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第125話 新任医師
飛鳥井記念病院に新任の医師が3人やって来た
久遠は院長室で3人を迎えた
「悪かったな……呼び寄せて」
久遠が人手不足で急遽呼び寄せた3人は笑っていた
加賀美竜二が久遠に
「………お前が院長か?」と問い掛けた
「名目上は……な
この病院は飛鳥井が持っている
オーナーは飛鳥井康太
俺は雇われ院長だ!」
「………飛鳥井康太……名前なら聞いた事がある……」
宇佐美悠は呟いた
「雅哉を都内の大学に行かせたかったから俺は横浜に帰れて良かった」
と御堂武史は喜んでいた
久遠は「マンションは用意した!真贋からのプレゼントだ!受け取っておけ!」といいマンションの権利書を机の上に置いた
加賀美は「………マンションの部屋を一つポンッとくれちゃうって……」と呟いた
「このビル全体が飛鳥井康太個人の所有する建物だからな……
このビルの物件に限り、住宅手当を毎月与えるよりも買い与えた方が良いだろうと……とのお考えだ」
宇佐美が「………飛鳥井家真贋ってまだ二十歳そこそこの子だよね?」と久遠に問い掛けた
「見た目は……高校生位にしか見えない
だが中身は……ナメてると痛い目に遭う程に恐ろしい方だ……
この後おみえになる……自分の目で確かめろ」
久遠はそう言うと電話を手にした
「新任の医師が到着しました」
『解った!今から行く』
「坊主……体調は?」
『これから逝くから看てくれよ!』
康太はそう言い電話を切った
久遠は3人に
「真贋の伴侶は男だ……
真贋は伴侶のことを言われると激怒する
そうなれば誰も止められない………
発言は命をかけてしてくれ!
まぁ、お前達の恋人も男みたいだからな、心配はないだろうが……気をつけろ!」
久遠が言うと3人は顔を見合わせた
加賀美が「……何故知ってる?」と問い掛けた
「真贋が言われた
名簿を見て加賀美は宇佐美と恋人同士だから使うなら二人一緒にしろ……とか
御堂は恋人を自分の母校に入れたがってるから、住む場所さえ用意すれば雅哉と言う恋人と共に横浜に来るだろう……ってな」
図星を刺されて……
3人は言葉もなかった
そうこうしてる間に院長室のドアがノックされた
久遠がドアを開けると康太が入って来た
ドカッとソファーに座ると、その横に榊原が座った
当たり前のように自然な動作に……
3人は……羨ましい思いを抱いた
康太の横に俳優の一条隼人が座り
後ろに緑川一生、慎一兄弟が控えて立っていた
榊原の横に聡一郎が座った
康太は足を組むと
「加賀美竜二、宇佐美悠、御堂武史の3人だな」と話し掛けた
3人は「「「はい!」」」と返事した
「飛鳥井康太だ!
横に座っているのは伴侶の榊原伊織だ」
康太は榊原だけ紹介した
3人は言葉もなかった……
じっと視られると居心地が悪かった
何もかも……丸裸にされてひん剥かれる気分を味わった
「んなに緊張するなよ」
康太はそう言い嗤った
久遠が言う通り……
ナメて掛かれば……魂さえも盗られそうな……
恐怖を抱く子だった
外見は……中学生か高校生位にしか見えなかった
だが……なんだ?
この存在感の大きさは………
「久遠、マンションの権利書は渡したか?」
康太が聞くと久遠は
「はい!渡しました」
と指で権利書を刺した
加賀美は康太に
「マンションを与えて懐柔されるおつもりか?」
と康太に問い掛けた
「マンション程度で懐柔される気か?」
鋭い視線に射抜かれて……加賀美は息を詰めた
殺される……
そんな恐怖に……
背中に伝う汗を感じていた
「マンションはただ単に住むところを提供したまでだ!」
「ならば賃貸でよいのでは?」
「賃貸……医者にとって住む空間は日々の疲れが取れる所でないとならねぇ!
そう義恭は言ってたかんな!
住む場所を心地良く考えたら賃貸じゃなく、そうなっただけだ!」
「もし…飛鳥井を辞めたら?
住む場所はどうなるのですか?」
「くれてゆんよ!
病院を辞めたとしても、マンションはくれてやんよ!
そんなちいせぇ事を言ったりするかよ?」
康太はブスッとふて腐れた
御堂は「その真意を、加賀美は説いているのです…」と問いただした
康太はキツい眼差しを御堂へ向けた
「オレがマンション如きを贈って、お前ら医者を懐柔して何が得があんだよ?
人間素直じゃねぇとな………
潰される理由になる時もあんだぜ?」
魂さえも……凍てつく瞳を向けられ……
御堂は言葉をなくした
幾多の人間に逢って来たが………
こんな人間には……
逢った事はない……
御堂は……康太を見た
伴侶も両隣に座っている者も……
後ろに控えて立つ二人も……康太に何かすれば即座に動き息の根を止める
その為に動ける態勢は取っていた
凄いな……と宇佐美は想った
命を擲ったとしても護る心意気が解るだけに……不用意な事もいえなかった
久遠は康太に近付くと、隼人は横を退いた
「傷を見せろ」
久遠はそう言い康太の額に手を当てた
「………伴侶殿、微熱続いてますか?」
「すっと微熱はなくならないので怠そうです」
久遠は康太の服を脱がした
すると派手なキスマークが散らばる中……
不釣り合いな銃創を目にした
ガーゼが血で滲んでいた
「坊主……無茶するなと言っといたぞ!」
久遠は立ち上がると内線を押した
『はい!久遠先生どうされました?』
「真贋の手当をする
用意して持って来てくれ」
『はい!直ぐに!』
内線を切ると榊原を見た
「伴侶殿は?」
「………僕は大丈夫です」
「大丈夫と言って一番無茶するのは貴方だと思うのですが?」
久遠が言うと一生が爆笑した
久遠は一生を見て
「ガーゼ、取って良いと言ってないぞ!」
と睨み付けた
「………薮蛇だわ……旦那……」
一生がクシュンとすると榊原は笑った
優しい笑みだった
3人は……榊原の笑顔を意外に想ってみていた
冷酷な顔が……
そんな人懐っこい顔になるなんて……
榊原は久遠に「榊原の母が体調を崩してます……」と伝えた
「真矢さんが?
直ぐに来るなら診る」
「なら呼んで構いませんか?」
「あぁ、ついでに清四郎さんも連れてくると良い!
無理してるんだろ?あの人のことだから…」
「……だと思います」
榊原は携帯を取り出すと電話を入れた
真矢は直ぐに行くといい電話を切った
慎一が「では入り口で待ってます」と言い院長室を出て行った
久遠は看護婦が運び込んで来た台車を引くと康太のガーゼを剥がした
消毒して傷の具合を確認する
「無茶したら治るのも治らねぇぜ!」
久遠は釘を刺し手当をする
そして服を着せると点滴をぶっ刺した
「伴侶殿、康太を寝かせて」
膝の上に康太を寝かせていると、久遠が榊原の服を脱がして手当てをした
「銃創をナメたらいかんですよ?」
「………銃創は初めてなので……」
「………何度も銃創の怪我してるのは康太位だろ?
何度もするもんしゃないです伴侶殿」
「康太は……目を離すと無茶しますからね」
「それは貴方もだろ?
んとに、この夫婦は!」
久遠はぶつくさ言いながら消毒しすると傷口を叩いた
「痛いです……」
「それは良かった
貴方は神経がないのかと想えますからね」
一生は堪えきれず爆笑していると……
久遠に睨まれた
蛇に睨まれた蛙の気持ち……解るかも……
う………動け……ない……
久遠は一生の顔の傷も消毒してベシッと叩いた
「………久遠……優しく……」
「無茶ぶりする奴にかける優しさなんてねぇよ!」
久遠が怒ってると慎一が真矢と清四郎を連れて来た
「ほれ、慎一もツラだしやがれ!」
慎一は観念して……手当てをして貰った
「慎一、おめぇの主至上主義も良いけどな
自分の体躯も試みてやれ!」
「………久遠先生……主を止めて下さい……」
「それは伴侶殿の仕事で俺の仕事じゃねぇ」
「………早く治さないと……子供が親の絵で……傷を入れました…
担任の先生にはヤクザなの?と警戒されました……」
慎一がボヤくと久遠は爆笑した
「和希と和真は正直者だな!」
「………拓美と拓人、パパの顔忘れちゃった……と言ってましたよ?」
どんだけ帰ってないんだ……と言う話だ
「……飛鳥井に行ってるのか?」
「ずっと泊まってます!」
「………嘘……」
久遠はガックシ来ていた
「今度連れて来ます
風邪ひいてるので診てやって下さい」
久遠は頷くと真矢と清四郎に向き直った
「清四郎さん、毎日消毒に来て下さい」
久遠はゴォォォォォォと怒りのオーラを出していた
宇佐美は「……凄い……女優の榊原真矢さんと榊 清四郎さんだ……」と呟いた
真矢はご機嫌に笑って
「久遠先生、この方達は?」と問い掛けた
「あ!丁度良かった!
真矢さん、がさつな俺が診るより
綺麗どころの宇佐美が見た方が良いでしょう!
真矢さん内科医の宇佐美悠です」
久遠に紹介されると宇佐美は真矢に手を差し出した
「この病院に新任しました宇佐美悠です
真矢さんの出てるテレビは録画して必ず見てます!」と興奮していった
「真矢さん伴侶殿の母上だ」
「………え?……親子……あぁ……そうか何年か前にテレビで見たっけ……」
宇佐美は思い出し……納得した
「清四郎さん、外科医の加賀美竜二です
腕は確かなので担当医にします!」
と紹介した
加賀美は清四郎に
「加賀美竜二です!宜しくお願いします」と挨拶した
「康太、俺が不在の時には御堂武史が診る
腕は確かだ
鴻ノ池病院で内科部長していた程だからな」
と紹介した
康太は御堂に手を出した
「飛鳥井康太だ!」
「御堂武史です!宜しくお願いします」
「乗り越えた姿は…清々しいな」
康太は笑った
「貴方の瞳には……果てが視えるのですか?」
「そう!オレは果てを視て適材適所配置する者!
この病院は結構自由に出来るぞ?
その代わり仕事はして貰わねぇといけねぇけどな」
「………宜しくお願いします」
御堂は康太の瞳を射抜き改めて頭を下げた
「御堂、オレの仲間はIQが高いんだ」
「………はい?……」
「雅哉の勉強を教えるのは容易いと言う事だ」
康太はそう言い笑った
「雅哉と今度逢って下さい……」
「多分運命だ……逢わせて貰わなくとも、そのうち逢う機会はある」
御堂と話している間に久遠は真矢と清四郎の診察をしていた
加賀美と宇佐美が手伝って診察していた
「久遠、良い医者が来たな」
「鴻ノ池な10対3でトレードした甲斐ありました」
「少し痛ぇトレードだったな」
「はい!自ら忙しくさせました!
これでまた……拓美と拓人に顔も見てないと言われるんですね……」
「久遠、この上に家があって何故顔も見ないのか……オレは不思議でしようがねぇ…」
「………院長室の奥に居住空間を作られたのは……坊主だろうが!
夜遅くまで雑務やって奥に部屋があるなら……帰るのは億劫だろうが!」
「なら拓美と拓人を奥の部屋に呼べば良いやん!」
「………考えときます……」
「んなんだからよぉ……」
康太はフツブツ言った
榊原はそれを止めた
「康太、家族の事に口出し無用ですよ?」
「………解った……」
全員の治療が終わると久遠は
「悠太と顔合わせさせるからな
聡一郎、帰ったら悠太と来いよ」と言った
「解りました
後で悠太を連れて来ます」と了承した
康太が「なら久遠帰るわ」と言った
「こまめに消毒に通え!」
「解った」
「内科の検査もしてねぇしな
検査入れとくからな!」
「おう!慎一に手続きさせてくれ!」
「なら慎一は残ってくれ!」
慎一だけ残して康太達は帰って行った
加賀美は康太が出て行くと……息を吐き出した
「………緊張する……」そう呟いた
御堂も「……あぁ……魂……盗られるかと想った……」と呟いた
宇佐美は「可愛いな、あれで二十歳なんだよね?
康太君があんなに可愛いなら弟もきっと可愛いんだろうね!」と夢見るように言った
久遠は……夢見る宇佐美に真実を教えるべきか……悩んだ
が、本人が来るから……大丈夫だろう……と言わすにおいた
聡一郎が悠太を連れてやって来ると
久遠は「康太の弟だ!」と告げた
宇佐美は「………ええええ!詐欺だよ……それ……」と哀しんだ
悠太は「……え?俺、何かしましたか?」と久遠に問い掛けた
久遠は宇佐美は康太の弟なら可愛いと夢見てたんだ……と告げると
「……飛鳥井は康兄以外はみんな俺みたくデカいです」と真実を告げた
「康兄は可愛いので俺よりも年下にみられますが……
今年成人式やったばかりです」
「…君は今……大学?」
「俺は高校三年になったばかりです
康兄と同じ高校に通ってます」
悠太は口を開けば康兄、康兄……だった
どんだけ兄を愛してるんだ……と想っていると……
悠太の隣の金髪の外人が嬉しそうに微笑んでいた
その親密さに……宇佐美は恋人?と想った
でも……弟は兄命……だよ?
そう想ってると聡一郎も微笑んで
「康太がこの世で一番可愛い」発言した
宇佐美は……唖然となった
久遠はそれをみて爆笑した
新任の3人は……
新天地で……最初から衝撃を受けていた
明日から飛鳥井記念病院で働く新任の医者だった
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