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第144話 Present

康太は一ノ瀬聡哉の動物病院に来ていた イオリが鼻水を垂らしていたから用心の為だ 「なぁ聡哉…」 「何ですか?康太君」 「猫 欲しいんだけど、良いのいねぇか?」 「猫?飛鳥井で飼うの?」 「違う、兵藤んちの猫が……んなに長く生きられねぇかんな……」 「兵藤美緒さん?」 「そっか、兵藤んちのペットも此処に通院してるんだっけ?」 「猫ならコタロウちゃんですよね?」 「………コータも長く生きられねぇのに……コタロウも逝っちまったら……可哀想だからな……」 「美緒さんが?」 「美緒の息子が」 「美緒さん子供いるんだ」 「いるぜ、オレと同い年のが この前遊びに来た時にオレの横に貴史ってのいたやん?覚えてる?」 「覚えてます かなりイケメンでしたね」 「それが美緒の息子だ」 ………コタロウにコータ…… ペットの名前からして……兵藤貴史の思い人が解る 「コタロウはペルシア猫でしたね?」 「雑種でも構わねぇぜ? 血統に拘るのはアホのやる事だかんな!」 聡哉は嬉しくなってニコッと笑った 「幾ら掛かっても構わねぇんだ オレは……買い物はした事がねぇかんな…… 解らねぇんだよ ペットは伊織も範疇外だかんな……教えてもらいたいんだ」 「アメリカンショートでも良い? それだったら僕んちの母さんが飼ってる猫が子供を産んだからあげられるよ?」 「美奈代?」 「そう!子育て終わったからね…… 暇をペットで癒やしてる」 「克彦と新婚を満喫すれば良いのに……」 「義父さんはシャイだからね……」 「最近、部長に昇進したんだぜ?知ってる?」 「知ってます……昇進祝いに行きました」 「子猫は何時親と離せる?」 「もう離しても良い頃合いなので話をしたんです」 「なら貰いに行かなきゃな…」 「都合がつく日に、病院に来て貰えば渡せる様にしときます!」 「幾らになる?」 「………お金は結構です 血統があるワケでもないので……」 「………そう言う訳にはいかねぇよな?伊織?」 榊原は康太を抱き締めて…… 「……美奈代さんの好きなお酒を届けさせますか?」 と思案した 「そうするか?取り敢えず10ダース届けといてくれ!」 「解りました! ワインと焼酎とブランデーを見繕って届けさせます」 その台詞に聡哉は慌てた 「……あの……10ダースは多いよ」 聡哉が言うと 「気にするな貰っとけ!」と声が掛かった 振り返ると聡哉の恋人の陵二が立っていた 「陵二……簡単に言わないでよ」 「美奈代さんも喜ぶさ!」 陵二はそう言いコオとイオリの前に柔かなお肉の入った器を置いた コオとイオリは榊原を見た 食べちゃだめ……?光線を榊原に送る 榊原は苦笑して「食べて良いですよ」と言った するとコオとイオリはガツガツと食べ始めた 「旦那、これは桃太郎の分だ!」 陵二は榊原に桃太郎の分を渡した 榊原は受け取って鞄の中に入れた 「今日はイオリが調子悪いのか?」 「鼻水が止まらないのです」 「アレルギーか?」 「アレルギーじゃないか調べて貰ったけどアレルギーじゃないみたいなんですよ……」 「なら風邪か?」 「解らないので……様子見です」 「コオは大丈夫なのかよ?」 「………コオは床暖房がお気に入りなので、皮膚がカサカサなんで見て貰いました」 「おめぇも床暖房の虜か……」 「ボスも?」 「そう……ボスは床暖房の主だな」 陵二はそう言い笑った 康太は酒を10ダース届ける事を約束して診察を終えて帰って行った 後日、聡哉から『猫を取りに来て下さい』との連絡が入った 康太は榊原と共に一ノ瀬の動物病院へと向かった 「無理を言ったな聡哉…」 「構いません 母さんも里子を探していたので丁度良かった」 「全部引き取られたのか?」 「家に置いておくのは一匹の予定でしたが… どうしても未熟児の猫が……引き取られずに残りそうです……」 「それ、貰えねぇか?」 「………え?良いのですか?」 「蒼太んちに持って行ってやる その時に何かジュエリー貰って来てやんよ! 指輪が良いか?ピアスか?何が良いよ?」 「………え……良いですよ……そんなの……」 聡哉は遠慮した 「一条隼人の専属デザイナーしてる奴だかんな 貰っといて損はねぇぞ?」 「………なら……指輪……をネックレスで通して……」 「解った 宙夢に言っとくかんな! 出来上がったら届けるかんな!」 聡哉は真っ赤な顔をしていた 康太の指に……光り輝く指輪を見てて…… 羨ましく想っていたのだ 指輪を重ね付けしてはめていた 伴侶とペアなのは見て解る こんな風に……自然にお揃いの指輪をしてるなんて羨ましかった 康太は聡哉の自然を感じて 「この指輪はマリッジリングなんだよ」と笑った 見れば解った マリッジリング以外の何物でもなかったから…… 聡哉は康太の手に、アメリカンショートヘアの子猫を渡した 「………何か……ごまみてぇな柄だな……」 ごま……聡哉は言葉を失った 「貴史にごまって名前で渡しとこう! でねぇとコウタって付けられそうだからな!」 と笑った ………それ……笑えない…… と榊原と聡哉は想った 聡哉は「本当にお酒10ダース運んでくれて本当にありがとう!」と礼を述べた 「志津子と玲香と美緒と真矢が飲みに行くからな……」 「飲み仲間なんだよね? 美人ばかり揃って豪華だよね?」 「………本気で言ってる?聡哉……」 「………え?……」 「あんな男前の女が揃ったら…地獄だぜ?」 康太が言うと陵二は大爆笑した 「上手すぎるよ康太君!」 腹を抱えて笑う 聡哉は何も言えなかった 「なら子猫、何時でも良いから電話くれ!」 そう言い康太はキャリーに子猫を入れた 「ごま、行くぞ」 陵二は「………ごまになったんだ……その子……」と笑った 「コウタになるのを阻止するためにな!」 それは全然……笑えないよ…… 陵二は手をふって康太と榊原を見送った 聡哉は「康太君ってモテるんだね?」と呟いた 陵二は苦笑して 「どうして康太君は営業時間後に来るか解るか?」 と問い掛けた 「え?何で……?」 「康太君目当ての患畜さんばかり増えたら…… 待合室はパンクするよ? また、そんな患畜さんばかり集めたら営業妨害になるからだ!」 「………待合室で康太君の話……良く聞くね 伴侶さんの名前とか……仲間の人の名前とか……」 「だろ?迷惑にならないように配慮されてるんだ」 「………そっか……大変だね…」 「飛鳥井家の真贋にお知り合いになりたい人間は多い…… だが……まともに康太君を目にしたら逃げる人間も多い……あの瞳は驚異に映るらしいからな…」 「そんな事ないよ? 綺麗な瞳だよ?」 「その綺麗な瞳には……お前の欲しいモノが何でも映るって忘れちゃいけない……」 「……え?」 「きっと彼はお前が欲しいのをくれるさ」 「………羨ましいと想っちゃったんだ……」 「……俺も羨ましいと想うさ あんなに堂々と指輪をしてたらな……」 男同士で……お揃いの指輪をはめるのは勇気がいる…… 好奇の瞳に晒されてしまうから…… 聡哉は美奈代に子猫を貰うように電話を入れた 陵二はそんな聡哉を優しく見つめていた 康太は飛鳥井の家に帰ると、一生に兵藤を呼んでくれと頼んだ 一生は「あいよ!」と言い 一生は「飛鳥井に来い!」とLINEを入れた すると一生の電話が鳴り響いた 『一生、今は無理……!』 と兵藤から電話が入った 「何してるの?お前……」 『………言いたくねぇ……っ……』 兵藤が言うと康太は一生の電話を奪い……通話を切った 「どうしたのよ?康太?」 「………あんで最中に電話するかなぁ……」 「………最中……って……」 「セックスの最中」 「相手は?」 「プロのお姉さん」 「……そっか……悪い事をしたな」 「一生、猫、預かってくれ……」 「猫……兵藤に?」 「そう!渡しといてくれ」 「お前は?」 「オレか?病院に行かねぇとな…」 「なら連絡あったら渡しとく」 康太は榊原と共に応接間を出て行った 暫くして兵藤から電話があった 『一生、悪かった……何だよ?用は』 「……お前……頼むから最中は電話するなよ…」 『……何で解った?』 「康太が視ちまうからよぉ…… 頼むから最中は連絡は無視しろ!」 『………悪かった……で、康太は?』 「………出掛けてる おめぇにプレゼントがあんだよ…… 取りに来い!」 『プレゼントなら康太から渡されたい……』 「………多分……康太は今日はお前に逢わねぇぞ?」 「あんでだよ?」 「還ってくるなら猫を俺に渡しはしねぇからな…」 『康太は今どこ?』 「俺が知る訳ねぇだろ?」 『解った本人を捕まえるわ』 兵藤はそう言い電話を切った 一生は康太にLINEを入れといた 「貴史から連絡が入るぜ 逢えるまでやるから逢ってやれ!」 と、ヤケクソでLINEした 康太はそのLINEを見て笑った 榊原も康太の携帯を覗き込んで 「………貴史ですからね」と呟いた 榊原は康太を抱き締めて…… 「どうするんですか?」と問い掛けた 「………どうする……も……今は無理だろ?」 「………ですね」 康太と榊原は久遠と共に音弥の専門医と逢いに行っていた 今は医者を待ってる最中だった 康太は携帯の電源を落とした 榊原も携帯の電源を落とした 「お待たせしました!」 音弥の主治医がカンファレンスルームに顔を出した 康太と榊原は説明を聞く為に…… 気を引き締めた 連絡が取れない兵藤は飛鳥井に来ていた 「…一生、康太は病院にいなかったぞ?」 「……なら俺は知らんがな」 「伊織も電話を切ってやがる……」 「俺に言うな!俺によぉ!」 「本当に還って来るのかよ?」 「知らんがな……」 兵藤は一生にもたれ掛かってブツブツ言っていた 慎一が還って来て応接間を覗くと兵藤は 「慎一、康太は?」と問い掛けた 「……え?康太?伊織とお出掛けでしょ? 伊織が一緒の日は俺達は関知しません」と言い捨てた 「慎一、んとに知らねぇのか?」 「知りませんよ? そんなに知りたいなら伊織に電話を入れれば良いじゃないですか?」 「………その伊織……電源切ってやがる」 「そのうち繋がるまで待てば良いのです」 そう言い慎一は応接間を出て行った 兵藤はクシュンと項垂れた その時兵藤の電話が鳴り響いた 「康太!」兵藤は叫んだ 『………お前は着信を確かめずに電話に出るのか?』 低い……地を這う恐ろしさに…… 兵藤は着信相手を確かめた すると『堂嶋正義』と表示されていた 「………正義さん……」 『これから迎えに行く!』 そう言い電話を切った 一生は笑いながら携帯を見た そして「トイレに行って来るわ!」と言い応接間を出て行った 取り残された兵藤はスマホを取り出し…… 待ち受けを見た 「………康太…どこにいんだよ?」とボヤいた トイレから戻ってくると、一生は兵藤の手を取ると、キャリーを下げて 「行くぜ!」と言った 「……え?何処へ」 「正義さんから電話だったんだろ? 正義さんなら美味しいの期待出来そうだ! 俺も連れて行け!」 一生はワクワクと飛鳥井の家から出た 堂嶋正義のベンツが停まると、兵藤はドアを開け乗り込んだ 一生も乗り込むとドアを閉めた ミャァ……ミャァ……子猫の声が車内に響く 兵藤は「猫?」と一生に問い掛けた 「気にすんな!」と一生は笑っていた 「見せてくれよ?」 「ダメ!」 一生は断った 兵藤は「ケチ……」といじけた 車は……鎌倉へと向かう 高台を上って行くと………山寺のような屋敷に出た 堂嶋はその前で車を停めると、車から下りた 堂嶋は階段を上がって屋敷の方へと向かう 一生も堂嶋の後に着いて行った 屋敷に出ると……神取那智が一生に近寄った 「一生、康太は鍋の前陣取ってます!」 那智が一生に報告すると、一生はやっぱりな……とため息を零した 堂嶋は車から取り出した袋を那智に手渡した 「牛肉だ!」 堂嶋が言うと那智は喜んで袋を貰い受けた 那智は袋を持って歩き出した 「一生、康太なら離れにいる!」 と居場所を教えた 「あいよ!なら行くわ」 一生はそう言い歩き出した 離れの扉を開けると… 康太は汁粉を食っていた 「食うか?」 口をあずきでベタベタにして康太は問い掛けた 一生は苦笑した 「正義、肉買って来てくれた?」 「特上でなくて良いのか?」 「牛肉なら何でも良いって言ったやん それでも、めちゃくそ美味しいぜ!」 堂嶋は適当に座った 一生は康太の隣に兵藤を座らせた そして猫のキャリーを康太に渡した 康太は猫をキャリーから出した 「ごま、だ!」 「………ごま?何がごまなんだ?」 「だから、ごまなんだって!」 そう言い兵藤の膝の上に子猫を乗せた 「………ごま……ってコイツ?」 「そう、お前んちのコタロウが逝ったら……お前泣くかんな……」 「……だから……ごまをくれるのか?」 「そう!お前に名前を付けさせたらコウタしか残ってねぇかんな!」 「………良いじゃんか……」 兵藤は唇を尖らせた 「オレからお前にやんよ!」 「………悪かったな……」 「気にすんな」 「………何で連絡着かなかった?」 「この近くに音弥の病院があんだよ 今日は久遠と共に主治医の説明を聞きに行った」 康太の言葉に…… 兵藤は辺りを見渡し、やっと納得した 飲んだくれの仲間入りしてるのは…… 見紛うことか……久遠だった 「………あれ?久遠?」 「おう!厳正や那智や他のと仲良くなりがってな 来るなり酒を勧められて出来上がってな…… 今日は帰れそうもねぇかんな」 これでは……帰れそうもないわ……と兵藤は納得した 「明日、久遠を病院に返さねぇとならねぇかんな 今日は泊まりだ!」 「………ごま……餌……大丈夫か?」 「那智が餌を出してくれる トイレもあるし大丈夫だろ?」 言ってる側から那智がごまの餌を用意した ごまはミャァミャァ言いながら餌を食べた 兵藤はそれを見て「可愛いな…」と呟いた 「可愛がってやってくれ!」 「ありがとう康太……」 「気にすんな」 厳正が兵藤に酒を傾けた 「飲め!青年よ!」 言われ兵藤は口を付けた 「飲め!一生!」 「海坊主、俺を酔わせてどうすんだよ?」 一生は笑って飲んでいた 「寝てる間に顔に落書きしてやろう!」 …………少し前にやられた一生は 「やめちょくれ!俺は皆に笑われたんだぞ!」 とボヤいた 笑い声が響いた 暫しの忘却の時 元住職も周防切嗣も笑って飲んでいた…… 堂嶋も久遠も飲んで笑って 暫しの休息を楽しんでいた 兵藤は膝の上で眠りについた……ごまを何時までも撫でていた 康太からのプレゼントだった

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