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冬ざれ(14歳と16歳の話)

「お疲れ」  買い物袋を受け取る義兄から、微妙に目をそらしたまま頷いた。ふと、目線を下にやった彼が柳眉を寄せた。 「手袋しなかった?」 「忘れました」  霜焼けになるよと心配そうにするのを聞かないふりをした。いつからか、彼の気配りを素直に受け取れなくなっていた。子供扱いされてるようで面白くないというのが、まだ子供の証のように感じられて、自己嫌悪の悪循環に陥っている。  米袋を見ながら、義兄は少しだけ不服そうに言った。 「買い置き以外、白米なんて見なくなったね」 「お触れが出ましたから」 「あるだけいいけど、もっと厳しくなりそうだよ」 「でしょうね」  米屋に散々愚痴られましたというぼやきに、くすくすと笑った彼を密かに眩しく盗み見る。  かじかんだ指を無理に動かして品物を整理していると、手を掴んで引き寄せられた。 「冷たい」  薄赤い自分の両手を、義兄の白くしなやかな両手で挟まれて、慈しむように撫で擦られるのを、反射で振り払う。 「流、」 「馴れ馴れしくしたいなら、他所をあたって下さい。……俺は、」  喉の奥から絞り出した。 「初めて会った時から、あんたを兄だと思ったことはない」  だからもう、兄弟ごっこには付き合ってられない。 酷い言葉だと分かってはいたが、自分から離れて欲しいがために吐き捨てた。  これ以上そばにいられたら、彼をどうにかしてしまいそうで恐ろしいのに、いっそそうしてしまいたいとも考えてもいる。 そういう自分が厭わしくて仕方ない。  ゆっくりと瞬きをした義兄は平坦にうん、と呟いた。 「…僕も弟だと思ったことはないよ」  寂しそうな笑顔で告げられた返答に血が煮えるような理不尽な感情がこみ上げる。  先に言ったのは自分だというのに、滑稽なほど打ちのめされていた。同時に、その一言を見限られた末の決別の言葉と受け取る。大それたことを言った割に、面の皮の厚さは伴っておらず、逃げるように台所を後にした。その際、彼がどんな表情をしていたか、見ることはなかった。  目にしていたら、多分、足を止めていただろうけれど。 次に会話をしたのは約一年後、彼が家を出る前夜である。

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