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第138話 DVD

戸浪亜沙美は日本に還って来た また北欧の方へと出向くが…… 一ヶ月位は日本にいて、本社に顔を出す事が決まっていた 亜沙美は本社ビルに戻ると、社長室のドアをノックした 「入りなさい」 と言う声がして亜沙美はドアを開けて、中へと入った 戸浪は膝に……金髪碧眼の子供を乗せていた 亜沙美は「………兄さん……今還りました」と報告した 流生よりも小さな子だった 「ご苦労様でしたね亜沙美」 「………あの兄さん……その子は?」 「この子は私の子の戸浪煌星です」 「………兄さん……どう見ても……」 と言おうとした亜沙美を戸浪は押し留めた 「言ってはなりません! 康太が決めたトナミの果てが狂います」 飛鳥井康太が敷いたトナミ海運の果て…… 亜沙美は黙った 「この子は海と同い年です」 「兄さん……海はどうしましたか?」 「いますよ!」 とソファーを指差した 見ると海はスヤスヤ眠っていた 「……何故……社長室に子供がいるのですか?」 「この子達が繋げる未来を見せる為です」 「…………その子が……トナミ海運の社長になる子なのですか?」 「そうです! 万里が舵を取り、煌星が社長になり会社の顔になる 海は会社を軌道に乗せて導く……」 「……千里は?」 「千里は外に出るのが定め…… でも私の子です……出来る限りの事はしてやります」 「………そうですか……」 「そうだ!これを康太から預かってます」 戸浪はテーブルの上のDVDを亜沙美に渡した 「亜沙美…一緒に見ませんか?」 「……え?……」 「私も見たいのです……嫌ですか?」 「……いいえ……兄さん……一緒に見ましょう」 亜沙美が言うと戸浪は煌星を亜沙美の膝の上に乗せた そしてDVDをセットしに行った テレビには……… 画面一面……少しだけ鼻水を垂らした流生が映っていた 「伊織、ちょい待て……鼻が出てる」 「風邪気味ですからね」 康太は流生の鼻を拭いた 「流生、辛くねぇか?」 「りゅーちゃ らいじょうび!」 「辛かったら言うんだぞ?」 「あい!」 流生は手を上げて返事した 「ならカメラに向かって自己紹介すんだぞ? ちゃんと練習したよな?」 「あい!とぅちゃ れんちゅうちた!」 「なら大丈夫だな! 伊織、良いぞ、流生を撮ってくれ」 「解りました 流生、練習したように解ってますね!」 流生はカメラの前でペコッとお辞儀して 「りゅーちゃ!」 名前を言うと指を三本出して 「ちゃんちゃい なりまちゅ!」 そう言いポンポンとオムツが取れた仕草をして 「りゅーちゃ おむちゅ にゃいにゃい!」 ねぇー!と首を傾げて笑った 「流生、兄弟を紹介して下さい」 榊原が言うと流生は歩いて兄弟の方へと向かった 榊原はその姿をビデオに収めた 「おとたん!」 流生は抱き付き紹介した 「ちなたん、きゃにゃたん、かけゆ!」 そしてやっとハイハイを始めた烈を抱き締めて 「れちゅ!おとーと!」 と紹介した 後はもう……榊原が言うのも聞かずに兄弟で遊んでいた その様子をビデオに納めていた 弟の烈の面倒も、ちゃんと見る 兄弟仲良く…… 見ているこっちが微笑みが出て来る…… 翔が「りゅーちゃ」と抱き着いた 「かけゆ!」笑って遊ぶ五人には絶対の信頼と…… 絆があった 「流生、バイバイは?」 榊原に言われると流生は立ち上がって手をふった 「バイバイ!まちゃにぇ!」 兄弟も皆、手をふっていた そこで、ビデオは終わっていた 戸浪は「本当に仲の良い兄弟なのですよ」と亜沙美に言った 「………兄さん……流生……本当に大切にされてて……嬉しいです」 「このビデオには映ってますが、今音弥が入院しているのです」 「………え?音弥君が……何処が悪いか聞いても宜しいですか?」 「股関節脱臼……らしいです 早産で超未熟児だったそうです 生きてる事が奇跡だと康太は言いました それ程の想いを込めて……この世に生み出し…… 母親は……逝ったそうです……」 「………では……音弥君のお母様は……」 「鬼籍の人……だそうです」 「………そうなのですか……」 「あの双子と烈は伊織のお母様が、息子のために産んだお子さんで…… 翔は瑛太さんの子供……です 一生と同じ……父とは名乗れないペナルティーを科したという康太が言ってました」 血は繋がらぬ我が子を…… 愛して……守って……大切に育てている 子供を見れば解る 父親や母親に向ける瞳を見れば…… どれだけの想いで親を慕っているか解る 流生や他の子達も……榊原と康太を親と認め 懐いて、絶対の愛情を貰っていた また家族や周りも大切に大切に見守り育てているのが解った ディスクは二枚あった 「………兄さん……これは?」 「それは君が一人の時に見ると良い…… 亜沙美、時々子育てして下さい 沙羅だけでは手が回りません」 「はい!何時でもお手伝いします!」 「………流生は良い子です 兄弟の中ではムードメーカー的な存在だ そんな所を見ると……一生を想い出させます あの男は……文句1つ言わず……子育ての協力をしています…… 君が惚れただけはありますね…… 本当に……いい男です」 「………兄さん……」 「………だけど君を戸浪から開放はさせられない…… 何時か……手放さなくてもいい我が子を産んで下さい…… 兄は君の幸せを誰よりも……祈ってます」 「………兄さん………」 戸浪は……妹のこの先を想い…… 涙していた 引き裂いたのは自分だ…… だが……戸浪の歯車の中に組み込まれた妹を…… 手放してやる事が出来なかった…… 亜沙美はDVDを手にすると煌星を戸浪に返した そして社長室を出ると…… 社長室の隣にある自分の部屋へと向かった ドアを開けて中に入ると…… 鍵を掛けた そしてDVDをセットした テレビの画面一杯に流生が笑っていた 「あちゃみ!れんき?」 流生はそう言い手をふっていた 「りゅーちゃ きゃぜ……ちぃてる……」 そう言い鼻水を袖で拭った 「あちゃみ まちゃ あおうにぇ!」 ニコッと笑って手をふっていた この手で抱けぬ我が子だった こんなにも一生に似て…… 亜沙美はテレビに映る流生の顔をなぞった 負けん気の強い眉毛は何時も凛々しく 意志の強い瞳は何時も輝き 少しだけ低めの鼻は……一生に似て…… 柔らかなほっぺは……触れたら…… 温かいのだろう…… 「あちゃみ らいちゅき!」 「あちゃみ まちゃにぇ!」 そう言いDVDは終わった 亜沙美は顔を覆った 涙が……止まらなかった 愛してる 愛してる 愛してる 愛してる…… この世で一番愛してる我が子よ…… どうか……幸せに…… 誰よりも幸せに…… 母は……それだけしか…… 願ってはいません どうか……

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