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第154話 雪

外はしんしん雪が降っていた 底冷えする寒さに、深夜から降り出した雨は 朝には雪に変わっていた 子供達は鼻水を垂らしながら‥‥ 寒さに震えていた 起こしに来た一生に流生は 「ちゃむい‥」とボヤいた 一生は「雪降ってるからな寒いわな」と教えてやった 流生は瞳を輝かせて「ゆち?」と問い掛けた 一生は窓を開けると 「ほら、お外は真っ白だぜ」と教えた 音弥はブルブル震えた 布団の中に再び入り込んだ音弥を見て‥一生は窓を閉めた 「こら音弥‥‥起きろって」 「おとたん‥ちゃむいの いやら!」 音弥は布団から出る気は皆無だった 一生は翔のパジャマを脱がせて服を着せた 慎一が顔を出すと子供達は喜んだ 太陽は「ちんいち ゆち!」瞳を輝かせて言った 慎一は「降ってますね」と太陽のパジャマを脱がせて着替えさせた 大空のパジャマを脱がせて着替えさせ 音弥のパジャマを脱がそうとした すると音弥は布団をギュッと持って抵抗した 「音弥、どうしました?」 「ちゃむいの‥」 「雪は見ませんか?」 「ゆち みるにょ……れも……ちゃむいの…」 雪は見たいが寒いと言う 慎一は苦笑した 康太が顔を出すと子供達は喜んだ 流生が「かぁちゃ ゆちぃ!」と訴えた 「今回は、んなに降ってねぇぞ?」 「れも ゆち ちゃわりちゃい!」 流生は瞳を輝かせて訴えた 康太は流生を抱き上げてベッドからおろした 「うし!なら屋上に行くか?」 「やったー!」 流生は喜んでいた 音弥ばバイバイと手をふっていた 「音弥は雪、見たくねぇのかよ?」 「おとたん ちゃむいの や」 「ならお部屋にいろ」 そう言われると……何だか淋しい…… 「おとたん いきゅ!」と泣き出した 太陽と大空はワクワクとしていた 太陽と大空もベッドからおろすと。榊原が烈を抱っこしてやって来た 太陽は「れちゅ!」と嬉しそう 榊原は「どうしました?」と問い掛けた 「雪降ってるかんな屋上に行くんだよ」 康太が言うと榊原は……… 「………今は雨になってるので辞めませんか?」と問い掛けた 「見てぇんだから良いだろ?」 康太はそう言い流生と手を繋いで屋上の方へ向かった 階段を上がりドアを開ける すると……太陽光発電パネルの上に雪が積もっていた 康太は「寒みぃな…」と呟いた 榊原は烈を慎一に預けて康太を抱き締めた 子供達は真っ白な雪に興奮していた 康太は慎一から烈を渡してもらった 「烈、おめぇが初めて見る雪だぞ!」 烈は不思議そうに空を見ていた 子供達は何かを見付けたのか、鉄柵に捕まりキャッキャッと喜んでいた 「おーい!」って流生が叫んだ 「お!流生じゃんか!」 「「「「「ひよーろーきゅん!」」」」」 と子供達は叫んだ 康太も鉄柵から覗くと、雪かきしている兵藤と目が合った 「雪だるま作ってるのかよ?」 康太が聞くと兵藤は 「それは無理だろ? 純粋に雪かきしてるんだよ」 「来るか?」 「行きてぇけどな用事がある」 「そうか……気を付けて行けよ」 康太はそう言い手をふった 「雪、ベシャベシャだかんな 家に入るぞ?」 康太が言うと子供達は名残惜しそうに…… 最後に雪に触った 大空は「ひよーろーきゅん きょにゃいにぇ…」 と少し淋しそう 「ほら、中に入るぞ」 雪がそんなになくて残念そうな子供達を家の中へと入れた 応接間に連れて行くとコオが丸くなって鳴いていた そんなコオにイオリとあずきが付きっ切りで舐めていた 康太は「…………そうか……逝ったか……」と呟いた コオは耐える様に丸くなって鳴いていた 榊原は康太を抱き締めて 「何かありましたか?」と尋ねた 「………コータも……年だからな……召された」 血が教えるのか…… コオは母親の死を嗅ぎ分けて……鳴いていた 榊原は何も言わず康太を抱き締めた 「……誰か貴史の側にいてやってくれ……」 康太が言うと一生が立ち上がった 「俺が側にいる」 そう言い一生は応接間を出て行った 榊原は康太を抱き締めたままソファーに座った 慎一は子供達をソファーに座らせた 「………そろそろ……かと想っていた…… 年末からコータは散歩にすら来てねぇからな…」 「……コータ……天に召されましたか?」 「コタロウと言う猫とコータが……同時に……逝った」 「どちらも貴史の……ですよね?」 「そうだ……忙しい美緒に変わり貴史の側にいた子達だ コタロウとは一緒に寝てたからな……キツいだろうな」 「………コータはコーギーでしたね」 「コオの母ちゃんだ 高齢出産させて……コオを生み出した 犬は何匹か産むけど……殆ど死産だった その中でコオだけ生きていた……奇跡の犬だ」 「………犬は……呼び合うのですか?」 龍の様に…… 魂の共感するのか…… 「………どうなんだろ? だけどコオは母親が……死んだの知ってる」 「………貴史は……辛いでしょうね……」 「………ごまじゃ……コタロウの代わりにもならねぇからな……コオを返すか?」 「………それは無理ですよ…… コオやイオリ、あずきは飛鳥井の家族ですから……」 だから……飛鳥井から送り出してやるべきだろう……と榊原はそう言った コオはキュンキュン鳴いていた 康太はコオを見ながら……微笑んだ 「おめぇが命懸けで生んだコオを誰よりも幸せにしてやるからな……」 ワンワン…… 犬の鳴く声が応接間に響いた 窓の外は…… また雪が降っていた 聡一郎が応接間に来ると…… 康太は悲しそうに榊原に抱き締められていた 聡一郎は「何かありましたか?」と尋ねた 「聡一郎、コタロウの写真……伊織に見せてやってくれ ついでにコータの写真も…」 そう言われ聡一郎は応接間を出て行った 榊原は康太に「写真……あるのですか?」と尋ねた 「まだ元気だった頃 飛鳥井に連れて来てたからな……」 「…………僕は…知りませんでした」 「………美緒が連れて来てたんだ オレと貴史は疎遠の時期があった そんな時でも美緒と母ちゃんは仲が良かった それだけだ……妬くな伊織」 「僕の康太でしょ?」 「あぁお前のもんだ総て……」 康太はそう言いニカッと笑った 聡一郎は部屋から写真を手にして応接間に戻ると、榊原に写真を渡した 写真の中には兵藤美緒と猫とコーギーとで映っていた 兵藤美緒はペルシア猫を抱っこしていた 「この猫がコタロウ?」 「ペルシア猫なのにな……ネーミングセンスないって美緒は怒っていた ペットの名前総て……オレの名前をもじってあるかんな」 ペルシア猫は気品高く美緒の腕の中にいた 「………この猫も……」 「………あぁ……召された」 康太が言うと聡一郎は驚いた顔をした 「………召されたって……コタロウが?」 「………コータとコタロウが同じ日に……召された」 「………コータとコタロウが…… 貴史は辛いでしょうね……」 「一生に行かせた」 「……なら僕も後を追います」 そう言い聡一郎は応接間を出て行った 「………命は永遠にじゃねぇからな……」 「………彼等は……人よりも短い人生を送る事となりますからね……」 「………コオが……年上だからな…」 康太の心配は……何時もそこへ行く…… コオを亡くしたイオリが…… どうなるのか…… 考えたくなんかなかった あずきは悲しそうにコオを舐めていた コオはあずきを咥えると自分の側に置いた そして引き寄せて……舐めてやっていた 三匹はもう家族だった 「………康太……今は考えなくて良いです……」 康太は瞳を瞑った お願いだから…… 一分一秒でも長く…… その想いは……自分の想いと重なる 我が子といたい……自分の想いと重なる この子達といさせてください…… この子達が大人になるまでいさせて下さい…… 少しでも長く…… 側にいさせてください…… 康太の頬から一筋の涙が……流れた 流生は康太の膝によじ登り、涙を拭いた 「かぁちゃ…」 「流生……」 翔もお膝に縋り付き「かぁちゃ!」と呼んだ 音弥も太陽も大空も康太に抱き着いた 大空が康太の頬にキスを落とした 「にゃきゃにゃいにょ!」 太陽も「あいちてりゅ!」と言い康太にキスした 康太は我が子を腕に抱き締めて…… 「おめぇらはオレの宝物だ」と笑った 慎一は黙って……主を見ていた 主…… 貴方の手を必要としている人は多い…… そんな人達の為に…… 一日でも長く生きてください 慎一は祈っていた 主の日々を祈っていた…… 榊原は我が子と康太を抱き締めていた 静で寡黙な男は何時も愛する者だけ見守っていた 子供達は康太の膝の上で眠ってしまった 慎一は一人ずつソファーに寝かせてブランケットを掛けた 雪が……降っていた 静に降っていた コタロウ ずっと一緒だね コータ 淋しくないね 二匹は何時までも仲良く丸くなった 息が弱り…… 意識が霞む この世の終わり その瞬間……二匹は仲良く重なり合い…… 天へと召された

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