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第158話 尻尾のリボン②

桃太郎はしっぽのリボンを気に入っていた 一生が巻いてくれたリボンなのだ 何時もしっぽを見て、リボンを見ると嬉しくなった だけど…… ずっと巻きっぱなしのリボンはしっぽには良くなかった うっ血してしっぽへ行く筈の血の流れが堰き止められてて……しっぽの状態が悪くなった 一ノ瀬動物病院の院長 一ノ瀬聡哉は 「リボンは外さなきゃ駄目です」と言った うっうっうっ……… 桃太郎は泣いた だが聡哉は更に続けた 「このままうっ血してると神経とかにも悪影響だけど、皮膚組織にも悪影響があると想うんだ この尻尾、毛が抜けてるでしょ? 皮膚病の可能性もあるし、掻き毟ってるでしょ? ばい菌が入ったら感染症とかも気にしないとダメになって来るからね……取りましょう」 美緒は息子を見た 兵藤は……桃太郎を見た 桃太郎は兵藤に縋るように……うるうる見ていた 「………リボン、取ります」 兵藤はそう言いリボンを解いた 桃太郎は鼻水を垂らして……うっうっうっと鳴いた 聡哉は「リボンの代わりのモノを与えてあげて下さい」と言った 美緒は聡哉に 「………頼むから……それを一生に言ってくれぬか?」と訴えた 「……え?……一生って康太君ちの一生君?」 「そうじゃ!あのリボンは一生からのプレゼントなのだ! 桃太郎は一生がお気に入りなのじゃ 一生がくれるモノならつけるであろうて」 「………一生君、来てくれるかな? そしたらお話しするよ」 美緒は息子を見た 暗黙の圧力 兵藤は携帯を取り出すと一生に電話を入れた 「一生か?」 『お!貴史か?どうしたよ?』 「一ノ瀬動物病院に来てくれねぇか?」 『おー!偶然、俺も今からそこへ行く所だ!』 「え?何かあったのか?」 『あずきがな側溝に落ちて怪我したんだよ』 コロコロちまちま動く子犬は動きが予測がつかない時がある…… 「なら待ってるな」 『後少しで着くからな』 その言葉通り、一生は電話を切ってそうしないうちに病院に来た 腕にはバスタオルに包んだあずきを抱いていた 聡哉は一生に近寄った 「あずきちゃんどうしたの?」 「コロコロ歩き回るからな、公園ではリードを外していたんだよ そしたら大きな犬に驚いて……闇雲に走りやがったからな、側溝に落ちて怪我したみてぇなんだ……」 キュンキュン鳴くあずきを見て聡哉は、あずきを受け取った 診察台にあずきを乗せて、聡哉は一生に 「一生君、桃太郎君のおしっぽね このままだと皮膚病とかになるからね 後、最悪おしっぽを切る事態になるかも知れないから……変わりのを与えてやってくれないかな?」 桃太郎のしっぽには包帯が巻かれていた なのに相当嬉しいのか、しっぽをブンブン振っていた 「……変わり……って?」 「何でも良いよ しっぽのリボンの変わりになりそうなヤツなら」 「………困ったな…… 何か探してみるわ」 聡哉は桃太郎を見た 桃太郎は相当一生が好きなのか、しっぽがちぎれそうになる程振って、一生の顔をぺろぺろ舐めていた 美緒は「悪かった……頼むな一生……」と一生に謝った 一生は笑って「しっぽにリボン結んだのは俺だしな…… 桃太郎に悪い事したのは俺の方だから、気にしなくて良いです」と言った 一生も……こんなに桃太郎がリボンを気に入るとは想っていなかった しっぽの包帯を見て…… 可哀相な事をしたな……と痛感していた あずきは聡哉に治療されていた あっちこっち切り傷だけで、大きな外傷はなかった 「一生君、切り傷だけで大きな外傷はないよ 骨もね触っても痛がらないから、明日凄く腫れたら来てくれないか? そしたらレントゲン撮るからね」 「解った……診察外なのに助かった…」 一生は聡哉に礼を言った 聡哉は手際よく薬を塗って手当てをしていた 美緒は一生に「何に乗って来たのじゃ」と問い掛けた 「俺?俺はタクシーで来た あずきを車に乗せたら怪我が悪化するからな」 じっとしていない子犬だから、車に乗せても大人しくはしてくれない 美緒は「なら飛鳥井の家の前で下ろしてやろう 一緒に乗って行くがよい!」と言った 一生は笑って 「助かる!」と喜んだ 兵藤は「今日は康太はいねぇのかよ?」と問い掛けた 「…………康太はインフルエンザだ…」と告げた 兵藤はギョッとした 「………インフルエンザ……じゃ…寝込んでるのかよ?」 「………インフルエンザで外に出ようとしてるからな… 旦那が会社を休んで見張ってる…」 その言葉に納得 康太が大人しく寝てるなんて…… 相当重体じゃなきゃ有り得ない 美緒は「なら飛鳥井に行ったらケータリングを頼むとしようぞ!」と提案した 一生は渋い顔をした 「………康太はインフルエンザだぜ? 飛鳥井に来たらインフルエンザが移るかも知れねぇぞ?」 一生が言うと美緒は笑い飛ばした 「ちょうど良かった 我は後援会のご婦人方との会食は苦手なのじゃ 玲香と食事会するなら我先に逝くがな…… 海老様の良さも解らぬ愚か者との会食は御免なのじゃ だからインフルエンザ、是非とも掛かりたいと想うのじゃ!」 喜び勇んで飛鳥井に行こうとする 兵藤が「………そう言えば……俺の物心つく頃から美緒はインフルエンザなんて掛かってねぇよな?」と呟いた 一生はギョッとした顔をした 最強やん…… きっとインフルエンザも遠慮する強さなんだろうな…… あ……でも、最強の康太が引いたインフルエンザだからな……ひょっとしたら……もあるな 美緒は運転手を呼ぶと、聡哉にお礼を言って病院を後にした そしていざ、インフルエンザの巣窟、飛鳥井へ! 飛鳥井に行くと、康太は起きていた 兵藤は「起きてて良いのかよ?」と想わず尋ねた 「寝てるだけって暇やん?」 何という言い草 聡一郎は笑って 「康太が大人しく寝てる時は僕達も覚悟が必要な時だろうからね…… インフルエンザでも起きてる方が安心だよね」と胸の内を告げた まぁ……そうなんだけど…… 康太は「タミフルは飲んだ!」と豪語した それは当たり前ですやん……と一生はボヤいた 美緒は康太を抱きしめると、唇にうちゅーっとチューした 康太は驚いて美緒を見た 「我はインフルエンザになりたいのじゃ…」 「………母ちゃんと同じ事を言ってら……」 康太は呆れていた 桃太郎はコオとイオリとタイショウの所へ行った 『逢いたかったよぉ~』 みんなと共にいる時間は楽しい 桃太郎はゴロゴロとみんなに甘えた ワンワンワン『みんな大好き!』 桃太郎は吠えていた 結局、美緒も玲香も兵藤もインフルエンザには掛からなかった 一生は蒼太の恋人の宙夢の所を尋ねていた 「すまねぇな……アクセサリーじゃねぇのに相談して…」 「構わないよ それより、本当にこの指輪……壊しても良いの? 大切にしていたんじゃないの?」 宙夢は一生が手渡した指輪を見ていた 使い込んだダイヤの指輪だった 高価なモノではないが、愛する人から贈られたのであろう 大切に大切に使われた痕跡があった 「その指輪……お袋が遺したモノなんだ」 「そんな大切なモノを首輪に入れちゃって良いの?」 「あぁ、俺は……嫁は作らねぇからな…… 渡す嫁なんていねぇからな…… なら……桃太郎にやるつもりだった」 その方が大切にして貰えるだろうから…… 宙夢は「解った!リボンを誂えた首輪、確かに作るからね!」と一生の依頼を請け負った 「費用は前払いですか? 後払いですか?」 「費用はね、材料費だけで良いよ 僕の言う材料を買って来てくれるなら 後は要らない」 「……え……それだと貴方の儲けにならない……」 「僕は蒼太に養われてるからね そんなに稼ぐつもりないから大丈夫だよ!」 そう言い宙夢は紙に材料を書き出した 一生は言われた通りのモノを宙夢に届けると、一週間後 桃太郎の首輪が出来上がった 物凄く可愛い首輪が出来上がった 桃太郎の首輪の上の方には青いリボンが結んであった その真ん中に一生の母親の形見のダイアモンドが埋め込まれていた 一生は宙夢にケーキの差し入れをして、首輪を受け取った お代は受け取らないだろう宙夢への感謝の気持ちだった 首輪を受け取り兵藤の家へと向かった 兵藤の家の中に通された一生は応接間へと招き入れられた ソファーに座ると兵藤もその横に座った 「桃太郎の首輪が出来た!」 そう言い一生は紙袋を兵藤に渡した 兵藤は紙袋を受け取り首輪を手にした 物凄く可愛い首輪だった 兵藤はリボンの真ん中に埋め込められたダイアモンドを見た 「ダイヤ…ホンモノじゃねぇか…」 兵藤が言うと美緒も覗き込んだ 兵藤は「どうしたのよ?これ?」と尋ねた 「お袋が……死ぬ前に嫁が出来たら渡せと……俺にくれた指輪だ…… この先……俺は嫁を貰う事はない……だから桃太郎にやろうと想った 大切に何時も見て貰える所へ行った方がお袋も本望だろうからな……」 兵藤は一生の頭をポコンッと殴った 「……なら力哉にやれよ……」 「力哉が持てば……罪悪感を抱く そして自分を責めるんだ……」 「なら……流生に…」 「流生にはこの耳のダイヤをやる事になってる 亜沙美の母親の形見を俺が貰った それは何時か流生に渡す為だと俺は想っている」 だから緑川の母親からの指輪は誰にも渡せなかった……と一生は言った 兵藤は「なら桃太郎に受け継がせるな」と一生の肩を抱き締めた 「桃太郎は子を作らせる 桃太郎が死んだら…… 桃太郎の子供が受け継ぎ着ける… お前の想いは無にしねぇよ!絶対にな!」 「……ありがとう……」 「一生、おめぇが着けてやってくれ!」 兵藤はそう言った 一生は桃太郎の前に座ると、今はめてる首輪を取った そして次に着ける首輪を見せた 「桃太郎、しっぽの変わりのリボンだ!」 一生が言うと桃太郎は嬉しそうに尻尾を振り ワンワンワン!!『一生ありがとう!!』と言った この日から桃太郎のお気に入りは首輪のリボンになった 玉三郎にもコオにもイオリにもボスにも自慢した首輪だった ついでに康太にも自慢した 『康太君、見て見て!この首輪!』 康太は桃太郎の頭を撫でた 「良かったな」 そう言うと首輪を自慢するように胸を張って吠えた ワン ワワワン!『僕の首輪、凄いでしょ!』 桃太郎の自慢の首輪だった しっぽにはふさふさの毛が生えていた

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