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第149話 おとたん

お正月に音弥が帰ってきた 兄弟は大喜びした ………が、お正月が終わると音弥は病院に帰らなきゃならなかった 朝から音弥は泣きっぱなしで…… 兄弟は音弥をかばって護っていた 「音弥…」 康太が名前を呼ぶと…… 流生達が音弥の前に立ちはだかった 康太は困った顔して……榊原を見た 榊原も困った顔して……どうして良いか解らなかった 音弥は……瑛太に抱き着いた 「えーちゃ……えーちゃ……おとたん……いやら…」 泣きながら瑛太に抱き着いて訴えた 飛鳥井の家の中で一番甘い奴へ甘えたのだ 瑛太は音弥を抱き締めて…… 「音弥、嫌なら家にいれば良い……」 と言う始末だった 挙げ句、清隆にも抱き着いて…… 流生は訴えた 「じぃちゃ……おとたん……かわいょう……」 清隆も「嫌なら行かなくても大丈夫です」と流生を撫でながら言った 太陽と大空は玲香に 「「ばぁちゃ……おとたん……」」 と涙ながらに訴えた 玲香は可愛い孫の訴えに…… 「解った!音弥は何処へも行かなくてもよい!」と康太と榊原に談判する事になった 玲香が「子ども達は離れずに生きて来たのだ…… 離す方が酷と言うモノであろうて!」とすっかり孫に甘いばぁちゃになった 瑛太も「もう音弥は十分頑張りました…… 兄弟の元に戻してやっても良いでしょう…」と訴えた 清隆も「音弥は家からリハビリへ行けばよいだろ?」とすっかり甘いじぃちゃは言うのであった 翔はじっと康太を見て 「おとたん……きゃえりちゃい…」と呟いた 榊原は「久遠先生に相談して来ます…」と言い立ち上がった 康太が榊原の手を取ると 「伊織…オレも……」と言った 榊原は康太を立ち上がらせると腰を引き寄せて抱き締めた 慎一も立ち上がって 「俺も一緒に行きます」言った そうなると一生も黙っちゃいない 「俺も一緒に行く!」と言い出し皆で応接間を出て行った 飛鳥井記念病院まで歩いて向かうと… クラクションを鳴らされた 振り返ると神野が手をふってた 「康太、乗るか?」 「オレは病院に行くから……乗っても直ぐに着いちまう」 「なら先に病院に行って待ってる」 「何か用か?」 「用はねぇよ 康太といてぇだけだ」 神野は笑っていった 「なら帰りは乗せてってくれ」 「解った、なら先に病院に行ってる」 と言い走って行った 病院に到着すると待合室で神野は待っていた 慎一は受付に行き久遠に飛鳥井康太が来たと伝えてくれと言った 受付はその場で久遠に連絡を入れてくれた 待合室で待ってると久遠がやって来た 「よっ!坊主、体調悪いのか?」 「違う……久遠…どうしたら良い?」 泣きそうな顔で康太は訴えた 久遠は榊原を見た 榊原は詳細を久遠に話した 「………そりゃ……帰りたくねぇわな…… あの兄弟はどれか一人でも欠けたらダメだからな… そうか……やっぱり還らねぇと言い出したか…」 「………アイツ等……瑛兄や父ちゃんや母ちゃんに泣きつけば何とかなると想っていやがる……」 康太がボヤくと久遠は爆笑した 「子供ってよく見てるんだよな」 「………久遠んとこもそうか?」 「あぁ……志津子さんと悟が甘いからな 俺の言う事なんて聞きやしねぇよ…」 「………良し悪しなんだよな……」 「だが……救いのねぇ状態よりは良いだろ? 贅沢な悩みだと俺は想うぞ」 「………贅沢な悩みだよ…… でもな……本当に泣かれるのは辛えんだよ」 「音弥の病院の方には俺の方から話しとく 後はリハビリだろ? うちは小児は無理だからな近くの病院に聞いてみて通えるようにしてみる」 「………久遠……世話かける……」 「気にするな 兄弟仲良くて良いと想え あの兄弟が飛鳥井を作って逝くんだ どれか一人でも欠けたらダメなんだろ?」 「………親って難しいな……」 「親はマニュアルがある訳じゃねぇからな… どうして良いか……手探りが多い…… 俺も……未だに親って解らねぇからな…… 坊主にアドバイスは出来ねぇよ」 「………子供に泣かれると……泣きたくなる……」 康太はボヤいた すると一生は 「本当に子供と一緒に康太は泣くからな…… ワンワン……号泣の嵐は俺らも困ったな…」 と苦笑して言った 康太だから……あり得る事だから…… 久遠も苦笑した この日、音弥は…… 病院には行かなかった 兄弟や家族に抱き着いて…… 何時までも……泣いていた 泣いて…… 泣いて…… 眠りについても…… 泣いて…… 他の子はずっと音弥を護って…… 護って…… 眠りについても…… 護っていた 五人の兄弟の絆を見せ付けられた出来事となった 後日、音弥はリハビリに通い出した 飛鳥井建設の近くの病院へ通う事となった 「おとたん……いっちょ……いい……」 音弥は泣きながら……        そう言い続けた 神野は親の苦労というのが、陣内の子供を貰って初めて解った 康太の苦悩が神野には解った これから自分も親として生きて逝くのには何度も壁に出くわすだろう…… そんな想いで神野は康太達を見ていた 親の痛みは…… 親にならねば解らない 神野は今親になって、少しだけその痛みが解り始めていた

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