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第157話 桃太郎のお気に入り

最近の桃太郎のお気に入りは、康太の家にいる犬 「タイショウ」だった ホワイトスイスシェパードと言う種類の真っ白な犬だった 尻尾をフリフリ美緒に強請る ワンワン『飛鳥井に行こうよ!』誘う 美緒が忙しいときは息子の貴史にせっつく 「あんだよ?桃、飛鳥井に行きてぇのかよ?」 ワン!桃太郎は元気に返事した 兵藤は桃太郎を連れて飛鳥井の家へとやって来た 飛鳥井の家に入れて貰う 桃太郎は応接間へと急ぐ 応接間の横のスペースに桃太郎の目的の犬が座っていた 桃太郎はタイショウの傍へと近寄った 兵藤は康太に 「………あの犬、増えたのかよ?」と問い掛けた 何処か淋しそうに…座っている犬 「あの犬は……飛鳥井建設に呼んだ食堂のおばちゃんの犬なんだよ おばちゃん……入院してるからな預かってる」 「桜林の食堂のおばちゃんのか… 桃太郎がお気に入りみてぇだからな 長く入院しねぇとダメなのか?」 「………どうだろ? おばちゃん……身寄りがなくてな 困っていたから預かったんだ 桜林の食堂で働いていたのを定年で飛鳥井の会社に来て貰ってる 無理してたんだろうな……倒れた時にはかなり酷い状態だった おばちゃん……頼れる人は誰もいないって泣いてた だから犬を……頼むって泣かれたからな……預かった」 「俺に出来る事なら何でもしてやるぜ?」 「………おばちゃんに……もしもって事があったら…… タイショウをどうしようかって話は上がると想う… 震災で家族を亡くしたから……こっちに出て来たみたいだからな……本当に身内がいねぇんだよ」 「ホワイトスイスシェパードか……」 「え?レトリーバーじゃねぇのか?」 「………どう見ても違うやん……」 「珍しい犬なのか?」 「今は日本でもブリーダーがいるから、そんなに珍しくはねぇだろ?」 「……タイショウは飼い主を亡くす事になるのか…」 康太が呟くとゴツンッと兵藤に叩かれた 「治って迎えに来るって言ってろ! 犬だって解るんだぞ! んな事を聞かせてやるな!」 康太はニコッと笑って兵藤の首に抱き付いた 「優しいんだな…」 「俺は遥か昔から優しかったぜ」 「………だな……お前は……ずっと優しかったな…」 兵藤は何も言わずタイショウを見た 「………飼い主にもしもの事があったら…… 俺が引き取ってやる……」 「……貴史……」 「だからお前は何も考えるな」 亡くした想いは誰よりも強い 亡くしたくない想いも誰よりも強い 兵藤は長年傍にいてくれた家族同然のコーギーのコータとペルシャ猫のコタロウを亡くした 桃太郎はタイショウの毛繕いをしていた タイショウは嬉しそうに寛いでいた コオとイオリやあずきもタイショウの傍にいた 桃太郎が『タイショウ大好き』とワンワン鳴く コオやイオリもワンワン鳴く あずきはコロコロとタイショウに纏わり付いた タイショウは『潰しそうで怖いな』とあずきを舐めた 五匹は仲良く過ごしていた この夜、桃太郎はお泊まりさせて貰った 飼い主の貴史がお泊まりしたからだ! タイショウにくっついて眠る タイショウは遠くを見ていた その瞳には何が映っているのか…… 飼い主を想って過ごすタイショウの姿が哀しくて…… 桃太郎は初めて哀しいと味わった ご主人様…… ご主人様…… 傍にいたいよぉ…… タイショウの想いが痛かった タイショウはご主人様が大好きな犬だった

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