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第146話 あずき
兵藤が飛鳥井の家を尋ねた
応接間に通されると、子ども達が遊んでいて
「ひょーろーきゅん!」
と兵藤を見つけて大喜びしていた
流生は兵藤のお膝に顔を埋めて
「ひょーろーきゅん ちゃみちきゃった……」
と訴えた
「流生、ごめんな」
兵藤は流生を撫でた
音弥もソファーによじ登り、兵藤を抱き締めて
「ひょーろーきゅん…げんち?」
兵藤は音弥の頬にキスを落として
「兵藤君は元気だぞ!」と答えた
太陽も近寄り
「ちな……えんえん……ないちゃ……」と訴えた
「そっか……逢いに行ってやれば良かったな」
太陽の頭を撫でて兵藤は答えた
大空も「ひょーろーきゅん……あいちゃきゃった」と抱き着き
「大空、兵藤君も逢いたかったぞ」
と笑った
翔るが黙って傍に寄ると小さな手で額に触った
「ひょーろーきゅん……ねちゅ……」
「………畜生!おめぇは誤魔化せねぇな!」
と悔しがった
「かぁちゃ ちっちぇる!」
「だよな……康太は誤魔化せねぇ奴だもんな…」
兵藤は苦笑した
子ども達に引っ張りだこの兵藤に康太は声をかけた
「貴史、今日はどうしたよ?」
「今日は約束のあずき……連れて来たぜ」
兵藤はそう言いキャリーから、あずきを出した
小さな柴犬が……
キャリーから出されて……戸惑っていた
キュン…キュン……小さな声であずきは鳴いた
榊原は「……何故……あずき……ですか?」と尋ねた
「………名付け親は康太だ!
美緒は知り合いも自分ちも……
生まれた犬や猫は……康太に名付け親になって貰うからな……」
初めて聞く話だった
「……あ……あの日の……子犬ですか?」
榊原は思い出した
兵藤は苦笑して「そうだよ!」と答えた
一生は「教えろよ!」とボヤいた
榊原が「康太は腹減りだったんですよ」と話した
一生は「………康太は何時も腹減りだろ?」と答えると……
康太から蹴りを食らった
「康太はお腹が減っていたんです
そんな時に連れられて来た子犬が美味しそうで……
今よりも茶色が強かったから……あずき……と名付けたのです
その後、茶屋に連れて行ってお汁粉と鯛焼きを食べさせました
相当……あずきが食べたかったみたいでした……」
と苦笑しながら説明した
一生は子犬を抱き上げ
「柴犬の子犬か……
めちゃくそ可愛いんだよな
コロコロ転がるように走るからな!
散歩に慣れさせねぇとな」
足の太い元気な子犬を確かめた
「………なぁ一生…」
「あんだよ?康太」
「……コーギーとシュナウザーの子供が柴犬ってどうよ?」
「どうよ……とは?」
「仲良く出来るのかよ?」
一生はあずきを抱っこしてコオとイオリの方へ向かった
床に置くと……
コオはイオリの後ろに隠れた……
あずきは『ねぇねぇ!』と近寄って行く
イオリは鼻であずきを押した
『コオの方に来ないで下さい……』
キュンキュン『……ボク……きらい?』とうるうるの瞳で……見られて……
イオリは後退った
『コオ……小さすぎて怖いです』
『………イオリ……コイツ可愛いから……好きになっちゃった?』
コオはプンッとそっぽを向いた
『コオ……コオ…』
イオリはコオをペロペロと舐めた
『僕が愛すのはコオだけです』
イオリはせっせとコオに愛を囁いた
コオはコロコロ歩くあずきを見ていた
いたずら盛りの子犬はコロコロ歩き悪さする
ついついコオは『ダメだよ、それは』と世話を焼く
『ねぇ……ボク……嫌い?』
コオはあずきをペロペロ舐めた
『なんて名前なの?』
『あじゅき』
『あずき……か、美味しそうな名前だね』
『ママとパパに逢わせてくれるって言ったの』
あずきは尻尾をフリフリ嬉しそうに言った
『………あずきのママとパパ……って誰?』
コオは躊躇した
イオリは、あずきの匂いを嗅いでいた
『ママ、パパ』
とあずきはコオとイオリに擦り寄った
コオとイオリはピキッ………と固まった
イオリは『………僕の子じゃないですからね!』とコオに訴えた
コオは『解ってるよ……見るからにイオリの姿とは違う……』とイオリを慰めた
康太はコオとイオリの傍まで行った
「コオ、イオリ、お前達の子供だ!
あずきって言うんだ!」
コオはキャイン……と鳴いた
『………オレの子供……』
イオリもキャインと鳴いた
『………僕の子供……』
コオとイオリは互いを見つめ合った
そして……あずきを見た
康太は「コオが長生きする為に貴史が用意してくれた、お前達の子供だ!」と2匹を撫でて言い聞かせた
イオリはあずきの匂いを嗅いで……ペロペロ舐めた
『奥さん、僕達の子供だって……』
コオもあずきをペロペロ舐めた
『………オレ達……子持ち?』
イオリは妻を舐めた
『コオ…君を長生きさせる為に……
貰われて来た子みたいなので……
大切にしないとダメですよ?』
『………イオリ……オレは子育てはした事がねぇ…』
『大丈夫です
飼い主康太のように母さんになれます』
『………イオリ……』
甘い時間を……ぶっ壊す音が響き渡る
コロコロとあずきが悪さをしていく
コオとイオリは初日からあずきに手を焼いた
へとへとになるまで、あずきを構って……
丸くなると2匹で寄り添った
その間を掻き分けて、あずきが潜った
母さんコオの懐に……
父さんイオリに抱かれて……
あずきは眠った
3匹で丸くなる様子を見て、康太は笑った
兵藤も「何とか仲違いしずに暮らせそうだな…」と胸をなで下ろした
榊原は康太を抱き締め
「僕達みたいに仲の良い親子になれます」と言った
流生がとぅちゃに抱き着き
「りゅーちゃ!にゃきゃいい!」と訴えた
榊原は流生を抱き上げて
「流生、君達は僕達夫婦の宝物です」と言い
流生の頬に口吻けを落とした
康太は翔を抱き締めた
「翔、修行は厳しいけど……
オレは誰よりもお前を愛してるかんな…」と囁いた
大切な我が子だった
康太の宝物だった
翔は康太の胸に顔を埋めて
「かぁちゃ……らいちゅき」と甘えた
修行の時は鬼のように厳しくても……
それ以外は優しい母だった
翔はちゃんとそれを知っていた
太陽が「じゅるい……」と言い康太に抱き着いた
大空も「きゃにゃも!」と抱き着いた
音弥も流生も抱き着いて……
康太は5人の子を抱き締めた
「かぁちゃはお前達を愛してるかんな!」
そう言い一人ずつキスを落とした
「らいちゅき、かぁちゃ とぅちゃ」
流生は榊原を引き寄せて、かぁちゃと共に抱き着いた
榊原は幸せそうに笑っていた
あずきが来た日
応接間は愛に満ちて……
笑い声が絶えなかった
家族や仲間はそれを見守り……
目尻を下げていた
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