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第141話 涙
音弥は何時もフラフラ歩いていた
走りたいのに……
走るとベシャッも転けていた
兄弟と同じように走り回りたい……
そう思っていても……
何時も何時も……転ぶ
そんな時……音弥は悔しくて涙が止まらなくなる
くやちぃ……
何時も想っていた
だけど……足の治療の為に……
兄弟から引き離された
ずっといられると想っていたのに……
いられない現実に……
音弥は泣いた
なぜ?
なぜ……翔達といられない?
泣いて
泣いて
泣いて……
ベッドの上で兄弟の名を呼んだ
「かけゆ、りゅーちゃ、ちな、きゃにゃ!」
ベッドの横の机の上の写真を取る
「………かぁちゃ……とぅちゃ……」
音弥は……写真を胸に抱き……泣いた
そんな音弥を見るのが……
看護師達はとても辛かった
声なんて掛けられない位に……
慰められなかった
音弥のベッドの横の机には家族で写した写真が飾ってあった
音弥は何時も……
その写真を持っていた
看護師が「音弥君、その写真お気に入りね」と声をかけると
音弥は写真を指さして教えてくれるのだ
「かけゆ りゅーちゃ ちな きゃにゃ……かぁちゃとぅちゃ!
ちょちて、かじゅ、そーちゃ、ひゃやと、ちんいち!」と教えてくれるのだった
写真の中に……一条隼人を見つけて……
看護師は目を疑った事もある
だが、面会に来た時に……
一条隼人、本人が来たから……病院は騒然となった
「音弥君、リハビリ頑張ろうか!」
音弥は片手をあげて「あい!」と返事した
誰よりも努力して音弥は堪える
オペの後、泣きもせずに堪える姿に……
看護師達は言葉もなかった
音弥は痛くて泣くんじゃない
リハビリが辛くて泣くんじゃない
兄弟やとぅちゃやかぁちゃに逢えないから……
泣くのだ
一生や聡一郎、隼人に慎一
そして……じぃちゃとばぁちゃ、じぃたんとばぁたんに逢えなくて泣くのだ
痛くても耐えて……
耐えて……
リハビリを頑張る
だけど……写真を見ると……
泣けて来る
泣けて……
泣けて……
音弥は写真を持って眠りに落ちる
『おとたん……ちゅらい?』
夢の中に翔が出て来る
「らいじょうび……」
音弥は嬉しそうに答えた
時々……流生も出て来る
『おとたん……にゃかにゃいの…』
そう言い頭を撫でてくれる
「りゅーちゃ……あいちゃいにょ……」
音弥は泣く
「かけゆ……あいちゃいにょ……
ちな きゃにゃ……あいちゃいにょ……」
親指をしゃぶりながら……写真に擦り寄る……
「音弥君……また泣いていた……」
見回りの時に必ず音弥は泣いていた
兄弟の名を呼び上げて……泣いていた
「音弥君は兄弟仲良かったからね……」
淋しいのだろう……
「早く帰れると良いね」
看護師達は…空を見上げて……祈る
かぁちゃ……ちゃみちぃよぉ……
とぅちゃ……あいちゃいよぉ……
音弥は呟き……
眠っていた
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