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熟す(13歳と15の話)
庭で採れたいちじくをおやつに食べようと切り分けている最中、帰ってきた義弟が台所を覗いた。
「ただいま帰りました」
「おかえりなさい」
義弟は最近急に背が伸びてきて、もうすぐで越されそうな気がする。それに比例するように、態度がよそよそしくなったと感じるのは錯覚ではないと思う。気安く話しかけにくい雰囲気さえあるが、それでも挨拶を欠かさないのは可愛い。
「いちじくですか」
「そう。流のはこっちの皿」
味見する?と冗談半分で、ちょうど切り終わった内の一つを差し出すと、相対する彼の眉間に皺が寄った。
また不用意に怒らせてしまったのかと、寂しい気持ちに襲われる。
「ごめん、冗談…」
謝罪を遮るように、予想外に強い力で、手首を掴んで引き寄せられた。
「あっ」
果実が口腔に含まれた後、人差し指の先にわずかな熱が一瞬口づけるように触れて、思わず声が漏れた。小さく音を立てて唇が離れた際に走った震えは、少なくとも嫌悪ではなかった。
「今年のも甘いですね」
「うん……」
どう考えても隠しきれていないだろう狼狽ぶりには興味なさそうに、あっさり手首を解放した義弟は小皿を持って出て行ってしまった。
いつの間にか大きな手になってたとか、視線がいやに怖かったのに思い出すと顔が熱くなるとか、思考が千々に乱れる。
手首に未だに纏わりつく感触に目眩がして、流し台に手をついてしばらく息を整えることしかできなかった。
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