135 / 163

第135話 尻尾のリボン

最近の桃太郎のお気に入りは尻尾のリボンだった 綺麗なレースのリボンを尻尾に結んでくれたのだ 以来、桃太郎は何時も尻尾のリボンを見てウキウキしていた 美緒が尻尾のリボンを外そうとすると…… キュンキュンと鳴いて……鼻水でベタベタになる程だった このリボンをくれたのは一生だった 飛鳥井の家に兵藤貴史が連れて行ってくれた日 桃太郎はコオやイオリと応接間で楽しく遊んでいた 牧場から帰った一生がコオと遊んでるシュナウザーを見つけて 「おっ!イオリ、今日は大人しいな!」と声をかけた 尻尾を振りながら本当にお人好しな顔のシュナウザーが一生に飛び掛かって顔をペロペロ舐めた その後ろで……低い鳴き声が聞こえた ウ~!ワン! 『お前は見分けもつかないのか…… 僕の方が男前です!』 と一生を睨み付けていた シュナウザーでもイオリはお人好しには見えない…… でも色も毛並みも……見分けがつかない一生には どれも同じシュナウザーにしか見えなかった 一生は区別がつく為に…… 桃太郎の尻尾にリボンを巻いた 綺麗なリボンを子ども達にあげようとポケットに入れておいたのを、桃太郎の尻尾に巻いた 桃太郎は喜んで尻尾を見て ワンワンワン!ワン!ワワン!とまるで 『ありがとう一生!』と言ってるみたいに喜んだ 美緒が取ろうとすると…… キュンキュン……キュン……キュ~ンと鳴きまくり…… 鼻水でベタベタになる程鳴いて…… 尻尾のリボンを外すのを断念した 「………まぁ見慣れれば……尻尾のリボンも可愛いわいな!」 と美緒は諦めた 桃太郎は美緒の大切な大切な、キラキラ光る指輪を咥えて…… 兵藤を急かして飛鳥井の家に向かった 兵藤は桃太郎に引っ張られ…… 「おい!何処へ行くんだよ!」 と言う程に引っ張られ…… 桃太郎は飛鳥井の家の玄関の前でピタッと座った そして尻尾を振りまくって、家に入れろ!と催促した 兵藤はグッタリ疲れて……飛鳥井の家のインターフォンを押した 慎一が「どちら様ですか?」と問い掛けると 「兵藤貴史です!」と訪問を告げた 応接間に招かれると桃太郎は一生に飛び付いた ワンワンワン!ワンワンワン! 喜んで桃太郎は一生に飛び付いた そして一生の前に美緒の指輪をコロンって出した 鼻で一生の方へと押しやった 一生も固まったが……兵藤も固まった 「………桃太郎……あかんがな……」 一生が言うと桃太郎は悲しそうに鳴いた 一生は兵藤を見た 兵藤は困った顔をした 「………桃太郎……これは美緒に怒られる……」 兵藤は呟いた そして立ち上がると飛鳥井の家を後にした そして再び戻って来た時には紙袋を手にしていた 「桃、これを一生にやれ! これなら美緒に怒られねぇぞ!」 兵藤は指輪を採り上げると、紙袋を渡した 桃太郎は紙袋を咥えて一生に飛び付いた そして鼻で紙袋を押しやった 早く見ろと急かす様に鼻で紙袋おしやりワン!と吠えた 一生は紙袋の中を見た 袋の中には……… タグホイヤー (TAG HEUER) アクアレーサー グランドデイトクロノグラフ が入っていた 一生はそれを見て…… 「……これは貰えん……」 と兵藤に返した 桃太郎はキュンキュン鳴いて…… 何時ものように鼻水でデロデロの顔になった 一生は桃太郎の顔を拭いてやった 「もうじきお前の誕生日だろ? だから受け取っとけ!」 と言い兵藤は笑った 桃太郎は一生の膝で甘えて丸くなった コオとイオリも一生の膝の上に乗ろうとして…… 乗れずに横で丸くなった 兵藤は指輪を手にして…… 「………恐ろしい犬だなぁ…… これは美緒のお気に入りだからな……」と呟いた 兵藤は美緒を電話を入れた 「美緒、結婚した時に三木敦夫に貰った指輪 探してねぇか?」 『探しておるのじゃ! どこを探しても見つからないのじゃ!』 と美緒は困っていた 「美緒……桃太郎が一生にプレゼントしてたぜ」 『………え!!選りに選って……あの指輪をかえ?』 「尻尾のリボンが相当気に入ったみてぇで…… 一生への貢ぎ物に……美緒の指輪が選ばれた」 『…………あの指輪でなくば……良いが…… あの指輪は我の指針じゃ……やれはせぬ 政治家の妻となると決めた日 お前に相応しい指輪をプレゼントすると言って貰ったこの世に一つの原石なのじゃ…… 貴史……他のと交換して貰えぬか……聞いてたもれ!』 「そう言うと想って……一生の誕生日にやる筈のプレゼントと交換しておいた 美緒……桃太郎は危険な犬だぞ…… 気をつけねぇとだめだぜ!」 『………あんなお人好しの顔して……』 「………期待を裏切らねぇ奴だな……コイツ……」 『我からも一生にお詫びの品を届けさせる 貴史、指輪を頼む』 「後で持ち帰る!」 兵藤はそう言い電話を切った 一生は困っていた 「貴史、こんな高価なモノは受け取れねぇ……」 「おめぇの誕生日プレゼントだ! 少し早まったのは仕方がねぇな……」 桃太郎は幸せそうな顔をしていた 兵藤はそれを見れば……怒る気も失せた 一生は誕生日プレゼントだと言われて プレゼントを受け取った 後日、兵藤美緒の方からも……… 「これは詫びじゃ!」 と言われて……見るからに高そうな指輪を渡された 「この指輪はベルギー大使夫妻から頂き物じゃ あの指輪の対価だと想って受け取ってたもれ!」 一生は断っても押し切られて…… 美緒は玲香や真矢と飲み始め…… もう聞く耳は持たなかった 桃太郎は一生をペロペロ舐めていた 「………俺……犬じゃねぇぞ……」 一生は呟いた ワンワン!ワワワン! と桃太郎は吠えた 『カズキ、大好きだよ!』 ペロペロ舐めて親愛の情を示す 一生の棚の上には……… 骨とビー玉と……指輪が並べられた 力哉は大切に飾ってある一生の宝物を時々眺めて…… 笑顔になった

ともだちにシェアしよう!