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第140話 散歩に行きたくない‥

飛鳥井の床は床暖房 熱効率を利用して暖房を回していた だから冬は一日中ポカポカ 夏はひんやり冷たい 快適なおうちだった そのせいか……コオはお散歩に行きたくなかった…… 「コオ散歩だぜ」 言われても丸くなって…… 散歩に行きたがらない 「犬は庭駆け回るんじゃねぇのかの?」 康太はボヤいた コオは『今の犬は寒がりなんだもん』とワンワン吠えた 「おら!散歩だ! 散歩しねぇなら一日外に出すぞ!」 康太に怒られて渋々動き出した 「年かよ?」 キャイーン……『年……年……』コオはブルブル震えた イオリがコオを舐めた 『コオを虐めないで下さい』 ワンワンと鳴いてご主人康太に訴えた 榊原がイオリのリードを持つと 「散歩に行きますよ!」と告げた コオは震えながら……渋々動き出した 「モコモコの座布団……取ろうかな……」 康太は呟いた 普段はリードを外して応接間にコオとイオリはいる お気に入りのモコモコの座布団と言うか 犬の座る専用座布団がお気に入りだった その中で丸くなるのは至福の時だった それを取り上げられる…… コオは至福の時を取り上げられるショックで 泣き出した 道路にポタポタ涙が零れた 「………康太……モコモコのお座布団はコオのお気に入りです……辞めてあげて下さい」 「でもよぉ……散歩に行かねぇと老化が進むって一ノ瀬先生が言ってたやんか」 「なら床暖房……辞めますかね?」 ………ぬくぬくの床…… コオは更に鳴きながら歩いた 桃太郎が近寄って来て 『コオ……どうしたの? 何で鳴いてるのぉ?』 とワンワン鳴いた ペロペロ桃太郎が舐める 康太は兵藤に 「お前んちって床暖房?」と問い掛けた 「おー!床暖房だぜ? お前んちが建てたんじゃねぇか!」 「………桃太郎とかコータやタカシは床暖房の上にいるのかよ?」 「………そうだぜ……だからコータが散歩に行きたがらねぇの……」 「………貴史……」 「あんだよ?」 「コオ……散歩に行きたがらねぇの……」 「……え?……まぢかよ? 親子して床暖房の虜かよ……」 「だな……イオリは散歩が好きなのにな……」 「桃太郎も散歩は大好きだぜ? 母親犬のタカシは今は身重だからな…… 散歩も気を遣わねぇとならねぇけどな…」 「タカシ…また産ませるのかよ?」 「………コータがな……もう……そんなに生きられねぇんだよ……」 「………コオ……産ませたしな……」 「コオ産ませた時に既に……結構いい年だからな… 美緒が……タカシが生んだ子と、コーギーを交換する約束したらしくてな…… そのコーギーは……コータの兄弟犬の血筋らしい」 「………コータもいい年ならコタローもいい年だろ?」 「………あぁ……あの猫は俺の猫だ……」 「コータもだろ?」 「そう……コータとコタローは俺が飼ってる…」 「………小学校の頃にお前んちに行った時にはいたからな……いい年だわな……」 「平均寿命を超えて……大往生らしい……」 「そっか……コオは長生きさせねぇとな…… イオリが後を追いそうだかんな…」 「コオ……お前んちに行って三年か?」 「そうだ……」 「タカシは俺が正義の処へ修行に行ってる時に増えてたからな… そんな年じゃねぇけどな……」 「………生きてる者には……限りがある…… 仕方がねぇ事だ……」 「………だな……だけど……苦しむ事なく逝って欲しいと想う……」 「コータは大往生して…眠るように逝く…… 犬人生を全うして逝けると想う……」 「そっか……お前が言うなら間違いねぇよな…」 康太は……辛そうな兵藤を見た 「康太……」 「あんだよ?」 「お前に柴犬やんよ! 生まれて間もない犬だからな…… コオとイオリに子育てさせろよ 茶太郎の兄弟犬の子供だ… 母親犬が出産と同時に……死んだんだよ…… 飼い主は一匹だけ残して後は里子に出すと言ってる だから一匹貰えるように頼んでおいた 血統書はねぇけどな……コオに長生きさせる為に子育てさせとけよ!」 「………貴史……」 「……何時か……コオとイオリが召されても…… おめぇが寂しくねぇように…… コーギーとシュナウザーの子を残しておいてやるよ……」 「………泣きそうだ…貴史……」 「散歩で泣いてたらコオと変わらねぇじゃねぇかよ?」 兵藤は笑って桃太郎と歩いていた 桃太郎は飛び跳ねて楽しそうだった 兵藤は桃太郎に 「もう二度と美緒のキラキラには手を付けるんじゃねぇぞ!」と釘を刺した 桃太郎はウンウンと頷いて……尾っぽをブンブン振っていた そのしっぽには一生が巻いてくれたリボンが巻いてあった 「それ、外さねぇのかよ?」 康太が言うと兵藤は 「桃のお気に入りだ 取ると鼻水ドロドロで泣くからな取れねぇ」とボヤいた 「桃は良い味出してるよな?」 「だな、こんなポジティブな犬は珍しいな たが……気を付けねぇとコイツは怖い……」 桃太郎は康太の前に来ると、定期入れを出して鼻で押した 「お!桃、くれるのかよ?」 ワンワン! 桃太郎は嬉しそうに鳴いた 兵藤はあれ?とポケットを探ると…… 康太の目の前に…… 定期入れが置いてあった 「おい!クソ桃!やりやがったな!」 兵藤は怒った 康太が見ようとするのを必死で止めた 桃太郎はワンワン鳴いていた 『あのねぇ……この定期にね、康太ちゃんいるんだよ?』 とワンワン鳴いていた 兵藤は「………んとに恐ろしい……」とボヤいた 康太は笑って 「それはそっとしておいてやってくれ…… 出来るな桃?」 と頭を撫でて言った 桃太郎はウンウンと頷いていた いつもの散歩の何気ない日常だった ワンワン!『絶対、飼い主貴史は康太くんが好きなんだと想う!』ワワワワワン! 康太は笑ってコオを歩かせた

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