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義兄弟(6歳と8歳の話)

 良家の子女ばかり狙った人攫いが、隣町で新しく毒牙にかかった令嬢の家に身代金を要求したと新聞が報じていた。  攫う際の手間を考えたのか、これまで狙われたのは年端もいかない少女がほとんどとは記事に書いてあるが、子供やその親にとっては恐ろしい話に変わりない。 「嫌な話ですねぇ、坊っちゃんたちも外に出るときは気をつけてくださいね」  お手伝いのトミさんが顔をしかめるのに相槌をうってから居間を出て、自室で読書でもするかと廊下を歩けば、背後からぎゅっと抱きつかれるのを感じた。 「流」  シャツの胸元にある、台所で手伝いをしていた指はほんのり紅い。 「何です」 「人攫いが近くに出たってね」 「みたいですね」  やたら接触が多いのは慣れたつもりだが、出し抜けに仕掛けられると心臓に悪い。離してくださいと振り向けば、ニ月前に出来た天女の如き美貌の義兄は、首に回した両腕を緩めてにやりと目を細めた。 「ねえ、その犯人を捕まえようよ」 「は?」 「だから、僕がわざと捕まるから、その現場を押さえるんだ」 「馬鹿なんじゃないですか」  遊びを提案するように軽く言われたので苦言を呈せば、小首をかしげられた。  資産家の両親を亡くし、祖父に世話になったことがあるという今の養父が引き合わせた時から、あまりに眩い容貌にたじろぐことがある。今も気づかれないように目をそらした。  彼も養父が世話になった人から託された養子で、東京よりはるか遠い田舎の山麓で育ったらしい。そのせいなのかどうなのか、無防備で突拍子もない言動の彼が2歳上であることに、結構な頻度で疑問を感じる。  幸か不幸か弟として好かれているらしいので、その言動で不快な思いをしたことはないのだけれど。 「じゃあ、一昨日から変な人につけられてるって言ったら?」 「…………」  散歩やお使いの際に、怪しい男につけられていたと彼はさらりと話した。足音からして何人かいるけど仲間がいる可能性もあるかな、とも。義兄の少女のような見た目と格好、ついでに言えば養父は会社を経営しているそうで住んでいる家もそれなりに大きく、まずまずの生活水準であることからしてもあり得なくはない。 「関係ないことかも知れないけど、万が一のことだってあるんじゃない?」  彼は自分の意志に従わせようとするために、嘘をつくような人ではないのは、もう嫌というほど知っている。そう言われたからには話を聞く他ないだろう。 「取り返しがつかなくなる前に手伝って?」 「それは脅しですよ」  苦情混じりの溜息をつけば、それでも義兄の「お願い」を断ることは無いんだろうなと諦めていた。  若干なりとも邪な感情を抱いてる身としては、その罪滅ぼしもかねて、義兄の無体な願いは聞く習性が既に身につきつつあった。  義弟、篠生流吾(しのお りゅうご)と義兄、篠生朝(しのお あした)の生涯続く関係性は、既に出来上がりつつあった。

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