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第137話 親として‥
子ども達は康太の前に立った
康太は笑って「あんだよ?」と問い掛けた
すると流生が「ちゃのみょう!」と言った
「茶飲もう?
あんまし飲むとオネショしちまうぞ!」
康太が言うと流生は泣きながら
「かぁちゃ!ばきゃぁぁぁ!」と言い泣き出した
康太は困って流生を抱き上げた
一生が流生の泣き声に気付いて近寄ってきた
「どうしたよ?」
「………流生が……茶のもう……って…」
康太が言うと流生はブルブル首をふった
一生は流生を康太から受け取ると床に下ろした
そして屈むと流生と目線を同じにした
「かじゅに言ってみろ?」
「ちゃのみょう……かぁちゃ…いっちゃにょ…」
「……あぁ、頼もう!か……ならかじゅも言ってやるから、もう一度やるか?」
一生は涙を拭きながら問い掛けた
流生は頷いたから一生も一列に並んだ
【かぁちゃ!「康太!】」
「あんだよ?」
康太は笑いながら床に座った
【ちゃのみょう!「頼もう!】」
「お!あんだよ?聞いてやるから言ってみろよ!」
康太が言うと音弥が手を上げて前に出て来た
「くりちゅまちゅ!」
次に太陽が手を上げて前に出て来た
「いぢゅちゅや!」
その次に翔が目を輝かせて
「きゃいにいきゅにょ!」
大空も興奮して
「らから、れんちゅう!ちゅるにょ!」
と言いきった
「かぁちゃ、ちゃのみょう!」
と流生は康太に言った
何処で頼もう……なんて覚えて来たんだ?
康太は首を傾げた
「うし!クリスマスに向けて井筒屋に行く練習すっか?」
「「「「「あい!」」」」」
子ども達は声を揃えてそう言った
「ならな、公園へ行って駆けっこの練習だかんな!」
公園はそう言うとコオのリードを一生に渡した
そして自分はイオリのリードを持って、子ども達と練習する為に家を出た
「歩道の白線の中から出るんじゃねぇぞ!」
そう言いゆっくり歩き公園へ行く
音弥は歌を歌いながら……フラフラ……
ワンワン!
とコオに怒られながら歩いていた
「こぉちゃ……」
音弥が言うとコオは鼻で音弥を歩道の中かわっに入れた
「お!コオありがとな」
康太が言うとコオは嬉しそうに尻尾をふった
公園に行って駆けっこの練習をする
「うし!位置に付け!」
康太は地面に線を引くと、その前に整列した
「ドーン!で走るかんな!」
「「「「「あい!」」」」」
子ども達は手を上げて返事をした
「ドーン!」
康太が言うとみんな走り出した
翔は結構安定で走り出す
音弥は……バランスが悪い……
普段から結構……フラフラ……
康太は「……音弥……一度、久遠に見せなきゃダメかな?」と呟いた
一生は「フラフラだよな」と賛同した
太陽と大空はマイペース
やはりドベは音弥だった
走ってる最中に音弥はベショッと転んだ
音弥は泣いた
皆より遅いのは何故なんだろう……
一緒に走りたいのに……
と泣いていた
康太は音弥を抱き上げた
「痛いか?」
汚れた足を払ってやる
音弥は「………おとたん……おちょい……」と泣いた
普段から音弥はフラフラしてる
康太は歌を歌ってるから遅いのかと想っていた
どうも少し違うみたいだった
「一生、オレは音弥を久遠の所に連れて行く」
「だな……」
「一生は飛鳥井の家で子ども達を見ててくれねぇか?」
「解ってる……何かあったら言え
直ぐに行くからな!」
「やっぱ、バランス悪いよな……」
「……脱臼……かな?」
「………脱臼なら子供の時の検診で解らねぇのかな?」
「………だよな?……俺は子育てした経験ないからな……慎一に聞いてみるか?
それからでも遅くねぇでしょ?」
「………慎一は子供と過ごせてなかった……」
「……あ……困ったな……」
一生は困った顔をした
「取り敢えずオレは病院に行くわ…」
一旦飛鳥井の家に帰り、コオとイオリを家に入れて
保険証を持って音弥とお出かけした
歩いて飛鳥井の病院へと向かう
病院で受付をしてると榊原が顔を出した
「康太……一生に聞きました」
「音弥……歌を歌ってるから遅いのかと想っていた……」
「違うのですか?」
「走れねぇんだよ……」
「………え?……走れない?」
「走ると転ける……」
音弥は康太の横で大人しく椅子に座っていた
膝っこぞうは怪我して血が出ていた
榊原はその傷に触れた
「転けたのですか?」
榊原が言うと音弥が頷いた
榊原は音弥を抱き締めた
久遠が康太の処へ直接顔を出した
「どうしたよ?坊主?」
「音弥が……歩き方がおかしいんだ……」
「……え?……今まで検査で引っ掛かってねぇんだろ?」
「あぁ……この子は歌を歌って歩いてるから普段から歩くのは遅いんだ
だけど……さっき走ってたら……バランスが悪くて転けた……
あんなに体躯の重心がブレていたら……走るのは無理だわ……」
「……今、走らせて大丈夫か?」
康太は頷いた
「音弥、とぅちゃがあっち行くから走ってついて行け!」
そう言うと榊原は早足で歩き出した
音弥は必死に榊原について行こうと走った
走って………ベショッと転けた
久遠はそれを見て……
「CT撮るけど大丈夫か?」と問い掛けた
「………この先も……走れねぇなんてないよな?」
康太はそう言い……涙を流した
「坊主、調べねぇと解らねぇ事は何ともいえない!
だけど北斗は頑張って走れる程になってねぇか?」
「………あぁ……そうだったな……」
康太は顔を覆った
久遠は音弥を抱き上げると
「俺が診よう!」と言い歩き出した
その後に康太と榊原が続いた
康太の手は震えていた
その手を榊原は強く……握り締めた
一生と慎一が京香に帰って来たから、病院の方へやって来た
「康太、旦那、音弥はどうよ?」
一生は康太と榊原に声を掛けた
康太は一生に
「お前が伊織を?」と尋ねた
「あぁ、おめぇ一人じゃ不安だったからな」
「………もっと早く…気付いてやれば良かった……」
康太は悔やんでいた
一生は康太を叩いた
「飛鳥井の家族も俺達も……音弥はマイペースな奴だと想っていた
だったら俺ら全員が悔やまねぇとダメじゃねぇかよ!」
「一生……」
「音弥は大丈夫だ!
じゃなかったら……何のためにヴォルグが命を懸けたか解らねぇじゃねぇか!」
小さき魂は……音弥を救って消滅した
音弥の中に……いて欲しいと想う
だから……誰よりも大切にしたいし……
幸せを感じさせてやりたい……
「………一生……」
「流生達も心配してる……
音弥が帰らないって泣いてる……」
「仲良いからな……あの五人は……」
一生は何も言わず康太を抱き締めた
検査をして久遠が現れた
「院長室に来い!」
そう言うと康太と榊原と一生は院長室に着いていった
「何で検査で出て来なかったか……不思議で仕方がねぇ……」
「音弥は超未熟児だったから……」
「あぁ……超未熟児か……だからか?」
久遠はボヤいてソファーにドサッと座った
「股関節脱臼だ!
股関節がちゃんとはまってないから体躯の中心が ブレて直ぐに転ぶんだ」
「………治療法は?」
「牽引で様子を見て治らなきゃオペだな
乳幼児の時に見付かってれば、もっと早く処置されたのに………3歳を過ぎると……歩くのが困難になるからな……早めに手を打たねぇと……学校に通う頃になると皆と同じ事が出来なくなる……」
「………入院させるのか?」
「あぁ、この病院は小児専門じゃねぇからな……治療は専門の機関でやる事となる」
「…………入院……しかないのか……」
「早くしねぇと……皆と行事が出来なくなるだろう…」
「……久遠……ならはやめに頼む……」
久遠は小児専門病院へと連絡を取ると、音弥を連れて行くように手筈を整えた
康太はその足で小児専門病院へと向かい……
音弥は入院した……
何時も一緒に暮らしてきた兄弟が……
生まれて初めて……
離れて暮らす事となった
音弥が入院して帰って来なくなると……
兄弟はうるさい位に何度も何度も……音弥の居場所を聞いてきた
流生は康太に「おとたんは?」と何度も問い掛けた
太陽と大空……そして翔も……
「おとたん どうちたにょ?」と問い掛けて来た
「足を治すんだよ音弥は……」とは言ったか……
太陽は「ちなもにゅく!」
大空も「きゃなもにゅく!」と言い出した
康太は困り果てて……榊原を見た
榊原は子供たちに「音弥は足を治す為に闘っているんですよ……」と告げた
翔が「にゃら、かけゆ おうえんちゅる!
らから、おとたんのとこいくにょ!」と言い出す
すると他の子も「いくにょ!」と言い出して……
康太は泣けてきた
五人で育ってきたのだ……
親と離れ離れになろうとも……
五人は何時も傍にいた
一緒に寂しさを乗り越えて来たのだ
「………康太……泣かないで……」
榊原は康太を抱き締めた
何とも出来ないもどかしさに……言葉をなくす
どう言えば納得………
しないだろう
五人は五人の絆があるのだから……
一生は「かぁちゃととうちゃを泣かすな!」と怒った
太陽は「ぎょめん……」と泣いた
大空も「ぎょめん……」と泣いた
流生も翔も「「ぎょめん…」」と言い泣いた
康太と榊原は我が子を抱き締めた
親になるというのは……
本当に難しい
もどかしさに康太と榊原は……
泣きたくなった
クリスマスは……
すぐそこまで来ていた……
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