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第126話 恵美
康太は飛鳥井の近くの幼稚園に来ていた
この幼稚園は夜遅くまで預かってくれると有名な幼稚園だった
康太は榊原と共に、その幼稚園に来ていた
「オーナー、いらっしゃい!」
園長は嬉しそうに康太を出迎えてくれた
「君枝、今日は恵美を迎えに来た
恵兄に康太が迎えに来たと連絡を入れといてくれ!」
「オーナー、恵美ちゃんを連れて参ります」
「最近、恵美はどうよ?」
「………不安定ですね……」
「そうか……一度話をしねぇとなと思いつつ遅くなった……」
「では、恵美ちゃんをお連れ致します」
そうして園長の君枝は園長室を出て行った
榊原は康太に「恵美……不安定なのですか?」と問い掛けた
「あぁ、在るべき場所に配置する時期が来たのかも知れねぇ……」
「………次代の……姫巫女……でしたね」
「そう……もう恵美には兆候が出てるんだろうな……」
康太が呟くと…君枝が恵美を連れてやって来た
恵美は康太を見ると笑った
「コウタちゃんだ!」
嬉しそうに恵美は康太に抱き着いた
「恵美、話がある」
「うん!待ってた」
恵美は大人びた話し方をする
子供らしさを何処かへ忘れて来たみたいだった
来年、小学校に入学する
多感なお年頃だった
「なら、恵美逝こうか?」
「はい!コウタちゃん」
恵美は返事をすると康太の横に来た
榊原は何時見ても子供らしくない子だと想った
翔達が子供に見える……
恵美は前を見据えて康太と共に歩き出した
園長は「それでは恵太様にはご連絡を入れておきます」と言い深々と頭を下げた
「頼むな!」
そう言い康太は恵美を連れて幼稚園を榊原と共に出て行った
「恵美、何処で話すよ?」
「コウタちゃんのお部屋で……」
恵美が言うと康太は恵美を車の後部座席に乗せた
康太は助手席に座ると、榊原は運転席に乗り込んだ
「飛鳥井に還って良いのですか?」
榊原が問い掛けると康太は頷いた
飛鳥井に還り、康太の部屋へと向かう
リビングのソファーに座ると慎一が顔を出した
「康太、恵美はケーキが良いですか?」
康太は恵美を見た
「ケーキは要らないわ
だって太った姫巫女なんて見られないもの」
その大人びた口調に慎一は何も言わずにお茶の用意をしに行った
暫くして紅茶とお菓子を目の前に置いた
「恵美のはカロリーが半分のダイエット用のお菓子です」
そう言い慎一はお茶の準備を終えると、リビングから出て行った
「恵美、修業に入るか?」
「そうね!そろそろ在るべき所へ逝こうと想うの……」
「………てめぇはかぐや姫かよ……
子供は子供らしく親に甘えてろ!」
「甘えてても良いけどねコウタちゃん……
それだと………逝けなくなるの……」
「それでも良いじゃねぇかよ?
おめぇは恵太が嫌いか?」
「父様は好きよ」
「なら一夫が嫌いか?」
「一夫君はパパより大好きよ」
「なら上手く行ってるんじゃねぇかよ?」
「上手く行ってるのは……一夫君が私を大切にしてくれるから……
一夫君にも子供がいるのよね……
懐かしそうに……見てるのよ………」
「………懐かしむのは仕方がねぇだろ?
一夫の妻は永久に子供は逢わせないと言った……一夫はそれを了承したんだからな」
「コウタちゃんの力で何とか出来なかったの?」
「………必要以上の介入はすべきじゃねぇんだよ!」
「……そうね……ごめんなさいね
意地悪言ったわ……」
「恵美……なら逝くのか?」
「それが宜しいと想います」
「………もう恵太や一夫に逢わねぇ気か?」
「今度は恵美が逢いに行きます
二人に親孝行せねばなりません
恵美は幸せに育てられました……」
「………一夫……泣くだろうな……」
「仕方がありません……
私は在るべき所へ逝きたいのですから……
その代わり……あの二人に犬をプレゼントしてやって下さい」
「犬?お前の代わりにか?」
「私は時間が出来たら逢いに行きます
でも淋しいなら……赤ちゃんか犬を……」
「……赤ちゃんは無理だろ?」
「………なら犬を……」
「解った……恵太も泣くだろうな……」
「コウタちゃん……私だって泣きます
両親の前では……年相応の顔してるんですから……」
「………姫巫女の啓示なんて受けるんじゃなかったな……」
「仕方在りません
私は前世の記憶を持っております」
「………んとに……子供らしくねぇな……」
「仕方在りません……中身は子供ではないのですから……」
「………オレは……琴音が生きてたら…と何度も悔やんだ……」
琴音が生きてたら……次代の姫巫女は琴音がなった
「琴音は音弥の中で生きねばならぬ宿命だったのでしょう!
そして私は姫巫女にならねばならぬ宿命だったのでしょう」
「………恵美……それでもオレは……
宿命なんて……ぶち壊しても良い程に……
自分で選んだ道を逝きてぇんだ……」
「………恵美も我が人生を逝きます
姫巫女になるのが宿命だとしても……
私は私の思いのままに生きる!」
「桃香は姫巫女に据えてあるが……
本来の姫巫女じゃねぇ……
本当は桃香より水萠の方が姫巫女の器だった……」
「言ってもせんのない事を言うでない」
「………お前……本当に来年ランドセルか?」
「失礼な!人を妖怪みたいに!」
恵美が怒るとドアがノックされた
一生がドアを開けると恵太と栗田の訪問を告げた
康太は「通してくれ!」と言った
一生と慎一が栗田と恵太をリビングに連れて来ると、康太は一生と慎一に座れよ
と告げた
慎一はお茶を運んできて座った
恵太が「恵美を連れて行った理由は?」と単刀直入に聞いた
「恵美が呼んだからな!
ちゃんと話をしねぇといけねぇ時期が来たから……連れて行った」
「……恵美は僕の子です!
康太がくれたのではないのですか?」
恵太は泣いていた
栗田は恵太を抱き締めた
恵美は居ずまいを正すと
「父様、一夫君、私は飛鳥井の姫巫女になる為に産まれたのです」
と………子供らしくない口調で話し掛けた
恵太は「………誰?………」と問い質した
恵美はそんな話し方をしないから………
「恵美です
父様には……解ってる筈です」
恵太は首をふった
「解らないよ恵美……
お前から母さんを奪った……
だからお前を哀しませないように毎日過ごして来た……
これからも……一緒に生きていくんだろ?恵美……」
「恵美は姫巫女として生きて逝かねばなりません!」
「嫌だ!恵美はそんな話し方はしない!
そんの大人のような話し方はしない!」
「………恵美は……父様が東雲加奈子との間に生まれた子ですが………
生まれた瞬間から……宿命を背負って産まれてしまったのです
母様は……大人びた瞳をする私を……
責められてるみたいだ……と嫌ってました
ですからコウタちゃんに頼んで、父様の方に引き取って貰いました
それも総て………私は産まれてきた宿命の為に……引き寄せた事なのです……
東雲加奈子を何故選んだか……
それは東雲の家は飛鳥井と契った過去を持つから……
東雲の中の飛鳥井の血が呼び覚まされ、強固な始祖返りを誕生させる為……
総てが決められし理……なのです父様……」
恵太はイヤイヤと首をふっていた
栗田は恵太を抱き締めた
康太は慎一を呼んだ
「慎一」
慎一が康太の横に行くと、康太は慎一の耳元でヒソヒソコニョゴニョ、斯く斯く云云と伝えた
慎一はリビングを出て行った
栗田は康太を見ていた
「康太……恵美を手放す為に……恵太に育てさせたのか?」
「違う……恵美を取り上げるなら加奈子の方が……ある意味便利だと言うのを忘れるな
加奈子は今、オレが身の立つように支援してやって、やっと一人で生きていけるようになった
恵太と別れて直ぐの男はDV野郎で…
加奈子は恵美を護る為にオレに託したんだ
加奈子とDV野郎を別れさせて、身の立つようにしてやった
加奈子は今自信に満ちあふれているぜ
恵美を渡すのは加奈子の願いだ……
オレは……恵美が目覚めなきゃ良いなと想った……
琴音の亡き後……恵美が継ぐかも知れねぇとは想っていた……
でも……ずっと目覚めなきゃ良いなと想っていた……
オレは加奈子に託された恵美を幸せにする義務がある
恵美は大人の男の暴力を見て育ったから……
大きな声が苦手だ……
加奈子は……恵美を傷つけたと悔やんでいる
未熟な母親だったけど………
加奈子は精一杯恵美を愛して護って来た
そんな恵美だから………
オレは……恵兄と一夫の傍でずっと……」
過ごさせたかった………と言う言葉は……言えなかった
榊原は康太を抱き締めた
恵美は「総て……定めなのです父様」と言った
「………恵美……父さんはそんな定めなど要らないよ?」
「父様、遊びに来ます……
誰よりも大切にします
老後は恵美が引き取って父様と一夫君の面等を見ます
ですから……哀しまないで下さい……」
「………恵美……それが君の……素……なのですか?」
栗田は恵美に問い掛けた
「………父様…一夫君……恵美には前世の記憶があります
それはコウタちゃんと一緒ですね
私は飛鳥井の姫巫女として生きてきた
この先も飛鳥井の姫巫女として生きて逝く定め……
恵美は飛鳥井の姫巫女の血を絶やさぬように使わされる稀代の姫巫女なのです……
自分の定めを恨んだ事もあります
私が曲がらないのは……
コウタちゃんと言う稀代の真贋の姿があるから……
飛鳥井はこれからも続いて逝きます
その定めのために私は産まれたのですから……
父様……恵美は姫巫女として生きられないのなら……この世に存在する必要などないのです……
総ては姫巫女として生きる為……
在るべき所へ逝かれないのなら……恵美は……
魂が抜けてしまうかも知れません……」
在るべき所へ逝かれないのなら……
魂が抜けてしまうかも………
そんな事を聞いたら……
許さない訳にはいかない……
「………恵美……父さんはお前を誰よりも愛しているよ……」
「一夫君と仲良くね!
時々意地を張って一夫君を哀しませるでしょ?
意地をはってると一夫君をなくしちゃうよ?
だから素直にね父様……」
「………恵美……」
恵太は恵美を抱き締めて泣いた
栗田は康太を見て………
「皮肉な運命……なのですね」
と言った
「………一夫……奪うつもりはなかった……」
「何時頃から気付いたんですか?」
「幼稚園に通い始めた頃……
お前が……恵美が不安定だと言った頃だ」
「………そうなんですか……」
「………恵美のままでいてくれれば……と想ってた……」
「………恵美は手のかからない子だった……
本当に……いい子で……俺は自分の子として育てて逝こうと決めていた……」
栗田が言うと恵美が
「コウタちゃんを責めないで……」と言い栗田を止めた
「コウタちゃんが……一番悲しんでいるのよ?
適材適所……配置するのが役目だとしても……
親子を引き離す事が一番……辛いに決まってるじゃないですか……」
恵美の言葉に……
康太を恨むのは筋違いだと……解っている
解っているが……
恵太を悲しませたくはないのだ……
妻と子がいるのに恵太に手を出し愛してしまった……
恵太は苦しんでいた
苦しんで……栗田と離れる為に……
結婚した
その結婚も……上手く行く筈もなく……
離婚した……
総て康太が片付けてくれた上に……
のうのうと暮らしていただけなのだと……
思い知らされる……
「………恵美……ちゃんと逢えるんだよね?」
栗田は恵美に問い掛けた
「はい!逢いに行きます
父様も一夫君も逢いに来て下さい」
栗田は泣き出した……
「………恵美……愛しているよ」
大切に育てて行こうと決めた子だったのだ……
「一夫君、老後は恵美が見て差し上げます」
「………恵美……」
栗田は号泣した
康太は恵美に
「お別れを告げる日々を決めて送り出してもらえ」と告げた
「………そうですね……
父様、一夫君……恵美はもう少し傍にいます」
「「恵美……」」号泣する恵太と栗田は……
飛鳥井に泊まって行った
翌朝、玲香は栗田と恵太が泊まって行ったのを知った
玲香は……「恵美は……どうしたのじゃ?」と問い掛けた
「恵美は姫巫女になる……」
玲香は哀しそうな顔をした
「………次代の姫巫女は恵美かえ?」
「………オレは恵美が目覚めなきゃ良いと思ってた……」
「………定めとは皮肉なモノじゃな……」
玲香は過酷な定めを持つ康太を見た
「……あぁ……皮肉だな……」
「二人には辛かろう……」
「………二人とも親バカだかんな……」
「………お主が悪い訳ではない……
総ては……決められし理なのじゃ……」
「………母ちゃん……」
「それよりも美緒の頼み事みなのかえ?」
「あぁ、恵美の頼みだかんな……」
「………そうか……後で連れて参るそうじゃ」
「………母ちゃん、美緒と歌舞伎座に行けよ
無理な願い事したかんな奢る」
「それでは海老様を見に行こうぞ!」
玲香は嬉しそうに笑った
飛鳥井玲香は何処までも飛鳥井の女だった
過酷な運命も……使命も総て受け止めて見届ける使命を持っていた
栗田と恵太が起きる前に恵美が起きて来た
「コウタちゃん……ゴメンね……」
悪役にする気はなかった……と恵美は謝った
「恵美……気にしなくて良い……
月に逝く訳じゃねぇんだし……逢いに行ってやれ!」
「解ってるわコウタちゃん」
恵美は吹っ切れた顔で笑っていた
適材適所、配置され行く先を示された者だけが見せる顔だった
美緒が子犬を持って飛鳥井にやって来たのは、栗田達が帰る前だった
美緒は子犬を康太をみて
「苦労したぞえ……」と柴犬を手渡した
「柴犬?めちゃくそ可愛いやん!」
「知り合いで手放そうとしてる犬は柴犬しかいなかったのじゃ」
「恵美、約束の犬だ」
康太は柴犬を恵美に渡した
恵美は柴犬の子犬を抱き締めて年相応の顔をして笑っていた
「コウタちゃん ありがとう」
「ちゃんと育てろよ!」
「育てるのは父様と一夫君よ!」
「ちゃんと家族にしてやれよ!
それから修行に行けば良い」
「そうね!コウタちゃん名前!」
「………う~ん……」
康太は柴犬を見ながら……
「茶太郎……でどうだ?」
「茶太郎……うん!良いわ」
恵美は茶太郎を連れて栗田と恵太を起こしに行った
栗田と恵太は恐縮しまくりでご飯を食べて……
帰って行った
帰り際栗田は
「離れても恵美は娘です!」と決意を決めた瞳で答えた
恵太も「恵美は死ぬまで僕の娘です!」と同じような決意を決めた瞳で康太を見た
恵美は笑って茶太郎を抱き締めて
「早く帰ろうよ!父様、一夫君!」と急かした
栗田と恵太は恵美と茶太郎と共に帰っていく行った
「………行く末は……愛に満ち溢れています様に……
それが果ての飛鳥井へと続く道になる……」
と呟いた
飛鳥井の為……家の為……
生きる者の使命だった……
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