思ったのです ですので謝る必要はありません」 慎一はそう言い笑った 大きな背中だった 主を護る為に生きてる背中だった 主の為ならば……… その命……惜しみなく擲って盾になる そんな背中を海王と陸王は黙ってみていた 飛鳥井の家に行くと、応接間へと通された 応接間に行くと飛鳥井康太が座っていた 康太の隣には榊原伊織が座り、反対側には兵藤貴史が座っていた その後ろには緑川一生と一条隼人と四宮聡一郎が立っていた 慎一は海王と陸王をソファーに座らせた すると一生達もソファーに座った 康太は何も言わなかった だから皆も何も言わなかった 慎一がお茶を煎れに応接間を出て行くと、隼人も手伝う為に走って行った 隼人がドアを開け、慎一がお茶を客人と康太達の前に置くと、座った 隼人も定位置に着いた 康太が静かに口を開いた 「海王、陸王、腹は決まった見てぇだな」 「「はい!覚悟を決めて参りました」」 「まぁ待て、お茶を飲めよ このマカロンは美緒からの差し入れだ めちゃくそ美味ぇんだぜ?」 そう言い康太はマカロンを食べ始めた 隼人もマカロンを口にして 「美味しいのだ」と感想を述べた 「海王、陸王、おめぇ達は自分の名前の由来を知ってるか?」 康太は想いもしなかった事を問い掛けた 海王は「………知りません」と言い 陸王は「この名前に由来など在るのですか?」と逆に問い掛けた 「高坂春海は我が子が出来た時にオレの処へ来た 生まれ来る子供に名前を付けて下さい! そう言った だからオレは春海にどんな子供になって欲しいかを聞いた そしたら春海は……… 『海のような広い心を持って欲しいです 後、強い揺るぎない心を持って…… 俺が為し得なかった夢を掴んで欲しいです 俺は……そんな子供を何時までも見守っています…… 例え……この命が尽きようとも…… 俺は我が子を見守り続けます そんな想いを込めた名前を……付けて下さい』 そう頼まれたからなオレが付けたんだよ 春海の愛を忘れるなと言う意味で海を残した 君主。天命を受けて統治する強い支配権を世襲するものとして王を付けた この地球(ほし)を愛した春海の意志を継ぐ見届ける者として、海王と陸王と付けた お前は春海の希望であり…… 春海の為し得なかった未来を継ぐ者 それだけは忘れるな」 康太はそう言い命名の時の紙を二人に渡した 海王はそれを受け取り……抱き締めた そして陸王に渡した 陸王もそれを受け取り抱き締めた 自分達の受け継がれた証が…… そこに在ったから…… 「海王、陸王、おめぇらは……… どんだけ抗おうが逆らおうが…… 運命に背は向けられねぇんだよ お前達の逝く道をオレが指し示してやろう それがオレの使命だかんな!」 海王と陸王は深々と頭を下げた 「貴史、お前の政策秘書の陸王だ そしてお前のスケジュールを担当する海王だ! 陸王は物腰が柔らかい 公の仕事は陸王にやらせ スケジュール管理から邪魔者を排除する裏方の仕事を海王にやらせろ 海王は寸分違わずにやり遂げるだろう それが天性 裏と表に分かれて生きるが定め……」 康太が言うと兵藤はニカッと笑った 「なら決まったな コイツら……このまま受け渡しか?」 「それだと役不足だろ? そろそろ来る頃だろ?一生?」 康太が言うと一生は 「そろそろだと想うぞ 連絡入れた時に必ず伺うって言ってたからな……」 思案してるとインターフォンが鳴った 慎一はカメラを作動すると進藤薫だった 「康太、進藤先生です」 「お、やっとだな通してくれ」 康太が言うと慎一は客人を通した 応接間に通された進藤は康太に深々と頭を下げた 「お久しぶりです真贋」 「進藤、頼みがある お前にしか頼めねぇ頼みだ 繁雄にはもう言ってある お前が了承するなら……って事だ」 「御用件を伺って宜しいですか?」 「進藤薫、お前にこの二人を託す だから兵藤貴史の政策秘書として使える様に叩き込んで欲しい」 進藤は何も言わずに海王と陸王を見た 「高坂春海……」 進藤はそう呟いた 「お!凄いやん進藤 何処で知った?」 「三木先生が机の上に飾ってある写真立てに……先生と美緒さんと真贋と……知らない方が写っておりました ですので先生に何方か伺ったのです その時『高坂春海』と教えて下さいました ………その方ではないですよね?」 写真の康太は子供だった…… なのに……今同じ顔を目にして……そう言った 「高坂春海の落とし胤だ 兵藤貴史の政策秘書になる存在だ それは……コイツらの父親の高坂春海の悲願だ…… 志半ばで逝った春海の悲願を達成させてくれ……… それは繁雄や美緒の思いでもある……」 「随分と思い入れのある方なのですか?」 「高坂春海は親がいねぇ孤児だ なのに曲がらず働きながら勉強していた オレが春海と知り合った時は……まだ幼稚舎にいる時だった 春海は菩提寺の植木の手入れをする業者の一人として働いていた 怪我をして泣くオレの面倒を見てくれていた…… 話をすると努力の天才だと解って三木敦夫に預けた 下働きで三木の為に働いてくれた…… 兵藤丈一郎も春海を可愛がっていた 春海は一から大学に入り直して丈一郎の手助けをしたいと言っていた だけど付き合ってた女が身籠もって…… 夢を手放した 三木の家を出ると言った春海にオレの仕事をさせた 夢は諦めなきゃ何時か叶うから…… そう言うと『遠回りしても俺は夢を叶えたい……』そう言った 暴漢に押し入られ息絶える瞬間 春海はオレの処に魂を飛ばして腹の子を産ませてくれと頼んできた オレが逝った時には……既に二人は事切れていた…… オレは弥勒に言って腹の子を何とか生きながえらさせ産ませた 春海はオレに託したからだ 『真贋……お願いです 腹の子を助けて下さい そして俺の出来なかった人生を…… 俺の悲願を……息子に継いで貰いたい…… でなくば俺の人生は……負け犬のままだ……』 春海はそう言った だからオレは腹の子をお前の想いの先に逝かせると約束した…… それが総てだ…… 当時のオレは小さかったし……力もそんなになかったかんな…… 逝かせてしまうしかなかった………」 康太は悔やんでいた 海王と陸王は父親の悲願を聞き…… 腹を括った 「康太さん……いえ……飛鳥井家真贋 俺達は……父さんの想いの先に行けますか?」 と海王が問い質した 「逝けるさ……想いがあればな……」 「真贋、俺達は父親の望みであり希望だったのですか?」 と陸王も問い質した 「あぁ、死に逝く春海の一筋の光はお前達… 遺して逝く子ども達だった 自分の叶えられなかった想いを子ども達に叶えさせて下さい…… 気の遠くなる程の長い頼みをされた オレはそれを引き受けて、お前達の生活の面倒を見てきた お前達が生まれた時はオレも小さくて…… 本当に力がなかった…… 源右衛門に頼んで何とか生活の保障をする位しか出来なかった……」 海王は「真贋がお幾つの時でした?」と質問した 「オレが五才の時だ……」 五才の子供に……そんな力などないのは当たり前だった だのに……五才の子供が…… 海王と陸王の生活の支援を頼んでしてくれたというのか…… 二人は胸が詰まった 「俺達はどんな事があろうとも! 我が父春海の悲願を叶えると誓います」 海王は康太に言った その瞳は揺るぎない力を秘めていた 「海王……苦しい修羅の道になる……」 「覚悟の上です!」 海王は言い切った 「俺達はその為に生まれて来た 何故生まれて来たのか…… 不毛な答えが出たのなら、後はその為だけに生きていく! 父の悲願を叶える為に生きているのなら…… 俺達は俺達のやり方で悲願を叶える それは強いては俺達の目標なのだから!」 と陸王も言い切った 進藤は二人を見ていて 「良い瞳してますね! 私が鍛えて兵藤貴史、君へと返せる日を楽しみにしております」 進藤はそう言い兵藤に深々と頭を下げた 兵藤は「進藤、コイツらはまだ高校生だ…それだけは忘れてやるなよ」と言った 「この子達、槇原の受け持ちの生徒でしょ? 学業に支障が出ない様に心得ております」 「相変わらず……ラブラブかよ……」 兵藤はグチった 進藤は「斎王すみれ様と婚姻の日も近いと政界では兵藤と斎王家の結び付きを快く想っていない輩も多い……」と現状を伝えた 「俺は知らねぇよ!んな事」 兵藤はそう言いニカッと笑った 「あまり三木の手を焼かせないで下さい」 「三木が手を焼いてるのは康太にだろ? 俺に手を焼く事はねぇから安心しろ 三木は康太命……だろ?」 「………奥様が妬く程に……康太命ですね お子様達も康太命ですし、なんだかんだ言って奥様も康太命ですからね」 進藤はそう言い笑った 兵藤は……それは笑えねぇだろ?……と思った 進藤は「一から叩き出すのは初めてです! 私が総て叩き込んで逝きたいと思います」と康太に決意表明した 「頼むな進藤」 「解っております 貴方に頼まれた以上は期待以上に仕上げる所存です」 「進藤…」 「はい!」 「幸せか?」 進藤は康太を見て…… 物凄く幸せそうに笑った 「幸せです真贋 ずっと……ない物ねだりしていて埋められない空虚に苛ついていた 今は満たされております 愛する存在も手放さず好きな事が出来ている こんな幸せはないですよ!」 惚気て照れて笑った 「それは良かった…… もっと幸せになれ! そして幸せにしてやれ!」 「はい!ではお二人と勉強の日程を決めたいと思います!」 そう言い進藤は海王と陸王の横に座った 「康太、どっちがどっちか、教えて下さい」 「お前の右のいるのが海王 その横にいるのが陸王」 康太が説明すると進藤は二人をじっと見た そして叩き込んたかのように見た後に 「覚えました!」と言った 海王は「……嘘……」と呟いた 康太は「嘘だと思うなら試してみろよ?」と笑っていった それに一生が乗って 「うし!進藤、後ろ向いてろよ!」 と言って進藤が後ろを向いてるのを確かめて 入れ替えた 「良いぞ!」 一生が言うと進藤は振り返り 指を刺し「海王 陸王」と当てた 何度やっても進藤はピタッと当てた そして二人の時間に合わせてスケジュールを決めて、勉強をする事になった 総て終わると進藤は 「この子達はどこに住んでますか?」と尋ねた 「桜林の寮だ」 「では送って行きます! 勉強する日は迎えに行きます 私が行けない日は誰かを迎えに行かせます 宜しいですね?」 進藤のペースだった 二人はうんうん!と頷いていた 「では真贋、この者を貴方へ還す日を待ってて下さい!」 「楽しみにしてるな!」 「はい!」 帰り際康太は海王と陸王に 「来年のお前達の卒業式 父兄としてオレ達が出てやるからな!」 と伝えた 海王と陸王は康太を見て………泣いた その泣き顔は…… 年相応の顔だった 康太は立ち上がると二人の頭を撫でた 「何時でも遊びに来い 遊びに来る切っ掛けが欲しいなら、悠太の手助けを少しだけしてやってくれ! そしたら飛鳥井で飯食って遊んでいけよ! オレには子供がいるんだ だから子守に来てくれても良い」 「逢わせてくれるの?」 すっかり陸王は素になっていた 海王より陸王は少しだけ気が弱かった 「あぁ、逢わせてやる だから遊んでやってくれ! 息抜きに飛鳥井に来い」 「はい……うれひい……れす……」 陸王は泣いていた 海王は泣くのを我慢していた 兵藤はそんな強がる子が大好きだった 意地を張る子が愛おしかった 兵藤は海王の頭をクシャと撫でた 「俺の政策秘書になるなら兵藤にも来ねぇとな 美緒にも逢わせる! だから兵藤にも来い! 来る時は康太に内緒にしとけよ! 康太がうちに来ると美緒が興奮するからな……そしたら康太の食いたいもんばかり取り出すからな…… 実の息子より……美緒は康太を愛してるんだ」 兵藤が言うと「たわけ!」と言い…… シュナウザーが飛んできた 「うわぁ!」 兵藤が慌てると…… シュナウザーは兵藤をペロペロ舐め始めた コオとイオリも出て来て 兵藤をペロペロ舐めていた 『桃ちゃん!何やってるの!』 『貴史を舐めてるんだ』 『ならオレも!』 そんな感じだった 振り返ると美緒が鬼の形相で立っていた 玲香は爆笑していた 「美緒………退けろよ!この犬!」 兵藤は叫んだ 「このたわけ! 我が康太を愛してるのは勿論 お前も愛しておると申しておるであろうて!」 美緒はそう言い怒っていた そして双子に気付くと……近寄って…… 陸王の頬に触れた 「………春海……」 そう言い美緒は陸王を抱き締めた そして横にいる海王も抱き締めた 「………この子達が……春海の遺した子であろうて!」 そう言い泣いていた 「本当に…春海に瓜二つじゃ……」 「どっちがどっちじゃ?」 美緒が問うと、進藤が教えた 「そうか!覚えた!」 美緒も進藤と同じ事を言った 美緒は進藤に 「お主が育てるのか?」と尋ねた 「はい!真贋に託されました」 「なれば…凄い怪物を育てるのであろうな…」 美緒は進藤の人を育てる技術は買っていた 「それが兵藤貴史の真価となります!」 美緒は何も言わず微笑んだ 斎王すみれの花嫁教育も始まった 美緒が直々にすみれに教えていた 美緒は進藤に「もう還るのかえ?」と問い掛けた 「はい!」 「誠……融通の利かぬ男よな…… さぁ、飲むぞ薫!」 美緒は進藤を掴まえて飲む気満々だった 進藤は還るのを諦めた 最近出来たレストランのケータリングを頼み飲み始めると…… 瑛太が帰って来て、榊原の家族を呼んだ 皆でワイワイ飲み食いをしていた 海王と陸王は……初めて体験する……出来事だった 「かぁちゃ!」 流生が康太の膝の上に乗って来た 康太は流生を海王の膝の上に乗せた 「流生、海王だ」 「きゃいおー!」 「そうだ!仲良くしてやれ!」 康太が言うと流生は手を上げて 「あい!りゅーちゃ!」と自己紹介した 康太は音弥を持ち上げると陸王の上に乗せた 「陸王だ!仲良くしてやれ!」 「りきゅ!おとたん!」 音弥も自己紹介した 太陽と大空も海王と陸王の膝に乗った その横で……何も言わず翔は立っていた 海王は翔の頭を撫でた 「名前は?」 「かけゆ!」 「かけゆ?……どんな字?」 悩む海王に康太は 「飛翔の翔でかけるだ!」 と説明してやった 「この五人はオレの子だ」と康太は言った だが……どう見ても……同じDNAは持って無さそうに見えた 康太は烈を抱っこして 「この子もオレの子だ オレの子は全部で六人!」と告げた 陸王は「康太さんが産んだの?」と言った 「幾らオレでも子供は産めねぇよ!」 苦笑した 笙は「この子達は誰ですか?教えて下さい」と康太に問い掛けた 「この双子は兵藤貴史の政策秘書になる者だ! それはこの双子が生まれる前から決まっていた!」 「………政策秘書……そっか貴史は政治家になるんでしたね……」 今更ながらに突き付けられる重い現実 康太は海王と陸王に 「この者は伊織の兄になる」と紹介した 「榊原 笙です!」 「テレビに出てる人だ……」陸王は呟いた 「海王が何時も見てる役者さんでしょ?」 と陸王は海王にふった 海王は「………嘘みてぇ…」と呟いた 「え?僕のファンですか? 嬉しいな、隼人でなく僕のファンだなんて!」 と笙は嬉しそうに言った 海王は「サインください」とテンパって訳の解らない事を口走っていた 康太は「陸王はcrescendoが好きなんだよな?」と尋ねた 「はい!あの歌、声、好きです」 「今度笙が逢わせてやる」 「………嘘……」 陸王が呟くと笙は 「逢わせてあげるよ!」と笑って言った 和気あいあいとした空気が流れる中…… 康太は榊原の膝の上で眠っていた 真矢は「………康太……調子が悪いのですか?」と尋ねた 「………銃創が……治りきらないのです 僕は殆ど治ったのですが…… 康太は皮膚が異常に弱いので…… 膿んだみたいで……」 榊原は辛そうに答えた 玲香と清隆は辛そうに康太を見ていた 飛鳥井家真贋の宿命…… それを家族が受け止めてるのが解った 一生と慎一は常に主を守る番犬として…… 主の左右に座る 咄嗟に何があろうとも…… 慎一と一生は飛び出して主を守るのが伺えれた 一生は清四郎に 「清四郎さん入院してなくて良いんですか?」と尋ねた 清四郎はマネージャーの運転する車に酔っ払いのトラックが突っ込み…… マネージャーは即死だった 清四郎も瀕死の重傷だった 清四郎はばつの悪い顔をして 「一生……ベッドの上に寝てる方が悪化します……」 と屁理屈を言った 「………それ……慎一じゃあるまいし……」 一生は『主の傍にいないのなら怪我は悪化します』と言い無理矢理退院した慎一を思い出していた 「………一生……俺は無茶ばかりする主を見てないと悪化すると言ったのです……」 だから清四郎さんとは違う……とボヤいた 清四郎は「今日、村松監督から正式にオファーが来たよ!」と榊原を見て言った 「………父さん……やられるのですか?」 「お前と康太が用意してくれた舞台だ 上がるに決まっているだろ? 榊 清四郎の代表作となる作品だと康太は言った ならば、精一杯役を演じるしかない!」 「………父さん……」 「ですからね、寝てたりしたら体躯も鈍ります! 私は役者ですからね! 自分の体躯は誰よりも熟知している」 「……母さんを泣かさないで下さい…… それだけです……」 「………伊織……手厳しいですね」 そう言い清四郎は笑った 清四郎は海王と陸王に 「今度舞台をやります チケットを送るので来て下さい」と言った 陸王は「………え?俺達に??」と信じられない顔をした 「政治家の秘書になられるとか…… ならば、目は肥やさねばなりませんよ? 私と真矢が観劇に連れて行ってあげましょう!」 清四郎が言うと美緒も 「ならば我も連れて行こうぞ!」と名乗りを上げた 海王と陸王は社交辞令として…… その日……受けておいた その夜は笑いが絶えず… 海王と陸王は初めての体験だった 人様のお宅に泊まるのも初めてで…… 翌朝、進藤に送ってもらい帰るとき…… 宿題が出された 二人の人生が変わったのが解った 海王と陸王は父親の願いの果てへ逝く…… それが明確なヴィジョンとして視えていた 後日、本当に清四郎は海王と陸王を誘った 美緒も玲香と共に二人を誘って観劇に明け暮れた 「見目のよい殿御を連れて歩くのは気分がよいわいな!玲香」 美緒は上機嫌だった 玲香も「誠、見目の麗しい双子と来れば連れ歩くのは本当に気分がよいわいな!」と上機嫌だった 海王と陸王は連れ回されて… 初めての事ばかりで目を回す事ばかりだった  人と接すると言う事を初めて体験した 初めての事ばかりで戸惑う事も多い…… だが……何も知らずに過ごした日々よりは良い…… 人の優しさや…… 厳しさ 思い遣り 日々の生活は激変したが…… 毎日が楽しかった 海王と陸王はスタートラインに立ったばかりだった この先行く道は長い…… 色んな事を学び知恵をつけ知識を知る 17歳の春は…… 駆け足で過ぎて逝きそうだった……

ともだちにシェアしよう!